この記事でわかること
- 家族信託を利用した際に受託者に課される義務について知ることができる
- 受託者が作成しなければならない帳簿などの書類についてわかる
- 受託者から受益者に対する報告義務について知ることができる
家族信託制度を利用すると、委託者の財産は受託者の管理下に置かれ、受託者は自由に管理・処分することができるようになります。
受託者の権限は非常に大きなものとなるため、権利濫用を防ぐための制限が必要とされます。
そこで、法律では受託者に多くの義務を課して、その権限に一定の歯止めをかけています。
また、書類を作成して受益者に対して報告することが定められているため、この点についても詳しく解説していきます。
目次
家族信託契約後に受託者に生じる義務
家族信託を利用した場合には、受託者の権限が一方的に大きくなりすぎないように、多くの義務が課され、それにしたがって行動することが求められています。
まずは、これらの義務について簡単に解説していきます。
自己執行義務
委託者からの信頼に基づいて信託財産の管理・処分を任されている受託者は、その信託財産の管理・処分に関する事務をみだりに他人に代行させず、原則として受託者自らが信託事務を行うべきであるとされています。
ただし、信託財産や信託の目的が多岐にわたり、また信託の設定が柔軟化する中で、しだいに信託事務が多様化・専門化しています。
そのような状況下で受託者にすべてを任せることは、かえって不適切なケースもあります。
そこで、信託契約書内に第三者への委託を容認する旨の定めがなくても、信託目的に照らしやむを得ない事由がある時は、第三者への委託が認められます。
管理者としての注意義務
受託者は信託目的を実現するため、信託の目的にしたがい、善良なる管理者としての注意義務を持って信託事務を処理しなければなりません。
この注意義務の程度については、受託者の職業などによっても異なることとされており、一律ではありません。
また、信託契約書で「自己の財産に対するのと同一の注意義務」まで軽減することは可能ですが、管理者としての注意義務を完全になくすことはできません。
忠実義務
受託者は、法令や信託目的にしたがい、受益者の利益のために信託財産を管理・処分等しなければなりません。
受益者の利益に忠実に信託事務を行うべき、ということで「忠実義務」と呼ばれます。
受益者や信託財産と受託者の間で利益が相反する場合には、禁止されている利益相反行為があるため注意しなければなりません。
禁止されている利益相反行為
信託財産を受託者の固有財産とし、あるいは受託者の固有財産を信託財産に含めることで、相続税や贈与税の課税を逃れたり、強制執行を回避したりするなどの行為は認められません。
信託財産に属する財産を、他の信託財産に帰属させる信託財産間の取引も禁止されています。
また、信託財産のためにする第三者との行為で、受託者が第三者の代理人となって法律行為を行うことはできません。
例えば、信託財産となっているアパートの修繕を、受託者が代表取締役を務める会社が行うような場合です。
さらに、受託者が個人的に利用する銀行ローンに信託財産を担保として提供するように、受託者と受益者との利益が反する行為も認められません。
許容される利益相反行為
信託契約書や遺言書に利益相反行為を許容する定めがある場合は、たとえ利益が相反する行為であっても認められます。
また、受託者が受益者から承諾を得ている場合にも認められます。
公平義務
受託者は、受益者が2人以上ある信託においては、その受益者のために公平に職務を行わなければなりません。
分別管理義務
受託者は、信託財産を受託者自身の固有財産や他の信託財産と分けて管理しなければなりません。
また、信託財産の管理方法については、その信託財産の種類に応じて定められています。
- (1) 不動産など登記・登録しなければ権利の取得・喪失・変更を第三者に対抗できない財産については、登記または登録しなければなりません。
また、この管理方法は信託契約書などに別段の定めがあっても、完全に免除することはできません。 - (2) 金銭以外の動産については、外形上区別できる状態で保管しなければなりません。
- (3) 金銭や債権については、帳簿等で計算を行いその金額を明らかにしておきます。
帳簿等の作成等、報告・保存の義務
受託者は、信託財産にかかる帳簿その他の書類を作成する必要があります。
毎年作成して受益者に報告しなければならないものや、その都度作成して保管しておくものなどいくつかの種類があります。
また、作成した書類は保管しておき、受益者から請求があった場合はその書類を閲覧させなければならないとされています。
損失てん補責任
受益者が任務を怠ったことによって信託財産に損失や変更が生じた場合は、受益者の請求により、その損失をてん補し、あるいは原状回復しなければなりません。
