この記事でわかること
- 信託目録を変更すると不動産登記を変更する必要があるとわかる
- 信託目録や信託条項が変更になるケースを知ることができる
- 信託目録を変更する際に気をつけなければならないことがわかる
遺産分割や相続への対策として、不動産信託を利用する人が徐々に増えています。
不動産信託を利用すると、単に所有している場合とは異なる登記を行わなければなりません。
また、不動産信託の内容を変更することができますが、その時に登記を変更しなければならない場合があります。
そこで、どのような場合に変更登記が必要になるのか確認していきましょう。
目次
信託目録で変更が出たら変更登記を行う
不動産信託契約を締結すると、不動産登記法で定められた信託の内容について記載された目録を作成することとされています。
不動産を信託財産とした場合、それまでの不動産の所有者が委託者となる一方、受託者が所有者として登記上に記載されます。
また、ほかに信託目録に記載される信託の内容には、受益者等の氏名や信託の目的などがあります。
信託目録は、信託登記を申請する際に法務局で作成され、不動産ごとに番号で管理されています。
信託目録の内容が変更されるような場合には、不動産登記も変更しなければなりません。
信託の当事者ではない第三者に対して信託を主張するためには、信託を設定した人は登記をする必要があります。
第三者に主張することを法律上は「対抗」といい、登記は第三者に対する対抗要件となっています。
正しい登記を行わないと第三者に対抗することはできないため、変更があった場合には正しい登記を行うべきなのです。
信託目録が変更する場合の例
実際に不動産信託を利用している人でも、どのような場合に信託目録が変更となるのか、イメージがわかないかもしれません。
信託目録が変更となる場合には、具体的にどのような場合があるのでしょうか。
受益権売買によって受益者の変更があった場合
受益者とは、信託財産から発生する家賃収入などの利益を受け取る人のことをいいます。
信託財産となっていない不動産については、所有者が納税義務者となります。
しかし信託契約を締結している場合、受益者はその信託財産について納税義務者となります。
その不動産が信託の対象となっていること、そして誰が受益者かを正しく記載しておくことはとても大きな意味があるのです。
信託財産の受益権は売買することができ、受益者が交代することがあります。
受益権売買により受益者が変更となった場合には、信託目録の記載内容を変更しなければなりません。
また、不動産登記の記載内容も同時に変更しなければならないのです。
信託条項の変更があった場合
信託条項とは、信託契約に関する詳細な内容のことです。
いわば、信託契約の基礎を定めるものであり、委託者と受託者、受益者の信託契約における指針となるものをいいます。
信託条項の変更が行われる場合とは、つまり信託契約の内容が変更されることを意味します。
信託契約の内容について変更や訂正をしなければならない場合には、それにもとづいて信託目録も変更します。
あるいは信託契約の見直しを行う場合には、信託目録を変更しなければなりません。
そして信託目録が変更になる場合には、不動産登記の記載内容についても変更する必要があるのです。
受益権の売買によって信託条項が変更になったケース
不動産信託の受益権は、土地や建物などの財産と同じように売買することができます。
信託の受益者は、受益権を売却することでその信託契約の受益者ではなくなります。
一方、受益権を購入した人は、新たにその信託契約の受益者となるのです。
通常の不動産を売却した場合と同じく、信託財産の受益権を売買した場合にも登記手続きが必要となります。
受益権の売買とは
信託受益権とは、信託の対象となった財産から発生する経済的利益を受け取る権利のことをいいます。
従来の所有権の場合、不動産の所有者がそのまま経済的利益を受け取ることとなります。
しかし、不動産の管理・運用を受託者に受託者に依頼する不動産信託の場合、その不動産から利益を受けるのは受益者です。
新たに不動産信託を設定した場合、それまでの所有者が委託者となり受託者にその不動産の管理等を委託します。
この時、その不動産から発生する収益を受け取る受益者を設定することとなります。
多くの場合は、委託者がそのまま受益者となるのですが、必ずそうしなければならないわけではありません。
受益者の全部または一部を配偶者や子供など、他の人にすることも可能なのです。
また、いったん設定した受益権を他の人に売却することもできます。
信託契約などに特段の定めがなければ、受託者の承諾を得ることなく受益権を第三者に売却することが可能とされています。
資産の流動化や相続対策の一環として不動産信託の利用が増える中で、受益権の売買が行われることも今後増えると思われます。
受益権の売買による登記の変更の流れ
(1) 信託の設定
