親から子に金銭や不動産などを贈与した場合、年間の贈与額が110万円を超える場合には基本的に贈与税の課税対象になってきます。
そのため、贈与税にいくら掛かるのか、また特例を利用した賢い贈与の方法などを知っておくことが重要です。
そこで今回は、贈与税の計算方法、納付の手続き、贈与税が非課税になる特例などをご紹介します。
贈与税の概要と基礎控除
贈与税とは、個人が他の個人から財産の贈与を受けた場合に課税される税金です。
贈与税は個人から個人への贈与が対象になるものであり、法人から個人への贈与については贈与税の課税対象になりません。
税金には各種の基礎控除制度があり、得た財産の価格が基礎控除額を下回る場合は、税金は課税されないことになります。
贈与税の基礎控除額は1年間(毎年1月1日から12月31日)で110万円であり、年間で受けた贈与の金額の合計額が110万円を超えると贈与税が課税され、申告と納税が必要になります。
例えば、2019年に100万円の現金の贈与を受けた場合、贈与の金額が110万円以下のため、贈与税は課税されないことになります。
贈与税の基礎控除額については、年間という期間があることと、1回の贈与の金額ではなく、その年間の期間の間に受けた贈与の合計額で決まることに注意が必要です。
例えば、2019年1月25日に80万円の贈与を受けて、同年6月15日に40万円の贈与を受けた場合、それぞれの贈与の金額は100万円以下ですが、年間の贈与を受けた金額を合計すると120万円で基礎控除額を上回るため、贈与税の課税対象になります。
債務免除は贈与税の課税対象になる場合がある
本来支払うべき債務の免除を受けることを、債務免除といいます。
例えば、100万円を返済しなければならない債務がある場合に、債権者から100万円を返さなくても良いと免除してもらう場合などです。
個人が個人から債務免除を受けた場合は、債務免除された分の金額について、債務免除をした債権者から債務者に対して贈与があったものとみなされて、贈与税の課税対象になります。
例えば、300万円の債務を負っている債務者が250万円分の債務を免除してもらった場合、250万円については贈与税の対象になるため、基礎控除額の110万円を差し引いた140万円について贈与税の課税対象になります。
もっとも、債務者が債務免除を受ける場合、すでに債務者に十分な資力がないケースが少なくありません。
資力がないから債務を免除してもらったのに、税金を収めなければならないとすると免除の意味が薄れてしまいます。
そこで、債務者に十分な資力がない場合など、一定の要件を満たす債務免除については、その分については贈与税の課税が免除される措置が規定されています。
なお、通常の贈与の場合と同様に、法人から個人への債務免除については贈与税の課税対象になりません。
贈与税の計算方法
贈与税の課税対象になった場合に、具体的にどの金額の贈与税がかかってくるのか、贈与税の計算方法をご紹介します。
一般贈与と特例贈与で税率が異なる
贈与税として具体的にいくらかかるのかについては、一般贈与の場合と特例贈与の場合とで取り扱いが異なります。
一般贈与とは通常の贈与のことで、特例贈与に該当しない贈与一般を指すものです。
特例贈与とは、贈与があった年の1月1日現在において、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けた20歳以上の人(子や孫など)については、一般贈与とは異なる税率が適用されるという制度です。
例えば、祖父母から25歳の孫が300万円の贈与を受けた場合、特例贈与の税率が適用されます。
特例贈与に該当するかどうかを判断する際は、贈与があった年の1月1日の時点で20歳以上である必要がある点に注意しましょう。
例えば、贈与を受けた2019年5月16日に20歳であったとしても、2019年1月1日の時点では19歳だった場合、特例贈与の対象にはなりません。
贈与税の計算式
贈与税の具体的な金額の計算式は、以下の通りです。
(贈与の金額 − 110万円) × 税率 − 控除額 = 贈与税の額
計算式のうち、(贈与の金額 − 110万円)を課税価格といいます。
課税価格とは、税金の金額を決めるための基準となるもので、贈与された金額から基礎控除額の110万円を差し引いて求めます。
課税価格が確定したら、それに対応する税率を乗じた後に控除額を差し引きます。
税率と控除額は、課税価格の金額に応じて基準が定められています。
また、特例贈与と一般贈与で異なる基準が用いられます。
課税価格ごとの税率と控除額は、以下の表の通りです。
一般贈与の課税価格 | 税率(%) | 控除額(万円) |
---|---|---|
200万円以下 | 10 | なし |
200万円超~300万円以下 | 15 | 10 |
300万円超~400万円以下 | 20 | 25 |
