この記事でわかること
- 世帯分離とはどのようなものでどのように行うかわかる
- 世帯分離を行うメリットとデメリットを知ることができる
- 世帯分離を行った際に小規模宅地等の特例が利用できるかわかる
結婚していずれかの親と同居している場合、その親と同一の世帯になるケースがあります。
一方で、一緒に住んでいても親とは別の世帯とする取扱いをすることもできます。
このように、一緒に住んでいても別の世帯にする手続きを世帯分離といいます。
世帯分離のメリットやデメリット、そして世帯分離を行った際の小規模宅地等の特例の利用条件について解説していきます。
目次
世帯分離とは
結婚していずれかの親と一緒に住むこととした場合、その親と同一世帯になることがあります。
この場合の「世帯」とは、一つ屋根の下に住んでいる状態をいいます。
しかし、同じ場所で生活をしていても、実際の生活は別に行っているケースも多いでしょう。
このような場合、同じ場所に住んでいても法的には別の世帯になる手続きをすることができます。
同一の世帯にある状態から、別々の世帯に分離することを「世帯分離」といいます。
世帯分離を行うと、1つの住所に複数の世帯主が世帯を構えている状態となります。
世帯分離のメリット
世帯分離の手続きを行うことで、同一世帯にあった複数の家族が2つ以上の世帯に分けられることとなります。
世帯分離することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
介護サービス料の負担が減る
介護を必要とする家族がいる場合、介護サービスを利用しているケースも多いでしょう。
介護サービスを利用する際には、介護保険を利用することができますが、全額が介護保険で支払われるわけではありません。
1割相当額は、利用者自身で負担しなければなりません。
ただ、その1割相当額についても上限額が定められており、所得金額が増えれば上限額は増えていきます。
この上限額の判定には、世帯全員の所得金額と、利用者自身の所得金額が用いられます。
そのため、世帯を分離すると介護サービス料の負担を減らせることがあり得ます。
後期高齢者医療保険料などの負担が減る
世帯分離を行うことで、すでに現役を退いて年金生活となっている親世帯が、住民税の非課税世帯となる可能性があります。
もし住民税の非課税世帯となれば、世帯を分離しても国民健康保険料の負担は増えることがありません。
そして、住民税の非課税世帯となれば、75歳以上の人に適用される後期高齢者医療保険料の負担も軽減される可能性があります。
その他、介護保健施設の居住費や食費の負担も減らせるため、住民税の非課税世帯となるとメリットがあります。
給付金などの対象になる
新型コロナウイルスの感染拡大により、様々な給付金や支援金の制度が実施されました。
この中に、臨時特別給付金という制度がありました。
この制度は、世帯全員の住民税が非課税であることが要件とされ、その場合には1世帯あたり10万円が給付されました。
住民税非課税世帯だけを対象とした給付金などの制度は、今後も実施される可能性があります。
世帯分離をしていることで、そのような給付金の対象となる可能性が高まります。
世帯分離のデメリット
世帯分離を行うことには、デメリットもないわけではありません。
そこで、世帯分離のデメリットをご紹介します。
ただし、ここに紹介する内容をデメリットと感じるかどうかは人によるかもしれません。
住民票を取得するのに手間がかかる
住民票を取得する際に、同一世帯であれば特に面倒なことはありません。
しかし世帯が別になると、委任状などを用意しなければ住民票を取得することができません。
別の世帯になった人の住民票を取得する必要がある場合は、注意が必要です。
ただし、この委任状については特に厳しい形式があるわけでもないため、デメリットと感じるのは取得する人の忙しさによるといえます。
介護を必要とする人が別世帯になると負担が増える
介護を必要とする人が何人いても、介護サービス料の自己負担の上限額は世帯内で合算して計算されます。
しかし、介護を必要とする人が別世帯になると、上限額の計算を別に行うため、実質的な負担が倍以上になる可能性があります。
ただし、介護を必要とする人が親世帯・子世帯ともにいるケースは稀なため、実際に該当することは少ないかもしれません。
国民健康保険料の支払いが増える場合もある
国民健康保険料の金額は、世帯単位で計算されます。
一方、国民健康保険料の金額には上限が設けられています。
同一世帯として上限額となる国民健康保険料を支払っている場合、世帯を分離するとかえって保険料が一世帯分増えてしまうことがあります。
会社からの扶養手当がもらえなくなる場合もある
働き盛りの世代であれば親を扶養家族としている場合、会社から出ている扶養手当が出なくなるということは考えられます。
