東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をしてもパスポートの申請・取得は可能ですが、海外旅行に行く場合、タイミングや渡航の理由次第では、制限を受ける場合があります。
また破産者の海外旅行は、クレジットカードが利用できないため、買い物をするときに不便を感じるでしょう。
免責許可に影響が出たりする可能性があるため注意が必要です。
本記事では自己破産をした方がパスポート申請・取得できる理由や、海外旅行が制限される期間、海外に行くリスクについて解説しています。
Contents
自己破産をしても、パスポートの申請、取得は可能です。
パスポート(旅券)の発給、効力、その他パスポートに関し、必要な事項は旅券法という法律に定められています。
主に以下のようなケースでは、パスポートの発給を制限するという定めがあります(第13条「一般旅券の発給等の制限」)。
【パスポートの発給が制限されるケース】
旅券法13条の中には、自己破産者についてパスポートの発給を制限する定めはありません。
そのため、自己破産者でもパスポートを作ることは可能といえます。
なお、国援法とは国の援助等を必要とする帰国者に関する領事館の職務等に関する法律のことをいいます。
自己破産をしてもパスポートの取得は可能ですが、海外旅行に行く場合、渡航するタイミングによっては制限を受ける場合があります。
具体的に見ていきましょう。
自己破産手続き前であれば、渡航制限を受けることはありません。
また海外旅行に行くこと自体が、免責不許可事由に該当するわけではありません。
ただし海外旅行費用や渡航先での経費をカードで支払い、返済ができずに自己破産を申し立てたような場合は、免責不許可事由になり得ます。
自己破産手続き中については、同時廃止か管財事件かで扱いが異なります。
同時廃止とは、破産手続き開始決定と同時に破産手続きを終了させることです。
破産者に財産がなく、破産管財人を選出して手続きをする必要がないときは同時廃止となります。
一方、以下のような点から破産者に破産管財人や破産手続き費用が払えると判断されたときは、管財事件となります。
同時廃止は破産手続き開始決定と同時に、破産手続きが廃止となるため、海外渡航を制限されることはありません。
一方、管財事件は、破産者とすぐに連絡が取れないと借金や資産の内容、免責不許可事由の調査、資産の処分などに支障が出ます。
そのため、管財事件の場合、自己破産手続き中に長期間居住地から離れることは制限されています。
仮に旅行で居住地から離れるときは、破産管財人の同意と、裁判所の許可を得なければなりません。
自己破産手続きが終了し、免責許可決定が確定すると海外渡航の制限が解除されるため、自由に海外旅行ができるようになります。
免責許可決定とは、裁判所が破産者の借金を免除する決定のことです。
また自己破産をしたからといって、パスポートの発行や更新ができなくなることもありません。
事情によっては自己破産中でも海外への渡航が認められる場合があります。
ただしクレジットカードが利用できないため、渡航先での買い物に不便を感じるかもしれません。
またいくつかリスクが生じる可能性があるため、注意が必要です。
具体的にどのようなリスクが発生するのか見ていきましょう。
自己破産をすると、保有しているクレジットカードは強制解約となります。
そのため渡航中の食事や買い物などは、すべて現金で支払わなければなりません。
旅行中は現金を常に持ち歩くことになるため、渡航先でスリや窃盗にあうリスクがあります。
クレジットカードなら気付いた時点でサポートセンターに連絡をすれば、すぐに利用を停止してもらえますが、現金はそうはいきません。
また自己破産をすると、信用情報機関に「金融事故情報」として登録されます。
そのため、概ね5~7年間はクレジットカードを作ることや、カードローンでお金を借りることができなくなります。
同時廃止はすぐに破産手続きを終了しますが、管財事件は管財人が破産者の財産や、借金を作った理由などの調査が行われます。
管財事件となった場合の自己破産手続きは、スムーズに進んでも約3~6カ月の期間が必要です。
管財事件でも転勤や単身赴任、出張などの理由であれば、移動が認められる場合があります。
しかし海外渡航中、連絡がつきにくいと、さらに調査に時間がかかってしまいます。