400万円超~600万円以下 | 30 | 65 |
600万円超~1,000万円以下 | 40 | 125 |
1000万円超~1,500万円以下 | 45 | 175 |
1500万円超~3,000万円以下 | 50 | 250 |
3000万円超~4,500万円以下 | 55 | 400 |
4,500万円超 | 55 | 400 |
特例贈与の課税価格 | 税率(%) | 控除額(万円) |
---|---|---|
200万円以下 | 10 | なし |
200万円超~300万円以下 | 15 | 10 |
300万円超~400万円以下 | 15 | 10 |
400万円超~600万円以下 | 20 | 30 |
600万円超~1,000万円以下 | 30 | 90 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40 | 190 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45 | 265 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50 | 415 |
4,500万円超 | 55 | 640 |
贈与税の計算例:親から成人している子に贈与する場合
贈与を受け取る年の1月1日の時点で18歳以上である子や孫に対して、両親や祖父母などの直系尊属から贈与する場合に用いられるのは特例贈与財産になります。
ここでは例として親から子に1,000万円の贈与を行った場合の贈与税額を計算します。
贈与額1,000万円から基礎控除額110万円を差し引き、課税対象額は890万円となります。
890万円に特例贈与財産の1,000万円以下の税率である30%を乗じて、控除額90万円を差し引きます。
贈与税額は177万円となります。
計算例
親から成人の子に1,000万円の贈与を行った場合の贈与税額
(1,000万円 | - | 110万円) | ×30% | -90万円= | 177万円 |
贈与額 | 非課税枠 | 税率 | 控除額 | 贈与税額 |
贈与税の計算例:親から未成年の子に贈与する場合
同じように1,000万円を未成年の子に贈与する場合の計算例です。
未成年の子に贈与する場合は一般贈与財産となります。
贈与額の1,000万円から基礎控除額110万円を差し引いて課税対象額を890万円と算出するまでは同じです。
さらに、この課税対象額である890万円に一般贈与財産の1,000万円以下の税率である40%を乗じて控除額125万円を差し引きます。
贈与税額は231万円となります。特例贈与財産の税率より高めであることがわかります。
計算例
親から未成年の子に1,000万円の贈与を行った場合の贈与税額
(1,000万円 | - | 110万円) | ×40% | -125万円= | 231万円 |
贈与額 | 非課税枠 | 税率 | 控除額 | 贈与税額 |
贈与税の計算例:父と祖父から成人している子に贈与する場合
複数人から贈与を受け取った場合の計算例です。
ここでは例として成人している子が、同じ年に父親から60万円、祖父から70万円の贈与を受けた場合の贈与税額を計算します。
この年に子が受けた贈与は60万円+70万円で130万円となります。
この合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。課税対象額は20万円となります。
ここで間違えやすいのが基礎控除額110万円についてです。
贈与税の基礎控除額110万円は、その年に受け取った贈与全てに対しての額になります。
贈与者一人当たりに対しての基礎控除額ではありませんので気を付けましょう。
さらに課税対象額の20万円に特例贈与財産の200万円以下の税率である10%を乗じます。
贈与税額は2万円となります。
計算例
父から60万円、祖父から70万円を成人している子に贈与した場合の贈与税額
{(60万円 | + | 70万円) | –110万円} | ×10%= | 2万円 |
贈与額 | 非課税枠 | 税率 | 贈与税額 |
贈与税の計算例:特例贈与財産と一般贈与財産が混在する場合
特例贈与財産と一般贈与財産が混在する場合の計算例です。
ここでは例として成人している子が父から500万円贈与を受け、また、父の弟、叔父から300万円贈与を受けた場合の贈与税額を計算します。
この場合、父からの贈与は特例贈与財産となりますが、叔父からの贈与は一般贈与財産となります。
特例贈与財産と一般贈与財産それぞれ、同じ年に贈与を受けた場合には、贈与税の計算ではこのように計算をしていきます。
計算例
父から500万円、叔父から300万円を成人している子に贈与する場合の贈与税額
① 課税対象額を計算する
