この記事でわかること
- 家族信託について理解できる
- 家族信託契約書の内容がわかる
- 家族信託契約書のどの部分をアレンジしたいか考えることができる
家族信託という言葉を聞いたことがありますか?
近年、財産の次の世代への継承のために、家族信託が注目されています。
どのような契約書を使って契約するのか、専門家に依頼した場合はどれくらいの費用がかかるのかなどを解説します。
目次
ひな形でチェック!家族信託契約書とは?
家族信託契約書とは、どのような契約書のことをいうのでしょうか。
基本的には信託の契約書がベースになったものです。順を追って、解説していきます。
家族信託契約は信託契約の一種
家族信託契約は、信託契約の一種です。
信託契約とは、自分の財産を管理、運用、処分する権限を与える契約のことを言います。
後見と比較して、積極的に財産を活用することが可能です。
重度の認知症によって預金口座からお金がおろせなくなるなどのトラブルを回避する手段にもなります。
家族信託契約書の章立て
家族信託契約書に記載される事項について説明します。
一般的な信託契約書の内容に沿って、細かく検討していきましょう。
最低限記載すべき事項だけの家族信託契約書
最も簡単な家族信託契約書は以下の通りになります。
家族の状況によってはこれ以外の項目が必要なこともあります。
委託者〇〇(以下、甲)及び受託者××(以下、乙)は、本日、以下の通り信託契約を締結する(以下、「本契約」という。本契約による信託を「本信託」という。)。本契約締結の証としてこの家族信託契約書を作成し、正本1通を乙が保管し、写しを甲が保管する。
第1条(本契約の趣旨)
委託者項は、受託者乙に対し、第2条記載の信託の目的を達成するため、第3条記載の財産を受託者乙に信託し、受託者乙はこれを引き受けた。
第2条(本信託の目的)
本信託は、受託者による適切な資産運用及び管理、保全を通じ、委託者甲の判断能力低下や死亡後においても、受益者の健康で文化的な生活の安定に寄与することを目的とする。また、本信託を通じ、資産の円滑な承継をはかることを目的とする。
第3条(信託財産)
本契約で定める信託財産は以下のものとする。
細かい章立て
最低限記載すべき事項は、第1条、第2条、第3条と、冒頭部分か第4条と第6条(委託者、受託者についての部分)です。
簡単な契約書の例にない部分については、必要な部分を基本の契約書に足します。
冒頭部分(ない場合もある)には委託者と受託者についての記載をします。
例えば、子供を受託者とする場合は、受託者(子など)と委託者(父や母など)などと記載をします。
なお、本文に記載することもあります。
契約書を作成する人によって、記載場所はそれぞれです。
第1条:契約の趣旨…この契約がどのような契約かを説明する部分です。
第2条:信託の目的…なぜ信託をするのかという理由と目的を書きます。
例えば、受託者が資産を適切に管理、運用することで、委託者の判断能力が低下しても健康で文化的な生活を送ることができるためなどといった理由が挙げられます。
第3条:信託する財産…具体的に、何を信託するのかを記載します。
金銭の他、不動産などがあります。
第4条:受託者…受託者の住所、職業、氏名、生年月日を記載します。
第5条:受託者の任務終了…ここには、万が一受託者が亡くなったときや、受託者自身に判断能力がなくなってしまった場合の任期終了について記載します。
万が一のときに記載がない場合、どうしたらいいのかわからず、関係者の間でトラブルになってしまう可能性があるためです。
信託法第56条第1項には、受託者の任務が終了するときについて、以下の通り規定されています。
第五十六条 受託者の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次に掲げる事由によって終了する。ただし、第三号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 受託者である個人の死亡
二 受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと。
三 受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。(以降省略)
契約書には、この信託法第56条を準用するなど、記載しておくようにしましょう。
第6条:委託者…委託者の住所、職業、氏名、生年月日 委託者の地位の承継について記載します。
また、受益者についても記載します。受益者は、契約当初の委託者とします。
第7条:信託の期間…信託の期間について受益者が亡くなった日の翌日に終了するように設定します。
また、信託法第163条を準用します。
信託法第163条は、以下の通り規定しています。
第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)の規定により信託を終了させたとき。
五 信託の併合がされたとき。
六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
九 信託行為において定めた事由が生じたとき。
これらの項目に当てはまる場合、信託契約は終了します。
第8条:事務代行…信託に必要な事務を代行させることができる旨を規定します。
信託に必要な事務を全部自分でするというのは難しいので、税や法律の専門家に依頼することになるでしょう。
第9条:信託財産の管理と処分…信託財産の管理と処分について、信託財産から事務処理代行費用を差し引き、受益者のために生活費や医療費などの支払いをすると定めます。
第10条:その他…その他の規定があれば書きます。
例えば、事務処理費用の方が信託財産よりも多くなってしまった場合などについて、誰が支払うのか決めておきます。
第11条:信託報酬…信託報酬についてです。信託報酬は有償でも無償でも構いません。
委託者と受託者の話し合いで決めます。
