親の財産などを相続する際の手続きの1つとして、相続放棄という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
しかし、実際に相続放棄とはどのようなものか、そしてその手続きはどのように行うのかといったことを知らない人も多いと思います。
また、どういった場合に相続放棄すべきか分からない人も多いでしょう。
そこで、相続放棄の概要と相続放棄すべき場合の判断基準について解説していきます。
目次
相続放棄とはどのような手続きか
相続放棄とは、法定相続人となった人が被相続人の遺産を一切相続しないための手続きのことです。
相続といえば、被相続人の残した預貯金や不動産などを引き継ぐことを想像すると思いますが、被相続人が借入金などの債務を有していた場合には、その債務も相続人が引き継がなければなりません。
なかには、財産より債務の方が多い場合もあり、相続したくないと考えることもあります。
そこで、相続人は一定の手続きを行えば、被相続人の債務を引き継がなくてよいこととされており、この手続きのことを相続放棄というのです。
ただ、相続放棄を行うと債務だけでなく預貯金や不動産などの財産もすべて相続することができなくなるため、相続放棄すべきかどうかの判断が重要になるのです。
相続放棄と相続分の放棄は異なる
被相続人の残した債務を相続したくない場合には、相続人同士で行う遺産分割協議の際に、自分の相続分を放棄すればいいのではないかと考えるかもしれません。
しかし、自分の相続分を放棄しても、債務を相続する可能性は残ります。
銀行に対する借入金を残したまま亡くなった人がいる場合、銀行はその借入金を相続した人に対して返済を請求します。
遺産相続をしなかった人は借入金の返済をしなくもいいはずですが、実際に相続した人からの返済が順調に進まない場合、銀行は他の相続人に対して、法定相続割合にもとづいた金額の返済を求めてくる可能性があるのです。
つまり、遺産分割協議書に借入金を引き継いだと書かれていない相続人でも、借入金を返済しなければならない場合があるのです。
被相続人の借入金などの債務を絶対に引き継ぎたくないと考える人は、相続放棄をするのが一番確実な方法です。
相続放棄をするための流れ
相続放棄は相続人だけでなく、被相続人に対してお金を貸していた銀行などの債権者にとっても非常に大きな意味のあるものです。
そのため、その手続きの方法や期限などが厳格に定められています。
相続放棄を行うための流れについて確認しておきましょう。
財産調査の方法
相続放棄をする際には、相続財産の内容を調査する必要があります。
預貯金であれば、通帳や金融機関からの手紙などがあるため、金融機関に問い合わせを行います。
不動産であれば、所在地の市町村役場で作成している固定資産税の課税台帳で確認することができます。
また、相続放棄するかどうかの判断をするためには、借入金などの債務について知ることが重要です。
銀行などの金融機関だけでなく、消費者金融やカード会社などからの借入れという場合もあるため、契約書や郵便物、銀行口座からの入出金などを確認しましょう。
相続放棄申述書の作成と提出
相続財産の内容を確認して相続放棄することを決めたら、家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。
相続放棄の申述書は家庭裁判所に定められた書式があります。
相続が開始したことを知った日や相続財産の概略、相続放棄の理由などの必要事項を記載し、家庭裁判所に申述書を提出します。
またこのとき、被相続人の戸籍の附票(または住民票の除票)、申述人の戸籍謄本、被相続人の死亡の事実を明らかにする戸籍謄本が必要になります。
相続放棄できる期限は、原則として相続人が相続開始を知った日から3か月以内です。
一般的には亡くなった日が相続開始を知った日と一致しますが、何らかの事情により後になってはじめて相続開始の事実を知ることもあります。
また、相続放棄するかどうかの熟慮期間が認められることもあるため、亡くなってから3か月以上経過した場合でも相続放棄できることがあります。
親など、将来相続が発生した場合に遺産を相続することとなる人が多額の債務を抱えていることを知っているため、早めに相続放棄をしておきたいと考える人がいるかもしれません。
しかし、生前に相続放棄をすることは認められていません。
亡くなってからでなければ家庭裁判所に対する申述書の提出はできないため、この点も注意が必要です。
相続放棄をするメリットとは
相続放棄の制度を利用することによる相続人のメリットには、いったいどのようなものがあるのでしょうか。
単に債務を相続しないというメリットだけではないため、相続放棄すべきかどうかの判断をする際の参考にしてください。
相続放棄のメリット⑴債務を引き継いで返済しなくてもよい
債務を引き継がないことは、相続放棄の一番のメリットであり、相続放棄をする一番の目的でもあります。
