生前贈与に申告は必要？110万円・2,500万円の非課税枠と必要書類について解説

「自分もそろそろ次の世代に何か残すことを考えたい」と生前贈与について気になる方は多いのではないでしょうか。

生前贈与は、上手くやれば次世代へのスムーズな財産移転を可能にし、税負担を軽減することもできます。

一方で、やり方を間違えると、本来支払うべき税額よりも余分に納めることになるなどのトラブルもあり得ます。

この記事では、生前贈与の概要や贈与税が非課税となる条件などをわかりやすくお伝えします。

生前贈与とは

生前贈与は、被相続人が生前に自身の財産の贈与をすることをいいます。遺言書や法定相続人などのルールに縛られることなく、子どもの配偶者やお世話になった人など相続人ではない人に財産を渡しても何ら問題ありません。

生前贈与は相続税対策として実施されることも多々あります。相続税対策として使う場合は、主に生前贈与の非課税枠の活用が検討されます。

ただし、すべての生前贈与が非課税になるわけではありません。

どのようなケースで非課税扱いになるのかを、しっかり踏まえておく必要があります。

生前贈与の贈与税が非課税になるケース

生前贈与の贈与税が非課税になるためには、後述する要件を満たす必要があります。

贈与額が110万円以下である

毎年１月１日から１２月３１日までの１年間に贈与を受けた金額が110万円以下である場合は、贈与税が非課税になります。

１人の人が１年間に受けた贈与が基礎控除額の110万円までにおさまる場合、贈与税の申告は不要です。

ただし、贈与税は財産を受け取った側にかかるため、、贈与する側が110万円まで贈与できるというわけではありません。

仮にある人に110万円贈与したとしても、その人が自分以外の他の人からも贈与を受けていて合計110万円を超えてしまった場合、贈与税がかかります。

生活資金の贈与である

扶養義務がある人と扶養される側の人の間での生活費のやり取りは、贈与にはなりません。

たとえば、親が子を扶養していて生活資金や教育資金としてのお金を渡した場合、贈与にはあたらないため、贈与税はかかりません。

この場合の生活資金とは、渡された側の人にとって日常生活を送るうえで必要な費用であって、常識的な範囲内の金額のものを指します。

定期贈与ではない

１年間の贈与額が110万円以下であったとしても、そもそも贈与したい金額を計画的に分割払いしていたとみなされた場合は、定期贈与として扱われてしまう可能性があります。

定期贈与とみなされた場合は、一括贈与の場合と同じように課税されてしまいます。

贈与の事実を立証できる

贈与があったことをきちんと立証できると、トラブルの防止に繋がります。

単にお金を渡したという事実だけでは、両者が合意した「贈与」に該当するかは明確ではありません。税務署から指摘を受ける可能性もあります。に。

そこで、贈与契約書を作成して、いつ、だれに、いくら贈与したのかわかるようにしておきます。

贈与契約書は、贈与のたびに新しい契約書を作成します。一連の贈与があらかじめ契約で予定されていたとみなされると、定期贈与として一括で贈与税を課税されてしまいます。

手渡しではなく銀行振込で贈与をしている

現金での贈与は非課税にならないということはありませんが、できれば預金口座間で振込をしておいたほうが、税務署に対する証拠能力の面で望ましいでしょう。

長い年月が経つと、いつ誰が誰にお金を渡したかという記憶は曖昧になり、正確なメモもいつまで残るかわかりません。その点、口座履歴は何年間も正確に記録されるという利点があります。

