この記事でわかること
- 任意後見制度のメリット・デメリット
- 任意後見制度と法定後見制度の違い
- 任意後見制度を利用したいときの手続きの方法
約5人に1人が認知症になる時代です。
将来、自分や親の判断能力が低下したときに備えて、任意後見制度の活用を検討する人も増えています。
任意後見制度は、本人の希望に沿ったかたちで制度を設計しやすいというメリットがある一方、財産の保護・管理を行う上で限界があるというデメリットもあります。
この記事では、任意後見制度が向いているかどうか判断できるように、制度のメリットとデメリットについて解説していきます。
目次
任意後見制度とは
任意後見制度は、「成年後見制度」の枠組みの一つです。
成年後見制度とは、認知症や精神疾患により判断能力が低下した人の財産を保護するための制度です。大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」に分けられます。
任意後見制度では、将来的に判断能力が低下したときに備えて、本人(被後見人)の判断能力があるうちに、財産を管理する人(後見人)を自ら決めて契約します。
契約後、判断能力が低下したタイミングで家庭裁判所に申し立てを行うことで、制度が開始されます。
任意後見制度の種類
任意後見制度には「即効型」「移行型」「将来型」の3種類があります。
即効型
即効型は、任意後見契約の締結と同時に任意後見監督人を家庭裁判所に選任してもらうタイプで、すぐに任意後見が開始されます。
利用開始のタイミングは、軽度の認知症などで判断能力が少し衰えているものの、契約を締結する能力がある場合に利用できる可能性があります。
移行型
移行型は、任意後見契約の締結から任意後見の開始までの間に、財産管理契約などの別の契約を同時に結んでおくタイプです。
財産管理の委任契約を同時に結んでおくことで、任意後見開始前でも将来後見人になってくれる人に財産を管理してもらえます。
本人は切れ目なく支援を受けることが可能になります。
将来型
将来型は、任意後見契約の締結から後見開始までの間、つなぎとなる別の委任契約がないタイプです。
そのため、移行型に比べて本人に対する継続的な支援は難しくなります。
法定後見制度との違い
法定後見制度とは、家庭裁判所へ申し立てをして、法定後見人を選任してもらう制度です。
制度の目的は任意後見制度と変わらないため、法定後見人は被後見人の身上監護や財産管理などを行います。
ただし、後見開始までの流れや、後見人の権限には以下のような違いがあります。
後見開始まで流れの違い
任意後見制度では本人の判断力があるうちに後見人を選べますが、法定後見制度は判断力が低下していなければ利用できません。
法定後見制度では親族などが申立人となり、家庭裁判所に法定後見人を選任してもらうので、後見契約書の作成は不要です。
また、被後見人の判断力などに応じて、サポートのレベルも以下のように分かれています。
成年後見 | 本人の判断力がほとんどない場合 |
---|---|
保佐 | 本人の判断力が著しく不十分な場合 |
補助 | 本人の判断力が不十分な場合 |
法定後見制度では後見人の候補者を推薦できますが、あらゆる専門的な知識が必要なため、弁護士などの専門家が選任されやすいのが実情です。
後見人の権限の違い
任意後見制度と法定後見制度では、後見人の権限に次のような違いがあります。
任意後見人の権限 | 契約時に定めた代理権のみ(同意権と取消権はない) |
---|---|
法定後見人の権限 | 代理権と取消権あり(同意権はない) |
代理権はどちらにも共通の権限になっており、後見人は身上監護や財産管理などの業務を代行できます。
同意権はどちらの後見人にもありませんが、被後見人の契約行為に同意しても、そのとおりに契約するとは考えにくいため、代理権で十分と考えられています。
任意後見制度のメリット
任意後見制度のメリットを確認してみましょう。
自分の意思で後見人を選定できる
本人の判断力が低下しているときは法定後見制度しか利用できないため、後見人を自分の意思で選ぶことはできません。
基本的に法律の専門家が選任されるため後見業務に問題はありませんが、相性が合わなければ被後見人や家族のストレスになります。
しかし、任意後見制度では、自分の意思で信頼できる人を後見人に選べます。
