東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
自己破産をすると、すべての財産を没収されて何もかも失うと考える人は少なくないでしょう。
しかし自己破産をしても、一文無しになるわけではありません。
今回は自己破産によって失うもの・手元に残るものを詳しく解説していきます。
家族への影響なども合わせて解説しているので、自己破産を考えている人は参考にしてください。
Contents
自己破産は所有する財産をもって、すべての債務を清算する手続きのことです。
自己破産手続きが開始されると、不動産など価値のある財産は、裁判所が選定した破産管財人によって管理・換価され、債権者へ公平に分配されます。
この債権者へ分配する財産を破産財団といいます。
自己破産すると基本的にすべての財産が破産財団となり、その大部分を失うことになります。
ここでは、自己破産により失う財産について解説していきます。
20万円を超える預貯金、99万円を超える現金は破産財団として没収対象となります。
自己破産後の生活を考慮し、一定額は手元に残せるようになっていますが、多額の預貯金・現金がある場合はそのほとんどを失うことになります。
20万円を超える預貯金がある場合、事前に引き出して99万円以内の現金として持っておくことは、財産を手元に残す一つの方法といえます。
ただし、引き出す時期や用途によって、裁判所の判断により没収対象となる可能性は否定できません。
とはいえ、生活費や自己破産手続きのための費用であれば、あまり問題にはならないでしょう。
持ち家に住んでいる場合は、破産財団とみなされ自宅を失うことになります。
同じく土地やその他物件などを所有している場合も没収対象となります。
自己破産手続きが進むと、不動産は競売にかけられ換価されます。
どうしても自宅を手放したくない場合は自己破産を避け、任意整理や個人再生も検討しましょう。
車やバイクはローンの有無により、その処遇が異なります。
ローンを組んで購入した場合、支払いが終わるまで所有権はローン会社等に留保されています。
もし支払いが滞ると、所有権を持っているローン会社は資金回収のため、車やバイクを回収して(引き揚げて)売却することができます。
そのため自己破産手続きが開始されても、破産財団とはなりませんが、ローン会社が所有・売却する権利は失われないため、手元から失うことになります。
一方、ローンを完済している場合や銀行融資で車やバイクを購入した場合、所有権は買主にあるため、自己破産により破産財団として処分されます。
ただし、車がなければ生活できないような特別な事情がある場合、裁判所に申立てを行うことで所有を許される場合もあります。
また、家族や知人に買い取ってもらい、破産管財人に相当額を支払えば没収を免れる可能性もあるでしょう。
20万円を超える生命保険の解約返戻金も、没収の対象となる破産財団です。
しかし中には、他の保険や現金などと合計して99万円以内に収まるのであれば、没収せず自由に使ってよいと判断する裁判所もあります。
一方で、他の財産と合計で99万円以内であっても、「解約返戻金単体で20万円を超えるなら破産財団」と厳格に判断される場合もあります。
これは裁判所ごとに運用の違いがあるためで、実際に自己破産手続きを行う裁判所により異なります。
退職金がある場合は受取状況により、破産財団とされる範囲が異なります。
まず、すでに退職し退職金を受給している場合、その全額が破産財団となります。
この場合は預貯金や現金の取り扱いと同じであるため、預貯金20万円、現金99万円を超える残高が没収されます。
次にすでに退職しているが退職金をまだ受け取っていない場合、退職金見込み額の4分の1が没収対象となります。
また、まだ退職しておらず予定もないという場合には、退職金見込み額の8分の1が破産財団の対象です。
仮に見込み額の4分の1、8分の1がそれぞれ20万円に満たない場合は、破産財団とならず失うことはありません。
破産財団は債務者への返済に充てるための資源です。
価値があると判断されるものは、すべて没収対象となります。
価値があると判断される基準は、売却したときの金額が20万円を超えるかどうかが目安です。
骨董品やアンティークのものがあれば、破産財団として失う可能性は高いでしょう。
建具や家具・家電は基本的に破産財団の対象外とされています。
しかしたとえば市場価値の高いゲーム機や最新の高性能家電など、価値がつきそうなものを所有している場合は注意が必要です。
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報として登録されます。
いわゆるブラックリストに載るということです。
