この記事でわかること
- 相続税にも時効(除斥期間)がある
- 時効期間の違い
- 納付すべきことを知りながら時効を待つ危険性
被相続人が亡くなり、相続財産を引き継いだ相続人には相続税が課されることがあります。
相続税を納める必要があるにも関わらず、納税していなかったり、納税すべき金額に不足がある場合、税務署は納税者に対して納税を促すための徴収権を有しています。
しかし、いつまでも徴収できるわけではなく、一定期間が過ぎると徴収権は時効により消滅し、相続税の納税義務もなくなります。
この記事では、相続税の時効期間や未納の相続税を放置するリスクについて解説します。
目次
相続税にも時効がある
相続税にも時効(正しくは「除斥期間」)があるため、一定の期間が過ぎることで、税の徴収権は消滅します。しかし、納税額に不足がある場合、この時効期間まえに税務調査に入られる可能性が高いです。
まずは、相続税の時効に関する基本的な事項について見てみましょう。
時効制度の概要
時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、その事実状態が真実の権利関係に合致するかどうかにかかわらず、その継続してきた事実状態を尊重して、権利の取得または権利の消滅という法律効果を生じさせる制度です。
時効によって権利を取得するものを「取得時効」、権利が消滅するものを「消滅時効」といいます。
時効に似たものに、除斥期間というものがあります。
除斥期間とは、権利の性質または公益的要請から、権利関係を早期に確定するために法が規定した存続期間のことです。
除斥期間と消滅時効は、法的に発生していた権利が一定期間の経過により消滅する点で共通していますが、除斥期間は消滅時効と異なり明文がある制度ではなく、解釈により認められているという違いがあります。
「偽りその他不正の行為」があるかどうかで時効の期間が異なる
相続税の時効は、原則として相続税の法定申告期限の翌日から5年とされています。
ただし、相続税の時効は、「偽りその他不正の行為」によって税額を免れ、または還付を受けた場合は7年に延びます。
このように、「偽りその他不正の行為」があるかどうかで、時効の期間が異なります。
したがって、5年と7年の時効期間は、「偽りその他不正の行為」という判断基準によって分かれることになります。
以下、5年と7年の時効期間に分けて、見てみましょう。
5年の場合
相続税の時効が5年になるのは、以下のような場合があげられます。
- 被相続人と長年交流がなく、亡くなったことを知らなかったため、相続税の納付義務が生じていることを知らなかった場合
- 相続財産の調査を行ったうえで相続税の申告義務がないと判断した後に、相続財産の存在が発覚した場合
- 相続財産の計算を間違えていて、相続税が発生しないと信じ込んでいた場合
- 相続税の申告が必要となる相続財産の存在を把握していなかった場合
7年の場合
相続税の時効が7年になるのは、以下のような場合があげられます。
- 相続税の時効が7年になるのは、故意に相続税の支払いを免れようと、相続税の申告や納付をしなかった場合
- 税務調査に対して虚偽の答えをした場合、相続税の申告時に相続財産を隠して過少申告した場合
- 多額の相続財産を隠した場合
「偽りその他不正の行為」という判断基準
国税通則法の「偽りその他不正の行為」とは、「税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能または著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う行為を行っていることをいい、単なる不申告行為はこれに含まれないが、いわゆる過少申告行為も、それ自体単なる不申告の不作為にとどまるものではなく、偽りの工作的不正行為として、これにあたると解される」(最高裁判所判例)としています。
この判例の趣旨からすると、「偽りその他不正の行為」に該当するには、単に申告をしないというだけでなく、そのほかに何らかの偽計その他の工作が行われることが必要です。
すなわち、「偽りその他不正の行為」が積極的に行われる必要があることになります。
このことを前提にした場合、「偽りその他不正の行為」については、主に以下のようなケースに該当するかどうかを検討して判断することになります。
偽りその他不正の行為
- 帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」という)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄または隠匿をしていること
- 課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、または事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること
- 取引先その他の関係者と通謀して、それらの人の帳簿書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄または隠匿を行わせていること
