この記事でわかること
- 相続税の手続きの流れを理解できる
- 相続税をいつまでに誰が支払うかがわかる
- 他の相続人の相続税を支払う場合の注意点がわかる
平成27年の税制改正によって、相続税の基礎控除が大幅に引き下がりました。
その結果として、相続税の申告をしなければならない方が大幅に増えました。
国税庁のホームページによると、相続税の申告書に係る被相続人の数は税制改正前の平成26年では5万6,239人でした。
しかし、税制改正後の平成27年では10万3,043人と、大幅に増加しています。
もう、相続税は一部の富裕層だけに限られた話ではない時代になっていると言えます。
この記事では、身内の人が亡くなったときに「誰が相続税の申告をしなければならないのか?」
そして、「誰が相続税を支払わなければならないのか?」
また、「いつまでに支払わなければならないのか?」について解説いたします。
相続税の申告が必要な人と課税対象財産とは
まずは、相続税について概略を説明します。
相続税は、相続により遺産を受け取った人が、受け取った遺産に対して課される税金です。
しかし、すべての人が相続税の課税の対象になるかというとそうではありません。
相続税には控除額があり、被相続人の遺産が控除額を上回った場合に相続税の課税対象となります。
相続税の基礎控除の計算方法
基礎控除は次のように計算します。
基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
つまり、法定相続人が4名の場合は3,000万円+600万円×4=5,400万円となり、被相続人の遺産が5,400万円までであれば相続税が課税されません。
結果、相続税の申告も不要となります。
この法定相続人の数には、家庭裁判所に相続放棄をした法定相続人の数も含みます。
また、養子縁組した養子も法定相続人の数に含めることができます。
しかし、無制限に含めてしまいますと相続税を逃れるために養子を増やすということになりかねないので、実の子がいる場合は1人まで、実の子がいない場合には2人までと決められています。
なお、遺産が基礎控除の額を上回った場合は必ず相続税の申告が必要となります。
相続税がかかる財産とは?
次に相続財産について具体的にみていきましょう。
相続税がかかる財産とは以下の3つです。
- ①相続や贈与によって取得した財産
- ②相続開始から3年以内に受け取った、暦年課税による贈与として取得した財産
- ③相続時精算課税によって取得した財産
そして、相続税がかかる財産とは金銭価値として換価できるすべての財産があてはまります。
相続財産は大きく分けてプラスの遺産とマイナスの遺産に分類されます。
プラスの遺産は加算し、マイナスの遺産を減額し遺産の総額を計算していきます。
プラスの遺産
不動産・預貯金・現金・有価証券・外貨・貴金属・美術品・骨とう品・自動車・将来の債権(売掛金、貸付金、約束手形など)・知的財産権(特許権、商標権、著作権など)・地位(損害賠償請求権など)
マイナスの遺産
買掛金・立替金・預り金・借入金・住宅ローンなどの債務
相続財産の対象とならない遺産
お墓や仏壇などの祭祀財産・換金性の低い衣服やアクセサリー、時計など
相続税の申告は誰がする?
では、相続税が発生する場合、誰がその相続税を申告するべきなのでしょうか。
相続人が複数いる場合、相続人全員が申告する必要があるのか、また、相続人全員で均等に支払わなければならないのか、よくある疑問に答えていきましょう。
相続税の額は相続人全員で均等?
相続人が複数いる場合、相続税は全員が均等に支払うことになるのでしょうか?
答えは“NO”です。
相続税はもらった遺産に応じて支払う金額が決まります。
多くの遺産をもらった相続人は相続税をその分多く支払いますが、あまりもらえなかった相続人は相続税を支払う金額が少なくなります。
相続税の具体的計算方法
相続税は具体的には以下の通りに計算していきます。
- ①課税対象の遺産総額から基礎控除の額を控除し、課税遺産総額を算出します。
- ②課税遺産総額を法定相続分に則(のっと)り分配します。
- ③法定相続分での受け取る遺産総額について、税率表に則って各個人の仮の相続税額を算出します。
- ④各個人の仮の相続税額を合算し、支払うべき相続税額総額を算出します。
- ⑤相続税の総額を実際の遺産の分配率に則って各相続人に按分し、各個人の相続税額を算出します。
相続税は誰が支払うのか?
上記のように相続税額か決定したら、誰が申告、納税をするのでしょうか?
相続税の納税、申告は遺産を受け取った各相続人が行うことか原則です。
原則ということですので、相続人全員で共同して申告、納税することも可能です。
各相続人の納税を各々に行うのではなく相続人の代表者が納税した場合には、他の相続人への贈与とみなされますので、ご注意が必要です。
相続税を支払うのは法定相続人だけ?
相続税というからには相続税を支払うのは法定相続人だけでいいのでしょうか?