ブラックリストに載ると、完済後5年を経過するまで情報は削除されません。
その間、ローンを組む、クレジットカードを作成・利用する、賃貸契約をするといった信用に関わる取引きができなくなります。
ちなみに自己破産をせずとも、債務の返済が2カ月滞ればブラックリストに掲載されることにも注意しておきましょう。
自己破産により没収され失う破産財団について説明してきました。
反対に自己破産をしても失わず、自由に使える財産もあります。
これを自由財産といいます。
自由財産は、自己破産後の生活を考慮し、破産法によって定められています。
ここでは、自由財産について詳しく解説していきます。
新得財産(しんとくざいさん)とは、破産手続開始後に取得した財産のことです。
自己破産で破産財団とされるのは、自己破産手続開始決定の時に所有していた財産に限られます。
手続開始決定後に取得したものは対象ではありません。
自己破産開始決定後に支払われる給与や、相続・贈与などで財産を取得した場合などがこれにあたります。
99万円以下の現金は、自由財産とされています。
多額の預貯金は破産財団として没収されますが、99万円以下の現金として持っていれば、当面の生活資金として自由に使うことができます。
ただし、自己破産開始直前に引き出すと厳しくチェックされることもあるため、注意が必要です。
法律により差押が禁止されているものは、自己破産でも失うことはありません。
差押禁止財産は以下のとおりです。
生活用品にはエアコン、テレビ、パソコンなど家電や電子機器も含まれます。
そのため、携帯電話などは破産後も使い続けることが可能です。
ただし、無制限に所持を許されているわけではありません。
複数台ある場合、所持が許されるのは1台のみで、高価なものから順に没収されます。
自由財産は裁判所に申し出ることで、広く拡張が認められる場合があります。
たとえば病気などの理由から働くことが難しい破産者には、99万円を超えて現金や預貯金の所持を認めることも珍しくありません。
自由財産の拡張は、裁判所ごとの基準により判断されます。
実際に自己破産手続きを行う裁判所の判断に従いましょう。
破産管財人の役目は、破産者の財産を管理・処分することです。
しかし破産財団の中には、売却が困難な不動産や、処分コストと価値が見合わないものが含まれていることがあります。
このような破産財団は、破産管財人が裁判所の許可を得て処分を放棄する場合もあります。
破産財団から放棄された財産は、破産管財人の管理下から破産者の手元に戻ってくるため、自由に使うことができます。
自己破産をすると、家族への影響が気になるところです。
基本的に自己破産手続きが開始されても、家族の財産に影響はありません。
破産財団とみなされるものは、破産者名義や破産者が所有するものに限られるためです。
ただし、家族が保証人等になっている場合、返済の滞納や自己破産によって家族のもとに返済請求が届く可能性があります。
そうなると一括返済を求められるため、返済はより厳しくなるでしょう。
一括返済できない場合は、家族も自己破産など債務整理を選択することになる可能性もあります。
自己破産について、下記のような質問が多く聞かれます。
ここでは、これらの疑問を解説していきます。
少しでも資産を残しておきたいと思う人は少なくありません。
タンス預金や知人に一時的に預けておくなど、財産を隠そうと考えることがあるかもしれませんが、絶対にしてはいけません。
債権債務の状況は、破産管財人が破産者から聞き取りを行います。
さらに債権者から裏付けを取り、債務や財産の報告に偽りがないか、報告漏れはないか調べていきます。
郵便物は破産管財人へ転送され、必要であれば現地調査を行い、徹底的に調べられるため、隠し通すことはできません。
もし資産隠しや虚偽申告が発覚すると、裁判官を騙したとみなされることがあります。
そうなると、裁判所が債務の免責を認めないという免責不許可の判断を下す可能性も否定できません。
自己破産手続きをすると、同時に免責の申立てを行ったことになり、認められれば最終的に債務の返済が免除されます。
所有している財産は換価され債権者へ分配されますが、それでも返済しきれなかった債務に関しては免除となり、返済の必要はなくなります。
ただし、裁判所が免責不許可と判断すれば、借金の支払いは免除されません。
自己破産手続きでは真摯に反省し、手続きに対して誠実に協力する姿勢を見せることが大切です。
自己破産をすると大半の財産を失うことになりますが、その後の生活を考慮し、一定の資産は手元に残すことができます。
自己破産を決めたら現状と真摯に向き合い、生活の立て直しができるよう、一歩ずつ進めていくことが大切です。
また、自己破産以外の債務整理を検討することも一つの方法です。
迷ったら専門家に相談してみましょう。