ただ、今回のテーマである相続を考える時期には、子世代も退職している場合が多いので扶養手当についてはさほど心配しなくてもよいでしょう。
このように、世帯分離のデメリットはその世帯の状況によるところが大きいことがわかりました。
相続について考えたときのデメリットはほぼないと言えるでしょう。
世帯分離でも小規模宅地等の特例は利用できる
小規模宅地等の特例は、被相続人の住んでいた自宅の敷地を相続する場合、その評価額を8割減額できる制度です。
たとえば5,000万円の敷地の場合、実際の相続税の計算は1,000万円で行うこととなるため、相続税の節税に大いに役立ちます。
ただし、特例の適用にはいくつかの条件があります。
特に相続した人については、①配偶者②同居していた親族③持ち家のない親族のいずれかでなければなりません。
ところが世帯分離をしてしまうと同居親族に該当しなくなり、小規模宅地等の特例が適用できないのではと心配する方がいます。
この考え方は正しいのでしょうか。
結論から言うと、世帯分離しても小規模宅地等の特例の適用に影響はなく、世帯分離しても小規模宅地の特例は適用できます。
ただし、世帯分離しているかどうかではなく、建物の登記がどのように行われているかによって適用できない場合もあります。
たとえば、世帯分離した親子が二世帯住宅に住んでいるとします。
建物の所有権が親と子どもの共有名義となっていた場合、親子は同居していたものとして、小規模宅地等の特例が適用できます。
一方で、親と子どもがそれぞれの居住部分を区分所有登記している場合もあります。
1つの建物を2つ以上に区分して登記する区分所有登記を行っている場合、親子でも同居しているとはみなされません。
そのため、小規模宅地等の特例が適用できなくなります。
つまり、小規模宅地等の特例に関しては、世帯分離しているかどうかではなく、建物の登記が区分所有登記になっていないかどうかが適用のポイントとなります。
ただし、住民票上だけで同一世帯となっていても、実際に居住の実態がなければ小規模宅地等の特例は適用できないため注意しましょう。
世帯分離の申込方法・必要書類
世帯分離にはメリットがある一方、それほど大きなデメリットがあるわけではありません。
特に介護が必要な親がいると、そのメリットはより大きくなるケースもあります。
また、小規模宅地等の特例が適用できなくなるわけではないことから、世帯分離をしようかと考え始めた方もいるでしょう。
そこで、どのように世帯分離を行うのか、その方法や必要な書類についてご紹介します。
世帯分離の手続き
世帯分離の手続きは、現在住んでいる市区町村役で行います。
市区町村役場に「世帯変更届」と呼ばれる書類を提出することで手続き自体は完了します。
世帯変更届には、届出を行う人の名前の他、新しく分離してできる世帯の住所や新世帯主を記載します。
また、新たな世帯に異動する人の氏名なども記載しなければなりません。
世帯分離に必要な書類
世帯分離を行う際に必要となる書類は、世帯変更届と本人確認書類(運転免許証など)です。
また、国民健康保険に加入している人は、世帯分離により新たな国民健康保険証を作製しなければなりません。
その場合は手続きの際に、現在の国民健康保険証を持っていくと、二度手間にならずに済むでしょう。
代理人が申請を行う場合は、委任状が必要となります。
また、代理人の本人確認書類も必要になるため、あわせて準備しておきましょう。
世帯分離を行う際の注意点
窓口で書類を提出する際に、世帯分離する理由を尋ねられることがあります。
世帯分離する理由がなければ世帯分離できないわけではありませんが、同一家計にある場合は世帯分離できないと考えられます。
たとえば、制度上は夫婦でも世帯分離することが可能ですが、実際には窓口で受理されないことがほとんどです。
この記事では世帯分離を行うのは、夫婦でなく親子を前提として考えていますが、それでも同一生計にあると難しい場合があります。
まして、世帯分離を行う理由を「介護の負担を軽減するため」などと答えてしまうと、制度の趣旨に反すると言われてしまいます。
そのため、「親子で家計を区分するため」などのように説明し、本来の趣旨を理解しているとわかってもらうようにしましょう。
まとめ
世帯分離という言葉には、あまりなじみのない方が多いでしょう。
しかし、世帯分離できる人はかなり多くいるため、世帯分離するかどうか検討する意味はあるでしょう。
世帯分離しても大きなデメリットはないため、特に介護が必要な家族がいる場合にはメリットが大きくなる可能性が高いです。
相続税の小規模宅地等の特例も適用できますが、注意点はあるので、事前に適用の有無について確認しておきましょう。
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