この記事でわかること
- 住宅を生前贈与するメリットとデメリットがわかる
- 住宅を生前贈与するためには4つの方法があることがわかる
- 住宅資金贈与の特例を使うための条件と注意点、手続き、費用について、まとめて理解できる
- 相続時精算課税の特例について、手続きの仕方と注意点、使えないケースもわかる
- 夫婦間での特例、暦年贈与制度についての条件とポイントがわかる
生前贈与が節税対策になるかならないか、さまざまな方法や事例が紹介されています。
しかし、自身にとって有効かどうかは、それぞれの制度についての要件や内容を確認して判断することが重要です。
ケースによっては、有効な場合がありますが、そうとも言えない場合もあることは否めません。
特に住宅の場合、贈与によって手続きや費用が増え、さらに相続時に相続税が下がらないケースもあります。
メリットやデメリットがあることを知った上で、それぞれの状況に適した方法を利用すれば、生前贈与は、相続対策にも家族の安心を築く対策にもなります。
以下では、生前贈与のメリットとデメリット、住宅を生前贈与するために有効な対策となり得る4つの方法を紹介します。
特に、住宅資金贈与の特例については、条件や注意点、手続き、費用について総合的に理解できるように、また、相続時精算課税の特例や夫婦間の特例、暦年贈与についても、条件やポイントなどを分かりやすく解説します。
住宅を生前贈与するメリットとデメリットとは?
住宅を生前贈与する方法について紹介する前に、まずメリットとデメリットを確認しておきましょう。
メリット
住宅を生前贈与する場合、親子間だけでなく、親から孫へと世代を超えて贈与しても、非課税枠を利用できるメリットがあります。
また、生前に資金を贈与することによって、子孫が住宅ローンの返済を抱えずに住宅を取得することができます。
特に、夫婦間における住宅の生前贈与は、税金面で優遇されていることから、配偶者が安心できる生活を支えるためにも有効な手段となります。
さらに、複数年の暦年贈与や、収益不動産をあらかじめ贈与しておくことなどによって、相続する財産を減らす相続税対策とすることも可能です。
デメリット
住宅を生前贈与する場合のデメリットとして、贈与される側に住宅を取得するための税金や費用が余計にかかることがあります。
また、贈与者側としても、生前贈与を繰り返した結果、老後資金が不足する事態も懸念されます。
さらに、贈与を受けていない相続人がいる場合は、生前贈与によって遺留分を侵害する恐れがあり、受贈者が侵害額を請求されるトラブルも発生しかねません。
住宅を生前贈与する際に活用できる4つの非課税制度
生前、家族に自宅や住宅資金を贈与する場合、非課税枠を利用できる方法が4つあります。
住宅資金を贈与する場合は、住宅取得や増改築資金の贈与が1,200万円まで非課税になる住宅資金贈与の特例や、住宅や住宅資金贈与が2,000万円まで非課税になる夫婦間の特例(おしどり贈与)が利用できます。
また、利用目的や対象者が限定されず、年に110万円まで非課税になる暦年贈与や、贈与税を先送りして相続時に一括して税金を清算する相続時精算課税もあります。
この相続時精算課税制度では、最大2,500万円まで贈与税が非課税となります。
子が住宅を取得する際に、住宅資金贈与の特例と相続時精算課税制度を併せて利用すれば、最大で3,700万円まで非課税となる贈与も可能です。
なお、暦年贈与を除き、贈与を受けた翌年に確定申告が必要です。
それでは、住宅を生前贈与する4つの非課税制度についてみていきます。
住宅取得資金贈与の特例
住宅資金贈与が一定額まで非課税になる特例
子や孫が、両親や祖父母から、住宅の新築や取得、または増改築するための資金を金銭で贈与された場合に、要件を満たせば贈与税が一定額まで非課税になる制度です。
非課税額は、住宅の種類や、新築や購入などの契約締結日に応じて異なります。
令和3年12月31日までの契約なら、省エネ住宅や耐震住宅、バリアフリー住宅の非課税額は、最大で1,200万円まで利用できます。
(1)非課税額(消費税率10%の場合)