受託者には書類の作成・保管義務がある
ここまで見てきたように、家族信託の受託者には多くの義務が生じます。
ただその中には、常識的な対応をしていれば受託者としての義務に反することはないというものもあります。
しかし、書類の作成や保管は、受託者としての職務上不可欠なものであるうえ、何も知らずにできるものでもありません。
そこで、受託者が作成しなければならない書類の内容について確認しておきましょう。
受託者が作成する書類
信託法上、家族信託の受託者が作成しなければならない書類は、大きく以下の3項目に分けることができます。
作成・保存する書類 | 作成する時期 | 保管期間 |
---|---|---|
信託帳簿 | 随時 | 作成日から10年間 (信託の清算結了があった場合はその日までとされます。) |
貸借対照表 損益計算書 財産状況開示資料 |
毎年1回 (受益者の確定申告時期にあわせて行う場合が多い) |
信託の清算結了の日まで |
信託事務の処理に関する書類 | 随時 | 作成または取得の日から10年間 |
それぞれの書類について、作成方法や記載内容などを解説します。
信託帳簿とは
法律上は「信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため」に作成する書類と規定されています。
ただ、実際に法令を見ても、企業会計上作成されるような振替伝票や総勘定元帳といった会計帳簿の作成まで求められているわけではなく、具体的な書類の形式や記載事項が定められているわけでもありません。
実務上は、日常的な取引や財産の状況を記載する帳簿であると理解されています。
固定資産税の課税明細書や預金通帳の写しのほか、信託契約書に添付された財産目録などをまとめて保管しておくことで問題ないものと思われます。
貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料とは
法律上は、貸借対照表や損益計算書といった計算書類を作成することが求められているような記載となっています。
しかし、この貸借対照表や損益計算書はあくまで例示であり、すべての信託契約においてこのような計算書類が必要とされているわけではありません。
信託財産の金額が多額になるような場合や、収益が多く発生するような場合、あるいは複雑な取引を伴うような場合は、企業会計の原則にしたがって、貸借対照表や損益計算書の作成まで必要になると考えられます。
しかし、小規模な家族間の信託であれば、そこまでの書類は必要ないと考えられます。
信託財産に関連して発生する収益の状況や、積極財産・消極財産の概況がわかるような書類を作成し、書類を受け取った受益者はその書類を使って確定申告を行うことができるのであれば、それで問題は生じないと思われます。
信託事務の処理に関する書類とは
信託事務の処理に関する書類とは、信託開始後に受託者が締結した信託財産の売買契約書、賃貸借契約書、建物の建築請負契約書などが該当します。
受託者が作成する書類というよりは、受託者が行った信託行為について証明する書類ということができます。
受益者に対して報告義務が生じる書類は3種類
受託者が作成・保管しなければならない書類は、それぞれ法令上の保管期間が定められるなど、厳格な取り扱いが必要と思われるものばかりです。
さらに、この書類の中には、受託者が保管しておけばよいだけでなく、受益者などに対して報告しなければならないことが定められているものもあるため、特に注意が必要です。
貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料の報告義務
受託者が作成した貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料の3つの書類は、1年に1回作成のうえ、受益者に報告することが定められています。
ただし、先ほども解説しましたが、すべての信託契約においてこれらの書類をすべて作成する必要があるわけではありません。
実務上、貸借対照表や損益計算書が必要ないとされることもあるため、そのような場合は適宜作成した書類を受益者に報告することとなります。
なお、受託者からの報告を受けた受益者は、これらの報告書類をもとに受益者のものとなる収益と経費の計算を行い、確定申告を行うこととなります。
貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料の保管義務
貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料については、受託者から受益者への報告義務に加えて、受託者における保管義務についての規定もあります。
