株式を上場していない会社の株価を評価する場合、3つの計算方法があります。
それぞれの計算方法(評価方式)はどのようなものか、どのような特徴があるのか、詳しくご説明いたします。
非上場株式とは?
「配当還元方式」は、株価が一般的に低くなるように設定されています。
まず、「非上場株式」とは何かについて、簡単にご説明いたします。
株式会社には、株式上場企業と株式非上場企業の2つがあります。
多くの人が、「大企業=上場企業」と思っているのではないでしょうか。
これは間違いではありませんが、決して正解とは言えません。
上場というのは、証券取引所で株式を自由に売買できるようになることを言い、その株式を発行できる企業のことを「株式上場企業」と呼ぶのです。
株式上場企業が発行している株式は、証券取引所で公開されており、これとは反対に、証券取引所で株式を公開されていない企業を「非上場企業」と言うのです。
日本には現在、約400万以上の会社がありますが、そのうちの99%以上が非上場企業で、残りの1%以下の企業が株式上場企業です。
つまり、株式上場企業は、かなりの少数派であり、一種のステータスを持った会社と言えます。
従って、多くの非上場企業が株式上場企業になることを目指していますが、そのためには多くの要件があるため、ハードルはかなり高いと言えます。
しかし一方で、上場企業としての要件がそろっているにも関わらず、あえて上場企業にならない企業もあります。
たとえば、日本の5大新聞と言われている、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞は株式を上場していませんが、これは上場のデメリットである「経営の自由度が制限を受ける」ということを避けるためだと考えられます。
株式を公開することで、大株主に気を使うことになり、自由な報道が出来なくなると考えているのです。
非上場株式の評価とは?
非上場企業の株式を相続した場合、当然ながら相続税が課税されることになります。
課税されるためには、企業の価値である株の価額を確定させる必要があります。
その際に、その株式の特徴によって、評価方法が異なります。
この評価方法を決めるためには、非上場企業の「株主の区分」、「評価会社の区分」、「会社規模の区分」の3つ区分を用い、それによってそれぞれの企業の評価方法を決定することになります。
そして、「類似業種比準方式」、「純資産評価方式」、「配当還元方式」という3つの計算方法(方式)よって、非上場企業の株式を評価することになります。
次の項目からは、それぞれの方式について、詳しくご説明いたします。
類似業種比準方式とは?
「類似業種比準方式」とは、評価をする非上場企業の株式について、その事業内容が似ている上場企業の株式を参考にした上で、1株当たりの評価額を決定するという方法です。
事業内容が似ている上場企業のことを「類似業種」と言い、評価する非上場企業のことを「評価会社」と言います。
ただ、上場企業が、評価会社と業種や規模が似ているといっても、単純に類似業種の上場企業の株式と同じ評価額にすることは、決して正しくはありません。
ある程度の微調整が必要です。
同じ業種、事業内容であっても、非上場企業の評価額は、一般的に上場企業よりも株式の価額は、低いと考えられます。
ですから、例えば、非上場企業の株式を相続した場合、類似企業の株式と同じ価格として、株の価額を算定してしまうと、相続する財産の価額が実際よりも高くなり、相続税を多く納めることになってしまいます。
従って、相続する財産の価額を抑え、相続税の税額を低くするためにも、様々な要素を考慮して、慎重に評価額を決定していく必要があります。
このような点から、非上場企業の株式の評価は、ハードルが高いということになります。
それでは、実際に評価額を決めていくための要素はどのようなものがあるのでしょうか。
非上場企業株式の評価を行う上で、必要な要素は、株価、配当、利益、純資産の4つです。
この中の「株価」は、評価会社に類似する上場企業に関するもの、「配当」、「利益」、「純資産」は、評価会社と類似する上場企業の両方に関するものです。
つまり、非上場企業に類似する上場企業の「株価」という要素をベースに、評価会社・類似する上場企業の「配当」、「利益」、「純資産」という3つの要素を加味した上で、評価会社の株式価格(時価)を決定するという方法が適切だということになります。
そして、この時価に対して、評価会社の規模に応じた調整率(70%、60%、50%)をかけて、最終的な評価額を決めるのです。
上記で説明した要素、「株価」、「配当」、「利益」、「純資産」については、毎月国税庁が公表していますから、評価額を算定する際には、その公表された数値を使用することになります。