自己破産手続き中でも、理由によっては海外渡航が認められますが、その分、手続きが長期化する可能性がある点には注意が必要です。
親族が海外で挙式をするなどの特別な理由での海外渡航も、認められると考えられます。
しかし渡航費を破産者自身が負担していると、免責が認められない可能性があります。
誰かから渡航費の援助を受けているのであれば認められる場合もあるため、代理人となっている弁護士に相談してみましょう。
許可なく海外旅行に出かけると、裁判官から「申立人が反省しておらず、更生が難しい」と判断される恐れがあります。
免責が不許可になってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
自己破産に関するよくある質問と回答をまとめました。
自己破産について不安がある方は参考にしてください。
自己破産手続き前と、自己破産手続きが終了して免責許可決定が確定すれば、海外旅行について制限されることはありません。
しかし自己破産手続き中で管財事件の場合、破産管財人と裁判所の許可が必要です。
ただし転勤や単身赴任、家族の挙式など特別な理由がない限り、海外旅行は認められないでしょう。
パスポートの発給・監理の根拠となる旅券法では、自己破産をしたからといってパスポートが失効・取消になるといった定めは存在しません。
そのため、すでにパスポートを持っている方は、自己破産をしてもそのまま利用することができます。
自己破産の情報が消えるのは、おおよそ7年です。
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報として登録されます。
この事故情報として登録されている期間のことを、「ブラックリスト入り」している状態と言います。
ブラックリストに登録されている間は、基本的に新たにクレジットカードを作ったりローンを組んだりすることができません。
日本には以下の3つの信用情報機関があり、事故情報が登録される期間が異なります。
信用情報機関 | 正式名称 | 主な加盟会社 | 自己破産の情報が掲載される期間 |
---|---|---|---|
CIC | 株式会社シー・アイ・シー | クレジットカード会社・消費者金融 | 免責決定から5年 |
JICC | 株式会社日本信用情報機構 | クレジットカード会社・消費者金融 | 免責決定から5年(免責決定を債権者に伝える必要がある) |
KSC | 全国銀行個人情報センター | 全国の銀行 | 破産手続きの開始決定から約7年 |
各信用情報機関は情報共有をしているため、自己破産の情報が消えるのは実質約7年と考えられます。
多くのクレジットカードは、海外旅行傷害保険が付帯しています。
海外旅行傷害保険は、クレジットカードを持っているだけで補償が適用される「自動付帯」と、クレジットカードで旅行代金を決済すると補償が適用される「利用付帯」の2種類があります。
しかし自動付帯、利用付帯いずれのケースにおいても、自己破産をするとクレジットカードが強制解約となるため、クレジットカードに付帯している海外旅行傷害保険が利用できません。
この場合、損害保険会社で扱っている海外旅行傷害保険に加入する必要があります。
基本的に自己破産をしているからといって、損害保険会社から海外旅行傷害保険の引き受けを断られることはありません。
ただし最終的な保険の引き受けの判断は損害保険会社が行うため、事前に確認しておくことをおすすめします。
自己破産をしても在留資格やビザに影響が出ることはありません。
また短期・長期の在留資格、永住権についても、自己破産を理由に資格がなくなることもありません。
ただしこれから永住権を取得しようとする場合、永住許可に関するガイドラインのうち「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」という要件を満たさなくなる可能性があるため、注意が必要です。
自己破産をしても、パスポートの申請や取得はできます。しかし実際に海外旅行に行く際は、自己破産手続き前後であれば問題ありませんが、自己破産中は管財事件の場合、破産管財人の同意と裁判所の許可が必要です。
渡航の理由次第では、認められない場合もあるため、旅行の計画を立てる前に、必ず代理人弁護士に相談してみることをおすすめします。