この記事でわかること
- 被相続人が借金を残した場合には相続放棄できることがわかる
- 相続放棄の手続きは誰が行う必要があるのかを知ることができる
- 相続放棄する際に法定相続人が誰かを調べる方法がわかる
亡くなった人が多くの借金を残していた場合、その借金は相続人が引き継いで返済しなければなりません。
ただ、あまりにも借金が多くある場合には、すべての財産を引き継がない相続放棄を選択することもでき、これを相続放棄といいます。
相続放棄を行う場合、単にその手続きを行えばいいわけではなく、すべての親族が借金を引き継がなくていいようにする必要があります。
では、相続放棄をする際にはどのような注意点があるのでしょうか。
目次
相続放棄とは
相続放棄は、被相続人(亡くなった人)のすべての財産を引き継がない(放棄する)手続きのことを言います。
遺産分割協議の結果、財産を何も相続しない場合とは異なり、家庭裁判所で相続放棄の手続きに必要な書類を提出することで認められます。
放棄の対象となるのは、被相続人のすべての財産であり、現預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
そのため、相続放棄をした場合、プラスの財産とマイナスの財産、いずれも相続人が引き継ぐことはありません。
相続放棄をすることで、被相続人が残した借金を引き継ぐことがなくなります。
借金の相続範囲はどこまで?
借金がある人が亡くなると、その借金は相続人が自動的に相続することとなります。
しかし、相続放棄すればすべての財産を相続できなくなる代わりに、借金を相続することもなくなります。
ただ、相続放棄すると他の人が法定相続人になることもあるため、相続放棄しなければならない人が増えることがあります。
では、一体どのような人が相続放棄をする必要があるのでしょうか。
被相続人の配偶者
亡くなった人の配偶者は、必ず法定相続人になることとされています。
そのため、借金を相続したくない場合には、必ず相続放棄をしなければなりません。
なお、配偶者が相続放棄しても、他の法定相続人の相続権に直接影響することはありません。
被相続人の子ども
亡くなった人の子どもは、第一順位の法定相続人です。
そのため、配偶者がいる・いないにかかわらず、子どもは法定相続人となります。
もし、被相続人の借金を相続したくないのであれば、相続放棄をしなければなりません。
子どもが全員相続放棄すれば、相続権は第二順位の法定相続人に移ります。
被相続人の親
亡くなった人の親が存命である時に、法定相続人となる場合があります。
①子どもが1人もいない場合、②子どもがすべて相続放棄した場合です。
なお、①については配偶者がいても関係ありませんし、②についても配偶者が相続放棄していなくても親が法定相続人になります。
このような場合には、被相続人の親が第二順位の法定相続人として、相続権を持つこととなるのです。
もし、被相続人の借金を引き継ぎたくないのであれば、相続放棄の手続きを行う必要があります。
親が相続放棄を行うと、相続権は第三順位の法定相続人に移ります。
被相続人の兄弟姉妹
亡くなった人の兄弟姉妹が法定相続人になる場合があります。
①被相続人の子どもや親など先順位の法定相続人がいない場合、②先順位の法定相続人がすべて相続放棄した場合です。
親が法定相続人になる場合と同様、配偶者がいるかいないかは兄弟姉妹が法定相続人になるかどうかには影響しません。
兄弟姉妹が被相続人の借金を相続したくないのであれば、相続放棄をしなければなりません。
被相続人の孫
被相続人の孫は、通常、法定相続人にはなりません。
ただし、被相続人の子どもがすでに亡くなっている場合、孫は代襲相続人となるため、法定相続人となります。
代襲相続人となった孫は、被相続人の借金を相続することとなるため、相続したくない場合は相続放棄しなければなりません。
一方、代襲相続とならない場合は、親が相続放棄した後にも孫に相続権が移ることはありません。
そのため、孫として特別な手続きをする必要はありません。
被相続人の甥や姪
被相続人の甥や姪も、通常は法定相続人になりません。
ただし、甥や姪の親は、被相続人の兄弟姉妹にあたります。
