東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産には管財事件と同時廃止事件の2つの手続きがあります。
しかし聞きなれない言葉であるため、どんなものか、どのように手続きを行うのかよくわからないという人は少なくないでしょう。
管財事件となれば、多くの時間と手続き費用がかかることになるため、できれば避けたいものです。
今回は管財事件とはどういったものなのかくわしく解説していきます。
管財事件とは、所有する財産を債権者へ平等に分配することで、債務の返済を行い、最終的に債務の免除をしてもらう自己破産手続きです。
財産は裁判所から選定された破産管財人によって管理・処分されます。
管財事件となれば、債務状況の把握や財産の処分などによる手続きが複雑で、相当の時間と費用がかかります。
自己破産手続きには、管財事件の他に同時廃止事件というものがあります。
破産法により以下のように定められています。
引用:
「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を思弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」
つまり、破産手続きの費用を支払うだけの資力がない場合、破産手続開始決定と同時に手続きを廃止しなければならないということです。
このような場合に同時廃止事件となります。
手続きの開始と同時に廃止されるため、書類審査のみで終了します。
管財事件と比べて費用も時間も大幅に減らせることが特徴です。
2020年に日本弁護士連合会が行った「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、管財事件として処理された割合は、破産事件全体のおよそ28%です。
少ないようですが、2002年の同じ調査で管財事件の割合はたった2%でした。
管財事件の割合は増加していると言えるでしょう。
管財事件か同時廃止事件か、どちらになるかは破産申立時の状況を鑑みて裁判所が判断します。
一方、法人や個人事業主の自己破産に関しては、事業ということを鑑み、ほとんどの場合で管財事件となります。
管財事件となると、裁判所に予納金を納めなければいけません。
これは破産管財人の報酬等に充てられる費用で、債務の額に応じて50万円~700万円が必要です。
しかし自己破産を決めた破産者には負担が大きすぎる場合が多いため、これより少ない予納金で手続きができる制度として少額管財事件があります。
少額管財事件の予納金は20万円ほどで、裁判所や個々のケースによって分割払いが可能な場合もあります。
少額管財事件では通常の管財事件よりも手続きが簡略化されるため、手続き終了までの期間も短くなります。
しかし少額管財事件の制度を利用できるのは、自己破産手続きを弁護士に依頼している場合のみです。専門家により破産手続きが適切に行われている、という保証のもとで認められている制度のためです。
自分で手続きを行っている場合や、専門家でも司法書士に依頼している場合は利用できません。
また、少額管財事件の制度を取り入れている裁判所は、東京地方裁判所をはじめとする首都圏が中心です。
地方では運用がない場合もあり、全国どこでも利用できるわけではありません。
管財事件として処理される場合の条件はどんなものでしょうか。
このような条件では、管財事件となるケースがほとんどです。
一つずつ詳しく見ていきましょう。
一定の財産や現金を持っている場合、債権者へ分配するだけの財産があるとみなされ管財事件となります。
予納金の支払いや自己破産後の生活にも支障がない、とみなされる可能性も高いでしょう。
財産とみなされるものは、具体的には以下のようなものです。
20万円以上とは財産の合計額ではなく、財産一つ一つに対する評価額です。
たとえば売却額5万円ほどのバイクと預貯金が15万円あった場合、合計では20万円ですが、個々に見ると20万円を下回っているため、この場合は管財事件とはなりません。
現金に関しては、裁判所ごとに運用が異なるため一概には言えませんが、東京地方裁判所の場合、少額管財事件の制度が使えるため、33万円が一つの基準となっています。