亡くなる前３年（７年）以内の贈与ではない

贈与者が亡くなる３年以内（2024年１月１日以降の贈与より７年以内）の贈与は、相続税の持ち戻し（生前贈与加算）が発生します。

相続税の持ち戻しとは、贈与者が亡くなる前３年以内（2024年１月１日以降の贈与より７年以内）の贈与で受け取った財産は、相続財産に加算されることです。

したがって、贈与者が亡くなる前の一定期間の贈与では、相続税が課税されます。

住宅資金の贈与である

住宅資金の贈与は、父母や祖父母といった直系尊属から子や孫などへの贈与において、子や孫や住宅を新築したり増改築したりする場合に使える制度です。

2015年１月１日から2026年12月31日までに行われた贈与に限り、一定金額まで非課税になります。

相続開始前３年（７年）間に行われた場合であっても、相続に持ち戻しにはなりません。

ただし、贈与された金額を使い残してしまうと、その金額分は課税されるため、贈与された金額をきっちり使い切ることが重要です。

子・孫の教育資金の贈与である

子・孫の教育資金の贈与を2026年３月31日までに行った場合は、1,500万円まで非課税になります。

1,500万円のうち、学校以外への支払いは500万円まで認められます。

つまり、学習塾や習い事教室などへ支払う分については、500万円を超えてはいけません。

また、1,500万円まで非課税になる点については、1,500万円を分割して贈与して、合計1,500万円になるようにしても非課税になります。

しかし、贈与を受ける側が30歳までに1,500万円を使いきれなかった場合、使いきれない部分については原則課税されてしまいます。

さらに、教育資金贈与を行った場合で、贈与から３年（７年）以内に相続が起こってしまった場合、３年（７年）以内に贈与された金額は相続の一部として計算されます。

「贈与税の配偶者控除」いわゆる「おしどり贈与」である

配偶者に、居住用の不動産や居住用の不動産を購入するための費用の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます。

条件は以下の通りです。

なお、おしどり贈与は同じ配偶者に対しては、一度のみしか適用できません。

相続時精算課税制度は2,500万円まで贈与税がかからない

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母（祖父母）から18歳以上の子や孫への生前贈与時に選ぶことができる制度です。

相続時精算課税制度を選択した場合、贈与された財産額2,500万円までは贈与税が非課税、超えた分は一律20%の割合で課税されます。

そして、贈与した人が亡くなった際、該当する贈与財産と相続財産の価額の合計金額から相続税額を計算し、相続税額から贈与税額を引いた額を納めます。つまり、贈与税は一旦かかりませんが、相続発生時に精算され、贈与財産分も含めて相続税の対象となる点に注意してください。

なお2024年からの税制改正により、相続時精算課税制度にも基礎控除が設けられ、毎年110万円までは相続財産に加算されることはありません。しかも、暦年贈与における110万円とは違って、亡くなる前７年以内の持ち戻しの計算をしなくてよいため、改正後は相続時精算課税制度を選択するメリットが増えています。

生前贈与に贈与税が課税されるケース

これまで、非課税制度を活用することによる節税目線から生前贈与について解説してきましたが、そもそも生前贈与には贈与税が課税されます。

生前贈与の課税のルールについて見ていきましょう。

暦年贈与110万円を越えてしまった

まず、暦年贈与110万円を越えてしまったケースです。

110万円を越えてしまっているため、贈与税がかかります。

定期贈与とみなされてしまった

毎年、同じ金額を贈与していたら定期贈与とみなされて、一括で贈与したときと実質は同じであるとして課税されることがあります。

教育資金を30歳になっても使い残してしまった

教育資金として贈与されたのに、30歳になっても使いきれなかったお金が発生してしまったケースです。

使い切れなかった部分には贈与税がかかります。

居住用の不動産に住まなかった

贈与税の配偶者控除の特例を利用して、贈与税を払わずに居住用不動産を贈与したものの、その不動産に居住しなかった場合は、特例の適用要件を満たさず、贈与税がかかってしまいます。

相続が３年（７年）以内に起こってしまった

こちらは贈与税の非課税枠内での暦年贈与（110万円まで）をしていた場合について、贈与があったときから３年以内に相続が起こってしまったケースです。

この場合、相続税の計算上、その間の贈与は一切なかったものとして相続税が計算されます。

生前贈与の申告期限と必要書類

ここからは、生前贈与で贈与税が発生した場合の申告期限と必要書類を解説します。

暦年（１月１日から12月31日まで）で、贈与を受けた金額が110万円を越えない場合は、贈与税はかかりません。

したがって、贈与税の申告も不要です。

110万円を越えたなど贈与税がかかる場合は翌年２月１日から３月15日までに申告・納税

贈与税がかかる場合は、贈与を受けた翌年の２月１日から３月15日までに、贈与税の申告と納税を行います。

相続時精算課税を適用した場合での贈与の申告期限も同様です。

なお、相続時精算課税制度をはじめとする非課税措置を適用して贈与を行った場合、贈与税が非課税であっても申告する必要があります。

必要書類

必要書類は、適用する制度によって異なります。まずは申告書の種類を申告の内容とともに紹介します。

申告書の種類と申告の内容

贈与税は「贈与税の申告書」を使って申請します。

使用する申告書の違いは以下の通りです。なお、第一表は必ず使います。

申告の内容	使用する申告書
暦年課税	第一表
相続時精算課税	第一表と第二表
暦年課税＋相続時精算課税	第一表と第二表
住宅取得等資金の非課税＋暦年課税	第一表と第一表の二
住宅取得等資金の非課税＋相続時精算課税を申告	第一表と第一表の二と第二表