被相続人の兄弟姉妹が亡くなって代襲相続となった場合は、甥や姪が法定相続人になり、相続分が発生します。
兄弟姉妹が法定相続人となる場合は、被相続人に子どもも親もいないか、すべての子どもや親が相続放棄した場合です。
その時、代襲相続人となった甥や姪が借金を相続しないためには、相続放棄する必要があります。
相続人の有無を確かめる方法
被相続人の借金を相続したくないからということで、配偶者やすべての子どもが相続放棄することがあります。
ただ、相続放棄できていなかった子どもがいたとすれば、その人がすべての借金を相続することとなってしまいます。
そうならないよう、どのようにして法定相続人の存在を確認するといいのでしょうか。
存在を知らない子どもがいる可能性もある
相続人の確認をする方法を解説する前に、存在を知らない法定相続人がいる理由を2つ紹介しましょう。
1つは、生前に被相続人との関係が希薄であった場合です。
父親と母親が離婚してしまい、いずれか一緒に生活をしていなかった人がいると、ほとんど交流がない場合があります。
そのため、他に子どもが何人いるのかわからないことも決して珍しくありません。
もう1つは、親、特に父親に隠し子がいる場合です。
隠し子というくらいですから、一緒に生活していた家族もその存在を知らないということがあるのです。
相続人を確認する方法
他に子どもがいないかを確認するためには、まず被相続人の戸籍謄本を調べましょう。
戸籍謄本を確認することで、誰と結婚し、どれだけの子どもがいるかがわかります。
ただ、戸籍謄本は現在の家族の状況を知ることはできますが、過去の家族関係を知ることはできません。
そこで、原戸籍と呼ばれる戸籍を取得し、その内容を確認する必要があります。
原戸籍を確認することで、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての親族関係を知ることができます。
被相続人に何人の兄弟がいるのか、被相続人は何人の子どもがいるのか、過去に離婚歴はないかなどをすべて知ることができます。
原戸籍を取得して、被相続人にはどのような相続人がいるのかを確認するようにしましょう。
借金を相続放棄する際の注意点
借金を相続しないために、被相続人の財産をすべて相続しないという決断をした場合、どのような注意点があるでしょうか。
相続放棄したのに、別の問題を抱えることのないよう、あらかじめ注意点を理解しておく必要があります。
相続放棄と相続しないのはまったく違う
借金を相続しない代わりに、他の財産も相続しないという場合、相続放棄以外の選択肢もあります。
それは、遺産分割協議を行った際に、一切の財産を相続しないこととする場合です。
一切の財産を相続しない代わりに、借金も引き継がないこととするのです。
ただ、この遺産分割協議での決定は、あくまでも相続人同士の話し合いの結論です。
遺産分割協議で借金を相続しなかったからといって、債権者に対して返済を拒否する理由にはなりません。
そのため、借金を引き継いだ相続人がその返済をできなくなった場合、他の相続人に請求がくることがあります。
ここで債権者に対して返済を拒むためには、相続放棄をしておくしかないのです。
相続放棄と相続しないということは、まったく異なる手続きであることに注意が必要です。
相続放棄をするには期限がある
相続放棄とは、法的に相続権を放棄して、一切の財産を相続しないこととする手続きです。
この手続きを行うには、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し、受理される必要があります。
この申述書の提出期限は、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内となっています。
通常、第一順位の法定相続人は亡くなった日から3か月以内となります。
また、第一順位の法定相続人である子どもが全員相続放棄をすると、次順位の法定相続人に相続権が移ります。
このようなケースで、次順位の法定相続人が相続放棄を行う際にも、やはり期限が定められています。
この場合は、亡くなった日からではなく、先順位の相続人が全員相続放棄をしたことを知った日からとなります。
そのため、実際には亡くなった日から3か月以上経過していても相続放棄が認められる場合があります。
