この記事でわかること
- 成年後見制度の目的や背景がわかる
- 成年後見制度の種類がわかる
- 成年後見制度の手続きの流れがわかる
- 成年後見制度を利用するメリット・デメリットがわかる
成年後見制度とは、どのような制度なのでしょうか?
高齢化が進む中、成年後見制度は年々利用率が上がっています。
成年後見制度はとても優良な制度なのですが、制度内容を把握しておかないと、その恩恵を最大限受け取ることができなくなってしまうので注意が必要です。
そのため今回は、成年後見制度とはどのような制度なのか、利用するメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
目次
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、成人で認知症などにより判断能力が低下したときに、代理で契約や財産管理のサポートを行なってくれる人である、「成年後見人」を家庭裁判所から選任してもらう制度です。
成年後見制度の目的は、「本人の保護・本人の意思や自己決定権の尊重・ノーマライゼーション(障害のある方でも家庭・地域で通常の生活を送ることができる社会作り」です。
成年後見制度の利用率が上がっている背景には、高齢化に伴って認知症の高齢者等が増加していることがあります。
成年後見制度には、意思決定が難しくなってから後見人を選定する「法定後見制度」と、意思決定ができる内から将来に備えて後見人を選定しておく「任意後見制度」の2種類あります。
この2つの制度の目的の違いについて、次章で確認していきましょう。
法定後見制度と任意後見制度の違い
「法定後見制度」と「任意後見制度」の違いは以下のとおりです。
法定後見制度 | 任意後見制度 | |
---|---|---|
概要 | 法定後見制度は認知症などによって判断能力が不十分になった後、法律のルールによって後見人を指定する制度 | 将来的に判断能力が不十分になってしまったときに備えて、あらかじめ後見人となる人を定めておく制度 |
申し立て人 | 本人、配偶者、親族(四等親内)、検察官、市町村など | 本人、配偶者、親族(四等親内)、本人同意の任意後見人となる人 |
後見人等の権限 | 本人が締結した契約の取消しや、一定範囲の代理 | 任意後見契約で定めた範囲での代理 |
後見人になれない人 | 未成年、過去に家庭裁判所から解任された経験のある法定代理人、保佐人、補助人、破産手続きを行っている人、連絡が取れない人、過去に本人に対して訴訟を起こしたことがある人、不正行為や不行跡がある人 | |
後見人等の 選任方法 | 家庭裁判所 | 本人 |
法定後見制度と任意後見制度の大きな違いは、申し立て時点で本人に事理弁識能力があるかどうかです。
事理弁識能力とは、自らがとった行動により引き起こされる事柄に法的な責任が生じるかどうかを認識できたり、有効な意思表示ができたりする能力のことを言います。
法定後見制度ではさらに、事理弁識能力の程度に合わせて「後見人」「保佐人」「補助人」のいずれかが選出されることになります。
後見人等が選任されるまでの手続きの流れ
法定後見制度と任意後見制度で、後見人が選任されるまでの流れは上記のようになっています。
法定後見制度と異なり、任意後見制度では本人の事理弁識能力があるうちに、本人が後見人となる人を選びます。
その際、本人と後見人の間で公正証書により任意後見契約の締結が必要です。
後見人の仕事がスタートする際には、任意後見人が契約内容どおりの適正な仕事をしているかどうかを監督する、任意後見監督人が選任されることになっています。
成年後見人制度の具体的な手続の流れ
(1)成年後見・保佐・補助開始の申立て
(2)審理
(3)審判
(4)審判確定、告知・通知
(5)成年後見登記
(6)成年後見制度の開始
なお、補助開始については本人以外の者が申立てる場合、本人の同意が必要となるため、本人の意思をあらかじめ確認することが必要です。
成年後見制度を利用する際は、家庭裁判所、市区町村の高齢者福祉課等に相談しましょう。
成年後見制度が開始されるまでの期間
成年後見制度の手続きにかかる期間は、申立から後見人が選任されるまで3〜5か月ほどです。
家庭裁判所は、申立後に候補者の調査や本人への陳述聴取、医師への聞き取りなどを行うため、審理に一定の時間がかかります。
ただし、個々の事案によって状況が異なるため、審理期間が短くなることもあります。
成年後見制度の申し立てに必要な書類
成年後見制度の申し立てには以下のような書類が必要になりますので、準備しておきましょう。
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)(発行から3か月以内のもの)