- 自ら虚偽の答弁を行い、または取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること、およびその他の事実関係を総合的に判断して、課税財産の存在を知りながら、それを申告していないことなどが合理的に推認し得ること
- 取得した課税財産について、たとえば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこともしくは遠隔地にあったこと、または架空の債務がつくられてあったことなどを認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないことまたは債務として申告していること
相続税の時効の起算日
起算日とは、時効の期間を数え始める日のことをいいます。
相続税の時効の起算日は、相続税の法定申告期限の翌日と定められています。相続税の法定申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10カ月以内です。
申告期限の日が土曜日または日曜日・祝日にあたるときは、これらの日の翌日以降の平日が相続税の法定申告期限となります。
たとえば、相続の開始があったことを知った日が2023年10月31日だとすると、法定申告期限は2024年8月31日となり、2024年8月31日は土曜日なので、法定申告期限は2024年9月2日の月曜日となります。
相続税の時効には更新はない
相続税の時効は、上述したように、正しくは除斥期間です。
除斥期間は、権利関係を早期に確定するために認められるものなので、更新(2017年改正前の民法の「時効の中断」)はありません。したがって、相続税の時効には更新はないのです。
このように、相続税の時効には更新はないため、除斥期間の途中で時効の完成までの期間が振出しに戻り新たに進行することはなく、最初の法定申告期限から一定期間が経過すると、税務署は課税処分ができなくなります。
納付すべき税額があるのに時効の完成を待つのは危険
相続税には時効が定められていますが、税務署から指摘がなければ時効の完成まで待っていてよいということではありません。
税務署は、被相続人の資産関係の情報を把握しているため、相続税の時効の完成までの間に税務調査に入り、高い確率で申告漏れを指摘してきます。
そのため、相続税の時効の完成まで待って、相続税の申告・納付義務を免れることはほぼ不可能といえます。
また、税務調査が行われた場合、ペナルティとなる追徴課税が課されるため、納付すべき税額があるのに時効の完成を待つのは大変危険です。
時効ギリギリになって税務調査が入ることもある
現在、税務署では国税総合管理(KSK)システムというシステムで、過去の税務申告状況や納税情報、不動産売買の履歴、保険金の受取履歴を把握しています。
もちろん、被相続人だけでなく相続人である家族の情報も把握しているため、相続が発生したあとに収入にそぐわない不動産の購入などがあれば、隠している財産があるのではないかと疑われてしまいます。
このように、KSKシステムによって、納税者の過去の申告状況などの様々な情報が管理されているため、被相続人の資産や収入に比べて納めている相続税額が少ない場合、時効ギリギリであっても税務調査が入ることがあります。
なお、新たな課税資料から相続財産を隠していることが判明した場合、時効期間内であればいつでも税務調査が入る可能性があるため注意が必要です。
税務調査で指摘を受けた場合のペナルティ
相続税の時効が完成する前に、税務調査で指摘を受けた場合、追徴課税が課されることがあります。
そして、相続税を不正に免れたとみなされ、それが悪質な場合には、刑事罰が科されることもあります。
以下では、ペナルティとなる追徴課税や刑事罰について、見てみましょう。
無申告加算税
無申告加算税とは、申告期限までに申告をしなかった場合に課されるペナルティです。
期限後に自主的に申告をする場合は、税率は5%となります。
税務調査で無申告を指摘されて課される無申告加算税は、納税額50万円以下の部分は15%、50万円を超え300万円以下の部分は20%、300万円を超える部分は30%となります。
また、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合、あるいは申告期限が2024年1月1日以降で、前年度および前々年度の国税に無申告加算税または無申告重加算税を課された人が、更なる無申告行為を行う場合には、税率が10%加重されます。
延滞税
延滞税とは、納付期限までに相続税を納付できなかった場合に課されるペナルティです。
税金が定められた期限までに納付されない場合には、原則として法定納期限の翌日から納付するまでの日数に応じて、利息に相当する延滞税が自動的に課されます。
延滞税の割合は、納期限までの期間および納期限の翌日から2カ月を経過する日までは原則として年7.3%(または延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い割合)、納期限の翌日から2カ月を経過した日以後は原則として年14.6%(または延滞税特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合)となります。