次順位の法定相続人に連絡をしておく
相続放棄をすると、相続権は次順位の法定相続人に移ることがあります。
ただ、このような手続きを裁判所が行ってくれるわけではありません。
そのため、相続放棄した際には、必ず次順位の法定相続人に相続放棄したことを伝えておく必要があります。
連絡を受けた次順位の法定相続人は、その日から3か月以内に相続放棄するかどうかを決断しなければなりません。
もし相続放棄して、相続権がさらに次順位の法定相続人に移る場合には、さらに次順位の法定相続人に連絡する必要があるのです。
被相続人の財産には手をつけない
相続放棄を検討しているなら、被相続人の財産に手をつけないように注意しましょう。
例えば借金があるけど、預貯金が少し残っているケースもあるかもしれません。
「被相続人の借金を減らすために、預貯金から返済しよう」と考えて、被相続人の財産を使うのはおすすめできません。
なぜなら、被相続人の財産を使うことで「相続を認めた」と判断されて、相続放棄できなくなる可能性があるからです。
預貯金以外にも、家具・貴金属なども同様に財産としてカウントされるため注意しましょう。
どうしても支払いが必要な場合は、相続人の財産から支払いをした方が安全です。
相続財産の取り扱いについては、専門家である税理士に相談して、間違いない方法で進めるのがいいでしょう。
相続放棄しても財産管理は行う
相続放棄すれば、借金だけでなくすべての財産を相続する権利が消滅します。
ただし、その財産の新たな相続人が決定するまでは、管理を行う必要があります。
たとえば、被相続人が住んでいた家屋などは、倒壊や損壊の危険がないように管理しなければなりません。
もし、家屋が損壊して他人に損害を与えてしまうと、損害賠償責任を負うこととなるので注意が必要です。
相続放棄の流れについて
ここからは相続放棄の流れについて紹介します。
- ・相続財産を調査する
- ・相続放棄・限定承認か決める
- ・必要書類を集めて家庭裁判所に提出する
- ・通知書を受け取り債権者に連絡する
相続財産を調査する
相続放棄を決める前に、相続する財産がどれだけあるのか調査します。
「財産はなくて借金だけ」という人もいるかもしれませんが、財産の見落としがないチェックしておきましょう。
財産は預貯金以外に、株式・不動産・貴金属・自動車なども含まれます。
見落としが不安な方は、相続に慣れている専門家に依頼するのがおすすめです。
相続放棄・限定承認か決める
相続財産が把握できれば、相続方法を決めます。
借金で相続放棄を検討している場合は、相続放棄が限定承認のどちらかになるでしょう。
限定承認とは、相続財産の一部だけ相続する方法になります。
相続財産が借金だけでなくプラスの財産もある場合に、借金を清算してプラスの財産のみ相続できます。
さらに、相続財産の中でどうしても手放したくないものがあるときにも活用できます。
相続放棄はプラスの財産も含めてすべての相続を放棄する方法です。
相続放棄・限定承認のどちらがいいかは相続の状況によって異なります。
必要書類を集めて家庭裁判所に提出する
相続の方法が決まれば、必要な書類を揃えて、家庭裁判所へ提出します。
相続放棄の場合は、相続放棄申述書・戸籍謄本などが必要になります。
相続放棄をするなら、相続が発生してから3ヶ月が期限になるため注意しましょう。
期限に遅れるのが心配であれば、税理士へ相談して、スムーズに手続きを進めるのがおすすめです。
通知書を受け取り債権者に連絡する
相続放棄が認められると、家庭裁判所から通知書が送られてきます。
通知書を受け取ることで、相続放棄の手続きは完了します。
相続放棄が完了したら、通知書をコピーして、債権者へ連絡しましょう。
まとめ
亡くなった人が多額の借金を抱えているような場合は、相続放棄を行うことが現実的な選択肢となります。
この時、遺産分割協議で財産を相続しないこととしても、手続きをしなければ相続放棄したことにはならないので注意が必要です。
また、相続放棄には期限が定められているため、必ず期限内に手続きを行う必要があります。
子どもが全員相続放棄すれば、次順位の法定相続人に相続権が移るため、相続放棄したことは必ず次順位の相続人に連絡するようにしましょう。