記事の要約
- 負担付贈与とは、贈与者が受贈者に対して「一定の債務や義務を負担すること」を条件とする贈与
- 負担付贈与では、贈与税計算時の不動産の評価方法を「時価」で計算する
- 贈与者に「譲渡所得税」がかかる可能性があるなどの注意点がある
借金などの「負担」と一緒に財産を贈与する方法として「負担付贈与(ふたんつきぞうよ)」があります。
もらう側が負担を肩代わりする形となることから、一見すると贈与税が軽くなるように思えますが、実際にはかえって税負担が重くなるケースがあるため、注意が必要です。
特に不動産の負担付贈与では、財産の評価方法が通常の贈与とは異なるため、思わぬ税負担の増加に繋がる可能性があるのです。
この記事では、負担付贈与の概要から、贈与者や受贈者にかかる税金、注意点などの内容を詳しく解説します。
目次
負担付贈与とは
負担付贈与とは、財産を贈与する人(贈与者)が、財産を受け取る人(受贈者)に対し、「一定の債務や義務を負担すること」を条件とする贈与を指します。
受贈者が負う「負担」には、以下のようなものがあります。
- 借金の引き継ぎ
- 投資用ローンなどの借入金の返済義務
- 預り金の引き継ぎ
- 賃貸アパートなどの入居者に対する敷金返還義務
- 生活の面倒
- 贈与者の老後の介護や身の回りの世話をする義務
- 税金の負担
- 本来贈与者が払うべき税金等を肩代わりする義務
たとえば、「ローン残債3,000万円の家を、そのローン返済を引き継ぐことを条件に子に贈与する」といったケースは、負担付贈与の典型的な事例の一つです。
負担付贈与と通常の贈与との違い
通常の贈与が、贈与者から受贈者へ一方的に無償で財産を譲り渡す行為であるのに対し、負担付贈与は、財産を渡す見返りとして、受贈者にも一定の負担を課す点に大きな違いがあります。
| 項目 | 通常の贈与 | 負担付贈与 |
|---|---|---|
| 受贈者の負担 | なし | あり(債務の返済など) |
| 契約の性質 | 贈与が完了すれば終了する「片務契約」 | 贈与後も義務の履行が続く「双務契約」の性質を持つ |
| 不動産の評価額 | 相続税評価額(時価の約7~8割) | 時価(通常の取引価額) |
| 贈与者への課税 | 原則としてなし | 譲渡所得税が課される可能性あり |
通常の贈与と異なり、負担付贈与は受贈者だけでなく贈与者にも税金が課税される可能性があることから、利用時はメリット・デメリットを十分に理解することが重要です。
負担付贈与は「双務契約」としての性質を持つ
負担付贈与では、受贈者が「負担」という対価を支払うことになるため、民法上は双務契約に関するルールが準用されます。
双務契約とは
双務契約(そうむけいやく)とは、契約を結んだ当事者の双方が、お互いに何らかの義務を負う契約のことです。
身近な例でいえば「売買契約」が双務契約にあたります。売買契約では、売り手は「商品を引き渡す義務」を負い、買い手は「代金を支払う義務」を負います。
負担付贈与も、贈与者は「財産を渡す義務」を、受贈者は「負担を履行する義務」をそれぞれ負うため、この双務契約と似た性質を持っています。
そのため、負担付贈与について、民法では「その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する」と定めているのです。
これにより、通常の贈与とは異なり、もし受贈者が約束した負担を履行しない場合、贈与者はその贈与契約を解除することができるのです。
具体的には、贈与者は受贈者に対して「相当期間を定めて」負担を履行するよう督促し、その期間内に負担の履行がない場合に限り、契約を解除することができます。
民法541条
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。引用元 民法 | e-Gov 法令検索
ただし、契約を解除できても、不動産の名義変更が完了している場合、それを元に戻すには複雑な手続きが必要となります。
そのため、負担付贈与の実行前に「相手が本当に負担を履行できるのか」を慎重に判断することが重要です。
負担付贈与は「いつでも解除できる」というわけではない
通常の贈与(書面によらない口約束の贈与)は、履行前であればいつでも撤回できます。
しかしながら、負担付贈与のケースでは、受贈者がすでに負担の一部を履行している場合などは、贈与者の一方的な都合で自由に解除することはできません。
受贈者には「贈与税」、贈与者には「譲渡所得税」がかかる可能性がある
負担付贈与では、受贈者に贈与税が課税されるだけでなく、贈与者にも所得税(譲渡所得税)が課税される可能性があります。
ここからは、贈与者と受贈者それぞれに発生する課税関係について、詳しく解説します。
- 受贈者にかかる税金は「贈与税」
- 贈与者にかかる税金は「譲渡所得税」
受贈者にかかる税金は「贈与税」
負担付贈与を受けた場合、受贈者には「贈与財産の価額から、引き受けた負担額を差し引いた価額」に対して贈与税がかかります。