他の裁判所では99万円以上としている場合もあり、状況により異なります。
免責不許可事由とは、どのようなことがあれば免責が認められず、自己破産をしても債務の返済が免除されなくなるのかを定めたものです。
その内容は破産法により定義されています。
上記に該当している場合、原則として免責は許可されません。
しかし中には破産に至るまでの事情を考慮し、不許可事由に該当している場合でも免責を許可する、と判断されるケースがあります。
このように免責を認めるか否か判断するための調査が必要になるため、免責不許可事由があると管財事件となります。
法人や個人事業主など、事業を行っている場合の自己破産は、ほとんどが管財事件として処理されます。
事業を営んでいる場合は資産が多く、取引先との債権債務の関係性がより複雑で、同時廃止事件のような簡易な手続きでは終結できないためです。
中には経理処理を通じて資産隠しを行っている可能性も否定できないため、詳しい調査が必要になります。
管財事件となるケースが多いですが、法人や個人事業主でも少額管財事件の制度は利用することができます。
管財事件と同時廃止事件の大きな違いは、手続きに要する費用と時間です。
実際にどれほどの費用と時間がかかるのか、破産手続きが終結するまでの流れとともに具体的に見ていきましょう。
管財事件になった場合は、以下のような流れになります。
それぞれの手順を詳しく見ていきましょう。
自己破産手続きを申し立てると、裁判官との面接の場が設けられます。
弁護士に依頼した場合は裁判官と弁護士とで面接を行うこともありますが、基本的に申立人が対応することになります。
ヒアリングの結果、ここで管財事件か同時廃止事件かに振り分けられます。
管財事件となればそのまま審理は続き、破産管財人候補者との面談へと続きます。
なお、破産手続開始決定前に破産管財人候補者と面接をするのは、東京地方裁判所の対応です。
その他の地方裁判所では多くの場合、手続開始決定後に面接を行います。
破産管財人は債権債務に関する様々な質問をしてきます。
もしわからないことがあれば正直に「わからないので、後日回答します」と答えましょう。
その場で適当に答えてしまい、それが間違った回答であれば噓をついたと判断され、免責不許可につながる可能性も否定できません。
また、審理を行う中で裁判所は、破産者が本当に債務を返済できない状態なのか、財産の状況などをくわしく調査します。
そのため裁判所から資料の提出を求められることや、直接事情を聞かれるケースもあります。
そのような場合には速やかに回答し、調査に協力するようにしましょう。
面接や調査の結果により、破産手続開始の決定が下されます。
同時廃止事件の場合は、この決定と同時に廃止となり終了です。
管財事件となれば、破産管財人が選定され、ここで予納金の入金が必要になります。
予納金は破産管財人の報酬等に充てられる費用です。
詳しい金額は後述します。
予納金を支払うと、破産管財人が破産者の財産を管理・処分する手続きへ進みます。
破産者の財産は、自由財産と呼ばれる自己破産後も手元に残せる財産を除き、すべて破産管財人が管理・処分します。
財産を売却・処分するため、さらに詳しく調査が行われます。
破産管財人が行う調査や手続きには、必ず協力しなければいけません。
ここで非協力的な行いがあると、免責不許可事由となる可能性もあるため、注意しましょう。
債権者集会とは、破産管財人から破産手続きに関する報告を行う場です。
債権者に対し、破産申立人の財産状況や、破産に至った経緯などの情報を提供し意見聴取を行います。
破産者やその代理人には出席義務があり、正当な理由なく欠席すると免責不許可事由に相当する可能性もあります。
一方、債権者の出席は任意であるため、出席しないからといって不利益になるようなことはありません。
債権者集会では破産管財人や債権者に対して、債務を免除するかどうか意見を聞く場も設けられます。
ここで破産者本人も、免責についての意見を述べることができるため、伝えたいことがあれば積極的に活用しましょう。
破産管財人が換価した財産は、期日を設定し債権者へ分配されます。