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ・耐震・バリアフリー | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
(2)非課税額(上記(1)以外の場合)
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ・耐震・バリアフリー | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
特例を使うための条件
利用するためには、贈与を受ける「受贈者」と「住宅」についての条件を満たさなければなりません。
贈与を受ける者(受贈者)の条件
- 1.贈与者の関係:両親や祖父母(直系尊属)から子や孫(直系卑属)に対する贈与
- 2.贈与の対象:金銭(金銭以外の株券や不動産の贈与は対象外)
(3)受贈者
①年齢:贈与を受けた年の1月1日で20歳以上
②住所:原則日本国内
③所得:2,000万円以下
(4)使途の限定:翌年3月15日までに、贈与を受けた全額を住宅の新築や取得、増改築に利用
(5)実際の居住:贈与を受けた年の翌年の3月15日、あるいは遅くとも同年12月31日までに居住
(6)住宅の取得先や請負先:配偶者や親族などの一定の特別の関係がない
(7)住宅の所有:受贈者が所有者として登記
住宅に関する条件
- 1.住宅の所在:日本国内
- 2.住宅の範囲:住宅の新築や取得、増改築などの敷地として使うための土地を含む
- 3.家屋:未使用、または築20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)、耐震基準に適合するもの
- 4.増改築:100万円以上の工事、その2分の1以上が自己居住用部分の工事費
- 5.床面積:50平方メートル以上240平方メートル以下で、その2分の1以上が受贈者の居住用
注意点
特例を利用するためには、非課税になった後の税額がゼロの場合も含め、必ず翌年の確定申告時期に贈与税の申告が必要です。
申告が間に合わないと非課税を利用することができず、ペナルティとして加算税と延滞税が課されることになります。
また、取得や増改築を行った住宅は、受贈者の所有であることや増改築したことを登記する必要があります。
なお、住宅資金として受けた贈与に残額がある場合は、年110万円の暦年贈与や2,500万円の相続時精算課税制度を利用して、非課税にすることもできます。
贈与契約書の作成
贈与を対外的に証明できるようにするため、また、登記申請手続きの提出書類として、贈与契約書を作成する必要があります。
贈与契約書には、贈与者と受贈者、贈与する財産、無償であることなどを記載し、それぞれが署名して、印鑑登録証明書と同じ実印を押します。
登記申請
居住地を管轄する法務局で、贈与で取得や増改築した住宅の不動産登記申請手続きが必要です。
不動産登記の際は、登記申請書に、登記の目的や原因、権利者、課税価格、登録免許税、不動産の表示などを記載します。
また、申請書のほか、登記原因証明情報としての贈与契約書や贈与者の印鑑証明書、受贈者の住民票、固定資産税評価証明書などを添付しなければなりません。
なお、登記が終了するまでには、およそ1週間から2週間程度時間かかります。
贈与税の申告
特例の適用を受けるためには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書を税務署に提出しなければなりません。
その際は、申告書に非課税の特例の適用を受けることを記載し、戸籍謄本、登記事項証明書、工事や売買契約書の写し、源泉徴収票などの書類を添付します。
戸籍謄本は、贈与者と受贈者の続柄を証明するために、また、登記事項証明書は、受贈者が住宅を取得や増改築したことを証明するものとして提出が求められます。
費用
一連の手続きを進める際には、大きく4種類の費用が発生します。
なお、贈与契約書の印紙税はかかりませんが、かからない理由に触れておきます。
(1)不動産取得税
不動産取得税は、新築や購入で不動産を取得した場合や、増改築によって不動産の価値が上がった場合、受贈者にかかる税金です。
土地・住宅用家屋については、固定資産評価額に対して3%課税されます。