土地を保有していた(前)受益者は、その土地を信託財産として、受託者に管理・運用を委託する契約を締結します。
この時、(前)受益者は信託契約における委託者であり、かつ受益者でもあるのです。
信託契約を結んだら、その契約の内容にしたがって法務局で登記を行います。
この登記を行うと、土地の所有者はそれまでの委託者から変更になり、受託者が土地の所有者として登記されます。
ただ、この場合の所有者は、あくまで土地の管理・運用を行う人としての位置付けであり、従来の所有権とは異なるものです。
(2) 受益権の売買契約
信託受益権は、土地そのものと切り離して売買することができます。
そのため、(前)受益者は新たに受益権を購入したいという人に受益権を売却することができるのです。
信託契約に特段の定めがない場合、信託受益権を譲渡することについて、事前に受託者の承諾を得る必要はありません。
(3) 受託者への通知
受託者の事前の承諾がなくても、法的には信託受益権を譲渡することはできます。
ただその一方で、信託法では、(前)受益者が受託者に通知し受託者が承諾しなければ、受託者や第三者に対抗できないとしています。
また、実際には信託契約の中で、信託受益権を勝手に売買することはできず、受託者の承諾が必要としているのがほとんどです。
そのため、信託受益権の譲渡を行う場合には、受託者に承諾をもらい、また受託者に通知を行う必要があります。
まずは、売主と買主が一緒に「信託受益権譲渡承諾依頼書兼承諾書」を作成して受託者に提出します。
そのうえで、受託者が承諾の意思表示として承諾印をもらうようにします。
次いで、受託者が承諾印を押した書類を公証人役場に持っていき、日付印を押してもらって確定日付を押してもらうのです。
このような手続きを行ったうえで受益者変更の登記を行わないと、登記を行っても対抗要件を満たさないため、注意が必要です。
信託目録の変更登記をする際の注意点
ここまで信託目録の変更を行う場合の登記について説明してきました。
不動産信託の登記を変更しなければならないような信託目録の変更は、重要な内容であり、課税対象となるケースもあります。
そのため、信託目録の変更をするような場合には、以下のような点に注意しておく必要があります。
必ず専門家に相談する
不動産信託を利用する際、大半の人は信託会社や信託銀行、あるいは司法書士に相談していると思います。
ただ、中にはいろいろな情報を調べながら自分で信託契約を作成し、登記手続きを行う人もいるかもしれません。
しかし、専門家でない人だけで不動産信託の契約書を作成し、登記まで行うことには大きなリスクがあります。
不動産信託を締結すると、それまでの不動産の所有者や新たに受益者となった人に納税義務が生じる場合があります。
しかし、専門家に相談せずに信託を設定し、納税義務が生じていることに気づかないことがあります。
すると、その後税務署から申告漏れを指摘され、ペナルティも含めた多額の納税をしなければならないことがあるのです。
また、不動産信託を設定すると、その契約期間中の不動産の利用方法について制約が生じることとなります。
信託財産となっていない不動産であれば、賃貸したり売却したりマイホームを建てたりと、自由に利用することができます。
しかし、信託財産となっている場合は、その契約期間は自由に利用することができません。
もし信託契約を終了させるなどの手続きが必要となる場合には、受託者の承諾が必要とされることもあるのです。
事前に専門家に相談して、不動産信託の内容が適切かどうか、そしてその後問題が生じる可能性がないか確認するようにしましょう。
頻繁に信託目録の変更をしない
信託目録の内容を変更するということは、それだけ当初の信託契約の内容に不備があったということができます。
必ず信託契約を締結する前に、その内容が適正かどうか、実態に合っているのかどうかを確認するようにしましょう。
もちろん、事後的に変更せざるを得ないような状況の変化がある場合には、その変化に合わせた内容に変更する必要があります。
ただその際には、将来的に問題とならないような変更を行うなどの工夫が必要です。
信託目録の変更を頻繁に行えば、その都度登記費用がかかってしまいます。
できるだけ信託目録を変更しなくていいような不動産信託を設定すべきなのです。
まとめ
不動産登記を利用すると、必ず信託目録を作成することとなります。
信託目録には、信託契約により決められた基本的な契約の内容が記載されます。
また、信託目録は登記されることから、必ず正確な内容でなければなりません。
不動産信託を利用することは、相続対策などを考えるうえで有効な手段の1つですが、専門家の知識が必要不可欠です。
専門家のアドバイスを受けながら、よりよい信託契約を締結し、信託目録を作成するようにしましょう。
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