東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
自己破産をすると財産を処分される、と聞いて不安に思うこともあるでしょう。
「一文無しになるのでは?」と考える人も少なくありません。
実は自己破産をしても、一定の財産を手元に残すことができます。
現金は99万円まで保有が認められているため、その後の生活もしばらくは問題ないでしょう。
しかし手元に残る財産は、現金だけなのでしょうか。
今回は、現金を含む自己破産で残せる財産について解説します。
Contents
自己破産手続きは、保有するすべての財産を処分して債権者へ分配し、債務を帳消しにするものです。
しかし一定の財産は、手元に残すことが認められています。
これを自由財産と言います。
自由財産は、以下のようなものです。
現金であれば、99万円まで残すことができます。
そのほか裁判所の判断により、認められる財産があります。
自由財産は、自己破産後の生活の保障や経済の立て直しを目的に定められたものです。
差押禁止財産を含むその内容は、民事執行法および破産法を根拠としています。
現金に関する99万円の根拠は、2つの法律にまたがって定められています。
破産法第34条3項で、民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた金銭は、破産財団に属さない(=自由財産となる)と定められています。
民事執行法で差押禁止財産として規定されている額とは、現金66万円(生活費2カ月分)です。
つまり66万円に2分の3をかけた、現金99万円が破産法で認められる自由財産となります。
差押禁止財産は、民事執行法を根拠としています。
そのほかの自由財産は破産法、および各地方裁判所の運用により定められたものです。
自由財産の拡張とは、裁判所が個別の状況に応じて、破産者の手元に残す自由財産の範囲を広げて認める制度のことを言います。
たとえば病気で働けない場合には、より多くの現金や預貯金が必要でしょう。
車がないと生活ができないような地域では、車がなければ死活問題です。
このような場合に裁判所の判断で、本来は処分対象の財産を手元に残せる可能性があります。
自由財産の拡張は原則として、すべての財産をあわせて99万円以内で認められます。
たとえば20万円の預貯金は本来処分対象ですが、ほかの財産と合わせて99万円以内であれば、保有が認められる可能性があります。
ただし裁判所ごとに運用が異なるため、必ずしも認められるわけではありません。
また裁判所に対して、なぜ拡張を必要としているのかを具体的に説明する必要があるため、認められるハードルは高いといえます。
中には「タンス預金のように現金で持っていればバレないのでは?」と考える人がいます。
しかし自己破産手続きでは、管財人と呼ばれる専門家によって徹底的に資産を調べられます。
郵便物は管財人に転送され、必要であれば現地調査も行うため、隠し通すことはできません。
もし隠していたことが発覚すると、管財人や裁判所を欺いたと判断され、最終的に免責不許可となります。
免責不許可となれば債務が免除されないため、返済義務が残り続けます。
破産手続きで取り立てが止まっている場合でも、免責不許可となれば取り立てが再開されるでしょう。
資産隠しはデメリットしかありません。
絶対にやめましょう。
自己破産により、手元に残せる自由財産について説明しました。
ここでは自由財産の内容を、より詳しく見ていきましょう。
前述したように、現金は破産法および民事執行法を根拠として、99万円まで保有が認められます。
高額な現金が自由財産として認められている理由は、自己破産後の生活を維持するためです。
自己破産手続きが開始されると、ローンやクレジットカードの利用ができなくなります。
認められる範囲内でできるだけ多くの現金を残しておくと、破産後しばらくの生活も安心です。
自由財産の拡張により認められるものは、たとえば以下のようなものがあります。
預貯金は、20万円の範囲内であれば認められることが多いです。
20万円を超えている場合は、引き出して99万円以内の現金として持っておくことも一つの方法です。
ただし、引出す時期や金額により「処分を免れるために引き出したのでは?」と疑われる可能性があるため、注意しましょう。
評価額が20万円以内であれば、車や生命保険の解約返戻金も自由財産と認められる場合があります。
その他貴重品、財産的価値がつくものは、評価額20万円が手元に残せる基準となります。
しかし地方裁判所ごとに運用が異なるため、認められる基準が一律ではないことに注意が必要です。
民事執行法により、差押さえが禁止されている財産があります。
そのため破産法においても、差押禁止財産を処分の対象とすることはできません。
差押禁止財産は以下のようなものです。
生活必需品にはパソコンや携帯電話、掃除機などの家電も含まれます。
ただし、同じものは2つ以上の所有を認められないことがほとんどです。
1つを残し、財産的価値の高いものから順に処分されることになります。
自己破産で処分される財産は、自己破産手続きを開始した時点で保有していたものが対象です。
そのため、破産手続き開始後に取得した財産は処分対象外となり、手元に残ります。
これを新得財産(しんとくざいさん)と呼びます。
たとえば会社から出る給与や、相続などで取得した財産です。
破産管財人は破産者のすべての財産を管理・処分し、債権者へ分配する役割を担っています。
しかし中には処分が難しい不動産や、処分のコストが膨大になる財産が含まれることもあります。
そのような財産は、裁判所の許可を得て放棄される場合があります。
放棄された財産は破産者の手元に戻ってくるため、以降自由に使うことができます。
自己破産手続きには大きく分けて、管財事件と同時廃止事件の2つがあります。
管財事件 | 財産をすべて換価し、債権者へ分配するため手続きに時間がかかる (通常6カ月~1年) 裁判所や専門家に支払う費用で高額になるケースが多い |
同時廃止事件 | 破産手続き開始と同時に手続きを終了する 管財事件と比べて、費用も時間も少なくなる(即日~6カ月) |
どちらの手続きになるか、基準は裁判所ごとに異なります。
東京地方裁判所の管財事件とする基準は、以下のとおりです。
管財事件になると、財産を処分し分配する必要があるため、時間・費用ともに負担が大きくなります。
また、手続きが非常に煩雑になるため、個人での対応は難しいでしょう。
そのため専門家である弁護士に依頼した場合は、さらに費用がかかることになります。
自己破産をしても、一文無しになるわけではありません。
破産後も生活していけるよう、法律により現金を含む一定の財産は守られています。
また、必要であれば自由財産の拡張が認められることもあるでしょう。
一定の資産がある場合は手続きが煩雑になり、より時間も労力もかかります。
個人での対応は難しいため、自己破産を検討する際は一度、専門家に相談しましょう。