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最終更新日:2024/6/5

特定同族会社とは?同族会社との違いや判定方法・要件を解説

桑原 弾 (税理士・元国税調査官)
この記事の執筆者 元国税調査官・税理士 桑原弾

ベンチャーサポート相続税理士法人/社員税理士

大卒後、大阪国税局に採用。国税専門官として税務調査に従事した後、税理士としても10年を超えるキャリアを積み、現在は「相続に精通した税理士としての知識」と「元税務調査官としての経験」を両輪として活かした相続税申告を実践中。

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この記事でわかること

  • 特定同族会社と同族会社との違い
  • 特定同族会社の要件及び判定方法
  • 特定同族会社の税金の取り扱い

特定同族会社は、法人税法で規定された同族会社の一形態です。

同族会社では、経営者による租税回避が行われやすいことから、税法上特別の規定が設けられています。

さらに、1人の株主が支配する特定同族会社では、経営者が会社の利益を留保金に回すことによる個人の所得税回避が起こりやすいという問題があります。

その一方で、このような会社では経営者が自己所有の土地を事業用に使用することが多いため、相続により経営に影響が出やすくなります。

そのため、特定同族会社に対しては税制上、同族会社以上の租税回避防止が行われるとともに、相続税負担を緩和する特例が定められています。

今回は、特定同族会社について、同族会社との違い、特定同族会社の成立要件や判定方法、税金の取り扱いなどを解説します。

特定同族会社とは

特定同族会社とは、同族会社の中で一定の要件を満たす会社をいいます。

ここでは、同族会社の定義及び特定同族会社の定義をご説明します。

同族会社の定義

同族会社は以下のように定義されます。

株式の50%超を少数かつ特定の株主が保有する会社

同族会社とは、株主等の3人以下、並びにこれと特殊な関係にある個人及び法人の所有する株式が、その会社の発行済み株式の総数または出資金額の100分の50を超える会社」をいいます(法人税法第2条10号)。

以下、「株主並びにこれと特殊な関係にある個人及び法人」を「株主グループ」を表記します。

「特殊な関係にある個人や法人」の意味

「特殊な関係にある個人または法人」は以下を指します。

  • 株主等の親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)
  • 株主等と事実上の婚姻関係にある者
  • 株主等の個人的な使用人
  • 株主等から受ける金銭やその他の資産により生計を立てている者
  • 株主等並びに株主等と特殊関係のある個人及び法人で他の会社を支配している場合の、当該「支配されている側の」会社