その他の必要書類

申告内容	主な添付書類
贈与税の配偶者控除の特例（暦年課税）	受贈者の戸籍の謄本又は抄本（居住用不動産等の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成） 受贈者の戸籍の附票の写し（同上） 居住用不動産を取得したことを証する書類（登記事項全部証明書）
相続時精算課税	相続時精算課税選択届出書 受贈者の氏名、生年月日・受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であることを証明する書類（戸籍謄本など） 受贈者が20歳に達した時以後の住所又は居所を証する書類（戸籍の附票など） 贈与者の平成15年１月１日以後の住所又は居所を証する書類 贈与者の戸籍の附票の写しその他の書類で、贈与者が60歳に達した時以後の住所又は居所を証する書類
住宅取得等資金の非課税	受贈者の氏名、生年月日・受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であることを証明する書類（戸籍謄本など） 源泉徴収票
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税	相続時精算課税選択届出書 受贈者の氏名、生年月日・受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であることを証明する書類（戸籍謄本など） 受贈者が20歳に達した時以後の住所又は居所を証する書類（戸籍の附票など） 贈与者の平成15年１月１日以後の住所又は居所を証する書類 贈与者の戸籍の附票の写しその他の書類で、贈与者が60歳に達した時以後の住所又は居所を証する書類 必要に応じてその他の書類が必要となる

なお、贈与税の申告書の書きかたについてはこちらをご参照ください。

贈与は所得になるのか？確定申告は必要なのか

贈与を受けたときに「所得になるのか？」と思う人がいるかもしれませんが、どれだけ贈与があったとしても所得としては扱いません。

ただし、確定申告が必要な人が、贈与を受けて贈与税がかかる場合は、確定申告とは別に贈与税の申告も同時にしなければいけません。

また勘違いされがちですが、贈与税の申告・支払いをするのは、贈与を受け取った側の人です。

親から子に贈与があれば、贈与税を支払うのは受け取った側の子ども側となります。

贈与税と所得税は同時にかからない

「贈与を受け取ったときに、贈与税と同時に所得税もかかるの？」と思う人がいるかもしれません。

贈与は所得に含まれないため、贈与をいくら受け取ったとしても、所得税はかかりません。

もし1億円の贈与があったとしても、課税されるのは贈与税です。

所得税は、個人の所得についてかかる税金のため、贈与は関係ありません。

特例を使うなら贈与税の申告は必要

贈与には、非課税枠が増える「特例」があり、特例を活用することで非課税金額が増えて、贈与税を抑えられます。

贈与では税金がかからないと申告が必要ありませんが、特例を使ったうえで税金が非課税となった場合は、税務署に申告しなければいけません。

特例の使用を想定していたのに申告忘れをしてしまうと特例が適用されずに、贈与税がかかってしまう可能性があります。

特例を使う場合は、忘れずに申告しましょう。

無申告はペナルティあり

「贈与税の申告が面倒だからやりたくない」
「申告をしなければ、バレないのでは？」
と思う人がいるかもしれません。

仮に贈与を意図的に隠したり、贈与税がかかった時に申告を忘れたりすると発覚した場合に通常よりも高い税額を納めることになる恐れがあります。

税務署は口座の細かい入出金までチェックしているため、贈与を隠すのは難しく、現金で手渡ししたとしても、調査から発覚する可能性が高いです。

贈与税の申告漏れがあった場合は、延滞税や加算税などの追徴課税がかかるため、贈与税発生時には申告を忘れないようにしましょう。

生前贈与の申告時の注意点

生前贈与の申告時は、使用する特例によって適用条件や申告書類の内容、書式などが違う点が挙げられます。

加えて、贈与税の申告漏れについても注意を払う必要があるでしょう。

申告漏れがあると追徴課税が課される恐れがあるため、贈与時に贈与税が発生する条件や申告期限などを改めて確認することをおすすめします。

生前贈与の申告が必要なケースや必要書類などを確認しよう

今回は、生前贈与の贈与税が非課税になるかどうか、申告が必要なケースと必要な書類について解説しました。

生前贈与は間違ったやり方で進めてしまうと、追徴課税が課されてしまう恐れがあります。

今回の記事で紹介した内容を参考に、生前贈与を進める際の備えとしてぜひ活用してください。

生前贈与を検討する際に疑問点が生じた場合は、税理士をはじめとする専門家への相談がおすすめです。

ベンチャーサポート相続税理士法人では、親身でわかりやすい説明を心がけ、無料相談を実施しています。また、税理士だけでなく弁護士や司法書士も在籍しているためワンストップで相談することが可能です。

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