これによれば、受託者は貸借対照表・損益計算書・財産状況開示資料などを作成した場合には、その書類は信託の清算結了の日まで保管しなければならないこととされています。
ただし、これらの書類の作成の日から10年を経過した後に交付した場合は、受託者において保管しておく必要はなくなります。
委託者の権利濫用とされる場合もある
受託者が行う書類の作成や報告に関しては、信託契約を締結する際に、当事者間で話し合いを行い、その具体的な時期や方法、内容などを決めることができます。
ただ、委託者が必要以上に報告を求めたり、信託事務に支障が生じるような時期に報告を求めたりすることは、権利濫用として認められない場合もあります。
それ以外の書類も受益者が求めた際には開示する
それでは受託者が作成した「信託帳簿」や、受託者が保管している「信託事務の処理に関する書類」については、受託者が作成・保管しておけばそれでよいということになるのでしょうか。
実は、これらの書類についても保管に関する決まりや受益者への開示に関する規定があります。
受託者における書類保管義務
受託者が作成した信託帳簿については、作成した日から10年間にわたって受託者が保管しておく義務があります。
ただし、10年が経過する前に信託が清算結了した場合は、その日まで保管しておくこととなります。
また、受益者に信託帳簿の写しを交付した場合には、受託者における保存義務が消滅することとされます。
また、受託者は信託事務の処理に関する書類を作成あるいは保管している場合には、作成あるいは取得の日から10年間保管しておかなければなりません。
ただし、受益者にこれらの書類の写しを交付した場合には、受託者における書類の保存義務が免除されます。
受益者に対する書類の開示
信託帳簿や信託事務の処理に関する書類は、受託者から受益者に対する報告義務がある書類ではありません。
しかし、受益者の方から信託に関する情報を知りたいという要望が出る場合があります。
受益者から受託者に対して、信託帳簿や信託事務の処理に関する書類を閲覧し、あるいはコピーが欲しいという要望がある場合には、受託者はその書類を受益者に閲覧してもらい、あるいはコピーを渡す必要があります。
このことを、「受益者の閲覧謄写請求権」といいます。
この受益者の権利は、信託契約の中でどのような取り決めをしたとしても、受託者が拒否することはできないこととされています。
報告内容や頻度を契約時に決めておこう
家族信託契約を締結すると、受託者には思いのほか重大な義務が課せられるという感覚を持つ人も少なくありません。
家族の一員として、親が所有していたアパートの管理を代わりに行うだけのつもりが、書類の作成を義務付けられ受益者に対する報告までしなければならないのであれば、受託者にならない方がよかったと考えてしまうのです。
確かに、家族信託を利用すると、受託者には一定の負担が発生します。
このような負担を少しでも軽減できるよう、受益者との間で事前に話し合いをしておく必要があります。
信託帳簿での報告方法
信託帳簿の作成や保管に関する義務があることは、既に説明しました。
しかし、実際に信託帳簿にはどのような内容を記載したらよいのかわからないという人も少なくないかと思います。
そこで、アパートを信託財産とした場合の、信託帳簿に記載すべき内容を記した書面の一例を紹介します。
どのような事項を報告するかについては、受託者と受益者との話し合いによって決めればよいこととされています。
報告の時期や頻度について
受託者から受益者に報告を行う時期や頻度についても、受託者と受益者との話し合いで決めておくことができます。
受託者が受益者に対する報告義務を履行したかどうかで問題になった場合、どの程度の報告を行っていたかではなく、当初決めた報告義務をきちんと実行していたかで義務違反があったかどうかを判断することとなります。
そのため、信託契約を締結する際に報告の記事や頻度についても明確に取り決めをするようにしましょう。
まとめ
家族信託を利用する際には、受託者は委託者本人と同じようにその財産の運用や処分などの決断をすることができます。
それだけ大きな権限を与えられているため勘違いしてしまうかもしれませんが、受託者はあくまで委託者や受益者と取り交わした信託契約にしたがって行動しなければなりません。
受託者のとるべき行動については、信託契約において細かく設定することもできます。
ただし、法律上絶対に守らなければならない項目もあることから、受託者として何をすべきか、そして受益者としてどこまで要求ができるのかを確認のうえ、家族信託を利用するようにしましょう。
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