この記事でわかること
- 家族信託について理解できる
- 家族信託で相続対策するメリット・デメリットがわかる
- 家族信託に関係する税金について理解できる
- 家族信託で税金が発生する場合の具体例がわかる
日本は、超高齢化社会となって、高齢者の数は大幅に増加しています。
また、高齢化によって認知症患者となる方も多くなり、今後もこの傾向は続くと予測されています。
認知症になると、銀行口座の管理や医療関係、老人ホームなどの施設との契約をすることができなくなってしまいます。
認知症などで判断能力が不十分となった場合、成年後見制度を利用して代理契約を行うことができますが、家庭裁判所に申立てを行わなければならず、制度が複雑なうえ、成年後見人が選任された後は財産運用することはできなくなります。
そこで最近注目を集めているのが、家族信託(民事信託)という方法です。
本記事では、この家族信託について解説するとともに、家族信託に関係する税金の問題、また相続対策とすることのメリットやデメリット、注意点などを説明していきたいと思います。
家族信託とは
「信託」という仕組みから説明していきましょう。
まず、自分が所有している財産の管理を、他の人に託します。
財産の管理を託された人は、その財産を使って運用することもできます。
そして、財産から生み出された利益は、あらかじめ設定された人が受けとるというものです。
「信託」という仕組みにおいて、財産の管理を託す人を家族とするとき、これを「家族信託」と呼びます。
家族信託を説明するうえで、以下のような家族構成を具体例として設定しましょう。
都内に暮らす父A男さん、母B子さん夫妻には、C男という長男がいます。
父A男さん、母B子さんはともに高齢ですが、父A男さんは銀行預金に加え賃貸アパート1棟を所有し家賃収入を得ています。
ですが、自身が認知症になってしまうと適正に財産の管理をできなくなるのではないかと不安に思っています。
そこで、長男C男さんに家族信託の仕組みを使って財産管理を任せることにしました。
このようなケースを用いて家族信託を説明すると、以下のようになります。
- (1) 委託者
財産の管理を長男C男に託す父A男 - (2) 受託者
財産管理を託された長男C男 - (3) 受益者
財産から生み出された利益を受ける父A男
家族信託を設定すると、財産は委託者(父A男)から受託者(長男C男)へ移転します。
受託者に移転した財産のことを「信託財産」と呼びます。
この信託財産は、受託者(長男C男)が自由にできるわけではなく、信託契約に従って管理されることになります。
そして、信託財産から生み出された利益は受益者(父A男)が受けることになります。
家族信託で相続対策するメリット
最近では、高齢者の認知症対策、相続対策として家族信託を利用するケースが増えています。
一方で家族信託によって「節税対策」できると考えている方がいますが、家族信託という仕組み自体に節税効果はありません。
家族信託は、柔軟な財産管理によって円滑な承継ができるというものです。
ここでは、家族信託で相続対策を行うメリットについて説明していきましょう。
柔軟な財産管理が可能
家族信託を利用することで、柔軟な財産管理を行うことができます。
認知症等の対策として財産管理する方法は、家族信託とは別に「成年後見制度」というものがあります。
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分となった場合、申立てによって家庭裁判所が成年後見人を選任し、成年後見人が本人のために財産管理も行うというものです。
成年後見人は家庭裁判所が選任しますので、家族を候補者として申立てしても選任されるかどうかはわからず、弁護士や司法書士といった専門家が就任するケースもあります。
ここでは、家族信託の財産管理の柔軟さを説明するうえで、成年後見制度の制限やデメリットを対比として説明していきましょう。
積極的な資産運用ができる
成年後見制度は「本人の財産を守る」という目的のためのものですから、株や債券等を取引して資産を運用するといったリスクのある積極的な資産運用はできません。
一方、家族信託は、信託契約の範囲内で積極な資産運用を行うことも可能です。
贈与による節税対策ができる
成年後見制度には、財産管理について様々な制限があります。
