この記事でわかること
- 不動産信託を利用する際に登記が必要になるタイミングがわかる
- 不動産信託に関する登記を行う際に必要な書類を知ることができる
- 不動産登記を行う際に専門家に依頼するメリットがわかる
不動産登記は、不動産の所有者などの基本事項を明らかにするために行われます。
また、登記を正しく行うことで、第三者による不動産の不正取得などから不動産を守ることができます。
不動産を維持・管理するうえで、登記はとても重要な意味を持つものということができます。
ここでは、不動産信託を利用した場合に必要となる登記について解説します。
利用者が増えつつある不動産信託に関する登記について、正しく理解していきましょう。
目次
所有権移転および信託登記が必要になるタイミング
不動産信託を利用する際に、不動産登記が必要になるタイミングにはいくつかのパターンがあります。
ここでは、そのようなタイミングについて確認していきましょう。
不動産信託を設定した時
不動産を保有していた人が、その不動産を信託財産として信託契約を締結します。
この場合、不動産の保有者が委託者、その不動産の管理・運用を任された人が受託者ということになります。
また、不動産の保有者がそのまま受益者となることが多いのですが、配偶者や子供など、他の人が受益者となることもできます。
不動産信託を設定した時には、従来の所有者(委託者)が保有していた所有権はなくなります。
そのため、委託者から受託者へ信託による所有権移転登記を行う必要があります。
信託していた不動産を処分した時
信託していた不動産を処分する場合は、一般的に、信託契約の終了と不動産の所有権の移転という2つの取引が行われます。
不動産の売買が行われた場合には、当然のように登記が行われますが、それと同じように信託不動産を処分した時の登記が必要となります。
信託契約が終了した時
不動産信託の契約が終了すると、その不動産は信託財産ではなくなります。
信託財産でなくなった不動産は、その後通常の土地や建物として、所有者の管理のもとにおかれます。
具体的には、それまで受益者がその不動産の実質的な権利を有していたのですが、それが土地の所有者に移転することとなります。
信託財産として利用されていた間は、受託者が登記名義人となっていたため、その登記を変更しなければなりません。
また、信託財産でなくなったことを登記で明らかにしておく必要があります。
信託設定時に必要となる申請書
不動産信託を設定すると、その信託契約の委託者や受託者・受益者などの項目を登記しなければなりません。
信託設定時に登記が必要な理由
不動産信託契約を締結すると、その内容にもとづいて登記しなければなりません。
正しく登記を行っていれば、不動産を不正に入手したり売却したりする人がいても対抗することができます。
たとえば、不動産信託を行っていることを登記してある土地について、その信託の受託者が所有権者になりすまして売却しようとしたとします。
外見上は、受託者が土地の管理を行っているため、土地の所有者のように見えるかもしれません。
しかし、実際には受託者はその土地について所有権も受益権も有しておらず、売却して利益を得ることはできません。
受託者にだまされて土地を購入する契約を結んだ人がいても、登記上は受託者に所有権がないことは明らかです。
そのため、真の所有者である委託者は土地を手放す必要はないのです。
正しく登記が行われていない場合には、第三者に対する対抗力が発生しないことも考えられます。
その結果、不正な譲渡が行われた場合に、その取引が成立したり第三者から損害賠償を求められたりする可能性があるのです。
信託設定の登記に必要な書類
不動産信託を設定した時に行う登記について必要となる書類は以下のとおりです。
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(1) 不動産所有者(委託者)に関する書類
- ①不動産権利証
- ②3か月以内に発行された印鑑証明書
- ③固定資産税評価証明書
- ④運転免許証や保険証などの身分証明書
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(2) 受託者に関する書類
- ①住民票
- ②運転免許証や保険証などの身分証明書
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(3) その他の書類等
- ①登記申請書
- ②委託者の実印
- ③受託者の認印
必要となる書類の大半は不動産の所有者であり委託者となる人に関する書類です。
そのため、委託者は特に登記申請にあたって多くの書類を準備する必要があります。
なお、登記申請書はその登記を行う原因により使用する用紙が異なります。
不動産信託の設定については、登記上は所有者から受託者への所有権移転として記載されます。
不動産信託の設定時に用いる登記申請書は下記のとおりです。
なお、登記の目的には「所有権移転および信託」と記載します。
使用する申請書を間違えないようにしましょう。
信託設定の登記にかかる費用
不動産信託の設定時に限らず、登記費用は3つの金額を合計したものです。
登記費用の1つ目は登録免許税の金額です。
登記の対象となる不動産の評価額から計算されます。
同じ物件であっても、取得した場合、贈与された場合、相続で引き継いだ場合でそれぞれ税率が異なり、不動産取得税の額も変わります。
一方、同一の物件について同一の原因により登記を行う場合には、誰が登記を行っても登録免許税は同額となります。
なお、信託の設定を行った場合の登録免許税の金額は、固定資産税評価額×0.4%とされています。
また、令和3年3月31日までは土地については0.3%とする軽減税率が適用されます。
登記費用の2つ目は司法書士に支払う手数料です。
司法書士に登記手続きを依頼する場合には必要となるものです。
ただし、登記手続きを自分で行うこともでき、この場合は司法書士に対する手数料は必要ありません。
なお、司法書士に対する手数料の額は司法書士が自由に決めることができます。