もし調査を行ったものの、分配できるだけの財産がなかった場合には、破産手続きを終了させる異時廃止となります。
最終的に免責許可を出すか否かを裁判所が判断し、破産手続きは終了します。
免責が許可されると、債務の返済は免除され、返済する必要はなくなります。
管財事件は、破産手続きの申立てを行ってから免責許可決定まで、6カ月~1年程度かかります。
財産や債権の調査に加え、面接や債権者集会など手続きが多岐にわたるためです。
少額管財事件、同時廃止事件と比較すると以下のようになります。
手続き | 期間 |
---|---|
管財事件 | 6カ月~1年 |
少額管財事件 | 6カ月前後 |
同時廃止事件 | 即日~6カ月 |
少額管財事件は管財事件の手続きを簡易的にしたものであるため、管財事件より処理期間が短い場合が多いです。
同時廃止事件は、特に申請件数の多い東京地方裁判所において、即日面接という対応が取られています。
これは申立日及びその翌日から3日以内に面接を行い、同時廃止が相当と判断した場合にとられる運用です。
面接当日の午後5時付けで破産手続開始決定と同時廃止決定を行う流れになります。
この場合は即日で結果が出て、手続きはそこで終了となります。
他の裁判所では即日面接を行っていない場合がほとんどのため、数カ月程度はかかることが多いでしょう。
裁判所ごとに運用が異なりますが、管財事件と比べると手続きが簡易である少額管財事件、同時廃止事件は、相対的に手続き期間が短くなります。
自己破産手続きでかかる費用は、大きく弁護士費用と裁判所費用に分けられます。
弁護士費用は、手続きの種類や難易度などにより変動します。
一方、裁判所費用は手続きの種類によって異なり、中でも管財事件は費用が高額になるケースがあります。
ここでは自己破産手続きでかかる費用と、支払い方法について詳しく見ていきましょう。
【自己破産手続きでかかる費用】
手続き | 弁護士費用 | 裁判所費用 |
---|---|---|
管財事件 | 30~100万円 | 50万円~ |
少額管財事件 | 30~60万円 | 20万円 |
同時廃止事件 | 50万円以下 | なし |
自己破産はどの手続きになっても、個人で対応することは非常に難しいでしょう。
そのため専門家である弁護士に依頼するケースが多く、その場合は弁護士費用がかかります。
特に管財事件は面接や債権者集会への参加など、対応することが増えるため弁護士費用がかさむ傾向にあります。
裁判所費用は予納金と呼ばれ、管財人の報酬等に充てられる費用です。
手続きの種類によって異なり、管財事件については一律ではなく変動します。
【管財事件でかかる裁判所費用】
負債額 | 法人 | 法人以外 |
---|---|---|
5000万円未満 | 70万円 | 50万円 |
5000万~1億円未満 | 100万円 | 80万円 |
1億~5億円未満 | 200万円 | 150万円 |
5億~10億円未満 | 300万円 | 250万円 |
10億~50億円未満 | 400万円 | - |
50億~100億円未満 | 500万円 | - |
100億円以上 | 700万円 | - |
管財事件の裁判所費用は、負債額と申立人が法人か否かにより、細かく決められています。
個人であれば50万円、または80万円となるケースがほとんどでしょう。
弁護士費用は、分割支払いを可能としている事務所が多いです。
それでも支払いが厳しい場合は、法テラスを利用することも検討しましょう。
法テラスは弁護士報酬を立て替えてくれるため、毎月数千円程度の支払いから依頼することができます。
もちろん相談は無料です。
個々の事務所も相談無料としているところがほとんどであるため、まずは話を聞いて検討してもいいでしょう。
裁判所に予納金を支払うタイミングは、破産手続開始の決定が出たときです。
もし手元に資金がなければ、少しずつ積み立てて用意をする必要があります。
その場合、自己破産を決めてから実際に破産手続きができるようになるまで、相当の時間がかかることになります。
管財事件にかかる期間や費用を考えると、できれば管財事件を避けたいと思う人がほとんどでしょう。
管財事件を避けるには、以下のようなポイントがあります。
それぞれくわしく解説していきます。
