この記事でわかること
- 名義預金に相続税がかかる理屈がわかる
- 名義預金と判断されないための対策5つがわかる
- 税務署に名義預金を指摘されたときの対処法がわかる
- 名義預金以外でできる相続税対策がわかる
子どもや孫の名義で預金口座を開設し、いずれ本人に渡そうと考えている方は相続時に「名義預金」となる可能性に注意してください。
名義は子どもや孫でも、実質的な預金者は親または祖父母になるので、当人(親など)が亡くなったときまで名義人となっている子どもや孫に渡していない場合は、相続財産として考えなければなりません。
もちろん相続税の課税対象にもなりますが、表面的には別人の財産なので、相続税申告から漏れやすくなっています。
名義預金の申告漏れが発覚すると、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが科されるので、結果的に割高な税金を納める事態になるでしょう。
今回は名義預金と判断されないための対策や、税務署に指摘されたときの対処法も解説しますので、子どもや孫などの名義で預金している方はぜひ参考にしてください。
名義預金は相続税の課税対象になる
名義預金は実質的な預金者の財産ですから、当人が亡くなれば相続税の課税対象になります。
具体的には、親や祖父母が子どもや孫名義で預金しているケースや、夫から受け取った生活費を専業主婦が自分名義の口座に預金しているケースがあるでしょう。
専業主婦の場合、税務署は「専業主婦には収入がないので本人のお金ではない」と判断します。
しかし次のように対策しておけば、税務署から名義預金とは判断されなくなります。
名義預金と判断されないための対策5つ
名義預金をしている方の多くは「本人(名義人)にあげたもの」という認識です。
つまり家族への生前贈与といえるため、贈与した証拠を残しておけば名義預金にみなされることはありません。
自分の財産と区別しておくことも重要なので、名義預金と判断されないためには、次のように対策しておきましょう。
名義人が口座を管理する
名義預金と判断されないためには、名義人が自分で口座管理できるようにすることが必要です。
実質的な預金者ではなく、名義人が通帳や印鑑、キャッシュカードを管理して、自由にお金を使える状態にしておけば、税務署も名義人本人の財産と判断します。
贈与契約書を作成する
名義預金となる口座に入金するときは、生前贈与だとわかるように贈与契約書を作成しておきましょう。
贈与が成立すれば本人(名義人)の財産になるので、名義預金にみなされることはありません。
なお、贈与契約書に決まった様式はありませんが、以下の項目は必ず記載するようにしてください。
贈与契約書の記載事項
- 表題(贈与契約書)
- 贈与者と受贈者
- 贈与額
- 贈与日
- 贈与方法(銀行振込など)
- 贈与契約の締結日
- 贈与者と受贈者の署名捺印(本人自筆と実印)
贈与者・受贈者それぞれの意思に基づいた契約書だと証明できるよう、捺印には実印を使用し、印鑑証明書も添付してください。
贈与には振込みを利用する
名義預金の口座に現金で入金すると、お金の出どころがわかりづらくなるため、贈与の際には銀行振込を使うようにしましょう。
銀行振込の場合は、贈与者・受贈者それぞれの通帳に記録が残り、贈与契約書の内容とも合致するので、生前贈与であったことが明確になります。
なお、お金の出し入れにキャッシュカードを使った場合、未記帳データが一定量を超えると合算されるため、振込状況が分からなくなります。
金融機関に請求すれば過去の入出金記録を発行してもらえますが、日数と手数料がかかるため、できるだけ通帳を使うか、こまめに記帳するようにしましょう。
贈与税を申告する
年間110万円までの贈与は非課税になりますが、110万円を超える金額を名義預金の口座に振り込んだときは、必ず贈与税の申告・納付を済ませておきましょう。
申告さえしておけば税務署が贈与だったと証明してくれるので、名義預金と疑われる心配はありません。
なお、贈与税の申告時期は、贈与があった年の翌年2月1日~3月15日になります。
自分の預金だとわかる書類を保管する
名義預金となっている口座には、名義人本人のお金と、実質的な預金者のお金が混在するケースもあります。
名義人本人のお金が相続財産にカウントされないよう、給与明細や源泉徴収票は保管しておき、通帳もこまめに記帳するようにしましょう。
税務署に名義預金を指摘されたときの対処法
名義預金は相続税申告から漏れる可能性が高いため、税務署も厳しくチェックしています。
もし税務署から申告漏れの名義預金を指摘されたときは、次のように対処してください。
修正申告を行う
相続税申告から名義預金が漏れていた場合、不足分の税額について修正申告が必要になります。
