相続税の基礎控除額が平成27年1月に改正されました。
新たな相続財産にかかる基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」となっています。
改正以前は「5000万円+法定相続人の数×1000万円」だったので大幅に基礎控除額が減ったといえます。
一方で配偶者控除額については平成6年以来改正されていません。
国としてはなるべく相続税を多く納める方向性にシフトしていますが、配偶者控除についてはさまざまな理由から額を据え置いています。
その制度内容につき説明していきます。
基礎控除額改正の流れ
相続税を納める際にまず出てくるのは上記の基礎控除額の計算式です。
相続財産の総額が基礎控除額を超えなければ、相続税を申告する必要はありません。
改正により減額されたとはいえ、基礎控除により、2017年度は全相続人の9割以上が非課税となっています。
元々基礎控除額は昭和62年からの数度の改正ごとに増額される傾向にありました。
特に昭和63年から平成6年にかけて行われた3度の改正で、控除額は最初の改正以前の2.5倍にまで増えたのです。
これには様々な要因が関係していますが、大きな理由としてバブル経済による土地の価格の急上昇が上げられます。
土地の評価額が上がれば相続財産額も多大となるため、基礎控除額を引き上げることで国民の負担軽減に努めたのです。
しかしバブルがはじけ、土地価格が急落すると従来の控除額のままでは十分な税収が見込めなくなりました。
社会保障の充実などに必要な税収を得るための増税策の一つとして、今回の改正で初めて基礎控除額が減額となったのです。
配偶者控除額制度について
配偶者控除制度は、正しくは「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます。
亡くなった人(被相続人)の配偶者の相続財産額が、
- ①法定相続分(子がいれば2分の1)以下の割合
- ②法定相続分を超えても全部で1億6000万円以内
のいずれかであれば相続税がかかりません。
例えば1億6000万円の被相続人の財産を配偶者と子供1人で相続する際、配偶者が法定相続分8000万円で相続すれば、その8000万円に相続税はかかりません(子供が相続する8000万円にはかかります)。
更に、相続財産全額を配偶者が相続すれば、子供も含め相続税はゼロとなります。
このように配偶者に対する手厚い控除がされるのには、主に以下のような理由があります。
- ①配偶者は被相続人と共に生活することで、被相続人の財産形成に寄与してきたといえる
- ②残された配偶者の生活の安定を保障する必要がある
- ③夫婦の年齢差が近い場合、短期間に再び相続が起きる可能性があるため、納税の負担を減らす
配偶者控除額の改正は、基礎控除額と同様に、昭和63年から平成6年にかけて増額の形でされています。
しかし、平成6年の改正後は現在まで据え置かれ、昭和62年以前の4000万円から4倍に増額されたままの水準を保っています(法定相続分内であれば無税という形は変わっていません)。
据え置きの理由はやはり、配偶者を保護するため、が大きなものといえるでしょう。
配偶者控除が適用される要件
このように配偶者は相続税について優遇されていますが、もちろん何もせずに控除が適用されるわけではありません。
いくつかの要件を充たす必要があります。
①法律上(戸籍上)夫婦であること
いくら長く共に住み、被相続人の財産形成に関わってきた事実があっても内縁関係のままでは適用がありません。
逆に戸籍上の夫婦であれば別居していても、婚姻期間が短くても適用されます。
②相続税の申告をすること
配偶者控除制度を利用するためには税務署に相続税の申告を行い、控除の利用を税務署に把握してもらう必要があります。
たとえ控除の結果、相続税額がゼロになったとしても申告はしなければなりません。
相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに遺産分割を済ませておくこと
配偶者の相続財産額を特定させるために遺産分割を申告時までに済ませておきます。
ただし、事情により分割ができていなくても申告後3年以内に遺産分割が行われれば配偶者控除は適用されることになっています。
配偶者控除利用の注意点
相続税額を減らすことのできる配偶者控除制度ですが、配偶者保護のためのものということを忘れないで下さい。
その後、配偶者が亡くなった際に発生する相続(二次相続)では基礎控除のみの適用が原則となります。
最初の相続で相続税をゼロにするためにすべての財産を配偶者に相続させるようにすると、二次相続の負担が大きくなる場合があります。
相続税額の計算は複雑であり、一言では言えませんが、法定相続分の割合と配偶者控除額のバランスを考えて制度を利用すれば、最初の相続と二次相続の双方で負担を軽くすることが可能です。
おわりに
相続税の控除制度は今後も改正の可能性があるので、先々まで見越して対応を取るのが難しいところでもあります。
しかし、少なくとも二次相続における税額をシミュレーションした上で、配偶者控除制度をどのように利用するかを考えることが必要です。
特に相続財産が多い場合には、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。