令和6年の延滞税特例基準割合は1.4%のため、納期限までの期間および納期限の翌日から2カ月を経過する日までの税率は2.4%、納期限の翌日から2カ月を経過した日以後の税率は8.7%です。
過少申告加算税
過少申告加算税とは、本来の申告期限までに申告をしたものの、その額が過少である場合に課されるペナルティです。
ただし、税務調査の事前通知の前に、申告をした額が過少であることに気づいた時点で修正申告を行えば、過少申告加算税は課されません。
税務署から過少申告を指摘されて修正申告を行う場合は、新たに納める税額の10%が課されます。
また、新たに納める税額が、期限内に納めた税額または50万円のうち、いずれか多い方の金額を超える場合は、超える部分に対する税率は15%となります。
重加算税
重加算税とは、相続財産を意図的に隠ぺいしたり、事実を仮装した場合に課されるペナルティです。
重加算税の税率は、申告期限までに申告書を提出している場合が35%、申告期限までに申告書を提出していない場合が40%となります。
なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合、あるいは申告期限が2024年1月1日以降で、前年度および前々年度の国税に無申告加算税または無申告重加算税を課された人が、更なる無申告行為を行う場合には、税率が10%加重されます。
刑事罰
虚偽や不正行為などによって納税を免れた場合、意図的に申告書を期限までに提出せずに納税を免れた場合、正当な理由なく申告書を期限までに提出しなかった場合、脱税犯、故意の申告書不提出によるほ脱犯、無申告犯として、以下のような刑事罰が科される可能性もあります。
- 脱税犯
偽りその他不正の行為によって相続税を免れた人は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)に処せられます。
免れた相続税額が1,000万円を超えるときは、情状により、1,000万円を超えた金額で、その免れた相続税額に相当する金額以下の罰金とされる場合があります。 - 故意の申告書不提出によるほ脱犯
期限内申告書または特別縁故者に対して相続財産が分与された場合の修正申告書をその提出期限までに提出しないことにより相続税を免れた人は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(またはその両方)に処せられます。
免れた相続税額が500万円を超えるときは、情状により、500万円を超えた金額で、その免れた相続税額に相当する金額以下の罰金とされる場合があります。 - 無申告犯
正当な理由がなくて期限内申告書または特別縁故者に対して相続財産が分与された場合の修正申告書をその提出期限までに提出しなかった人は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(ただし、情状により刑が免除される場合があります)。
税務調査の事前通知の前に自主的に修正申告をした方が税負担は少ない
税務調査の事前通知の前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税は課されません(当初の申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が課される場合があります)。
税務調査の事前通知の後に修正申告をした場合には、新たに納める税金のほかに、新たに納める税金に5~15%の割合を乗じた過少申告加算税が課されますが、修正申告をした方が通常よりも軽減できます。
ただし、法定納期限の翌日から納付の日までの間にかかる延滞税が課される場合があります。
このように、税務調査の事前通知の前に自主的に修正申告をした方が税負担は少ないのです。
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この記事では、相続税の時効とはどういう趣旨か、相続税の5年と7年の時効期間を分ける判断基準は何か、相続税の時効に更新がないのはなぜか、期限までに納税しない場合のリスクは何か、相続税の時効の完成を待つのはなぜ危険かなどについて解説しました。
相続税の時効は、「偽りその他不正の行為」という判断基準を具体的なケースにあてはめて、時効期間が5年なのか7年なのかが判断されます。
そして、本来の相続税を納付せずに免れるのはほぼ不可能であり、申告・納税を放置していると税務調査が入り、追徴課税が課されます。
相続税の納付は義務とはいえ、一般の人には相続税の仕組みが複雑で理解し難いことも多いといえます。相続税の問題でお悩みの方は、ぜひ、税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。
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