なお、「株価」については、以下の1~4の金額のうち、最も低い金額を選ぶことになります。
- 1. 課税時期の属する月の類似業種の株価
- 2. 課税時期の属する前月の類似業種の株価
- 3. 課税時期の属する前々月の類似業種の株価
- 4. 類似業種の前年の平均株価
ところで、先程から「類似業種」という言葉を再三使っていますが、類似した業種とは、どの点をとらえて、上場企業の事業内容と評価会社の事業内容が類似していることになるのでしょうか。
この点についても、評価会社の業種の種類について、国税庁が「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」を公表していますので、これを参考にして、類似業種か否かを判定していきます。
ここからは、各要素を使用して、実際の評価額を算定していきます。
まず、株式総数を算定しますが、それには資本金の額を50円で割ることで算出します。
なぜ50円で割るのかというと、上記で説明した類似業種における各要素の価格が、1株当たり50円とされているためです。
次に、配当金額を算出します。
計算式は、以下のとおりです。
次に、利益金額を算出します。
計算式は、以下のとおりです。
上記によって、類似業種比準価額を求めるための要素が算出されました。
今一度、確認しますが、「類似業種比準方式」による評価算式は、以下のとおりです。
上記の算式のうち、(比率割合)は、具体的な算式は、以下のとおりです。
上記の算式は、「配当」、「利益」、「純資産」の各要素について、類似業種と評価会社の割合を求めるものです。
なお、「利益金額」を3倍にするのは、会社の特性を考慮したものです。
また、「配当金額」と「純資産金額」はそのまま、「利益金額」を3倍にしたことによって、全体を5で割ることになるのです。
この計算で、例えば「15.52円」となったら「15.5円」とするように、10銭未満を切り捨てます。
そして最後に、算出された金額を調整します。
今までの計算は、1株当たりの資本金の額を50円としていますから、最後に評価会社のベースに戻すために、次のような計算を行います。
純資産評価方式とは?
「純資産評価方式」とは、中小規模の評価会社の株式を評価する場合に用いる計算式(方式)です。
先程「類似業種比準方式」は、評価会社と類似している上場企業の株価を参考にする方法だと説明しました。
これは、主に大企業を対象にしたものですが、これからご説明する「純資産評価方式」は、主に中小企業に用いられる方法です。
この「純資産評価方式」の具体的な計算方法ですが、考え方としては、「相続開始時に評価会社が解散した場合の1株当たりの評価額はいくらになるか」つまり「解散時の会社の純資産はいくらか」ということになります。
通常、会社が解散した場合には、その時点で会社の業務はストップし、会社が所有する資産や負債を清算することになります。
清算を行う際には、解散時点で会社が所有している資産や負債を時価で評価して計算した上で、売却などをすることによって現金に換えていきます。
なお、この間に売却益が出たような場合には、法人税などが課されることになります。
そして、会社の最終的な財産(資産、負債)が確定した後は、株主に分配し、会社は解散をします。
このように、評価会社が解散した場合、その会社の株価の総額は、その評価会社を時価で売却して得た利益の金額と同じになるのです。
この前提を踏まえた上で、「純資産評価方式」による1株当たりの評価算式は、次のとおりです。
上記の式の(相続開始時に評価会社を売却した場合の利益金額:税引き後)は、次の式になります。
A-(A-B)×37%
A:相続開始時における時価評価額における純資産価額
=相続開始時における時価評価額における純資産価額-相続開始時における負債の金額の合計
B:相続開始時における帳簿価額における純資産価額
=相続開始時における帳簿価額における純資産価額-相続開始時における負債の金額の合計
すでにご説明したように、評価会社が解散した場合、会社が持っているすべての資産を売却しなければなりません。
売却によって生じた利益は、通常(時価-帳簿価額)で求めることになりますから、上記の式にある「A」は、評価会社の売却益と同じ意味だと言えます。
また、「A-(A-B)×37%」は、売却益に対して課される法人税等を税率(37%)として計算したものです。
この算式によって、相続開始時に評価会社を売却した場合の利益金額(税引き後)を出すことになるのです。
ところで、解散した場合に、評価会社が保有する資産や負債を売却することになるのですが、資産、負債とは次のような意味を指します。
(1) 資産とは
