この記事でわかること
- 相続放棄の手続きの流れ
- 相続放棄に必要な書類
- 相続放棄の必要書類の集め方
この記事では、相続放棄の申述に当たり家庭裁判所に提出すべき書類等について、手続きの流れに沿って順番に解説します。
同時に、各書類に関する収集・作成上のポイントやその難易度、時間的な労力についても見ていきましょう。
相続放棄をするには全員共通で必要な書類、相続人と被相続人の関係性によって別途必要になる書類があり、必要書類の種類が多いので計画的な準備が必要です。
自力でやってしまうか、それとも専門家に頼むべきかを判断し、必要であれば早めに専門家に相談しましょう。
目次
【全員共通】相続放棄手続きの必要書類
相続放棄の必要書類は被相続人(亡くなった方)との続柄で変わりますが、次に解説する共通書類等は誰が相続放棄する場合でも必要です。
入手先なども確認し、漏れがないように準備してください。
相続放棄の申述書
相続放棄の申述書は全国の家庭裁判所窓口、または裁判所のホームページから入手でき、相続放棄する理由などを記入します。
ただし、提出先は「被相続人の最後の住所地の管轄家庭裁判所」になるので、わからない場合は裁判所ホームページから検索してください。
「申立書の書式及び記載例」の部分に20歳以上・20歳未満とあり、どちらも同一様式ですが、記入要領が異なるため、年齢に応じたリンクを辿ってください。
被相続人の住民票除票・戸籍附票
相続放棄を管轄家庭裁判所へ申述する際、「被相続人の死亡」と「管轄裁判所」を証明する必要があります。
同時に証明できる書類が「住民票除票」または「戸籍附票」ですが、手間や効率を考えると戸籍附票がよいでしょう。
相続放棄する人によっては「被相続人の出生から死亡までの戸籍」が必要であり、転籍があれば本籍地のある役所まで戸籍を辿ることになります。
転籍とともに住民票を異動した場合は、本籍地の役所にも通知され、「戸籍附票」として異動履歴の一覧が保管されます。
戸籍附票は本籍地の役所が発行するため、戸籍の収集過程で取得すれば手間も省けるでしょう。
ちなみに住民票と住民票除票は同じ書類であり、住民登録している人が亡くなると、住民票に「除票」の文字や死亡日が記載されます。
申述人(あなた)の戸籍謄本(現在戸籍)
相続放棄には申述人(あなた)の戸籍謄本も必要です。
戸籍謄本にはあなたの本籍地や両親の氏名、従前戸籍(婚姻前など)の情報が記載され、被相続人と申述人の関係を証明できます。
名称の似た書類に「戸籍抄本(しょうほん)」もありますが、抄本には1人分(本人)の情報しか記載されておらず、被相続人の情報はわかりません。
役所の窓口で「相続に必要」といえば正確に案内してくれるので、謄本と抄本を間違えることはほぼないでしょう。
収入印紙
相続放棄には800円の事務手数料がかかるため、収入印紙によって納付します。
収入印紙は郵便局やコンビニエンスストアで購入できますが、裁判所内で取り扱っているケースもあります。
購入後は相続放棄申述書の指定箇所に貼付しておきましょう。
郵便切手
相続放棄の申述後は、家庭裁判所から照会書などが郵送されますが、郵便代は本人(申述人)負担になるため、申述の際には郵便切手を準備します。
一般的には「84円切手×5枚」ですが、家庭裁判所によって異なるため、あらかじめ電話などで確認しておくとよいでしょう。
【ケース別】相続放棄手続きの必要書類
相続放棄は申述人によって必要書類が異なり、被相続人との関係が遠くなるに連れて書類の種類も増えてきます。
被相続人と申述人(あなた)の間にいる人の死亡などを証明するためですが、相続放棄には期限もあるので、早めの着手がポイントになります。
誰の相続を放棄するかによって次の4パターンがあるので、まず何が必要になるのか確認しておきましょう。
配偶者の相続放棄手続きに必要な書類
被相続人の夫または妻が相続放棄する場合は、「被相続人の死亡が記載された戸籍謄本」を準備してください。
通常、夫婦は同一戸籍に入っているため、上記の謄本だけで被相続人との関係がわかります。
ただし、戸籍謄本への死亡の記載は、死亡届を提出してから数日かかるため、相続発生直後に取得しないよう注意してください。
親・祖父母の相続放棄手続きに必要な書類
父母の相続を放棄するときは、父母と子供(あなた)が同一戸籍かどうかで2パターンに分かれるため、まず自分の戸籍謄本を取り寄せて内容を確認しましょう。
- 同一戸籍の場合:被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
- 同一戸籍ではない場合(婚姻等):被相続人の死亡が記載された戸籍謄本と申述人の戸籍謄本
また、代襲相続人となった孫が相続放棄する場合も考え方は同じであり、以下の書類を取り寄せます。
