この記事でわかること
- 家族信託の手続き後に専用口座を作るメリットが分かる
- 信託財産の専用口座を作らないリスクがあることが理解できる
- 家族信託で口座開設をする際の金融機関の選び方が分かる
- 返済中や借入予定の場合などケース別に金融機関の選び方を解説
- 年金や預金額など家族信託の口座開設をする際の注意点が分かる
家族や親族が受託者となって財産管理を行う「家族信託」なら、認知機能が低下したときにも財産管理が容易にできます。
また、成年後見制度や遺言制度と組み合わせて利用すれば、不測の事態が発生しても、より安心で安全な財産管理や承継を実現することも可能です。
一方、家族信託では、信託契約を結んだら、受託者が財産管理を行うことができるように、金融機関に口座を開設する必要があります。
ただし、受託者が管理する口座は、家族信託専用のものを開設すればメリットがある反面、専用のものでなければリスクが発生します。
以下では、専用口座を作るメリットや作らないリスク、口座を開設する金融機関の選び方、口座開設の際の注意点について紹介します。
目次
家族信託の手続き後に専用口座を作るメリット
金銭や不動産、株式などを信託財産と定めても、受託者となった家族などが管理するためには、専用の口座を開設する必要があります。
なぜなら、親の口座にあるままの財産では、認知症などで入出金ができなくなったときに家族が管理できないからです。
また、専用口座を作ることで得られるメリットもあります。
一体どのようなメリットがあるのか、詳しく解説していきます。
親が認知症になっても、 預金が銀行窓口でおろせる
家族信託専用に口座を開設すれば、家族信託契約の範囲内で、受託者が自身の判断により金銭管理を行うことができます。
つまり、親が認知症になった場合でも、受託者は親の生活や介護費用、家の維持管理費用などを信託財産から支出できるのです。
また、親自身が管理する財産とは切り離されるため、高齢者が狙われやすい振り込み詐欺などを未然に防ぐことにもつながります。
受託者個人の債権者が信託財産を差し押さえできない
信託口口座であれば、受託者の個人的な財産とは切り離されて、家族信託だけを目的とする口座として管理されます。
このため、受託者に個人的な債務があって、返済に窮するような事態や破産に至った場合でも、債権者は隠宅財産の差し押さえができません。
つまり、受託者個人の財産と分離して、信託財産が保全できるというメリットがあるのです。
委託者や受益者の死亡により口座が凍結されない
また、信託口口座は受託者の個人的な財産とは切り離されているため、委託者や受益者が死亡した場合にも本人の相続財産にはなりません。
通常、個人の口座は本人の死亡とともに閉鎖されることになりますが、信託法に基づく信託口口座なら個人の財産ではないため、凍結されることはありません。
信託財産の専用口座を作らないリスク
家族信託契約を結んでも、信託財産専用に口座を作らない場合は、入出金できないリスクや、受託者の個人的な財産と混じってしまうリスクなどが発生します。
「受託者」個人の口座で管理する場合
受託者名義の個人口座で信託財産を管理する場合は、受託者の個人的な財産となり、破産や死亡時にはトラブルが発生する懸念があります。
特に、委託者よりも先に受託者が死亡した時は、受託者の口座は個人の相続財産に混じってしまうリスクがあるのです。
受託者が先に亡くなった場合
信託契約書で信託専用口座であることが記載されていれば、相続税や贈与税に関する問題は生じないものの、死亡に伴って口座が凍結されます。
このため、口座の信託財産を利用するには、相続人が金融機関で相続手続きを行って、受託を引き継ぐ方に信託財産を引き渡す必要があります。
また、遺言がなければ、戸籍を調べて相続人を確定した上で遺産分割協議を行い、金融機関で口座の解約や名義変更を行う必要もあります。
受託者個人の相続財産と混じってしまえば、信託財産の引渡しがスムーズにできず、場合によっては訴訟に発展するケースも考えられます。
受託者が破産した場合
一方、受託者が、破産などの個人的な債務の返済が困難な状況に陥った場合は、債権者に差し押さえられるリスクがあります。
信託財産が差し押さえられてしまえば、訴訟を起こして、返還請求や差し押さえの解除を主張しなければならない事態も発生しかねません。
「委託者」個人の口座で管理する場合
また、委託者である親の口座のままで管理する場合は、委託者が認知症など入出金できない状態になってしまうと、成年後見人などの手続きが必要になります。
信託契約書で親の預金口座を指定したとしても、受託者となった家族は、親名義の口座にある財産を自由に出金できるわけではありません。
というのも、家族信託契約では受託者が財産管理を行うことができるものの、成年後見人のような代理人ではないからです。
この点は勘違いされがちですが、家族信託契約書があっても、委託者名義の預貯金を自由に管理できるわけではないことに注意が必要です。