このとき注意すべきなのが、贈与財産の評価方法です。
贈与された財産が不動産以外(現金や自動車など)である場合は、その財産の相続税評価額から負担額を差し引いて計算します。
しかし、贈与された財産が不動産の場合、評価方法は「相続税評価額」ではなく「時価(通常の取引価額)」となります。
不動産を負担付贈与された場合の贈与税の課税価格 = 財産の時価 - 負担額
たとえば、時価5,000万円の不動産について、ローン残債3,000万円を引き継ぐ条件で贈与された場合、贈与税の課税対象は「5,000万円(時価)- 3,000万円(負担額)=2,000万円」です。
この2,000万円から贈与税の基礎控除(年間110万円)を差し引いた金額に、所定の税率をかけて贈与税額を算出します。
贈与者にかかる税金は「譲渡所得税」
負担付贈与では、贈与者は、「受贈者に引き継がせた負担の額で、その資産を売却したもの」とみなされます。
たとえば、3,000万円のローン残債がある不動産を負担付贈与した場合、税法上は「贈与者がその家を受贈者に3,000万円で売却した」のと同じこととして扱われるのです。
負担額がその不動産の取得費を上回る場合、その差額(値上がり益)に対して譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得の金額=収入金額(負担額)−(取得費+譲渡費用)
仮に、相手に引き継いでもらう借入金(負担額)が2,500万円で、その不動産の取得費(購入代金など)が2,000万円だったとします。
このケースでは、「贈与した側は差し引き500万円分の経済的利益(値上がり益)を得た」とみなされ、その金額が譲渡所得税の課税対象となります。
不動産の負担付贈与では贈与税が高額になりやすい
通常の贈与と負担付贈与では、贈与税を計算する際の不動産の評価方法が異なります。
- 通常の贈与の場合
- 相続税評価額で評価します。土地なら「路線価」建物なら「固定資産税評価額」を基に計算され、一般的に時価の7~8割程度の価額になります。
- 負担付贈与の場合
- 時価で評価します。実際に市場で売買される価格のことであり、不動産鑑定評価額などが参考にされます。
このように、負担付贈与では評価額が時価となるため、通常の贈与に比べて課税対象額が高くなり、結果として受贈者が納める贈与税も高額になる可能性があります。
収益物件を贈与する場合は特に注意が必要
アパートや賃貸マンションなどの収益物件を贈与する場合、その物件にローンの残債が残っていたり、入居者から敷金を預かっていたりすると、「負担付贈与」とみなされます。
- ローン残債が残っている
- 不動産購入時の金融機関からの借入金(不動産投資用ローンなど)が残っている場合、その返済義務も受贈者が引き継ぐことになるため、負担付贈与に該当します。
- 入居者から敷金を預かっている
- 賃貸物件の入居者から預かっている敷金は、将来、退去時に返還すべき債務です。
そのため、賃貸物件を贈与すると「敷金返還債務」も受贈者が引き継ぐことになり、税務上「債務も承継した」として負担付贈与とみなされます。
特に注意が必要なのが、「敷金」の存在です。
たとえ、賃貸物件を借入金なしで購入していたとしても、敷金を預かっていることで負担付贈与とみなされ、不動産の評価額が相続税評価額ではなく「時価」で計算されることになります。
その結果、意図せず贈与税が高額になるリスクがあるのです。
このようなリスクを回避するためには、「建物の贈与」と同時に「預かっている敷金と同額の現金」も一緒に贈与し、贈与契約書にもその旨を記載するという対策が有効です。
「敷金返還債務」という負担が同時に贈与された現金で補填されることから、負担付贈与ではなく通常の贈与として扱われ、不動産の評価も相続税評価額で行われます。
【具体例】収益物件の負担付贈与で譲渡所得が発生した場合
ここからは、収益物件の負担付贈与で譲渡所得が発生したケースをもとに、税金の計算事例を紹介します。
以下のような条件で、「投資用ローンの残債と敷金がある収益物件を父から子へ負担付贈与した」と仮定して解説します。
- 不動産の時価: 5,160万円
- 不動産投資用ローン残債: 2,850万円
- 入居者からの預かり敷金: 200万円
- 不動産の取得費(建物減価償却後): 2,000万円
- 譲渡費用: 50万円
- 不動産の所有期間: 10年(長期譲渡所得)
受贈者(子)へかかる贈与税の計算事例
負担付贈与で不動産を贈与する場合、贈与税の課税価格の計算では、その贈与時点における時価(通常の取引価額)を用います。
贈与税の課税価格は、「贈与財産の時価から、受贈者が引き受けた負担額を差し引いた価額」となります。
【ステップ1】課税価格を計算する
まず、不動産の時価から「不動産投資ローン残高」と「入居者からの預かり敷金」を差し引き、子が実質的にいくらの価値を受け取ったかを計算します。
・贈与財産の価額(時価):5,160万円