(2)登録免許税
登録免許税は、不動産登記を行う際の税金です。
固定資産税評価額に対して、新築では0.4%、売買では2%が課されます。
(3)贈与契約書の印紙税
金銭を贈与する場合は、贈与契約書に印紙税はかかりません。
というのも、贈与は無償契約と呼ばれるように、贈与する物が高額でも取引契約の対価がないため、印紙税の対象とならないのです。
(4)登記申請手続きの必要書類取得
登記申請手続きなどの際は、必要書類を添付します。
印鑑証明書や住民票、固定資産税評価証明書などを市区町村役場から取得するための実費は、1,000~2,000円程度です。
(5)専門家に依頼する場合の報酬
不動産の登記申請手続きを司法書士に依頼する場合、報酬として2万円~5万円程度かかることが一般的です。
おしどり贈与
夫婦間での住宅または住宅資金贈与が2,000万円まで非課税の特例
夫婦間で住宅や住宅取得のための金銭を贈与した際に、贈与税が2,000万円まで非課税になる特例です。
親子間の住宅資金贈与なら非課税額は1,200万円が上限ですが、夫婦間の場合は非課税額が増え、2,000万円までの贈与が非課税です。
また夫婦間に限っては、居住用の不動産を贈与する場合も、固定資産評価証明書などによる評価額が2,000万円までは非課税です。
さらに、次に紹介する、1年に110万円までの贈与が非課税になる「暦年贈与」を同時に利用できるため、最大で2,110万円までの贈与が非課税となります。
夫婦間での特例の条件とポイント
夫婦間なら、住宅を贈与しても、住宅資金を贈与しても控除を受けられます。
ただし、婚姻期間20年以上が条件です。
また、配偶者が居住するための住宅でなければならず、贈与の翌年3月15日までに、その住宅に現実に住み、引き続き住む見込みであることも条件です。
なお、この制度を利用できるのは一生に一度だけであることが重要なポイントです。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度
親や祖父母から生前贈与を受けた際、贈与税がかからない代わりに、相続時に一括して税金を清算する制度があります。
「相続時精算課税」と呼ばれ、贈与を受けた時は最大2,500万円まで非課税です。
ただし、非課税枠を超えた部分は、一律20%の贈与税が課されます。
この制度で非課税になった贈与額は、相続財産に含めて合算して相続税が計算されることになり、相続時にまとめて税金が清算されます。
したがって、非課税というよりも、「相続時まで納税を先送り」と表現するほうがいいでしょう。
しかし、相続税が発生しない場合や、贈与後に住宅価格が上昇した場合は、実質的な非課税あるいは節税となります。
なお、特例を受けるためには、両親や祖父母の年齢が60歳以上であり、子や孫の年齢が20歳以上である必要があります。
相続税がゼロの場合は、先送りした贈与税も消える
相続税は、課税対象財産の額が基礎控除より少ない(財産の合計額<基礎控除)場合は、かかりません。
相続時精算課税制度を利用した贈与があった場合でも、この贈与額を含めた財産の合計が基礎控除より少なければ、相続税がかかりません。
つまり、この場合は、先送りした贈与税分が消失して、実質的に非課税の恩恵を受けることができます。
贈与後に住宅価格が上がっても、相続税が増えない
相続税は、被相続人の死亡時点における財産価値に対して課税されます。
このため、不動産を相続する場合は、相続発生時の不動産評価額によって、相続税が計算されることになります。
一方、相続時精算課税制度で贈与された資金で不動産を取得する場合や、この制度で不動産を贈与された場合は、相続時に財産として含める贈与額は、贈与を受けた時の金額や評価額のままです。
したがって、不動産を相続する場合とは異なり、贈与後に住宅価格が上昇しても、相続時に加算する贈与額は増加しません。
つまり、贈与後に住宅価格が上がれば、贈与を受けた資金による不動産の取得、あるいは、不動産の贈与は、不動産を相続する場合に比べて節税できることになります。
手続き
制度を利用できるのは、贈与を受ける受贈者です。