被相続人が金融機関や消費者金融、クレジットカード会社への借入金を有していた場合もあります。
また、被相続人が連帯保証人となって誰かの借入金を肩代わりして返済していることも考えられます。
このような債務は、相続が発生すると通常、相続人が引き継いで返済しなければなりませんが、相続放棄した相続人は債務を引き継がないこととされるのです。
そのため、債務の金額が大きいほど、相続放棄によるメリットが大きくなります。
相続放棄のメリット⑵遺産分割手続きに関わらないで済む
法定相続人となった人は、遺産分割の際にさまざまな手続きに関わらなければなりません。
仮に、遺産分割の際に何も遺産を引き継がないこととしても、金融機関の名義変更や不動産の相続登記に関わる必要があります。
また、遺産分割で相続人同士の争いに発展すると、家庭裁判所での調停や審判に発展することがあります。
このような争いに発展してしまうと、遺産分割が完了するまで何年もかかることがあり、金銭的・心理的な負担も非常に大きくなります。
相続放棄をすると、もともと相続人でなかったこととされるため、遺産分割に関わる必要はありません。
そのようなトラブルに関わりたくないために、相続放棄することもあるのです。
相続放棄のメリット⑶遺産を特定の相続人に集中させることができる
相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったこととされます。
そのため、相続放棄した人が本来有していた相続分を他の相続人が取得することとなり、結果的に他の相続人の相続分が増えることとなります。
また、相続人の中で1人だけが相続放棄せず、残りの相続人が全員相続放棄した場合には、1人の相続人がすべての遺産を相続することとなります。
被相続人の事業を長男が相続したり、被相続人の自宅を長男が相続したりしようとする場合には、他の相続人が相続放棄することも選択肢となります。
相続放棄をするデメリットとは
相続放棄をすることで得られるのはメリットばかりではありません。
相続放棄することで発生するデメリットもあるため、実際に相続放棄する前に確認しておく必要があります。
相続放棄のデメリット:損をする可能性がある
相続放棄は、借入金などの債務を放棄するだけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も同時に放棄しなければなりません。
例えば、被相続人の有する遺産が500万円の預貯金と1,000万円の土地、そして1,800万円の借入金だったとします。
この場合、単純に考えれば借入金の方がプラスの財産より多いため、相続放棄も選択肢の1つとなるのですが、もし土地を1,600万円程度で売却することができれば、土地を売却した時にかかる税金を負担しても損はしませんし、それ以上で売却できれば手元に残るお金の方が多くなります。
あるいは、土地を賃貸することで賃料収入が得られるかもしれません。
また、相続放棄をする際に見つからなかった財産が後から発見される可能性もありますが、そのような事情があったとしても、相続放棄を取り消すことはできません。
よく考えて相続放棄をしないと、相続放棄することで損をしてしまう可能性があるのです。
相続放棄のデメリット:思い入れのある財産を手放さなければならない
債務が多いから相続放棄をしたいと考える場合でも、先祖代々の不動産や、故人が大切にしていた骨董品や宝石類などの財産を手放すことには抵抗を感じることでしょう。
しかし、相続放棄をする以上、たとえ思い入れのある財産であっても、その価値があるものであろうとなかろうと、手元に残すことはできません。
どうしても手放したくない財産がある場合には、相続放棄をしないという選択をするしかないのです。
相続放棄すべき場合とその判断のポイント
相続放棄にはメリットもデメリットもあります。
また、一度相続放棄をすると、その後撤回することができないため、最初の判断がとても重要となります。
そのことを理解したうえで、実際に相続放棄すべきかどうかの判断をする際のポイントを考えてみましょう。
明らかに債務超過である場合
明らかに被相続人の遺産の中身がプラスの財産より債務の方が大きいと考えられる場合には、すぐに相続放棄をすべきと考えられます。
相続放棄の手続きは相続人ごとの判断で行うことができるため、すべての相続人が一致して相続放棄する必要はありません。
そのため、明らかに債務超過になると判断する場合には、他の相続人が相続放棄しなかったとしても単独で相続放棄をすべきなのです。
債務超過であるが手放したくない財産がある場合
遺産の中にどうしても手放したくない自宅などの財産がある場合には、多額の債務があっても、相続放棄しないで債務を返済する方法を考えなければなりません。
例えば、自宅を相続したいと考えるのであれば、自宅以外の遺産をできるだけ早く売却して、債務の返済資金に充てる必要があります。