後見人になるのに特別な資格は必要ありません。親族はもちろん、信頼できる第三者も選任できます。
本人に判断能力があるうちは後見人を自由に選任できます。ご自身で決めた人に後見してほしい場合は早めに任意後見制度を検討してみましょう。
任意後見制度は制度設計の自由度が高い
本人の希望に沿って制度を設計しやすいところが任意後見制度の最大のメリットです。
先述したように任意後見制度では、前もって本人が信頼できる人を後見人に選べます。
自分一人で生活するのが難しくなったときに、「在宅ケアを受けるのか、施設でケアを受けるのか」や「病院にかかるとしたらどの病院がよいか」など、本人の希望をもとに契約内容も自由に決めることができます。
法定後見制度より後見人への報酬が抑えられる
任意後見制度では後見人に支払う毎月の報酬も契約によって自由に設定できるため、親族や近親者に依頼する場合、この費用を抑えられる可能性があります。
一方、法定後見制度では弁護士などの専門家が後見人として選任されるケースが多く、どうしても毎月の報酬額が高くなる傾向があります。
任意後見制度のデメリット
任意後見制度にはデメリットもあります。
代表的なデメリットを5つみていきましょう。
任意後見監督人の選任が必要
任意後見監督人とは、任意後見人の後見業務を監督する人です。
任意後見制度では後見監督人の選任が必須で、一般的には弁護士などの専門家が就任するため後見監督人への報酬も発生します。
任意後見監督人の月額報酬は家庭裁判所で決定されますが、相場は以下のようになります。
管理財産が5,000万円以下 | 約1~2万円 |
---|---|
管理財産が5,000万円超 | 約2万5,000~3万円 |
後見監督報酬は少なくとも年間12万円かかるので、任意後見人の報酬も含め、ランニングコストを把握しておく必要があります。
無報酬の任意後見契約であっても、後見監督人の報酬はほぼ確実に発生するため、ある程度の出費は避けられません。
依頼先によって報酬額が異なる
任意後見人を第三者に依頼する場合、依頼先によって報酬額が異なります。
士業で比較すると、弁護士の後見報酬が最も高くなるでしょう。
第三者に任意後見人を依頼するときは費用だけでなく、対応可能な業務範囲も考慮してください。
任意後見契約を解除される恐れがある
任意後見契約を結んでいても、任意後見監督人が選任される前であれば、任意後見人から契約の解除ができるため注意が必要です。
親族に任意後見人を依頼していると、後見が開始される前に「法律行為に対応できそうにない」などの理由で契約解除される恐れもあります。
契約解除のリスクを回避したいのであれば、弁護士や司法書士などの専門家に任意後見人を依頼するのが確実です。
取消権が認められていない
任意後見人には取消権がありません。
たとえば、本人が悪徳商法に引っかかってしまい、不要な商品を買わされたとします。
このとき、任意後見人は本人の行為を取り消して契約をなかったことにすることはできません。
法定後見制度の場合は、後見人に取消権が認められているので、上記のケースでも契約を取り消すことができます。
被後見人の財産の保護は任意後見制度を活用する目的の一つですので、取消権がないのは大きなデメリットといえるでしょう。
死後の財産管理や事務は依頼できない
任意後見制度では、本人の死亡と同時に契約が終了するため、本人が亡くなった後の事務や財産管理を後見人にお願いすることができません。
たとえば、本人が一人暮らしで親族がいない場合を考えてみましょう。
亡くなった後、葬儀やお墓の準備、家の片づけ、残った財産の管理などが必要になります。
法定後見人は、本人が亡くなった後も一定の範囲で財産管理や死後の事務処理を行うことができます。
しかし、任意後見人に財産管理や死後の事務処理を行ってもらうためには、任意後見契約とは別に「死後事務委任契約」という別の契約を締結しておく必要があります。
このように任意後見契約でカバーできるのは、あくまで本人の生存中の財産管理に限るという点もデメリットです。
任意後見制度の利用が向いている人の特徴
メリット・デメリットを踏まえ、任意後見制度の利用が向いている人の具体例を2つ見ていきましょう。
将来の認知症が不安な場合
将来の認知症対策をしておきたい人には、任意後見制度が向いています。
