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最終更新日:2023/6/6

遺言代用信託とは?メリット・デメリットや注意点をわかりやすく解説

本間 剛 (行政書士)
この記事の執筆者 行政書士 本間剛

ベンチャーサポート行政書士法人 代表行政書士。山形県出身。

はじめて相続を経験する方にとって、相続手続きはとても難しく煩雑です。多くの書類を作成し、色々な役所や金融機関などを回らなければなりません。専門家としてご家族皆様の負担と不安をなくし、幸せで安心した相続になるお手伝いを致します。

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この記事でわかること

  • 遺言代用信託とは何かがわかる
  • 遺言代用信託のメリットがわかる
  • 遺言代用信託の注意点がわかる

ここ数年、自分の財産を確実に特定の相続人に残すため、あるいは相続人どうしの争いを防ぐために遺言書を作成する人が増えています。

しかし、遺言書を作成しても、実際に効力が発生するのは亡くなってからであり、そのとおりに実行されることを見届けることはできません。

そこで注目されているのが遺言代用信託です。

ここでは遺言代用信託について解説するとともに、その事例を紹介いたします。

遺言代用信託とは

遺言代用信託とは

遺言代用信託とは、家族信託の一つで、信託銀行などに財産の管理を任せ、本人が亡くなった後は配偶者や子どもなど生前に指定しておいた受益者に財産を引き継ぐことができる仕組みです。

遺言代用信託の契約は、委託者となる財産所有者の生存中に行われます。

遺言代用信託の契約を結んでおけば、財産の管理は受託者に任せる一方で、受益権の承継先を障害者・持病のある人・認知症の人・判断能力の低下などで自ら財産管理を行うことが難しい人にすることも可能になります。

また、複雑な親族関係がある場合では、資産承継の道筋を決めておくことができます。

遺言代用信託と遺言信託との違い

遺言代用信託とよく似た名称で、遺言信託というものがあります。

遺言信託とは、信託法上の信託ではなく、信託銀行や信託会社が取り扱う遺言を含む商品のことをいいます。

内容としては、遺言書の作成やそのアドバイス、遺言書の保管や亡くなった際に遺言書に書かれた内容を執行するための一連のサービスを提供するものとなっています。

遺言書を有効に執行するためには、作成方法や記載内容・その保管や開封にいたるまで法律上の要件を満たす必要があるため、信託銀行や信託会社がそのサポートを行ってくれるのです。

しかし、遺言信託とはあくまで遺言を利用したサービスのことであり、それ以上の特別な制度ではありません。

遺言の執行を最終的に判断するのは相続人であり、遺言信託を利用したからといって遺言書に書かれた内容がそのまま実行されるという保証はないのです。

これに対して、遺言代用信託は委託者と受託者、そして将来の受益者との契約です。

遺言のように、誰かの意思によって一方的にその内容を変更することはできません。

そのため、受益者の権利は安定し、当初決定した信託の内容が確実に実行されることが担保されています。

遺留分の侵害はできない

遺言代用信託を活用すると、特定の人に信託財産を確実に渡せますが、遺留分の侵害はできないので注意してください。

遺留分は民法で保障された最低限の取得割合になっており、配偶者と子供は法定相続分の1/2、直系尊属だけが相続人になるときは1/3を確実に取得できます。

ただし、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありません

遺留分の侵害は相続人同士のトラブルになる可能性が高いので、特定の相続人だけに信託財産を集中させないように注意してください。

もっとも、遺留分を侵害する遺言代用信託であれば、信託銀行が契約を認めないでしょう。

遺言代用信託の活用事例

遺言代用信託の活用事例

遺言代用信託を利用して障害者や判断能力の低い子供の生活を保障すると同時に、財産を管理してもらうことができる状況を作れます。

父親であるAさんは、現在自宅で障害を持つBさんと一緒に生活をしています。

この先、Bさんを残して先立つことには非常に不安を感じていたため、Bさんが将来安心して生活を送れるような仕組みを考えることとしました。

ただ、Bさんが自宅や多くの預金を相続すると、誰かにだまし取られるのではないか、あるいはBさんが浪費してしまうのではないかという不安があるため、財産の管理はBさんの妹であるCさんに任せたいと考えました。

そこで、遺言代用信託を利用することとしました。

この場合、Aさんが委託者・受益者となり、Cさんが受託者になります。

Bさんは当初は契約の当事者ではありませんが、Aさんが亡くなった後には受益者となります。

受託者となったCさんは、自宅の所有権をAさんから譲り受け、自宅の管理・運用・処分を行う権限を有することとなります。

そして、父親であるAさんが亡くなった後には、Cさんから自宅に住むBさんに毎月一定額の生活費を渡すほか、自宅の管理も行っていきます。

自宅の所有権はBさんではなくCさんに移転します。

Cさんが自宅の所有権を持つのであれば、悪意のある人にだまされる心配もなく、財産を浪費してしまうこともありません。

一方で、Bさんは自宅に住み続けることができるため、Aさんが亡くなった後に住む場所がなくなってしまうと心配する必要もありません。

また仮に、Aさんの生存中にAさん自身にも判断能力の低下といった状況が発生する可能性があるため、Aさんの生存中であってもCさんがBさんの生活費の管理を行うことができるようにしておくと、より安心できる形となります。