自宅以外の財産がない場合や簡単に売却できない財産しかない場合には、相続財産から債務の返済を行うことができないため、自らが保有する財産から債務の返済を行う必要があります。
自宅を相続するために債務を引き継いで、自分の財産や収入から返済を行うのは大変なことです。
自宅を相続しても相続後の収入が増えるわけではないので、思っているように債務の支払ができるとは限りません。
債務の返済が大変だからやっぱり放棄しようと思っても、すでに相続してしまった場合にはそれも認められません。
債務の額が多額になる場合、自宅の相続を放棄して家賃の安い別の場所に引っ越す方が、債務の返済を続けるより資金繰りが楽になるケースが多いと思います。
生まれ育った自宅を手放したくないという思い入れだけで、相続放棄するかどうかの判断をしないようにしなければなりません。
遺産の額がはっきりしない場合
相続放棄すべきかどうかを判断する際、最も困るのが債務の額がはっきり分からない場合です。
金融機関や消費者金融、クレジットカード会社などからの借入金があることが分かっていれば、その会社からの書類で残高を確認することができます。
しかし、たくさんの会社からの借入金がある場合、すべての会社に対する借入金を把握するのには多くの時間を必要とするため、相続放棄の期限となる3か月以内にどれだけの借入金があるのか調査できないことも珍しくないのです。
また、交通事故を引き起こして亡くなったことで、被害者に対する損害賠償責任が発生する場合があります。
この場合、亡くなってから相当の時間を経過しないと相手方に対する損害賠償の金額が確定しません。
通常、亡くなってから3か月以内に確定しないことも多いのです。
そのため、損害賠償請求を受ける前に相続放棄するかどうかの決断をしなければならないのです。
さらに、債務の額だけなくプラスの財産の額がはっきり分からない場合もあります。
預金通帳や手紙だけでなく、ネットバンク、ネット証券や仮想通貨など、目に見えない形で財産を保有していることも十分に考えられるため、財産調査には時間がかかるのです。
限定承認を選択すべき場合もある
債務の額が多いのかプラスの財産の額が多いのか分からず、それによって相続放棄するかどうかの判断が変わるのであれば、限定承認も選択肢に入れておく必要があります。
限定承認は、被相続人が保有していた財産から債務の支払を行い、それでも残った財産がある場合にはその財産を相続人で相続する一方、債務の方が多いと判明した場合には財産と債務の双方を引き継がなくてよいという制度です。
多額の債務があるかもしれないが、一方で相続放棄をすると損をするかもしれないと考える場合には、限定承認を行うことで多額の債務を相続するという最悪の事態を避けると同時に、債務が思ったほどなかった場合にも損をしないで済むのです。
ただ、限定承認は相続が発生してから3か月以内に、相続人全員で家庭裁判所に申述を行う必要があります。
もし、相続人の中に1人でも限定承認をしないという人がいる場合には、限定承認を行うことはできません。
期限も短いことから、すべての相続人が足並みをそろえて限定承認を行うのは難しいケースもあるでしょう。
特定の相続人に遺産を集中させたい場合
相続人の中に相続放棄をする人がいると、その人は遺産を一切相続しないこととなり、その分、他の相続人の相続分が増えることとなります。
また、1人の相続人を除いて全員が相続放棄を行えば、すべての遺産を自動的に1人で相続することとなります。
ただ、遺産を特定の相続人に集中させるという目的がある場合には、相続放棄を行うより相続分の譲渡を行う方が効果的です。
例えば、法定相続人である子供が4人いて、そのうち1人だけ相続放棄した場合、他の3人の法定相続割合は1/4から1/3となるだけであり、特定の人の相続分が増えるわけではありません。
これに対して、例えば長兄に対して相続分の譲渡を行うと、長兄の相続分は1/4+1/4=1/2、他の相続人は1/4のままとなり、特定の相続人の相続分を増加させることができるのです。
この場合に注意しなければいけないのは、もし遺産の中に借入金がある場合、長兄に対して遺産を譲渡したとしても、債権者である金融機関などの借入先からの請求がくる場合があることです。
相続分の譲渡を受けた長兄が金融機関に対する借入金の返済も滞りなく行っていればいいのですが、返済が滞ってしまうと、元の相続人に対して請求が行われることとなるのです。
遺産の中に債務が含まれている場合には、相続分の譲渡を行うのは譲渡する人にとってリスクがあります。
そのリスクを避けるためには、迷わず相続放棄を選択しなければなりません。
相続に関するトラブルに巻き込まれたくない場合
相続にはトラブルがつきものです。
それまで仲の良かった兄弟同士であっても、相続人となって利害が対立する関係となったら途端に仲が悪くなるケースはいくらでもあります。