500万円 | + | 300万円 | –110万円= | 690万円 |
特例贈与 | 一般贈与 | 非課税枠 | 課税対象額 |
② 特例贈与財産に対する税額を計算する
690万円 | ×30% | –90万円= | 117万円 |
課税対象額 | 税率 | 控除額 | 贈与税額 |
117万円 | ×500万円/800万円(62.5%)= | 73万1,250円 |
贈与税額 | 贈与の総額に対する特例贈与が占める割合 | 特例贈与分の贈与税額 |
③ 一般贈与財産に対する税額を計算する
690万円 | ×40% | –125万円= | 151万円 |
課税対象額 | 税率 | 控除額 | 贈与税額 |
151万円 | ×300万円/800万円(37.5%)= | 56万6,250円 |
贈与税額 | 贈与の総額に対する一般贈与が占める割合 | 一般贈与分の贈与税額 |
④ ②と③の税額を合計する
73万1,250円 | + | 56万6,250円= | 56万6,250円 |
特例贈与分の贈与税額 | 一般贈与分の贈与税額 | 贈与税額 |
贈与税がかかる場合の申告の手順
年間で110万円以上の贈与を受けた場合、翌年の3月15日までに贈与税の申告手続きを行う必要があります。
納税までの手続きの流れを解説していきます。
贈与契約書の作成
贈与税の申告は契約書がなくてもできますが、契約書を作成しておくといざというときのトラブル防止に役立ちます。
贈与契約書を作成するための書式に厳密な決まりはありませんが、贈与した日付、誰が誰に贈与したか、何を贈与したか、署名捺印などが重要になります。
贈与税申告書の作成
贈与税を申告する場合、贈与税申告書を作成して提出します。
申告書は最寄りの税務署で入手するか、国税庁のホームページなどでダウンロードすることもできます。
申告書に記載する内容としては、贈与の当事者の住所、氏名、生年月日、贈与が行われた日、贈与された財産の種類などがあります。
贈与税申告書の作成が終わったら、贈与契約書のコピーを添えて税務署に提出します。
提出方法は直接持参する方法と、郵送する方法があります。
贈与税を納付する
贈与税を納税するためには、納付書を作成して対応する金融機関に持参します。
納付書は最寄りの税務署で入手することができます。
納付書の記載事項としては、税目、納付する人の住所と氏名、納付する税額などがあります。
贈与税申告書の提出と、贈与税の納税については、どちらが先でも特に問題はありません。
申告書の提出と贈与税の納付の両方を、贈与を受けた年の翌年の2月1日〜3月15日の期間に済ませておくことが重要です。
贈与税が非課税になる各種制度
年間110万円以上の贈与を受けたとしても、贈与税がかからずに非課税になる場合があります。
これは、一定の場合には贈与税の負担が発生しないことが望ましいという政策に基づく特例などによるものです。
以下、贈与税が非課税になる6種類の制度について、それぞれ解説していきます。
住宅取得資金等贈与の特例
住宅取得資金等贈与の特例とは、父母や祖父母などの直系尊属から、住宅を取得するための資金として贈与を受けた場合に、一定の金額について贈与税が非課税になる制度です。
非課税になる金額は、契約を締結した日と住宅の種類(省エネ住宅等に該当するか)によって異なり、300万円~3,000万円の範囲で非課税になります。
特例が適用されるためには、贈与を受けた子や孫が贈与を受けた年の1月1日の時点で20歳以上であること、贈与を受けた年の所得が2,000万円以下であること、などの要件を満たす必要があります。
教育資金の一括贈与の特例
教育資金の一括贈与の特例とは、父母や祖父母などの直系尊属から、30歳未満の方が教育資金として一括で贈与を受けた場合、最大で1,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。
教育資金は、塾や習い事など学校以外の用途に支出する場合でも特例の対象になりますが、その場合には非課税になる金額は500万円までになります。
注意点として、特例の適用を受けるためには、贈与を受けた人が金融機関で教育資金口座を開設する必要があります。
贈与の対象となる資金は教育資金口座に振り込まれますが、引き出した場合は支出した領収書を金融機関に提出することが必要です。
贈与税の配偶者控除の特例
贈与税の配偶者控除の特例とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自宅の不動産やその購入資金を贈与する場合、2,000万円までの配偶者控除が適用される制度です。
20年以上の長い期間を連れ添った夫婦に対して適用されることから、一般におしどり贈与と呼ばれるものです。
おしどり贈与は控除される金額が大きいですが、注意点として、贈与を行った翌年に確定申告を行う必要があります。