生前贈与による財産移転、被後見人の生命保険契約、養子縁組による基礎控除を使った節税対策なども行うことができません。
家族信託では、成年後見制度のような制限はありませんので、財産の贈与による節税対策をすることも可能です。
成年後見人のような報告義務がない
成年後見人に選任されて財産管理を行うことになった場合、家庭裁判所へ1年に1回は財産についての報告をしなければなりません。
現金出納帳や、通帳への記帳、請求者や領収書の保管も必要となりますので、業務負担は大きいです。
家族信託でも、財産の管理を行うわけですから、帳簿の記帳などは必要になりますが、成年後見制度のような報告義務はありません。
二次相続の指定ができる
家族信託では、二次相続において財産の処分方法を指定しておくことができます。
例えば、まず自身の長男に土地を相続させ、その長男の死亡後、その長男の子(孫にあたる)へも土地を相続するという順次承継を定めることが可能です。
一般的に「遺言」では、自身の長男に土地を相続させることは指定できますが、孫に相続させることは指定することができません。
そのため、二次相続では土地などの相続財産が共有となってしまうことがありました。
共有不動産となると共同相続人全員の同意がないと処分することができませんので、不動産の塩漬けとなってしまうこともあります。
ですが、家族信託では二次相続においても予め指定された方に承継する旨を定めることができますので、このような事態になることを防ぐことができます。
相続財産の受取方法を指定できる
遺言では、相続させる財産を指定することはできますが、その受取方法を指定することはできません。
ですが、家族信託を利用することによって、例えば「毎月5万円ずつ支給する」といった遺産の受取方法を指定することができます。
例えば、相続人となる人に一括で高額の財産を与えると心配という場合に指定しておくことができます。
家族信託の受益者が支払う税金
ここで、家族信託に関する税金について解説していきましょう。
まずは、受益者(財産から生み出された利益を受ける人)にかかる税金についてです。
贈与税
家族信託では、委託者の財産は受託者へ移転し信託財産となります。
そして信託財産から生まれた利益を受けとるのは受益者となりますので、委託者から受益者に対して贈与があったとみなされます。
受益者に贈与税が課税されるかどうかは、信託を設定した時点で、委託者と受益者が同一人物かどうかで判断されます。
「委託者=受益者」となる場合の信託を「自益信託」といいます。
自益信託の場合、信託の設定時の前後で信託財産から利益を受ける人が変わらないため、受益者に贈与税は課税されません。
一方「委託者=受益者」ではない場合は、「他益信託」といいます。
他益信託の場合、信託設定の前後で信託財産から利益を受ける人は、委託者から受益者へ変わりますので、贈与があったものとして受益者に贈与税が課税されます。
実際の運用では、委託者が生きている間は「委託者=受益者」とする「自益信託」となり、贈与税を発生させないことが多くなっています。
相続税
家族信託の場合、「委託者=受益者」が死亡した場合、信託契約によって受益者の地位を引き継ぐ人を定めているケースが多いです。
ですから、信託契約によって新しく受益者となった場合、その受益者には相続税が課税されます。
譲渡所得税
受益者が信託財産から生まれた利益を受ける権利を他人に売却した場合、売却によって得た利益に対して所得税と住民税がかかります。
この所得税、住民税は、利益を得た受益者に対して課税されます。
信託期間中に発生する所得税・住民税
信託期間中、信託財産は受益者が持っているものとしてみなされ、所得税、住民税は受益者に課税されます。
信託期間中の所得とは、例えば財産が賃貸マンションの場合の家賃収入などがあります。
家族信託の受託者が支払う税金
家族信託で、受託者が支払うとされる税金があります。
実際は、利益を得る受益者が負担するケースが多いですが、その内容について説明します。
登録免許税
家族信託を設定するとき、財産が不動産であるケースは多いです。
そして不動産を信託財産とする場合、信託分の登録免許税がかかります。
このとき、所有権移転分の登録免許税は課税されません。
信託分の登録免許税は、令和2年10月の段階では以下のような金額となります。
- ・土地の場合 固定資産税評価額の0.3%
- ・建物の場合 固定資産税評価額の0.4%