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人(祖父母)の死亡が記載された戸籍謄本
- 被代襲者(あなたの親)の死亡が記載された戸籍謄本(親と同一戸籍の場合は不要)
なお、代襲相続とは、被相続人よりも先に亡くなった子供に子(被相続人の孫)がいれば、親の相続権を代襲(承継)する制度です。
子の相続放棄手続きに必要な書類
あなたの子供の相続を放棄する場合、子供がすでに死亡していること、また子供に子(あなたの孫)がいない事実を証明するため、以下の書類を取り寄せます。
- 申述人(あなた)の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の子供の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(被相続人に子供がいれば必要)
兄弟姉妹の相続放棄手続きに必要な書類
兄弟姉妹の相続を放棄するケースでは、被相続人に子供や親がいないことを証明するため、以下の書類を取り寄せます。
- 申述人(あなた)の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の子供の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(被相続人に子供がいれば必要)
- 被相続人の親の死亡が記載された戸籍謄本
- 被相続人の祖父母の死亡が記載された戸籍謄本(父方・母方それぞれの祖父母)
なお、祖父母の死亡が記載された戸籍謄本については、存命でもおかしくない年齢であれば取り寄せるようにしてください。
叔父や叔母の相続放棄手続きに必要な書類
叔父や叔母の相続を放棄する場合、被相続人の子供や親、兄弟姉妹がすべていないことを証明するため、以下の書類を取り寄せます。
- 申述人(あなた)の戸籍謄本
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の子供の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(被相続人に子供がいれば必要)
- 被相続人の親の死亡が記載された戸籍謄本
- 被相続人の祖父母の死亡が記載された戸籍謄本(父方・母方それぞれの祖父母)
- 被相続人の兄弟姉妹の死亡が記載された戸籍謄本
祖父母の死亡が記載された戸籍については、年齢的に存命でもおかしくない場合に取り寄せてください。
相続放棄で上申書が必要になるケースとは?
相続放棄には期限があり、「相続開始を知った日から3ヶ月以内」となっています。
何らかの事情で期限に間に合わないケースもありますが、やむを得ない状況であった場合は、例外的に期限後の放棄が認められることもあります。
このようなケースでは、裁判官に認めてもらえるよう「上申書」を作成し、相続放棄申述書とともに提出してください。
提出義務のある書類ではありませんが、期限後申述の妥当性などを汲み取ってもらえる可能性はあるでしょう。
次に上申書のサンプルを紹介しますが、複雑な内容になる場合は、専門家への作成依頼をおすすめします。
相続放棄の上申書(サンプル)
上申書
(1) 私は、被相続人 山田花子(令和4年○月○日死亡)の相続人である山田一郎です。
(2) 私は生前から山田花子と絶縁状態であり、この10年以上は連絡を取っていなかったため、山田花子の死亡も当時は知りませんでした。
(3) しかし令和4年○月○日、山田花子の債権者○○から私あてに通知が送付されてきました。被相続人が平成○年○月○日に借り入れし、未返済であった借金について、相続人である私に返済請求する内容です。
(4) 被相続人の死亡後、すでに5年以上経過していますが、私には、母が知らぬ間につくった借金を返済するつもりがありません。以上のことから、私は被相続人山田花子の相続を放棄したく、ここに申述いたします。
令和○年○月○日
申述人 住所 東京都中央区○○
氏名 山田一郎 印
まとめ
相続手続きの種類はさまざまですが、相続放棄は期限の到来がもっとも早く、しかも必要書類が多岐にわたります。
役所は平日しか開いていないため、現役で働いておられる方や、健康上の理由から役所に出向くことができない方は、期限内の準備が難しいかもしれません。
期限に間に合わない場合は上申書も作成するべきですが、法律を覆して相続放棄を認めてもらうため、裁判官が納得するだけの理論構成も必要です。
「相続放棄したいが時間を確保できない」「期限が間近に迫っている」という方は、まず専門家に相談してみましょう。
相続に強い専門家であれば、必要書類の収集や上申書の作成も代行してくれるため、忙しい方でも相続放棄を実現できます。