準備をしていない状態で認知症になってしまうと、金融機関が口座を凍結して本人の預金が引き出せなくなる可能性があります。
しかし、事前に任意後見契約を結んでいれば、認知症になっても後見人が本人に代わって財産管理を行うことが可能です。
配偶者や親が認知症になったときに備えたいと考えている人は、任意後見制度を検討してみましょう。
任意後見制度を利用するときの注意点
任意後見制度を使うときに知っておきたい注意点についても押さえておきましょう。
任意後見人は信頼できる人を選ぶ
任意後見人によって預貯金が使い込まれるリスクは、ゼロではありません。
もちろん、任意後見監督人が任意後見人の仕事をチェックしてくれますし、場合によっては、裁判所に申し立てをして任意後見人を解任することもできます。
トラブルを防ぐためにも、信頼できる人を後見人に選ぶことが大切です。
なお、未成年者や破産者など一定の条件に該当する人は任意後見人になれません。
任意後見契約を締結するときは、任意後見人が要件を満たしているかという点も事前に確認しましょう。
任意後見契約以外の契約も検討する
任意後見契約だけでは本人へのサポートとして不十分なこともあります。
そのような場合、他の契約をセットで結んでおくと手厚いサポートが受けられます。
たとえば、本人の様子を定期的に確認するための連絡や面談をしたいというケースでは、「見守り契約」をセットにしておくとよいでしょう。
本人が亡くなった後の葬儀や役所の手続きも任せたいというケースでは、「死後事務委任契約」の締結が必要です。
複数の契約を組み合わせることで、より本人の希望に沿った支援を行えるようになります。
任意後見制度の手続き方法・流れ
任意後見制度の手続きの流れは次のとおりです。
- 契約内容と任意後見人の候補を決める
- 任意後見契約書を作成して登記をする
- 家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申し立てをする
基本的な流れを把握し、それぞれのケースに合った手続きを行いましょう。
契約内容と任意後見人の候補を決める
まず、契約内容と任意後見人の候補を決めます。
自分の判断力が低下したときにどのようなことを手伝ってもらいたいのか、今後のライフプランを考慮しつつある程度の希望をまとめておきましょう。
日常生活の手伝い程度であれば、家族や知人に任意後見人をお願いできるかもしれません。
しかし、かなりの資産を抱えていて財産管理に手間がかかるなら、弁護士や司法書士などの専門家に後見してもらうのも有効な手段です。
本人の要望に応じて、任意後見人を探すようにしましょう。
任意後見契約書を作成して登記をする
契約内容と任意後見人が決まったら、任意後見契約書の作成をします。
契約内容が複雑になりそうなときは、専門家に依頼して契約内容の案を考えてもらうこともできます。
契約書は公正証書の形にする必要があるので、公証人に契約書を作成してもらい、契約書が完成したら公証人が法務局に任意後見契約の登記を依頼し、契約完了です。
家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申し立てをする
認知症などにより本人の判断能力が低下したタイミングで、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行います。
任意後見監督人が選任されると、任意後見制度が開始されます。
任意後見制度の手続きの流れや必要書類は以下の記事で詳しく解説しているので、ご覧ください。
任意後見制度にはメリットとデメリットがある
任意後見制度は、どのような人にも有効という制度ではありません。
メリットとしては、契約内容や後見人を自由に決められることがあげれられ、デメリットとしては、死後の財産管理を行えないことや任意後見人に取消権が認められていないことなどがあげられます。
被後見人の希望を叶えるためには、他の契約と組み合わせてデメリットを補っていくことが大切です。
どの契約と組み合わせると最も効果的なのか知りたいときや、契約内容が複雑になりそうなときには、弁護士や司法書士などの専門家に相談することも検討してみましょう。
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