相続税を申告するためには、相続財産額を決定しなければなりません。
主となる相続財産には預貯金や有価証券、不動産などがあります。
例えば株式など有価証券は、その種類により評価の仕方が変わります。
不動産においても評価の仕方がいくつかあります。
どのような評価方式があり、実際にどのように当てはめていくかを解説します。
土地の財産評価方式
土地の評価方式は3種類ありますが、実質的には2種類といってよいでしょう。
(1)路線価方式
評価単位の宅地に面している路線(道路)に付けられている1㎡単位の価格を元に土地の価格を評価する方法です。
路線価は国税庁のホームページで公開されている「路線価図」で誰でも調べることができます。
評価単位とはある路線価が示している区画のことです。
土地一筆ごとの単位ではありません。
路線価は土地公示価格の約80%となっています。
また、路線価に該当する土地の平米数を単純に掛け合わせたものが土地の評価額になるのではなく、土地の形状などによりあらかじめ決まっている調整率で補正してから評価することになります。
(2)倍率方式
路線価が示されていない農地、山林、雑種地などの場合、その土地の固定資産税評価額に、国税局長の定める倍率を掛け合わせて評価額を計算する方法です。
固定資産税評価額証明は市区町村役場で手に入れられます。
また、評価倍率表は国税局のホームページで確認できます。
固定資産税評価額は、土地公示価格の70%です。
(3)宅地批准方式
場合に応じて路線価方式、あるいは倍率方式のどちらかを選択するという方法です。
路線価方式は主に市街地の宅地において、倍率方式は農地、山林、また郊外の宅地などに用いられます。
宅地批准方式は、比較的市街地に近い場所にある農地や山林などを、その土地が宅地だったとして得られる評価額から、宅地に転用するための費用(宅地造成費なじ)を控除して評価額を決定するもので、実質路線価方式を用いているといえます。
もちろん評価倍率が定められている土地であれば、倍率方式を採ることも可能です。
宅地の評価
相続する土地が宅地の場合は、さらに細かく評価されます。
(1)評価単位の確定
地目や権利がどうなっているかで土地を分け、それぞれに評価していきます。
非常に複雑な工程を必要とします。
相続した土地がすべて自用宅地(自己の居住や事業、駐車場などに使用)していれば問題ありませんが、一部に借地権が設定されていたり、私道があったり、賃貸アパートが建っていたりした場合、それぞれを別々に評価することになります。
たとえば、借地権の設定されている土地はそうでない土地より評価が下がります。
(2)価額修正
路線価は、価格の基礎となる道路に面した土地が長方形(正方形)であると仮定して1㎡の額を表しています。
しかし、実際の土地の形状が長方形になっていない(不整形地といいます)ことも多く、その場合に評価額をある程度低く調整することができます。
いびつな形をしていたり、道路に面している部分(間口)が小さくなっていたりする土地は、実際に宅地として使用する際の不便さなどからどうしても評価が低くなります。
定められた調整率を用いて評価額を下げることで、相続財産額を減らし、節税をすることができます。
不整形地以外にも、がけ地や奥行での補正があります。
逆に角地や二方路線(表と裏に路線がある土地)には加算修正がされます。
以上のような評価をもとに、路線価方式か倍率方式で評価額を算出していきます。
路線価の公表時期
路線価は毎年7月に新たなものが公表されます。
不動産の公示価格は新年度その年の1月1日時点のものが3月に算出され、4月から不動産の固定資産税評価額に反映されますが、それに比べると、やや微妙な時期のような気もします。
これは、路線価が公示価格をもとに定められるからです。
路線価は単純計算で算出できるものではありません。
土地評価審議会の意見を聞いたうえで国税局長が定めます。
そのため、公示価格が発表されてからある程度の期間を必要とするのです。
相続税申告に利用する路線価の年度は?