家族信託で口座開設をする金融機関の選び方
家族信託では、専用口座の開設が重要ですが、どの金融機関で開設するかも重要な問題です。
信託口口座は、全国どこでもすべての金融機関で開設できるわけではなく、口座開設にかかる時間や利便性にも注意する必要があります。
口座開設にかかる時間
家族信託契約は私文書として作成すれば成立しますが、信託口口座を開設する場合、金融機関で法的な有効性などを審査されることになります。
すべての金融機関が、信託法に基づく家族信託に必ずしも精通しているわけではなく、法的な審査を弁護士などに依頼して確認するため、時間がかかるのです。
家族信託契約書を公正証書として要求する金融機関もあるため、一般の口座開設のように短時間で済ますことができない現実があります。
ATMの有無
開設する口座は、受託者にとって利便性が良いものであることが、管理のしやすさに影響を及ぼします。
受託者は、不動産の賃貸収入などで発生する信託財産の増加や、生活費や介護費用、家の維持管理費用などの支出を管理します。
これを全て金融機関の窓口で行うことになると、受託者の負担がかなり大きなものとなるため、利便性が高いことが求められます。
この点では、ATMが利用できる信託口口座であれば、受託後の財産管理がスムーズになります。
家族信託の取り扱いがあるか
信託口口座は、全極すべての金融機関が取り扱っているわけではありません。
家族信託は、2007年の信託法改正に伴って普及し始めたのですが、現在でもすべての金融機関が取り扱う段階には至っていません。
したがって、普段から取引のあるすべての金融機関において、信託口口座を開設できるとは限らないことに注意が必要です。
家族信託専用に口座を開設したと思っても、実は、受託者個人名義の口座であるようなケースもあり得ます。
ケース別に金融機関の選び方を解説
口座を開設する金融機関を選ぶ際は、手続きの時間や利便性、家族信託の取扱いの有無のほかに、これまで取引があったかもポイントになります。
- ・不動産ローンを利用しているケース
- ・信託財産を担保に融資を受けたいケース
- ・信託財産が担保になっているケース
では、選び方に注意が必要です。
ケース別に、金融機関の選び方を確認していきましょう。
受益者の不動産ローンを返済している場合
受益者が住宅ローンを返済しているケースでは、信託口口座の開設と、住宅ローンの返済を行う金融機関を同一にすると、手続きがスムーズです。
信託財産から受益者の住宅ローンを返済する場合に、どちらも同一の金融機関にあれば、煩わしい手続きや振り込みの手間などを省くことができます。
住宅ローンを返済中の不動産であれば抵当権が設定されているものの、同じ金融機関であれば、抵当権が問題になる恐れも少なく、手続きがスムーズです。
また、有利なローンの借り換えがあれば、それを利用することや、信託財産に収益不動産があれば、収支をまとめて管理することも可能になります。
信託財産を担保に借入を検討している場合
家族信託の対象となる財産を基に、受託者が融資を受けることができる、信託内買入を提供している金融機関もあります。
信託内借入は、信託契約で受託者に与えられた借入権限をもとに行う融資です。
受託者が金銭消費貸借契約の契約者となり、金融機関から借り入れた金銭は信託財産に組み込まれます。
すべての金融機関が取り扱っているわけではないものの、信託口口座を開設できる金融機関では対応していることが多くなっています。
信託財産である土地や金銭を活用して住宅ローンなどを組みたい場合は、信託内借入ができる信託口口座のある金融機関を選ぶことがポイントです。
既に受益者の不動産が担保になっている場合
家族信託では、不動産が対象の場合に信託登記手続きが必要です。
信託契約では、受任者が財産を分別して管理しなければならない義務の一環として、所有者の位置づけを明確にする信託登記の手続きが必要です。
信託登記は所有権移転登記の一種で、所有者には「受託者」の位置づけとともに、住所と氏名が登録されることになります。
この際、すでに対象となる不動産が担保になって抵当権が設定されている場合は、抵当権者の承諾が必要になります。
つまり、融資を受けている金融機関の承諾なしでは、信託登記を行うことができません。
承諾なしで信託登記をした場合は、残る返済額の一括返済を求められるなどのトラブルの原因となるため、事前に必ず金融機関の承諾を得る必要があります。
この点では、担保の原因となっている住宅ローンの融資先と、信託口座の開設金融機関を同一にしておけば、手続きをスムーズに進めることができます。
家族信託の口座開設をする際の注意点
全国すべての金融機関が取り扱っているわけではないことなどを確認してきましたが、取扱いがある場合でも開設の際に注意すべき点があります。
以下では、信託口座での年金受取や、開設する口座への預入額など、口座開設に際しての注意点を紹介します。