答えは”NO”です。
相続税は相続により発生した遺産を受け取った人に対して課される税金です。
ですので、法定相続人でなくとも、遺産を受け取った人は相続税を納税する義務があります。
法定相続人以外の人が遺産を受け取ると…
法定相続人以外の人が相続税を受け取る場合について説明します。
例えば、法定相続人ではないお孫さんが遺産を受け取るように遺言などをのこし、実際にそのお孫さんが遺産を受け取った(遺贈といいます)としましょう。
この場合、法定相続人ではないそのお孫さんについては、相続税が2割加算となってしまいます。
遺言を作成しお孫さんにも遺産を分け与える際には注意が必要です。
相続税の申告方法と流れ
相続税の申告方法について説明します。
相続税の申告方法の必要書類
相続税の申告に必要な申告書類はおおまかに以下の書類です。
- ・相続税の申告書
- ・相続税の申告書(続)
- ・相続税の申告書控用
- ・相続税の申告書(続)控用
- ・相続税の総額の計算書
- ・相続税額の加算金額の計算書付
これらは代表的な申告書類ですので、各々の相続状況により必要な書類等は加算されます。
税務署、あるいは専門家にご相談したほうが安心です。
相続税の申告先
相続税はどこの税務署に申告したらよいのでしょうか?
どこの税務署でもいいのかというとそうではなく、亡くなった方の居住地を管轄する税務署に申告しなければなりません。
ご自身の住居地の税務署ではありませんので、ご注意が必要です。
相続税の期限
相続税はいつまでに申告、納税しなければならないのでしょうか?
これも法律で決まっています。
相続税の申告、納税期限は被相続人が亡くなってから10カ月以内です。
この期限を守らなければ、あらゆる減税措置などがうけることができなくなりますので、必ず申告期限を守るようにしてください。
また、亡くなった人も亡くなった年の1月1日以降、お亡くなりになられる間に収入があった場合には確定申告をする必要があります。
この、亡くなった人の確定申告のことを準確定申告と言います。
この準確定申告の申請期間については通常の確定申告と異なり、翌年2月15日から3月15日というわけではありません。
期限は被相続人がお亡くなりになってから4カ月以内に行わなければなりません。
相続税の申告とは異なるうえ期限が短いので、注意が必要です。
他の相続人の相続税を代わりに支払う場合
相続税は先ほど述べたように、相続人の各々が申告納付をする必要があります。
では、相続人の一人が相続税を納付しない場合はどうなるのでしょうか?
申告納付を行った他の相続人は「自分は支払ったのだから知らない」ということができるのでしょうか?
答えは”NO”です。
相続税の連帯納付義務
相続税について、連帯納付義務というものがあります。
これはある相続人が相続税を納付しない場合に、ほかの相続人は相続で受け取った遺産の範囲で連帯して相続税を納付しなければならないという制度です。
上述した通り、相続税は亡くなった方の遺産に対して課税される税金です。
ですので、国としては相続人全員で遺産を受け取った以上、相続人全員で連帯して税金を支払う責任を負いなさいということです。
連帯納付義務を防ぐために
相続人の誰か一人が相続税の支払いを怠ってからでは有効な対策をすることはできません。
ですので、相続人全員で協力し、足並みをそろえて相続税の申告、納税を行うことが最も有効な方法と言えます。
また、相続税は基本的に相続人各個人が申告、納税するものと上述しましたが、共同して申告するということも有効な手段の一つです。
しかし、この場合も代表者が全員分を納税してしまいますと、他の相続人に対する贈与とみなされる可能性もありますので納付に関してはくれぐれも注意が必要です。
ただ、相続人間で仲が悪いなど足並みがそろわない場合には、税理士などの専門家をいれて調整したほうがいいケースも多々あります。
相続税の申告、納付は10カ月という短い期間です。
相続がまとまらないと感じたらすぐに専門家にお願いしたほうが安心です。
まとめ
今回は相続税の概略や相続税の手続きの流れ、相続税の申告の方法についてお話ししました。
相続税は、遺産をもらった相続人全員が、相続、あるいは遺贈でうけとった遺産にしたがって支払います。
また、相続税の申告期限は被相続人が亡くなってから10カ月以内、準確定申告については被相続人が亡くなってから4カ月以内です。
そして、他の相続人が相続税の納税をしなければ、連帯納付義務により相続人全員で支払わなければなりません。
反対に相続人の一人が他の相続人の分まで相続税を支払うと支払った金銭分を贈与とみなされますので注意が必要です。
最初に述べた通り、相続税はもはや一部の富裕層に関する税金ではありません。
社会生活、家族形態の多様化に伴い、相続税の申告や納税がスムーズにすすまないケースも多々見受けられます。
10カ月という期間が決められている以上、少しでも難しいと感じたら、是非とも税務署やお近くの税理士にご相談してください。