- 本人の住民票又は戸籍附票(発行から3か月以内のもの)
- 成年後見人等候補者の住民票又は戸籍附票(発行から3か月以内のもの)
- 本人の診断書(発行から3か月以内のもの・家庭裁判所が定める様式のもの)
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書(発行から3か月以内のもの)
- 本人の財産に関する資料
法定後見制度の3類型「成年後見人」「保佐人」「補助人」の違い
法定後見制度の後見人には「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3種類があります。
成年後見人 | 保佐人 | 補助人 | |
---|---|---|---|
本人の 判断能力 |
重度の認知症など、判断能力がない | 判断能力が不足しているが、日常生活に問題はない | 普通の人よりも判断力が劣るが、日常生活に問題ない程度 |
代理権 | ○ ※契約などの法律行為全般 |
○ ※家庭裁判所が定めた範囲 |
○ ※家庭裁判所が定めた範囲 |
同意権 | × ※代理権があるため |
○ ※民法13条1項 |
○ ※民法13条1項の一部 |
取消権 | ○ ※法律行為全てにおいて |
○ ※民法13条1項 |
○ ※民法13条1項の一部 |
本人の判断能力に応じてサポートする範囲も異なってきます。
その違いがそのまま、成年後見人、保佐人、補助人を専任する違いになります。
また上記の表のとおり、それぞれのサポート範囲に応じて与えられる権限も異なります。
後見人制度の利用にかかる費用
後見人制度を利用する際、以下のような費用が発生します。
法定後見制度 | 任意後見制度 |
---|---|
|
|
参考:裁判所、地域後見推進プロジェクト
先述のとおり、任意後見制度は公正証書で任意後見契約を結ぶ必要があるため、法定後見制度を利用するよりも多くの費用がかかります。
そして、これらの発生した費用は申立人が支払うことになります。
後見人の仕事がスタートした後は、事務作業の手数料などで、毎月本人から後見人に報酬の支払いが行われます。
後見人が報酬を受け取るには、家庭裁判所に対して報酬付与の申立てを行い、審判を得る必要があります。
後見人への報酬は、被後見人の財産やその地域の物価などを鑑み、基本報酬の一般的な相場としては、月額2~6万円程度となっています。
*¹鑑定とは、医師やその他適任者によって本人の事理弁識能力などの状況を判断してもらう診断のことです。必ず行うべきものではなく、明らかに必要のない場合は鑑定を避けることもできます。そのため、鑑定費用は場合によっては発生しないこともあります。
成年後見制度の利用が必要なケース
成年後見制度は、判断能力が低下したすべての人に利用が必要というわけではなく、ある程度の目的をもって利用する制度です。
ではどのようなケースで成年後見制度の利用が必要になるか、5つの具体例をみていきましょう。
銀行手続きを任せたい
原則として、預貯金の出し入れなど銀行手続きは口座名義人しかできず、本人以外が手続きする際には委任状の提出が条件になります。
しかし本人の判断力が低下していると委任状の作成も困難です。
このようなケースでは成年後見制度の利用が有効であり、本人に代わって成年後見人が銀行手続きを行います。
入院費や介護施設の入居費について、本人(被後見人)の預貯金から支払いたい場合にも、成年後見制度の利用が有効でしょう。
介護サービスを利用したい
判断力が衰えている状態で介護施設や高齢者施設に入所する場合、法定代理人となる成年後見人しか契約を締結できません。
また、介護保険の契約も成年後見人しか認められておらず、家族であっても代理人にはなれません。
不動産管理または処分(売却)を任せたい
賃貸事業を行っている方が認知症になった場合、不動産は成年後見人に管理してもらうことになります。
また、不動産を処分(売却)する際も家族は代理人になれませんが、成年後見制度の利用により契約代行が可能になります。
なお、介護施設等の入居費用に充てるため自宅を売却するケースもありますが、居住用不動産の売却については家庭裁判所の許可が必要です。
遺産分割協議が必要
話し合いで遺産の分け方を決める場合、相続人全員の参加が必須条件です。
この話し合いを遺産分割協議といいますが、判断力が低下している人は協議に参加できません。
しかし成年後見制度の利用により、後見人が本人の代理人として協議に参加できるので、遺産分割を進めたい場合にも成年後見制度の利用は有効です。
身上監護が必要
成年後見人の職務には身上監護があり、わかりやすくいうと「契約行為」や「法律行為」を代行することです。
例えば病院へ入院する、または要介護認定の申請や住居の確保などを行い、費用の支払いも代行します。