・負担額(投資用ローン残債+入居者からの預かり敷金):3,050万円
「5,160万円(時価) – 3,050万円(負担額) = 2,110万円」
この2,110万円が、贈与税の計算の基礎となる「課税価格」です。
【ステップ2】贈与税額を計算する
次に、課税価格から暦年課税の基礎控除額(110万円)を差し引きます。
「2,110万円 – 110万円(基礎控除) = 2,000万円」
この2,000万円に対して贈与税率をかけます。 この事例では「親から18歳以上の子」への贈与であるため、「特例税率」が適用されます。国税庁の速算表に基づき、2,000万円に対する税率は45%、控除額は265万円となります。
1.2,000万円× 0.45 = 900万円
2.900万円 – 265万円 = 635万円
したがって、このケースで受贈者(子)が納める贈与税額は、635万円となります。
贈与者(父)へかかる譲渡所得税の計算事例
負担付贈与では、「贈与者は、受贈者に引き継がせた負担額で贈与財産を売却した」とみなされます。
この「売却したとみなされた金額」が、贈与財産の取得費などを上回る場合、贈与者にはその差額(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課税されます。
【ステップ1】譲渡所得の金額を計算する
譲渡所得は、売却したとみなされた金額から、その不動産の取得費と、譲渡にかかった費用(譲渡費用)を差し引いて計算します。
・収入金額(負担額): 3,050万円
・取得費:2,000万円
・譲渡費用:50万円
「3,050万円 – (2,000万円+ 50万円) = 1,000万円」
この1,000万円が譲渡所得となります。
【ステップ2】譲渡所得税額を計算する
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって大きく変わります。今回は所有期間が10年(5年超)という条件のため、税率が低い「長期譲渡所得」に区分され、長期譲渡所得の税率は、所得税15.315%と住民税5%を合計した20.315%が適用されます。
「1,000万円(譲渡所得)×20.315% =203万1,500円」
したがって、このケースで贈与者(父)が納める譲渡所得税・住民税の合計額は、203万1,500円となるのです。
負担付贈与を行う際は贈与契約書を作成する
贈与契約を結んだとしても、受贈者が必ずしも約束通りに負担を履行してくれるとは限りません。
義務が履行されない場合は契約を解除できますが、既に財産を引き渡してしまっていると、相手が返還に応じなければ裁判に発展するリスクもあります。
負担付贈与契約は口頭でも成立しますが、こうしたトラブルを避けるため、贈与契約書を作成することをおすすめします。
特に負担付贈与の場合は、通常の贈与契約書の内容に加え、「契約解除に関する条項」を盛り込んでおくことが重要です。
- 贈与者と受贈者の情報
- 氏名、住所などを正確に記載します。
- 贈与する財産の情報
- 不動産の場合は、登記簿謄本通りに所在、地番、家屋番号などを記載します。
- 負担の内容
- 「受贈者は、本件贈与の負担として、贈与者の〇〇銀行に対する借入金債務(〇年〇月〇日現在残高〇〇円)を引き受け、免責的に引き継ぐ」といった具体的な記載が必要です。
- 所有権移転の時期と方法
- いつ、どのように不動産の名義を移すかを定めます。
- 契約解除に関する条項
- 万が一、受贈者が負担を履行しない場合の取り決めなどを記載します。
なお、契約書はご自身で作成することも可能ですが、記載漏れなどの不備を防ぐため、司法書士などの専門家に作成を依頼することをおすすめします。
介護や扶養を条件とする場合も「贈与契約書」の作成が重要
この場合は金銭債務と異なり、義務の内容が曖昧になりがちです。そのため、「受贈者が約束通りに義務を果たしてくれない」というトラブルが起こりやすいです。
通常の贈与契約書の内容に加え、「介護の頻度や具体的な内容」「受贈者が義務を履行しない場合の解除条件」「契約が解除された場合の財産の取り扱い」といった項目を、より詳細に記載しておくことが重要です。
負担付贈与など相続に関する悩みは専門家にご相談ください
この記事では、収益物件の負担付贈与を例に、負担付贈与の仕組みや税金について解説しました。
負担付贈与は、贈与者にも譲渡所得税が課される可能性など、通常の贈与とは異なる注意点があることから、実行するかどうかは慎重に検討する必要があります。
暦年贈与や相続時精算課税制度といった他の贈与方法ともメリット・デメリットを比較し、どの方法がご自身の状況にとって最適かを見極めると良いでしょう。
どの方法を選択すべきか迷われた際は、税理士などの専門家に相談し、税額のシミュレーションを依頼することをおすすめします。
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