純資産価額を計算する上で、資産は時価と帳簿価額の2つを使用することになります。
時価とは、評価会社が保有している資産を財産評価基本通達の規定に従い、評価した価額の合計のことです。
しかし、土地・家屋と非上場企業の株式の評価は、次のようになります。
・相続開始前3年以内に取得または新築した土地や家屋など
…相続開始日における通常の取引価額に相当する金額(帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合、当該帳簿価額に相当する金額)
・非上場企業の株式
…1株当たりの純資産価額は、下記の算式によって評価する(法人税額などは控除しない)
A÷(発行済株式数)
帳簿価額は、毎期会社が決算を行う会計上の帳簿価額ではなく、法人税法上の税務調整後の帳簿価額です。
従って、帳簿価額の計算の際には、法人税申告書の「別紙5(1)」に記載された税務上の否認金額が必要です。
(2) 負債とは
純資産価額の計算上、負債は帳簿価額のみを使用します。
帳簿価額は、資産と同じく会計上の帳簿価額ではなく、法人税法上の帳簿価額を用います。
なお、負債に含まれないものは、次のとおりです。
- ・貸倒引当金
- ・一定のものを除く退職給付引当金
- ・納税通知書引当金
- ・その他の準備金
- ・その他の引当金
また、負債に含まれるものは、次のとおりです。
- ・法人の事業年度開始の日から相続開始日までの期間に対応する法人税などのうち未払いのもの
- ・相続開始日以前に賦課期日のあった未払い固定資産税額
- ・被相続人の死亡によって、相続人などに支給されることが決まった退職手当金などの額
以上が、「純資産評価方式」の概略です。
先程ご説明した「類似業種批准方式」に比べると、会社が持っている財産(資産、負債)に着目した計算式ですから、評価会社の実態により即した計算式であることが特徴です。
運用方法ですが、評価会社が上場企業に近いような規模の会社であれば、「類似業種比準方式」を用いて、非上場株式を評価します。
一方で、評価会社がそれほど規模の大きくない会社であれば、「純資産評価方式」を用いて、非上場株式を評価するようにします。
また、会社の規模が中規模であれば、「類似業種比準方式」と「純資産評価方式」を併用した形で、非上場株式を評価するようにします。
配当還元方式とは?
「配当還元方式」とは、過去2年間の配当の金額を10%で割り戻して、非上場企業の株式の価額を算定するものです。
具体的な計算式は、次のとおりです。
※年配当金額=(直前期末以前2年間の配当金額÷2)÷(1株当たりの資本金額を50円とした場合の発行済株式数)
※※年配当金額が2円50銭未満となる場合、または無配の場合は2円50銭とします。
複雑に見えますが簡単に表現すると「受け取った1株当たりの配当金を10%で割り戻す」ということです。
では、実際に具体例を当てはめて、株価を算出してみます。
A社のデータ
- ・直前期末の資本金などの金額…2,000万円
- ・発行済株式数…20,000株
- ・1株当たりの資本金…1,000円(2,000万円÷20,000株)
- ・直前期の配当金額総額…4,000,000円
- ・2年前の配当金額…2,000,000円
「配当還元方式」の計算式
- ・年配当金額=(4,000,000円+2,000,000円)÷2=3,000,000円
- ・3,000,000円÷(20,000,000円÷50円)=7.5円
- ・(7.5円÷10%)×(1,000円÷50円)=1,500円
この計算によると、A社の配当還元方式の金額は、1株当たり、1,500円となります。
ところで、非上場企業の株式を評価する際に、「配当還元方式」を選択する場合とはどのような時でしょうか。
まず、今まで説明した「配当還元方式」は、株価の評価方法としては、例外的なものです。
一般的に、非上場企業の株式の評価は、「類似業種比準価額方式」や「純資産評価方式」を用います。
しかし、少数株主が株式を相続したり、贈与したりする場合に、便宜的な方法として、「配当還元方式」を採用しても良いということになっています。
また、この「配当還元方式」は、株価が一般的に低くなるように設定されています。
これは、少数株主であれば、非上場株式を持っていても、支配力がなく、実質的な価値が低いからです。
まとめ
非上場株式の評価は、主に非上場企業が解散などをした際に、株式を譲渡、贈与、相続、事業継承などする時に、用いるものです。
3つの計算方法をご紹介しましたが、非上場企業の特性に適合した方法で、株価を算定することが重要です。
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