遺言代用信託のメリット・デメリット

遺言代用信託を活用して財産を承継するときは、以下のメリットとデメリットを必ず比較検討してください。

遺言書では実現できない機能もありますが、信託できない財産や、コスト面も考慮しておかなければなりません。

遺言代用信託のメリット

遺言代用信託には以下のメリットがあるので、遺言書では指定できない財産承継が可能になります。

信託財産の受け取りも一括や分割を選べるため、年金の形で家族に財産を渡したい方にもおすすめです。

遺産の受取人を指定できる

遺言代用信託は遺産の受取人を指定できるので、確実に財産を渡したい親族がいるときに活用できます。

たとえば、父親が委託者兼受益者となって信託銀行に財産管理を委託し、第2受益者を配偶者にする運用が考えられます。

父親が亡くなったときは信託銀行から配偶者に財産が渡されますが、この場合の信託財産は遺産分割の対象外になるため、配偶者は確実に財産を受け取れます。

遺言書は法的な有効性を担保できないリスクがあるので、確実に財産を渡したい人がいるときは、遺言代用信託を活用するメリットが大きいでしょう。

遺産分割を待たずにお金が引き出せる

遺言代用信託を活用すると、遺産分割が完了していなくても信託銀行からお金を引き出せます

一般的な預金口座の相続手続きでは、名義人の死亡を伝えると金融機関が口座凍結するため、遺産分割が完了するまで預金の引き出しや解約ができません。

2019年7月以降は遺産分割前の一部払出しもできるようになりましたが、提出書類が多いため、現金化までに10日から2週間かかる場合があります。

一方、遺言代用信託の場合は手続きも簡単になっており、遺産分割協議の成立も要件ではないため、受益者はすぐにまとまった現金を引き出すことができます。

子から孫への相続内容も決められる

遺言代用信託では、孫やひ孫への財産承継を指定できます。

遺言書で子供に財産を渡す場合、その子供が孫へ遺言書を遺すかどうかはわからず、場合によっては一族以外の人に財産がわたってしまいます。

たとえば、一族承継したい土地がある場合、遺言書で子供を受遺者に指定すると、親から子への土地相続は確実になります。

しかし、子供の子(孫)がいなかった場合、血族ではない配偶者が相続人となり、将来的には別の家系へ土地が引き継がれていきます。

遺言書では次の代の遺産分割を指定できないので、孫やひ孫に引き継ぎたい財産があるときは、遺言代用信託を活用してみましょう。

遺言代用信託のデメリット

遺言代用信託は信託できる財産が限定されているので、所有財産によっては遺言書による遺贈、または家族信託を選択した方がよいケースもあります。

また、以下のようにコスト面のデメリットも考慮しておかなければなりません。

金銭しか信託できない

遺言代用信託は信託財産が金銭に限定されており、不動産や株式の信託はできないので注意してください。

信託可能な金額が金融資産の1/3、または100万~3,000万円程度の範囲に設定されており、信託期間も最短5年、最長30年以内などに制限されています。

金融機関によっては手数料を無料にしていますが、信託財産の運用コストが発生するケースや、元本保証されていない遺言代用信託もあるので注意してください。

主な資産が不動産や株式になっているときは、遺言書を使った財産承継や生前贈与、家族信託による運用などを考えた方がよいでしょう。

途中で解約できない

遺言代用信託は長期的な契約が前提になっており、最短でも5年程度の信託期間になりますが、原則的に途中で解約できません

信託期間が満了する前に解約すると解約手数料がかかり、「信託財産+運用益」の合計額から差し引かれます。

遺言信託を活用するときは、信託財産の額や信託期間をどう設定するか、受益者は一時金または年金形式のどちらで財産を受け取るとよいか、十分な検討が必要です。

不動産を子孫に承継したい方や、より柔軟な信託プランにしたい方は、信託銀行を介さない家族信託を検討してみるべきかもしれません。

遺言代用信託を利用する場合の注意点

遺言代用信託は受託者の権限が大きくなるため、権限濫用により受益者の権利が損なわれる可能性があります

受託者になれるのは親族のほか、信託銀行や信託会社に限られることから、親族が受託者になるケースが多いです。

受託者には帳簿の作成義務がありますが、素人では難しい面もあるため、専門家のサポートが得られる状況を作っておくことが望ましいでしょう。

受託者の権限を監督することも想定して、税理士などの専門家を信託監督人(受託者を監視、監督する立場の専門家)としておくと、円滑な信託契約の実現につながります。

また、遺言代行信託は金融機関やその商品によって、元本保証があるのかどうか、手数料がかかるかどうかなどが異なるため、契約内容をしっかりと確認する必要があります。

まとめ

遺言代用信託とは、信託銀行などに生前から自分の財産管理を任せ、本人が亡くなった後は事前に指定した受益者に財産を引き継ぐことができる契約です。

遺言代用信託には遺言書と同じような機能があり、特定の相続人に財産を残したい場合に有効な方法です。

遺産の受取人を指定できるため、相続人同士のトラブルを防ぐ効果も期待できます。

ただし、遺言代用信託にはメリットだけでなくデメリットもあるため、生前贈与や遺言といった方法とも比較しながら、より自分の状況に合った選択をしましょう

「自分に合った相続対策かわからない」という場合は、相続に詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。

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