ここでいう「支配している」とは、他の会社の発行済株式または出資の50%超を所有していることを指します。

株式の50%超を「1人の株主が所有する」のが特定同族会社

同族会社のうち、1つの株主グループの持株保有割合が50%超で、かつ資本金が1億円を超える会社を特定同族会社といいます(法人税法第67条1項・2項)。

「1人の株主グループ」は、事実上「社長とその一族」を意味します。

特定同族会社と同族会社の違い

前述したように、特定同族会社は同族会社の一形態といえますが、両者の違いは以下の2点にあります。

「被支配会社」の要件の有無

会社の株主のうち、「1グループのみ」の持株割合が50%超となっている場合、その会社を「被支配会社」といいます。

特定同族会社を判定する場合は、この「被支配会社」の要件があります。

これに対して、同族会社の判定要件は、持株割合50%超が「3グループ以下」の株主によるという点が異なっています。

「資本金1億円超または大会社の100%子会社」という要件の有無

また、特定同族会社は、被支配会社の要件を満たした上で、かつ以下の要件のいずれかを満たす必要があります。

  • 資本金額が1億円を超える
  • 大会社(資本金5億円以上の会社)の100%子会社である

ここで述べた2点すべてが該当するものを特定同族会社と判定しますが、同族会社にはこの要件は存在しません。

特定同族会社の判定方法・要件

特定同族会社は、以下の順序で判定できます。

  1. 同族会社の要件を満たすか否か
  2. 被支配会社の要件を満たすか否か
  3. 特定同族会社の要件を満たすか否か

以下、順に見ていきましょう。

同族会社の要件

まず、同族会社の要件を満たすか否かを判断します。

同族会社は、「3つ以下の株主グループによって所有される株式が、その会社の発行済み株式の総数または出資金額の50%を超える会社」をいいます。

被支配会社の要件

次に、同族会社の要件を満たす会社が、被支配会社の要件を満たすか否かを判断します。

被支配会社の要件は、「1つの株主グループが所有する株式が、その会社の発行済み株式総数または出資金額の50%を超える会社」です。

特定同族会社の要件

最後に、被支配会社が、特定同族会社の要件を満たすか否かを判断します。

特定同族会社の要件は、以下のいずれかを満たす会社です。

  • 資本金額が1億円を超える
  • 大会社(資本金5億円以上の会社)の100%子会社である

大会社の100%子会社の要件を満たす場合は、資本金額が1億円を超えていなくても特定同族会社に該当します。

これに対して、大会社の100%子会社の要件を満たさず、かつ資本金額が1億円を超えない場合は、特定同族会社に該当しません。

特定同族会社の税金の取り扱い

特定同族会社は、同族会社の中でも特に社長一族のみの意見で会社の行動を決定できるという特性があります。

そのため、不公正な慣行が行われないよう、以下のような課税制度の適用を受けています。

同族会社に適用される規定

まず、同族会社を対象とする以下の2つの制度の適用を受けます。

行為計算否認制度

行為計算否認制度とは、税務署長の権限によって、取引を否認される制度です(法人税法第132条の2)。

「取引の否認」とは、取引行為としては有効に成立していても、税務上は無効にすることを意味します。

税務署が行為や計算を否認した場合、同条に基づき、法人税の計算をやり直すことができます。

これは、同族会社で税負担を回避するために、経済的に合理性のない取引を行うのを防ぐ目的で定められた制度です。

ただし、実際に適用されることはあまりありません。

法人税法の「役員の範囲」に関する規定の適用

同族会社の従業員のうち、同族会社の「同族」の要件を満たし、かつ以下の要件を満たす場合は、役員とみなされます。これにより、当該従業員に対するボーナス(賞与)を損金(法人の経費)に参入できなくなります。(法人税法施行令第7条・法人税法第34条)。

  • 当該従業員が、上位3位以内の株主グループに属している
  • 当該従業員の属する株主グループの持株割合が10%を超える
  • 当該従業員及びその配偶者の持株割合が5%を超える
  • 当該従業員が当該会社の経営に関わっていると認められる

また、同族会社で、常時使用人としての職務に従事する役員であっても、一定割合以上の株式を保有している者は、税務上の使用人兼務役員にはあたりません(法人税法施行令第71条)。

したがって、これらの人に支払われる給与や賞与は、役員に対する給与や賞与とみなされます。

このため、支給額については役員報酬と同様、定款または株主総会の決議によって定める必要があります(会社法第361条)。

中小企業や小規模法人など、役員報酬について定款で定めていない会社の場合は、株主総会の決議によることになります。

留保金課税制度

特定同族会社には、内部留保に税金を課される留保金課税制度が適用されます。

会社と一体化した個人株主の所得税回避を防止する制度

留保金課税制度とは、特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超えた場合に、通常の所得に対する法人税額に加えて、留保所得に対して特別の税率による税額を加算する制度です(法人税法第67条)。

税制度上、一定の所得を超えると個人よりも法人の方が税負担は少なくなります。

特定同族会社では会社と個人株主が一体化しているため、これを利用して会社の利益を株主に配当せずに留保金として会社に残そうとすることが見込まれます。

留保金課税制度は、このような会社と個人の税率の差に着目した不当な所得税回避を防ぐ目的で定められました。

留保金課税額の計算方法

留保金課税額は、以下の式により算出した「留保金額」に対して、超過累進税率による税率を乗じたものとなります。

留保金額=所得-(法人税+法人事業税+法人住民税)-配当-留保控除額

留保控除額は、最低2,000万円です。

留保金額に対する税率は以下の通りです。

  • 年3,000万円以下:10%
  • 年3,000万円~1億円:15%
  • 年1億円超~:20%

たとえば、留保金額が2億円の場合、留保金課税額は以下のように算出します。

  1. 3,000万円以下:3,000万円×10% =300万円
  2. 3,000万円を超えて1億円を超えない金額:(1億円-3,000万円)×15%=1,050万円
  3. 1億円を超える金額:(2億円-1億円)×20%=2,000万円
  1. 300万円+1,050万円+2,000万円=3,350万円

小規模宅地等の特例の「特定同族会社事業用宅地」

特定同族会社が事業用に使用していた宅地については、一定の要件を満たせば租税特別措置法上の「小規模宅地等の特例」による評価額の減額が認められます。

制度が定められた目的

特定同族会社事業用宅地等の特例とは、特定同族会社の事業に用いていた宅地に対して、面積400㎡を限度として評価額を80%減額される特例をいいます(租税特別措置法第69条)。

特定同族会社に対してこの特例制度が適用される目的は、相続によって起こる会社経営への悪影響を防止することです。

自己所有の土地を会社に貸し付けていた経営者が亡くなった場合を考えてみましょう。

その経営者の相続人が相続税支払いのために土地を売却すると、所有者が地代の値上げや立ち退き要求などを行い、会社経営に悪影響が出る可能性があります。

そこで、被相続人が自ら経営していた会社に貸し付けていた土地の相続税評価額を減額することによって、相続税負担を軽減できるようこの特例が定められました。

この特例の適用を受けるには、以下の要件すべてを満たしている必要があります。

特例の適用要件

以下の要件が課せられる会社は、「特定同族会社」に該当する会社であることを前提とします。

  • 土地または土地上の建物を、特定同族会社に貸し付けていること
  • 特定同族会社への貸付が相当の対価で継続的に行われていること
  • 特定同族会社の事業(貸付事業等を除く)に使われていること
  • 相続税の申告期限において、相続人が当該会社の役員であること
  • 相続人が相続税の申告期限まで当該土地を所有していること
  • 相続税の申告期限まで当該土地が特定同族会社の事業に用いられていること
  • 相続開始の直前において被相続人および被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数または出資の総額の50パーセント超を有している場合におけるその法人

まとめ

特定同族会社については、留保金課税がある一方で「小規模宅地等の特例」による相続税の減税措置の適用を受けられます。

小規模宅地等の特例の要件を満たすかどうかを判断し、留保金課税額の計算を行う上で、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

特定同族会社についてご質問がありましたら、お気軽に税理士にご相談ください。

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