ましてや、相続人に異母兄弟や隠し子のような人が含まれている場合、遺産分割協議の話し合いも十分にできないまま、その争いが家庭裁判所に持ち込まれることもあります。
多くの財産を相続できる見込みがなければ、そのようなトラブルに巻き込まれるような面倒なことに関わりたくないと考える人もいます。
そのような場合、相続放棄をすればはじめから相続人でなかったものとされ、遺産分割協議に参加し、あるいは家庭裁判所での調停や審判に関わる必要がなくなります。
このような面倒な手続きから解放されるためには、遺産相続をしないだけでは不十分であり、相続放棄をするしかないのです。
相続したくない土地や建物がある場合
財産より債務の方が少ない、あるいは債務が一切ない場合でも、相続放棄した方がよい場合があります。
それは、相続しても利用価値のない不動産が財産の大半を占めている場合です。
利用価値のない不動産を相続しても、固定資産税は払い続けなければなりません。
また、老朽化した建物を取り壊さなければならない場合もありますし、維持管理するために多額の費用が必要となることもあります。
相続しても利用しない、売却の見込もない不動産が遺産の大半を占める場合には、思い切って相続放棄することも選択肢に入れるべきです。
相続放棄すると代襲相続は発生するのか
代襲相続とは、相続人となる人が被相続人より先に亡くなっている場合に、その子供や孫などの直系卑属が相続することです。
被相続人からみた孫が代襲相続人として相続人となるケースは、決して珍しいことではありません。
ところで、この代襲相続の制度を知ると1つの疑問が浮かびます。
それは、相続人が相続放棄をすると、本来の相続人の代わりにその子供(被相続人からみた孫)が代襲相続するのではないか、ということです。
しかし、相続放棄によって代襲相続が発生することはありません。
相続放棄すると、その相続人は最初から相続人でなかったこととされるため、その地位を孫が引き継いで相続人になるという考え方が成立しないからです。
したがって、相続人となる子供が相続放棄をした場合に、孫まで相続放棄する必要はないのです。
代襲相続人となる場合は相続放棄が必要
一方、代襲相続人となる人は、他の相続人と同じく相続放棄するかどうかの判断をしなければなりません。
例えば、被相続人が亡くなった際にその子供がすでに亡くなっていた場合は、被相続人からみた孫が代襲相続人として相続放棄の判断をすることとなります。
孫が何人かいる場合は、それぞれが判断をする必要があるため、遺産を誰も引き継ぎたくないと考えるのであれば、全員が相続放棄の手続きを行わなければなりません。
相続放棄により思わぬ形で相続人となる場合がある
第一順位の相続人である子供が全員相続放棄を行い、第二順位の相続人である直系尊属がすでに全員亡くなっている場合、相続権は第三順位の兄弟姉妹に移ります。
子供が全員相続放棄したことを知っていれば、兄弟姉妹もあわせて相続放棄することができますが、その事実を知らないまま、ある日突然相続人となって債権者からの請求を受けることがあるのです。
また、兄弟姉妹の中で先に亡くなっている人がいる場合、被相続人の甥や姪が代襲相続人となります。
叔父や叔母の債務を甥や姪が返済するということにならないよう、他の相続人が相続放棄したという事実を確認しておく必要があります。
相続放棄をした場合の注意点
相続放棄した場合、最初から相続人でなかったものとされるため、遺産相続に関するすべての手続きに関わることがなくなります。
しかし、人が亡くなった場合に必要な手続きは、相続に直接関係するものだけではありません。
ここでは、相続放棄した人に関する注意点を確認していきます。
相続放棄した人が生命保険金を受け取れるのか
相続放棄すべきかどうかを検討する際に、生命保険金の受取人になっているから相続放棄できないと考える人がいるのではないでしょうか。
実は、相続放棄した場合であっても生命保険金の受取人となることはできるため、相続放棄するかどうかの判断には影響しません。
生命保険金は、被相続人の死亡により、あらかじめその契約によって定められた受取人が受け取ることのできる固有の権利です。
他の遺産は、被相続人が亡くなった際には相続人全員の共有の状態となりますが、生命保険金は他の相続人が受け取ることはありませんし、相続放棄があっても当初定められた受取人は変わりません。
また、逆に生命保険金を受け取ったから相続放棄できないということもありません。
生命保険金を被相続人が受け取った場合は注意
ただ、生命保険金を受け取る場合で注意が必要なケースもあります。
それは、生命保険金を被相続人が受け取ることとしている場合です。
この場合、被相続人が亡くなったことにより死亡保険金が被相続人に支払われますが、亡くなっている人に支払われた保険金は預貯金など他の財産と同じく遺産分割の対象となります。