したがって、財産の明細となる相続税申告書第11表に名義預金を記載し、修正申告用の第1表や第2表、第15表を作成しなければなりません。
かなり手間がかかる作業になり、再計算が必要になる個所も多いため、忙しい方や計算に自信のない方は税理士への作成依頼をおすすめします。
なお、相続税の申告期限内(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)であれば、修正申告は何度でもできますが、期限後の場合は次のペナルティが科されます。
延滞税の納付
相続税を修正申告するときは、すでに申告期限を過ぎているケースが多く、期限日の翌日から延滞税が発生します。
延滞税の割合(税率)は年ごとに見直されますが、令和4年分(1月1日~12月31日まで)は以下のようになっています。
納期限から2ヶ月以内 | 年2.4% |
---|---|
納期限から2ヶ月超 | 年8.7% |
なお、相続税の申告・納付期限を「法定納期限」といいますが、延滞税の納期限は以下のように設定されています。
延滞税の納期限
- 期限内に申告しているが未納付の場合:法定納期限と同日
- 修正申告や期限後に申告した場合:修正申告書や期限後申告書の提出日
- 税務署から指摘された場合:更正通知書の発送日から1ヶ月後の日
過少申告加算税
意図的な名義預金の申告漏れではない場合、以下の割合で過少申告加算税も課税されます。
追加納付額が「期限内の申告額」 または「50万円」の多い方以下の部分 |
10% |
---|---|
追加納付額が「期限内の申告額」 または「50万円」の多い方を超える部分 |
15% |
ただし、税務調査の通知前に自主的な修正申告をすれば、過少申告加算税は発生しません。
無申告加算税
正当理由がなく期限内に申告・納付しなかったときは、以下の割合で無申告加算税が課税されます。
追加納付する税額のうち50万円以下の部分 | 15% |
---|---|
追加納付する税額のうち50万円超の部分 | 20% |
過去5年以内に無申告加算税が課税されていた場合は、さらに10%上乗せされるため、50万円以下の部分は25%、50万円超の部分は30%になります。
重加算税
税逃れのために名義預金を使うなど、意図的かつ悪質な場合は重加算税も課税されます。
過少申告の場合 | 追加納付する税額の35% |
---|---|
無申告の場合 | 追加納付する税額の40% |
重加算税についても、過去5年以内に課税されていたときは、上記の割合に10%の上乗せがあります。
名義預金以外でできる相続税対策
名義預金が発覚しなければ相続税対策になると考える人もいますが、税務署は預金口座の動きをチェックできるため、隠し通すことはまず不可能です。
相続税対策は名義預金以外の方法を選択して、合法的に節税しましょう。
暦年贈与
年間110万円までの非課税枠を活用した贈与が「暦年贈与」です。
1年間(1月1日~12月31日)の贈与が110万円以下であれば贈与税がかからないため、10年かければ1,100万円の非課税贈与も可能です。
ただし、名義預金と判断されないよう、贈与契約書は毎回作成しておきましょう。
また、毎年同じ日に同じ金額を贈与すると、税務署が「定期贈与」と判断する可能性があります。
「最初からまとまった資金を渡すつもりだった」とみなされ、贈与財産の全額に課税される恐れがあるので、日付けや金額を変えながら贈与してください。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度では2,500万円まで非課税贈与できるので、まとまった資金を贈与したいときに検討してください。
また、2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税率なので、一般贈与や特例贈与の税率と比べてもかなり低くなっています。
なお、相続時精算課税制度を使った贈与の場合、贈与財産は相続財産に含めるので、将来的には相続税の課税対象になります。
したがって「高額な資金を贈与したいが、贈与税はできるだけ低く抑えたい」という方に向いている制度といえるでしょう。
まとめ
かつての税務調査には、資産家の大地主や、事業で成功している実業家が対象といったイメージがありました。
しかし2015年の法改正以降、相続税がかかる人は改正前の2倍近くになっており、税務調査の対象となる人も拡大しています。
特に名義預金は税務調査のターゲットになりやすいので、口座名義と実質的な預金者が違っていないか、十分にチェックしておく必要があるでしょう。
名義預金の判断はかなり複雑なので、「これは名義預金になるの?」と迷ってしまうときは、早めに相続専門の税理士に相談しましょう。