相続は、被相続人の死亡と同時に開始します(民法第882条)。
また、相続税に関する財産については、相続、遺贈又は贈与による財産の取得時の時価で評価されます(相続税法第22条)。
一方で相続税の申告期限は相続があったことを知った日から10ヵ月以内とされています。
それでは土地の評価額を決めるための路線価はいつのものを使用すれば良いのでしょうか。
まず、路線価は7月という、1年の真ん中の時期に発表されますが、その年の1月1日から12月31日までの評価に使用されるというのがポイントです。
2019年7月に発表された路線価は2019年の1月1日~12月31日の期間有効ということですね。
相続開始日(相続開始を知った日)別に考えてみましょう。
①2018年10月1日に相続開始
上記民法と相続税法の規定に照らし、2018年の7月に発表された路線価を用いて計算します。
申告期限は2019年の8月1日までですが、もちろんもっと早く、2018年中に申告しても問題ありません。
②2019年1月1日に相続開始
この場合、相続開始時点の土地の評価は2019年7月に発表される路線価に基づいて計算されなければなりません。
相続税の申告期限は2019年11月1日ですから、7月の発表まで半年ほど待つことになります。
先ほど、路線価は公示価格をもとに審議されるため時間がかかると説明しましたが、7月に発表とされているのは、この例のように1月に相続を開始した方への配慮もあるといえます。
仮に審議にもっと時間がかかり、発表が10月になってしまったら、相続税申告期限まで1ヵ月しかなく、時間的にかなり大変です。
7月にすることで、1月相続開始でも申告期限まで3ヵ月以上確保することができるのです。
なお、もしどうしても7月まで待てず、一刻も早く相続税申告をしてしまいたいときには、3月に公開される公示価格をもとに、その80%を路線価と推定して評価額を求める方法を採ることができます。
ただし、実際の路線価と違っていた場合に生じるリスクは自分で負うことになります。
よほどやむを得ない事情がある場合でない限り、その年の路線価が出るまで申告を待つことをおすすめします。
利用する路線価の年度を間違えた場合
万一、年度を間違えた路線価を利用して相続税を申告してしまった場合、それにより納税した額が変わってきます。
①税金を多く払い過ぎた場合
申告により一旦確定した税額を後から減らすことはできません。
相続税の申告期限を相続開始を知った日から10ヵ月としているのは、相続財産に関する情報を集め、整理して処理するための準備期間が必要であるとされているからです。
逆に言えば10ヵ月あれば相続人は十分に熟慮し、正確な情報に基づく処理ができるであろうということです。
にもかかわらず、利用年度を間違えたという理由で減額修正を認めると、申告期限を設けた趣旨から外れることになりかねません。
もっとも、路線価の年度を間違えた責任が納税者(相続人)にない場合は、相続開始から5年10ヵ月以内であれば税額の更生請求をすることができます。
とはいえ、自分に帰責性がないことを証明することは非常に難しいでしょう。
②税金を過少申告した場合
納めた税金が少ない場合は税務署で修正申告をします。
申告期限はありませんが、申告した税額に対して税務調査が入り、更生を受けることになってからの申告はもちろんできません。
また、修正申告した場合、不足していた税額に対しては、納付期限の翌日から起算して延滞税が別途かけられます。
利率は年2.6%の割合で、追加納税までの日数に応じて課税されます。
修正申告後2ヵ月経っても納税がなければ年利はそこから8.9%に上がります。
税務調査事前通知を受けてからの修正申告には、さらに過少申告加算税もかけられます。
税率は調査前の修正申告だと追加納税額の5%~10%ですが、税務調査を受けてからの修正だと10%~15%になります。
故意でない過少申告はなかなか気づきにくいものですが、以上のような理由から申告後に今一度書類を見直し、路線価の利用年度以外にも間違いがないかどうかを必ずチェックするようにしましょう。
おわりに
相続する土地の評価につき、正しい年度の路線価を利用するのはもちろんのこと、単に路線価と土地の地積を掛け合わせて評価額を出すのではないということを覚えておきましょう。
実際の計算には、より評価額を下げられるいくつもの方法が存在しますが、駆使するには知識と経験が必要です。
分かりにくい場合には無理をせず、専門家に相談してみましょう。