免責不許可事由にあたることに該当することは避けなくてはなりません。
どのように対応していけばよいのでしょうか。
免責不許可事由の中でも意識して避けられるポイントとして、ギャンブルや無理な投資をせず、浪費をしないことがあげられます。
手持ちの資金がないことがわかっていながら無理な借り入れをして浪費した場合、免責は認められない可能性が高いでしょう。
また、借入限度額に達しこれ以上借入も返済もできない、という状態から違法な高利貸し(闇金)に手を出す人がいます。
これは破産手続の開始を遅らせる目的があったとみなされ、免責不許可事由に該当します。
自己破産を前提とした借り入れは、もちろん認められません。
返済の目途が立たないと分かった時点で、破産手続きを申し立てましょう。
偏波弁済とは、ある特定の債権者だけに返済をすることをいいます。
たとえば自己破産手続きが始まっているにも関わらず、借金をしていた特定の親族だけに「5万円ほどなら今すぐ返せるから」と、返済を行うようなことです。
自己破産手続きでは、債権者は債権の額に関わらず平等という原則があります。
この原則に背く行為は免責不許可事由に相当します。
自己破産の申立てをした後は、裁判所や専門家に黙って勝手に返済をしてはいけません。
事業主が自己破産する場合、経理上の都合の悪い処理を隠すために、帳簿を隠す・偽造することを考える人がいますが、絶対にしてはいけません。
免責不許可だけにとどまらず、文書偽造罪などの犯罪行為に当たる可能性も出てきます。
また、債権者名簿も真実を記載しなければいけません。
債権者名簿とは、破産手続きの申立てを行うときに提出する資料です。
債権者の氏名、住所、借入額、借入時期、現在の返済残高などを記載します。
意図的に特定の債権者情報を記載しないなどの不正があると、債権者平等の原則に背く恐れがあります。
破産管財人の調査は非常に細かく、徹底的に行われるものです。
隠そうとしても調査の中で必ずわかることであるため、破産管財人や裁判所を欺こうとするような行為は絶対にやめましょう。
調査をしていく中で、破産管財人や裁判官から資料の提出や説明を求められることがあります。
しかし、虚偽の説明や期日までに資料を提出しないなどの非協力的な姿勢でいると、免責不許可の可能性が非常に高くなります。
自己破産手続きは、裁判所の裁量によって判断される部分が多いためです。
心証を悪くすることは、自分の首を絞めることになりかねません。
調査には積極的に協力しましょう。
破産法により、過去に自己破産をした経験がある場合、7年以内に再度自己破産を申し立てても、免責は認められないと決められています。
ただし、病気などでやむを得ない事情がある場合は、裁判所の判断で2回目の自己破産が可能になる場合もあります。
しかしその場合でも、2回目の自己破産を認めるか否かの判断を下すための調査が必要であり、管財事件は免れません。
1回自己破産をしている場合は、資産管理を徹底する必要があります。
自分のケースが管財事件と同時廃止事件のどちらになる可能性があるのか、その判断は個人には難しいでしょう。
どちらになるかは裁判所ごとに判断が異なり、同じ裁判所でも事案ごとに運用が変わる場合もあります。
その点、裁判所の運用に詳しい専門家に依頼すれば、同時廃止事件にできる可能性が高くなります。
同時廃止事件になれば、専門家に支払う費用も抑えられ、手続きにかかる時間も大幅に短縮できるでしょう。
管財事件となることが確実な場合でも、弁護士に依頼することで少額管財事件として手続きができる可能性もあります。
費用を抑えようと自分で手続きを行うより、始めから専門家に依頼することで管財事件を避け、結果的に手続きにかかる時間も費用も小さくすむでしょう。
自己破産を検討する段階では、すでに資金繰りが厳しい人がほとんどです。
そこで管財事件となれば、手続きのためにさらに費用と時間が必要になります。
自己破産したくてもできないという状況になりかねないため、できるだけ管財事件を避けられるようにしましょう。
早期に適切な手順を踏んでいれば、同時廃止事件として処理できる可能性があります。
個人で対応するには難しいケースが多いため、まずは専門家に相談してみましょう。