さらに契約内容が正しく実行されているか監視し、必要に応じて改善要求もするため、成年後見制度の利用により被後見人の法的立場も守られます。
なお、看護や介護と混同されやすく、食事の世話なども成年後見人の職務領域と思われがちですが、あくまでも生活全般や療養看護に関する手続きの代行となります。
成年後見制度で後見人になるための条件
成年後見人には特別な資格などは必要なく、職業の制限もないため、子や孫などの親族も含め原則的には誰でもなることができます。
ただし、身上監護として法律行為を代行するため、ある程度の法律知識や社会経験は必要になるでしょう。
また、次に解説する「欠格事由」のうち、一つでも該当している人は成年後見人になれないので注意してください。
成年後見人になれる人・なれない人の条件
以下6項目のうち、一つでも該当していれば成年後見人になれません。
- 未成年者
- 行方不明者
- 破産者
- 過去に法定代理人や保佐人、補助人を解任されたことがある人
- 被後見人に訴訟を起こした人とその配偶者、および直系血族
- 不正行為をした経歴があるなど後見人として不適格な人
破産者は財産管理に不向きなため成年後見人になれない人ですが、裁判所の決定により借金の免除が確定していれば、成年後見人になれる人の条件を満たします。
なお、法定後見人については、身近に適任者がいれば家庭裁判所へ申し立てる際に「候補者」として通知できます。
ただし、決定はあくまでも裁判所の判断なので、希望どおりの人が選任されなかったとしても、申し立ては取り下げできません。
成年後見人に選ばれる人とは?
成年後見人になれる人・なれない人の条件を解説したところですが、親族が選ばれるケースは全体の3割以下であり、今後も比率は下がると見込まれます。
成年後見制度の利用で後見人に選ばれる人ですが、特に条件は厳しくないため、かつては親族が後見人に選ばれる例も多くありました。
ところが被後見人の財産を使い込むなど、問題が多発したことから、現在では中立的な第三者が後見人に選ばれる人になっています。
また、成年後見人には法律の知識も必要なため、弁護士や司法書士など、法律の専門家や有識者が後見人に選ばれています。
法律上の規定ではありませんが、事実上の条件ということですね。
成年後見制度を利用する3つのメリット
成年後見制度を利用するメリットは以下の3つです。
成年後見制度を利用する3つのメリット
- (1)本人を法律的な被害から守ってくれること
- (2)既に行った不正な契約については取り消すことが出来ること
- (3)代わりに法律手続きを行ってもらえること
本人を法律的な被害から守ってくれる
成年後見人は、不動産や預貯金等の財産を適切に管理し、本人に不利益になるような財産の使い込みや詐欺等から守る役割を果たします。
高齢者は、何かと悪質な法律トラブルのターゲットとされがちです。
年齢を重ねることによって、身体機能が低下したり、判断能力が落ちたりすることによって、通常なら遠ざける話に乗ってしまったり、騙されたりすることがあります。
たとえば、近所のおばさん・おじさんから「あなたの代わりに支払いをしてあげますよ」と通帳を渡すように促され、口座の預貯金を不正に使用されてしまったケースがあります。
また、金銭感覚がマヒしてしまって浪費が極端に多くなったりすることも考えられます。
このようなトラブルから本人の利益を守るのが、成年後見人の役割です。
本人が不正な支出を勝手に行わないよう、また他人に行われないよう、成年後見人に財産を預けることで、本人の財産が守られるのです。
本人が締結した不利益な契約を取消すことが出来る
成年後見人には、本人が締結した本人に不利益となる契約を取り消すことができる権限があります。
本人が自身の意思で契約したものであれば、他人があれこれと口を挟むべきではありません。
しかしながら、それが詐欺などによって本人に不利益に働く契約内容であることもあります。
そのような場合は、契約の取り消しが本人の利益となるでしょう。
事態を把握していたところで他人には契約の取り消しを行うことはできません。
しかし、成年後見人として選任されることによって、こうした契約をなかったことにすることができるようになるのです。
成年後見制度は、先述した法律的なトラブルを予防できるだけでなく、このように既に発生していた法律トラブルについても取り消すことが可能です。
過去から遡り、本人の将来を守っていく、非常に優良な制度であると言えるでしょう。
信頼できる後見人に法律手続きをしてもらえる
「法定後見制度」「任意後見制度」の2つの成年後見制度の内、任意後見制度を選択すれば、本人が信頼できる人を後見人として自由に選ぶことができます。
また、認知症等になり前者の法定後見制度を選択せざるをえない場合でも、後見人に専門家が付くケースが多くなってきているため、法律手続きなどを安心して任せることができます。