そのため、いくらぐらいになるかはっきりとした相場があるわけではありません。
できるだけ安く登記手続きを行いたいのであれば、手数料の見積もりを依頼して安い司法書士を探すようにしましょう。
登記費用の3つ目は諸費用です。
交通費や通信費(郵送料など)、登記に必要となる証明書や住民票などを取得する際にかかる費用です。
これらの書類は自分で取得しても、司法書士に依頼しても同じ金額がかかります。
これら3つの費用を合計したものを司法書士に対して支払うこととなります。
信託不動産の処分時に必要となる申請書
信託財産を処分する時には、信託契約の終了と不動産の売却という2つの行為を順番に行っていることとなります。
そこで、登記を行う際にもその2つの行為を明らかにするような記載となります。
正しく登記を行わないと、登記簿を見てもその内容が第三者に確認できないこととなりかねません。
なお、信託不動産の処分があった場合は受託者が登記手続きを行うこととなります。
信託不動産の処分時に必要な書類
信託不動産を第三者に売却する場合、信託契約の受託者が売主となります。
そのため、受託者が売主として必要な書類を準備する必要があります。
不動産売買の売主が準備しなければならない書類等は以下のとおりです。
- (1) 不動産権利証
- (2) 3か月以内に発行された印鑑証明書
- (3) 運転免許証や保険証などの身分証明書
- (4) 実印
- (5) 登記申請書
登記申請書は、売主と買主が共同して法務局に提出するものです。
信託不動産の処分時に用いる登記申請書は以下のとおりです。
登記の目的には「所有権移転および信託の抹消」と記載します。
なお、不動産の買主が準備しなければならない書類等もありますが、こちらは買主自身で準備してもらうことになります。
信託不動産の処分時の登記にかかる費用
登記にかかる費用が3つ(登録免許税、司法書士手数料、諸費用)あるのは信託設定時と変わりがありません。
信託不動産の処分時に係る登録免許税の額は、固定資産税評価額×2%となっています。
信託終了時に必要となる申請書
不動産信託が終了する時には、信託契約が終了すると同時に、その不動産の所有権をもとの所有者に戻す必要があります。
そのため、この2つの行為を明らかにするような登記が必要となるのです。
信託終了時の登記に必要な書類
信託契約が期間満了などにより終了する場合、それまでの委託者兼受益者がその後の所有者となります。
この場合、委託者兼受益者が準備しなければならない書類等は以下のとおりです。
- 1.住民票
- 2.運転免許証や保険証などの身分証明書
- 3.実印または認印
- 4.登記申請書
登記申請書は受託者と委託者兼受益者が共同で法務局に提出します。
信託終了時に用いる登記申請書は以下のとおりです。
登記の目的には「所有権移転および信託登記抹消」と記載します。
信託終了時の登記にかかる費用
登記費用として大きな額を占める登録免許税の計算方法が、信託終了時はこれまでと異なります。
不動産の固定資産税評価額から求めるのではなく、不動産の個数×1,000円となります。
たとえば土地1筆と建物1棟であれば、登録免許税は2,000円ということになるのです。
この計算は、信託抹消分として必要となる金額です。
受託者から委託者兼受益者への所有権移転については非課税とされているため、登録免許税はそれほど大きな負担にはなりません。
申請書作成に不安を感じるなら専門家に相談しよう
信託の設定や終了など信託の内容に関する変更があると、登記事項も変更する必要があります。
登記は司法書士のような専門家でなければできないわけではなく、当事者自身が行うことも可能です。
しかし、登記を自分で行うことは決して簡単なことではないため、専門家に依頼して確実に行うことを優先して考えるようにしましょう。
また、専門家に相談することには、登記を確実に終わらせる以外にもメリットがあります。
不動産信託の設定に問題がないか検証してもらう
不動産信託を設定する際には、何も知らない素人がゼロから契約書を作成することは現実的ではありません。
ほとんどの場合、信託会社や信託銀行が一般的なケースにあてはめてその信託を構築します。
そのため、専門家でない不動産の所有者は、信託会社や信託銀行のアドバイスにしたがって信託契約を締結することとなるのです。
しかし、委託者が個別に抱える問題について、信託会社や信託銀行でも把握しきれないことがあります。
そのような問題を前もって認識するためには、信託会社や信託銀行以外の専門家の目を通したうえで契約することが欠かせません。
そのため、信託契約を締結する前の段階で、司法書士に契約書の内容を確認してもらうようにするのです。
いったん成立した契約の内容を後から変更する際には、改めて契約を結び直す必要があります。
また、登記の手続きも必要となってしまいます。
そのような二度手間になることのないよう先に問題点を洗い出しておくと、その後の手続きがスムーズに進むのです。
税金の計算などもあわせて相談できる
不動産信託に関して司法書士に依頼する内容によっては、不動産の所有者や受益者などに納税義務が発生する場合があります。
税金の計算や申告書の作成は、司法書士ではなく税理士の専門分野ですが、多くの司法書士は税理士と一緒に仕事をしています。
そのため、税金が発生する場合には、知り合いの税理士に申告書の作成などを依頼することができます。
税金が発生するかどうかもわからないとか、知っている税理士がいないといった場合には、心強いと思います。
まとめ
不動産信託は家族信託や資産の流動化の広がりにあわせて、利用者が増えています。
信託契約を当事者間で締結すればよく、特別な手続きは不要であるため、利用しやすい制度となっています。
ただ、登記を正しく行わないと、思わぬトラブルの原因となる可能性があります。
また、登記以外に公的機関での手続きはないことから、その重要性は高いのです。
信託会社・信託銀行に信託の設定を依頼する場合でも、正しく登記が行われているか、必ず確認するようにしましょう。
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