被相続人(亡くなった人)が銀行などの金融機関や民間企業から貸金庫を借りている場合があります。この記事では、相続が発生したときに、被相続人の貸金庫の中身をどのように取り扱えばよいか、貸金庫を開けるときの注意点を含めてくわしく解説します。
この記事でわかること
- 貸金庫の中身も相続財産であり、相続税の対象となる
- 貸金庫の中身は早めに確認する
- なぜ貸金庫の中身は税務署にバレる?
- 相続人が貸金庫を開ける方法
貸金庫の中身も相続財産であり、相続税の対象となる
一体、被相続人は貸金庫に何を入れているのでしょうか。
貸金庫の中に預けられるものは、契約証書や権利書などの重要書類、公社債権や株券などの有価証券、貴金属や宝石などの貴重品、写真や手紙などの思い出の品など「大切なもの」です。
一般的に貸金庫には、不動産の登記識別情報(昔でいう権利証)や契約書が入っているケースが多く、さらには何千万円もの現金や金のインゴット、宝石、高級腕時計が入っていることもあります。
このような金銭的価値のあるものはすべて相続財産であるため、貸金庫に入っていた場合には相続税の対象となります。
貸金庫の中身は早めに確認する
被相続人の貸金庫があるときは、貸金庫の鍵もしくはカードを探し、相続人全員の同意を得て、以下のようなものが入っていないかどうか、早めに貸金庫の中身を確認するようにしましょう。
- 貸金庫の中に相続財産となるものが入っていないか
- 貸金庫の中に遺言書が入っていないか
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被相続人が金融機関などからお金を借りていたり、連帯保証人になっていたりしないか
(金銭消費貸借契約書などが入っていないか)
貸金庫に相続財産があると、遺産分割協議のやり直しに
遺産分割協議が成立していても、あとから相続財産が貸金庫から見つかった場合には、貸金庫に入っていた相続財産を分割するために、遺産分割協議をやり直さなくてはなりません。
貸金庫に遺言書が入っていることも
被相続人によっては、貸金庫に遺言書を入れている可能性もあります。
被相続人の遺言書がある場合には、原則として遺言内容に沿って相続手続きを進めます。遺産分割協議が成立したあとに貸金庫から遺言書が見つかった場合、遺言内容に基づいて遺産分割する方が有利となる相続人がいるときには、その相続人は新たに見つかった遺言書に基づいて遺産分割することを主張する可能性が高いでしょう。
相続人全員から遺産分割協議のやり直しをしないことの同意を得られなければ、遺産分割をやり直す必要があるため、これまで遺産分割協議の成立のために費やした時間や労力は水の泡となってしまいます。
被相続人の借金が発覚したときは相続放棄の検討が必要
貸金庫から金銭消費貸借契約書などが見つかり、被相続人が金融機関などからお金を借りていたり、連帯保証人になっていたりすることが発覚するケースもあります。
被相続人が借金を抱えている場合には、単純承認をすると借金も引き継ぐことになるため、相続放棄の期限までに貸金庫の中身も確認して、被相続人の財産や債務がいくらあるのかを把握し、相続放棄をするかどうか判断しなければなりません。
なお、原則として、相続放棄の期間は、自分が相続人になったことを知った日から3カ月です。家庭裁判所に相続放棄の期間の伸長の申立てをして認められない限り、3カ月の期間を過ぎると単純承認をしたものとして、相続放棄はできなくなるため注意しましょう。
なぜ貸金庫の中身は税務署にバレる?
通常、貸金庫の中身は、貸金庫の中に入れた人にしかわかりません。しかしながら、貸金庫の中身を相続財産として計上しなかったことは、のちのち税務署にバレます。貸金庫の中身が税務署にバレる理由は、以下のようなことが関係します。
税務署は預貯金の動きをチェックしている
税務署は、被相続人の預貯金口座の入出金記録から、お金の動きをチェックしています。被相続人の貸金庫があることや、貸金庫に何か入っている可能性なども、預貯金口座の動きからある程度の推測が可能です。
たとえば、貸金庫を借りている場合には、被相続人の預貯金口座から毎年、貸金庫の利用料が引き落とされます。一般的に、貸金庫の利用料は1年分を口座振替で前払いする形となります(金融機関によっては月払いなども可能)。
従って、預貯金口座の通帳に「カシキンコ」という出金の印字がある場合、被相続人は貸金庫を借りていると判断でき、税務調査において税務署は貸金庫の中身を確認するために、相続人に銀行への同行を求めます。
また、預貯金口座から高額なクレジットカード利用料の支払いがあれば、税務署はクレジットカードによる支払い内容を確認し、特に百貨店や宝石店、画廊などでの購入履歴があるときは、そのお店で何を購入したのかまで詳細に調べます。宝石などを購入した履歴があるにもかかわらず、相続税の申告書に相続財産として計上されていないときは、税務署は家のどこかに隠していたり、相続人へ贈与していたり、貸金庫に入れている可能性を考えます。
現金で購入しても出どころは預貯金
現金による購入であれば、税務署にバレないと思う人もいるでしょう。しかし、近年は商取引も給与支払いも、預貯金口座を介して行われることが一般的です。そのため、たとえ現金で宝石を購入したとしても、通常、預貯金口座から現金を引き出す必要があり、購入直前に預貯金口座から短期間に何度も引き出しをしている、預貯金口座から1度に多額の引き出しをしているなどのように、何らかの出金記録が残るものです。