受託者の年金は信託財産管理用口座では受け取れない
家族信託の対象となる財産には、一身上の権利や金銭的な価値に換算できない財産を含めることができないという制限があります。
年金の受給権は、権利がある人だけに属する「一身専属権」であるため、信託財産に含めることはできず、家族信託用の口座で受け取ることができません。
また、そのほかに生活保護受給権なども信託財産の対象とすることができず、本人や後見人などの口座でなければ受給できません。
預金額によっては家族信託の口座開設を断られるかもしれない
金融機関によって扱いは異なるものの、信託口座に預け入れる最低額が設定されていることもあります。
たとえば、預入金額を3,000万円以上として、制限を設けている金融機関も存在します。
また、口座開設の最低額のほか、口座開設手続きの流れや期間、開設後の融資などの運用も、各金融機関によって異なっています。
そもそも、家族信託の専用口座を取り扱っている金融機関は、未だにそれほど多くはないため、事前に確認しておく必要があります。
このため、家族信託を検討する際は、専門家に相談して、取り扱い金融機関の情報も入手しておくことがおすすめです。
受託者個人の財産とは切り離して管理できる機能の有無
繰り返しになりますが、家族信託で開設する口座には、受託者個人の財産とは切り離して管理できる機能が必要です。
特に、信託口口座には、個人名義の口座とは異なる、債権者からの差し押さえを防ぐことができる機能、死亡した場合に凍結されない機能があります。
金融機関によっては、名称は信託専用口座であっても、単に屋号が利用できる普通口座であるケースなども存在することに注意が必要です。
財産管理のリスクを減らすことが目的の家族信託ですから、トラブルの原因となるような信託口座の選択は避けたいものです。
信託契約書は公正証書が求められるケースも
信託法に基づく信託契約書は、私文書のままでも成立しますが、金融機関では一般的に公正証書として作成したものを求められる傾向があります。
また、信託契約書の作成について、金融機関が指定する専門家の関与が求められるケースがあるほか、金融機関ごとの個別要件が設定されている場合もあります。
「信託口口座」が開設できない場合の代替法
信託口口座を開設できれば良いのですが、全国すべての金融機関が取り扱っているわけではないため、居住地によっては利用できないこともあり得ます。
実際のところ、このような場合には、新たに信託専用に開設する受託者名義の個人口座で代替する方法も利用されています。
基本的には、受託者個人の財産と分別して管理できる機能があれば、家族信託に必要な最低限の基準を満たすことになります。
家族信託用に専用口座を利用する際は、相続税や贈与税の対象にならずに済むよう、信託契約に金融機関名や口座番号、名義人などを明記しておきます。
ただし、開設しやすいメリットなどはあるものの、個人の口座であることから発生するデメリットを十分に検討して判断することが大切です。
個人口座で代用するメリット
信託口口座を取り扱っている金融機関が近くにない場合や、取り扱っていても利便性が不十分な場合に、金融機関の選択肢が広がります。
また、受託者個人の名義で開設するため、キャッシュカードやインターネットバンキングも利用できるなど、利便性が良いものを選択できます。
個人口座で代用するデメリット
しかしながら、代用する口座は、あくまでも受託者個人の口座であることに注意しなければなりません。
受託者が委託者よりも先に亡くなった場合は、口座が凍結されてしまいます。
口座が凍結された場合は、法定相続人が相続手続きを行って、信託財産分を新たな受託者に引き継がれるようにしなければなりません。
また、受託者が経済的に破綻して、破産してしまった場合などには、債権者が信託財産を差し押さえる恐れがあります。
まとめ
家族信託契約書を作成し、信託口口座が開設できれば、受託者が信託契約に基づいた財産管理を行う準備ができたことになります。
ただし、受託者は成年後見人のような代理人ではないため、信託口座への入金を、委託者自身が行わなければならないことを見落としがちです。
受託者は、金融機関の窓口に家族信託契約書を持参しても、委託者名義の預金を引き出すことはできません。
受託者の役割は、あくまでも委託者が入金したあとの信託口座の財産を管理することである点に注意が必要です。
家族信託契約は、身内だけで作成して実行できることがメリットですが、後日トラブルが発生してしまうリスクも抱えています。
特に、信託専用口座の選択や、契約書の法的有効性などが原因で、「こんなはずではなかった」といった後悔を生じることにもなりかねません。
家族信託を検討する際は、将来的なトラブルを回避するため、家族信託に精通した専門家に相談することをおすすすめします。
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