したがって、固定資産税評価額が6,000万円の土地を信託する場合、18万円の登録免許税が必要となります。
そして信託が終了した時は、信託財産の不動産を受託者から引き継ぐ人に、所有権移転分の登録免許税がかかってきます。
ただし、以下のようなケースもあります。
- (1) 信託設定時から自益信託の場合、信託が終了したときに、信託財産を元の所有者(委託者=受益者)に戻す場合は、登録免許税は必要ありません。
- (2) 信託設定時から自益信託の場合で、信託が終了したときに、委託者=受益者の相続人が信託財産の不動産を引き継ぐ場合は、相続登記として登録免許税がかかります。
このときの税率は固定資産税評価額の0.4%です。
固定資産税
不動産などにかかる固定資産税は、毎年1月1日の所有者に課税されます。
信託財産に不動産がある場合、不動産名義は受託者となりますので、受託者に固定資産税が課税されることになります。
ですが、税額を負担するのは受益者となるのが一般的です。
その他の課税について
家族信託に関係する税金の課税についての補足事項をまとめましたので、ご確認ください。
家族信託の委託者の税金
家族信託関連で、委託者に課される税金はありません。
ただし委託者=受益者となる場合は、受益者としての税金が課されます。
不動産取得税は課税されない
家族信託の場合、委託者、受託者、受益者の誰にも不動産取得税は課税されません。
不動産取得税とは、不動産を取得したときに、不動産所在地の都道府県が課す税金です。
家族信託で、不動産が信託財産となる場合、委託者から受託者へ名義変更が行われますが、実質的な所有権移転はありません。
そのため、信託設定時に受託者が不動産取得税を課されることはないと規定されています。
しかしながら、信託終了時に信託財産の不動産を受託者から引き継ぐような場合は、不動産取得税が課税されます。
ただし、登録免許税の場合と同じく、元の所有者に戻る場合や、相続人が不動産を引き継ぐ場合は、課税されません。
家族信託で税金を支払う具体例を解説
家族信託で税金を支払う必要がある場合を、具体例を使って解説したいと思います。
具体例の家族構成は、冒頭の説明で使った登場人物と同じ設定です。
- ・父のA男さん
- ・母のB子さん
- ・長男のC男さん
A男さんは、賃貸アパート1棟を所有していて、その家賃収入によってB子さんと二人で暮らしています。
しかしA男さんは、高齢で物忘れすることが多くなり、将来的に認知症にでもなったら、アパートの管理や賃貸借契約を締結することができなくなるのではないかと心配になりました。
そこで、A男さんは自分が元気なうちに信頼できる家族に財産管理を託したいと考え、長男C男さんと家族信託契約を締結しました。
信託契約では、長男C男さんに賃貸アパートの管理を託し、自分は受益者として引き続き家賃収入を受けることになりました。
また、A男さんは自分が死亡したときには、アパートの家賃収入は奥さんのB子さんが受け取れるよう指定し、信託終了時にはアパートは長男C男さんが引き継ぐよう指定しました。
信託契約の締結によって、賃貸アパートの名義は委託者A男さんから受託者である長男C男さんに移転します。
これにより、将来的にA男さんが認知症となり判断能力が著しく低下した場合でも、長男C男さんの判断でアパートのリフォームを行ったり、アパートを売却し現金をA男さんB子さん夫婦の生活費などにあてたりすることが可能になります。
1.贈与税は課税されません
信託の設定で、父A男さんは委託者=受益者となります。
信託契約前と後で、信託財産となる賃貸アパートから生まれる利益(家賃収入)を得るのは父A男さんで変わりません。
そのため、贈与が行われたとはみなされず、贈与税もかかりません。
ただし、受益者を父A男さん以外の人に設定した場合は、受益者に贈与税が課税されます。
2.受託者の長男C男さんに登録免許税と固定資産税が課税されます
信託契約によって、賃貸アパートの名義は委託者である父A男さんから、受託者である長男C男さんに移転します。
そのため、長男C男さんに信託登記の登録免許税がかかります。
また、毎年1月1日に不動産を所有している人に固定資産税が課税されるため、信託契約後の賃貸アパートに対する固定資産税は受託者の長男C男さんに課税されます。
ただし、一般的には信託財産から利益を受ける受益者である父A男さんが負担することになります。