金額をこの契約書に記載してもいいですし、記載しなくても構いません。
第12条:契約変更…もし契約内容を変更したい時はどうするのか決めます。
信託法第149条では、信託の目的に反しないことが明らかであるとき、委託者及び受益者の合意があれば変更できます。
この他の細かい規定もあります。信託法にかかわらず変更できる場合を限定するのかどうかなどをこの節で調整します。
第13条:精算…信託が終わった後、清算後に残った財産について、誰が引き受けるのかを決めます。
通常は、残余財産を受諾者が引き受けます。
自分で作成できる?プロに依頼した方がいい理由
家族信託契約書は、契約書の中でも特殊な部類に入ります。
前項で契約書の書き方をざっと説明しましたが、すっと理解できた方は少ないのではないでしょうか。
民法の他、信託法などの規定が関係してくるため、専門家に依頼することをおすすめします。
自分で作成すると抜けや漏れが発生しトラブルの原因に
もちろん、契約書を自分で作成することは可能ですが、詳しい人でない限り専門家に依頼した方が良いでしょう。というのも、自分で契約書を作成すると、抜けや漏れなどがしばしば発生するためです。
抜けや漏れの部分について紛争が起きた場合には、解決が難しくなります。
例えば、不動産が信託財産に含まれる場合は信託登記が必要です。信託登記までセットで司法書士に依頼すると、契約書だけでなくその後のサポートまで行ってもらえます。税理士に相談した場合は、家族信託で発生する税金についてアドバイスや申告の代行を依頼することになるでしょう。
いずれにしても、専門家を頼る方が自分一人で契約書を作るよりも紛争を予防できますし、自分の家族に合った契約書を作ることが可能です。
契約書作成は行政書士に相談
行政書士は、契約書を作成することが可能です。
とはいえ、許認可の取得代理のみをメインにしている事務所もあるので、契約書の作成に詳しい事務所を選んで相談してください。
不動産の信託登記は司法書士に相談
不動産が信託財産の中に含まれる場合、不動産には信託登記を行います。
信託登記の部分は、司法書士の分野になりますので、最初から司法書士に相談するという手段もあります。
ただし、その場合であっても家族信託に詳しい司法書士に相談することをおすすめします。
家族信託で発生する税金については税理士に相談
家族信託契約書の条文の書き方一つで、課税関係が変わることがあります。税務面で問題がない契約書かどうか、税理士にチェックしてもらうといいでしょう。
相続に詳しい弁護士なら他の相談も可能
弁護士は、依頼人の代理人として幅広く活動することができます。
行政書士と司法書士の本質は、依頼者の代理人ではなく、代書業(代わりに書類を書いてあげるというスタンス)です。
そもそも自分の場合には家族信託が必要なのか、他の形の相続と比較検討しながら一緒に考えて欲しいとか、法律的なアドバイスが欲しいという場合は、弁護士に相談するのも一つの手です。
家族信託契約書作成の流れ
家族信託契約書は、委託者と受託者が同一の人である場合以外は公正証書にしなくても有効です。
ただし、家族信託契約は長い期間に渡って続くものですし、他の家族や親族との間で発生しうるトラブルを考えると、公正証書にしておくことがおすすめです。
公正証書の証拠能力は強い
公正証書にすると、確かに法律上有効な契約であるということを証明することができます。
家族信託契約書の原本は公証役場で20年間保管されますので、万が一紛失してしまっても保管期間中であれば写の交付を受けることが可能です。
公証役場の公証人は、契約書の内容を確認してもらえます。
二重の意味合いに読めてしまうとか、曖昧である箇所があれば、指摘してくれます。
もし、自分で家族信託契約書を作成したい場合は、後々の紛争を予防するためにも、公証役場を利用することを推奨します。
公証役場は法律(公証人手数料令)によって公証の手数料が決まっています。
目的の価格が5,000万円を超え1億円以下の場合で、43,000円です。
1億円を越えると3億円までは、43,000円に対し、超過額5000万円までごとに1万3,000円を加算した額となります。
なお、公証業務に関する相談に関しては無料です。
契約書作成のポイントは?
家族信託契約書の作成のポイントは、3つあります。
まずは目的の部分です。
短い記載ですが、なぜ信託契約をするのかを簡潔に表現する必要があります。
例えば、受益者が安定した生活を送るためであるとか、資産の円滑な承継のためなどといった文言が使われます。
家族の実情にあった表現を考えましょう。
2つ目のポイントは、契約の変更の自由度についてです。
信託法に規定されている通りにするのか、それより厳しくするのか、柔軟にするのかなどといった項目を決めます。
3つ目のポイントですが、必要に応じて委託者、受託者それぞれに万が一のことがあった場合に契約がどうなるのかを記載します。
専門家に依頼した場合の費用はいくら?
専門家に依頼した場合の費用についてですが、各事務所で報酬は自由化されているため、まずは見積もりを取ってもらうことをおすすめします。
参考までに、日本行政書士会連合会の平成27年度アンケートによれば、契約書作成業務の報酬額で一番多かったのは1~2万円未満でした。
ただし、家族信託契約書はまだ一般的な契約書であるとは言えないので、直接事務所に見積もりを取ってみることをおすすめします。
まとめ
今回は家族信託の契約書の作り方について解説しました。
契約書に記載すべきことはだいたい決まっていますが、必要な事項は家族によって違いますので、専門家のアドバイスを受けるとより実情に合った内容にできるでしょう。
また、このページで紹介した見本を参考に自分で作成する場合も、内容についての精査が必要ですので、公証人に依頼し、公正証書にしておくことをおすすめします。
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