そのため、相続放棄した人は受け取ることができなくなるのです。
また、このような生命保険金を受け取った人は、その後相続放棄できなくなる場合もあります。
生命保険金でも、その受取人の違いによって取り扱いが異なるため、どのような契約内容になっているのかあらかじめ確認しておく必要があります。
生命保険金以外の保険金にも要注意
被相続人が医療保険に加入していたため、亡くなった際に入院費や医療費に対する保険金を受け取る場合があります。
これらの保険金は、通常は医療費を支払った本人が受け取るものですが、亡くなった後は相続人が代わりに受け取ることとなります。
ところが、生命保険金以外の保険金を受け取ると、その後に相続放棄することができなくなってしまいます。
相続放棄をする可能性がある場合には、誰が保険金の請求を保険会社に行うのか、あるいは保険金の請求自体を行うのか、慎重に判断しなければなりません。
財産の管理義務は残る
相続放棄をすれば、すべての遺産を引き継ぐことはありません。
しかし、相続放棄してもしなければならないことがあります。
それは、相続財産を適切に管理することです。
例えば、相続放棄したとしても、被相続人が住んでいた家屋については自分の家屋と同等に管理しなければなりません。
仮に放置して荒廃した家屋が原因となって他人に損害を与えた場合、その家屋を管理する人として損害賠償責任が問われるのです。
この管理義務は、財産を他人に手渡すまでずっと発生します。
相続放棄したとしても、遠方にある不動産などの管理は、特に注意しなければなりません。
相続放棄できなくなる場合がある
亡くなった人がいる場合、相続人は相続放棄するか、限定承認するか、単純承認するかの3つの中から1つを選択して遺産の処理を行います。
このうち単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産も、被相続人のすべての遺産を無条件で引き継ぐことです。
相続放棄や限定承認をするためには家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認にはそのような手続きはありません。
しかし、知らず知らずのうちに単純承認していることとされてしまう場合があります。
単純承認したとみなされる場合
ある行為をすることによって、単純承認したとみなされる場合があります。
そのことを法定単純承認といいます。
法定単純承認が成立すると、その後に相続放棄や限定承認できなくなってしまうため、注意が必要です。
法定単純承認が成立する場合⑴相続財産を処分した場合
被相続人の名義となっていた預貯金を引き出して使ってしまった場合や、被相続人名義の不動産を売却した場合は、その処分の時点で財産を相続したものとされます。
また、財産を勝手に捨てたり壊したりした場合にも、法定単純承認が成立します。
法定単純承認が成立する場合⑵相続財産を隠すなどした場合
遺産の中から一部の財産を隠して相続放棄した場合や、限定承認の申述書に相続財産の一部を故意に記載しなかった場合などは、相続放棄や限定承認ができず、法定単純承認が成立します。
相続放棄すると、すべての財産を手放さなければいけませんが、それを免れて一部を手元に残すために虚偽の記載をしようとする場合があります。
しかし、このような人については、相続放棄や限定承認を認めて保護する必要はないとしているのです。
なお、相続放棄や限定承認の申述書を提出して不受理となると、再度その申し立てを行うことはできません。
そのような面からも、相続放棄や限定承認の申述書の記載は慎重に行う必要があります。
法定単純承認が成立しない場合
法定単純承認が成立する場合と一見似ていても、単純承認が成立しない場合もあります。
被相続人の形見分けを行い、例えば、普段身につけていたものや日用品など、他の人から見ればほとんど価値のないものを受け取った場合は、それを受け取ったからといって単純承認が成立するわけではありません。
ただ、貴金属や宝石などを受け取った場合は、他の人から見ても価値のあるものを受け取っているため、法定単純承認が成立します。
また、墓石や仏具などの祭祀財産は相続放棄した人も引き継ぐことができます。
というのも、祭祀財産はもともと相続財産には含まれないこととされているためです。
これらを引き続き管理しているからといって相続放棄できないこととはされません。
まとめ
相続放棄するかどうかの判断は、相続人にとっては非常に大きな決断です。
しかし、相続があったことを知ってから3か月以内に決めなければならないため、冷静な判断が難しいケースも多くあります。
借入金などマイナスの財産が多くある場合はもちろんですが、プラスとなる財産でも利用価値のない土地がある場合などは、相続放棄した方がいいと判断されることがあります。
財産の調査をじっくり行い、その土地の利用状況や周辺の環境、資産価値などから総合的に判断するようにしましょう。