利用したいときは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に、税務署に贈与税申告書を提出しなければなりません。
なお、非課税額を差し引いた後の贈与税額がゼロであっても、申告が必要です。
注意点
相続時までの贈与の非課税額が2,500万円以下なら、贈与税について制度の恩恵を受けることができますが、注意すべき点があります。
相続税の減額には直結しない
非課税といっても、暦年贈与とは異なり、相続税の減額に直接つながるものではありません。
これは、相続税は、贈与額が加算された相続財産の合計額に対して課されるためです。
たとえば、財産額が基礎控除額以下でも、贈与額を加算することによって相続税が発生するケースや、加算された贈与分がそのまま相続税額に加算されるケースもあります。
つまり、贈与時は非課税になる代わりに、相続税の計算時に精算し、一括して納税する仕組みです。
利用を始めると暦年贈与に変更できない
また、この制度を利用することになると、その年以降は、贈与を受ける財産すべてについてこの制度が適用されることになり、暦年課税に変更することはできません。
このため、贈与の目的や相手が限定されず、年間110万円まで非課税になる暦年贈与を利用する場合と、具体的な金額を当てはめて比較することも大切です。
条件を満たしても特例が使えないケース
住宅を新築や取得するために、受贈者がすでに自己名義で住宅ローンを組んでいる場合は、この特例を使うことができません。
というのも、この制度は住宅購入資金を贈与した場合に利用できるものであって、住宅ローンの支払いに充てることは認められていないからです。
年に110万円まで非課税の暦年贈与
贈与税の各年の贈与が110万円以下なら非課税
暦年贈与は、1年間に110万円までの贈与が非課税になる制度です。
ただし、110万円の非課税枠を超えた部分は、超えた金額に応じて課税されます。
住宅資金贈与の特例とは異なり、贈与の相手や贈与された金銭の使途に制限がないため、利用しやすい制度と言えます。
この制度は、確定申告が必要ありません。
また、複数年にわたって贈与を受けた場合でも、各年の贈与額が110万円以下なら非課税です。
一般的に、家族への仕送りなどや、相続財産を減らすことができる相続税対策としても利用されることが多くなっています。
暦年贈与制度の条件とポイント
暦年贈与の110万円控除は、資金の使途や贈与者の限定がありません。
しかしながら、贈与を受けた者ごとに、1年間で110万円までが控除の条件です。
このため、複数の贈与者から金銭を受け取った場合でも、贈与を受けた者一人について、1年間で最大110万円が非課税の限度となります。
たとえば、祖父母や両親から別々に贈与を受けた場合でも、1年間の控除額は110万円です。
超えた額には、贈与税の特例税率(特例贈与財産用)または一般税率(一般贈与財産用)が課されることになります。
控除を受けるための税務申告は必要ありませんが、暦年贈与であることを客観的に証明できるようにしておくことが重要なポイントです。
このため、贈与契約書の作成や、金融機関への振り込みなどによって、客観的に立証できるようにしておく必要があります。
親が通帳も印鑑も管理する名義預金や、贈与されたことを知らない預金、受贈者の利用できない口座など、贈与が立証できない場合は、控除が無効になることもあります。
また、贈与を定期的に繰り返すと連年贈与とみなされ、一括して課税される恐れがあることにも注意が必要です。
まとめ
住宅を生前贈与する場合、相続時精算課税と住宅資金贈与特例を最大限活用すれば、贈与税が最大3,700万円お得になることが、おわかりいただけたでしょう。
また、生前に贈与することによって、早い時期から子孫や配偶者に住宅を確保し、安心した生活を提供することもできます。
しかし、住宅や住宅資金を贈与する場合は、贈与によって手続きや費用もかかることになるとともに、相続時の負担に変化がないこともあります。
生前贈与するかどうか、また、どの方法を選択するかについては、それぞれの条件やポイントを踏まえた上で決めることが大切です。
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