3.信託財産から生じる所得についての所得税は受益者の父A男さんに課税
信託財産である賃貸アパートから生じる収益から必要経費を引いた金額を「所得(不動産所得)」といいますが、この所得についての所得税と住民税は受益者である父A男さんに課税されます。
将来的に、父A男さんが死亡し、配偶者である母B子さんが新たな受益者となった場合、所得税と住民税は母B子さんが支払うことになります。
4.賃貸アパートを売却した場合は譲渡所得税が受益者の父A男さんに課税
信託財産である賃貸アパートを売却した場合、売買譲渡で受け取った金額に対して譲渡所得税が課税されます。
この譲渡所得税は、形式上賃貸アパートの名義人となっている受託者の長男C男さんではなく、受益者である父A男さんに課税されます。
尚、信託財産である賃貸アパートを売却するためには、あらかじめ信託契約書に信託財産の売却に関する決まりを記載しておかなければなりませんので、ご注意ください。
5.受益権を母B子さんが引き継いだ場合は相続税がかかる
父A男さんが死亡した場合、信託契約で定めた母B子さんが受益権の地位を引き継ぐことになります。
その場合、母B子さんに相続税がかかることになります。
相続税は、相続財産から基礎控除額を差し引いた額に対して課税されるものです。
基礎控除額は、基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。
ですから、相続財産の額が基礎控除額を超えなければ相続税は課税されません。
また、今回のケースのように相続するのが配偶者(母B子さん)の場合は、相続税の配偶者控除として申告すれば、法定相続分もしくは1.6億円までは無税となります。
6.信託終了時、長男C男さんに相続税と相続登記の登録免許税がかかる
母B子さんが亡くなった時点で、信託契約が終了し、相続人である長男C男さんが信託財産だった賃貸アパートを相続します。
このとき、長男C男さんに相続税が課税されます。
また、信託契約終了によって、長男C男さんは、信託の受託者として登記されていた不動産(賃貸アパート)を相続人として取得したことになりますので、相続登記が必要となります。
このときに必要な登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)は、長男C男さんの負担となります。
家族信託で相続対策するデメリットと注意すべき点
家族信託によって、委託者は安心して生活を送ることができますが、相続対策としてのデメリットや注意点もあります。
様々な税金計算が必要となる
ここまで、家族信託に関係する税金について説明してきましたが、状況によって課税される人や金額の計算が異なってきますので、都度税金の計算が必要となります。
ですが、税金は基本的に「利益を得た人」「得をした人」に対して、その利益に関して課税されますので、よくわからなくなってしまった場合は、頭を整理してみてください。
相続の遺留分の侵害
相続対策として家族信託を利用する場合、信託契約を締結しても相続の遺留分を侵害することはできません。
遺留分とは、亡くなった被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得の権利です。
この遺留分を侵害しているような場合、侵害を受けている相続人から委託者と受託者に遺留分減殺請求権を行使されることがあります。
受託者の責任
家族信託の場合、受託者である家族は財産管理については素人です。
信託財産の内容が複雑な場合、その管理方法や運用によっては、財産が目減りしたり、無くなってしまったりする可能性もあります。
ですから、積極的に信託財産を運用することには十分に注意が必要です。
まとめ
家族信託は、将来認知症になってしまうのではと心配な方、財産管理を信頼できる家族に託したいという方におすすめです。
また、信託を利用することで相続を円滑に承継できるというメリットもありますが、税金計算が複雑だったり、受託者の責任範囲が広かったりというデメリットもあります。
信託財産の金額が多いような場合は、専門家である税理士への相談も検討しましょう。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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