たとえば、預貯金口座から生活費として毎月10万円程度を引き出している人が、あるとき1度に500万円を引き出していたら、そのお金を海外旅行に使ったのか、宝石を購入したのか、相続人に贈与をしたのかなど、何に使ったのか税務署はくわしく調べます。もし、貸金庫に宝石が入っていたら、そのお金で購入した可能性もあると考えられます。
被相続人の収入から財産額を推測
税務署は被相続人の所得状況を把握しているため、相続した財産や職業などから、生涯で築いた財産額を推測します。その推測した財産額と相続税申告書の財産額があまりにも乖離している場合には、税務署は以下のような可能性を考えます。
- 何らかの財産に形を変えたものが申告書の財産額から漏れている
- 相続人に贈与した
- 相続人がタンス預金に気付いていない
- 被相続人あるいは相続人が財産を隠している
このように、貸金庫の中に何が入っているのかハッキリとわからなくても、申告していない財産があるはずという推測が可能です。
相続人が貸金庫を開ける方法
被相続人の貸金庫を相続人が開けるには、以下のような手続きが必要となります。
貸金庫の鍵や必要書類を準備する
被相続人の貸金庫を開けるには、貸金庫の鍵もしくはカードが必要となります。万が一、鍵やカードを紛失した場合には、再作成を依頼します。なお、再作成には鍵もしくはカードの再作成手数料が発生し、再作成されるまで貸金庫を開けることはできません。
被相続人の貸金庫を開けるために必要な書類は、金融機関ごとに異なりますが、一般的には以下のような書類が必要となります。
- 貸金庫の鍵もしくはカード
- 相続人の実印
- 被相続人の除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書
- 被相続人の通帳
- 遺産分割協議書または相続人全員の同意書
金融機関によっては、所定の届出書なども必要となるため、事前に金融機関に確認しましょう。
相続人全員の同意を得る
被相続人の貸金庫を開けるには、相続人全員の同意が必要となります。
貸金庫の開扉時に相続人全員の立ち会いや公証人の立ち会いを求める金融機関もあります。なお、公証人が立ち会う場合には、貸金庫の中身が記載された「事実実験公正証書」を作成して、不正がないことを証明してもらうこともできます。
また、貸金庫の開扉に立ち会わない相続人の委任状があれば、相続人の代表者だけで貸金庫を開けられる場合や、司法書士などの代理人が立ち会うことで貸金庫を開けられる金融機関もあります。
なお、正規の相続手続きを行わずに、一部の相続人が手元にある貸金庫の鍵で勝手に貸金庫を開けてしまうと、他の相続人から貸金庫の中身を盗んだのではないかなどと疑われ、トラブルになる可能性があります。被相続人が亡くなったときは、金融機関に貸金庫の契約者が亡くなったことをすみやかに伝え、相続人全員の同意を得てから、貸金庫の中身を確認し、取り出すようにしましょう。
遺言執行者による貸金庫の開扉も可能
被相続人が遺言書に、遺言執行者に対して、貸金庫の開扉やその中身の取り出し、解約など貸金庫の手続きについての権限を与える旨を記載している場合には、相続人全員の同意を得ずともこれらの行為を遺言執行者は単独で行えます。
ただし、遺言執行者が指定されているものの、貸金庫の取り扱いについて遺言書に記載されていないときは、遺言執行者が単独で貸金庫を開けられない可能性もあります。遺言執行者を指定するときは、貸金庫の取り扱いについても遺言書に記載しておきましょう。
また、遺言執行者や貸金庫の取り扱いを遺言書に明記していても、遺言書を貸金庫に入れてしまうと、その遺言書の内容に基づいて貸金庫を開けることはできないため、遺言書は貸金庫に入れないようにしましょう。
よくある質問|貸金庫の相続について
貸金庫の持ち主が亡くなったらどうすればいいですか?
貸金庫の持ち主が亡くなったときは、貸金庫の鍵を探しましょう。そして、貸金庫を借りている金融機関に契約者が亡くなったことを連絡し、貸金庫を開けるために必要な書類の確認や、開扉に相続人全員が立ち会う必要があるのか、代表者だけでもいいのか、代表者だけでもよい場合は委任状など決まった様式があるかを確認します。鍵を紛失した場合には、貸金庫の鍵の再作成を依頼します。
貸金庫は契約者が亡くなると凍結されますか?
貸金庫の契約者が亡くなったことを金融機関が把握したときは、預貯金口座の凍結と同様に、貸金庫を開けることはできなくなります。相続人全員の立ち会い、または同意を得た上で、貸金庫を開ける手続きをします。
被相続人の貸金庫があるときは税理士に相談しよう
相続が発生したときは、預貯金口座から貸金庫の利用料の支払いがないか確認したり、思い当たる金融機関に貸金庫の契約の有無を照会したりするなどして、被相続人が契約している貸金庫がないか調べましょう。
ただし、貸金庫の鍵が手元にあるからといって勝手に貸金庫を開けたり、中身を取り出したりしてはなりません。金融機関の定めた所定の手続きに従い、相続人全員の同意を得てから貸金庫を開けることが相続人同士のトラブルを避けるためのポイントです。
貸金庫の中身も相続財産です。税務署にバレないだろうと安易に考え、貸金庫の中身を相続税申告しないと脱税になってしまいます。計上すべきものは正しく計上し、他の部分で節税ができないか検討してみましょう。
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