暦年贈与の非課税枠と合算できるので、実質的には2,110万円までが非課税になります。
同じ配偶者からの贈与は1回のみ適用され、翌年3月15日まで対象となった不動産に居住する必要があります。
相続時精算課税制度
60歳以上の父母または祖父母が、20歳以上の子または孫に対して贈与した場合に、2,500万円まで一時的に無税になるという制度です。
贈与の対象には不動産だけでなく金銭も含みます。
制度が適用されると2,500万円まで相続税がかからなくなりますが、一時的に無税になるのみで、将来的には税金を支払う必要がある点には注意が必要です。
税金を納付する時期を後回しにできるようなイメージです。
制度が適用されて一時的に無税になった金額については、贈与者が亡くなって相続が開始した場合に、相続税の課税対象として納付することになります。
結婚や子育て資金の一括贈与
20歳以上かつ50歳未満の人が、父母や祖父母などの直系尊属から、結婚や子育ての資金のための贈与を受けた場合に、最大で1,000万円までが非課税になる制度です。
扶養家族の結婚や出産の費用のための贈与については、もともと贈与税の課税対象になりませんが、結婚や出産の度に贈与を行う必要がありました。
制度を利用すれば、一括贈与が可能になります。
障害者への贈与
障害者に贈与した場合に、最大6,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。
特別障害者への贈与は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者への贈与は3,000万円までが非課税の対象です。
制度を利用するためには、資金を信託口座に預け入れて、金融機関から税務署に届け出をしてもらう必要があります。
隠れて贈与するのはおすすめできない
贈与を考えている人は「隠れて贈与すれば、税務署にもバレないし、税金もかからない」と思うかもしれません。
非課税枠を超えた贈与は税金がかかるため、しっかり贈与税を払う必要があります。
「なるべく贈与税を払いたくないから、贈与を隠したい」と思うかもしれませんが、隠れて贈与するのは非常に危険です。
なぜなら贈与が発覚したときには、通常よりも多い税金が課せられるからです。
隠れて贈与をして多く税金を払うよりも、素直に申告をして贈与税を払う方がお金もかかりません。
また贈与や相続では、税務署からの細かい調査が入ります。
「現金で贈与すればバレないだろう」と思っても、口座の入出金を細かくチェックされて、贈与が発覚する可能性があります。
このように隠れて贈与してたとしても、税務署にバレるリスクが高く、結果的に通常よりも多くの税金を払うことになるかもしれません。
初めから素直に申告をして、正しく贈与税を支払うのがいいでしょう。
贈与税対策をするなら税理士に相談しよう
「贈与をしたいけど、税金は払いたくない」と思うかもしれません。
贈与について悩んでいる人は、税理士への相談がおすすめです。
下記では、税理士に相談するメリットを紹介します。
非課税枠をうまく活用できる
贈与では、非課税枠が設けられている特例という仕組みがあります。
特例を使って、贈与を非課税枠に収めることで、贈与税がかからなくなります。
「贈与をするなら、特例をバンバン使えばいい!」と思うかもしれません。
しかし、特例を適用するには条件が細かく決まっていたり、そもそも特例の存在を知っておかなければ利用できないです。
そこで税務のプロである税理士に依頼すれば、使える特例をすべて適用できます。
贈与の案件を多く扱っている税理士であれば、知識・経験も豊富なので、一番節税できる方法で教えてくれるでしょう。
相続まで考えて対策できる
贈与で損をしないためには、相続まで考えて判断することが重要です。
なぜなら相続でも非課税枠が多く作られており、特例を使うことで税金対策できるからです。
贈与だけでなく、相続の案件に精通している税理士に依頼すれば、総合的に節税できる方法を教えてくれます。
また相続が発生すると、税務署の調査が入るケースもあります。
プロである税理士がいれば「どう対応すればいいのか?」といったアドバイスをもらえるでしょう。
このように贈与だけなく、相続のことまで考えるなら、税理士への依頼がおすすめです。
おわりに
贈与税は個人から個人へ贈与が行われた場合に発生する税金で、年間の贈与の総額が基礎控除額の110万円を超える場合には原則として贈与税の課税対象になります。
贈与税の課税額は、贈与の対象となった財産の金額によって異なります。
また、一般贈与と特例贈与では税率が異なり、特例贈与が適用されると一般的な贈与に比べて税率や控除額が優遇されます。
贈与税の控除が受けられる各種の特例に該当する場合は、忘れずに申請し、賢く贈与を行っていきましょう。