例えば、身内に相続が発生した場合には代わりに遺産分割協議書の手続きをしてくれますし、老人ホームに入退去する際にも契約手続きを行ってもらえます。
契約行為の細かい点をきちんと確認してもらうことや実印を預かってもらうことで、成年後見人がご本人様の代わりとなって滞りなく手続きが進みます。
制度がひどい?成年後見制度を利用する5つのデメリット
成年後見制度を利用した人の中には「成年後見制度はひどい制度だ」と言う人もいます。
しかし、多くの場合は、成年後見制度の内容をきちんと理解していないために起こったトラブルが原因だと考察できます。
そのため、制度自体がひどいわけではありません。
ただし、成年後見制度にはメリットだけでなくデメリットも存在します。
成年後見制度を利用するにあたり、気を付けるべき制度のデメリットなどを事前に把握し理解しておくことで、その影響を抑えることができます。
成年後見制度を利用する5つのデメリット
- (1)成年後見人に対して毎月報酬を支払う必要があること
- (2)後見人として就任すると通常途中で辞めさせられないこと
- (3)節税対策が禁止されること
- (4)選任手続きに時間を要すること
- (5)一定の職業等に就けなくなってしまうこと
成年後見人に報酬を支払う必要がある
成年後見制度は、一度利用を決めてしまうと本人の財産から成年後見人に対して、一定額の報酬を支払わなければいけないことになります。
まず、成年後見人をつけるための申し立て費用も軽視できません。
家庭裁判所への申請手数料をはじめ、さまざまな費用がかさんできます。
場合によっては、成年後見制度を利用すべきかの鑑定費用が必要で、さらに申立てを専門家に依頼する場合には30万~50万円程度の予算を見積もっておく必要があります。
また、成年後見人がついた後の業務に対して支払う報酬として、基本的に毎月2万円程度の支払いが発生します。
資産を多くお持ちの方については、さらに上乗せして支払わなければいけないことも考えられるでしょう。
いずれにせよ、成年後見人に対する報酬が固定費となって発生するというデメリットが生じることになります。
一度選任されると原則として解任できない
成年後見人は、一度選ばれるとなかなか辞めさせることができません。
成年後見制度の趣旨は「本人の利益を守ること」とされています。
たとえば、親族が成年後見人に対して不信感を抱いて抗議をしたとしても、成年後見人が自己の利益のために横領するなどのよほどの事情がない限り、選任された成年後見人を辞めさせることが出来ない仕組みになっています。
節税対策が出来ない
成年後見人は、「本人の利益を守ること」を目的として行動することが求められます。
そのため、本人が亡くなった後に、残された財産に対して節税対策をすることはできません。
なぜなら、本人亡き後の節税対策は、本人の利益ではなく残された家族の利益になるからです。
少々融通が利かないようにも思いますが、現状としては贈与の非課税枠や相続税の基礎控除枠を増やすといった節税対策を施すことは許されていません。
選任までに時間を要する
成年後見制度を今すぐに利用したいという方には残念なお知らせとなりますが、成年後見を開始するためには、家庭裁判所に複雑な申請手続きをする必要があります。
また、申請後も審査期間を要するため、申立てから成年後見開始までに3〜5か月ほどかかります。
急を要する事態となった場合にすぐに利用できないのは、成年後見制度の欠点と言えるでしょう。
そのため「まだ大丈夫だけど将来的に利用したい」とお考えの方は、早めに専門家に相談してみることをおすすめします。
本人は一定の地位に就くことを制限される
成年後見制度を利用して成年後見人をつけることで、一定の地位に就任することが出来なくなってしまいます。
たとえば、成年後見人をつけた成年被後見人は社長になることが出来ませんし、弁護士や司法書士などの士業等の仕事に従事することも欠格事由として制限されてしまいます。
成年後見制度を利用しなければいけない場合には、正常な判断をする能力が弱くなっているため、重要な業務を行う仕事に就くことは危険であると考えられているのです。
まとめ
今回は、成年後見制度の内容や手続き方法について解説しました。
高齢化社会が進んでいる昨今、こうした制度の利用率がさらに上がっていくことが予想されます。
成年後見制度を利用する上でメリット・デメリットだけでなく、制度の内容を熟知していないと本人や家族にとって不利に働く場合もあるので注意しておきましょう。
最近では、成年後見制度ではなく、家族信託を利用して、高齢者の財産などを管理する方法も新しく出てきました。
いずれの制度も内容が複雑であるため、不安に思う部分も多いと思います。
何か少しでもわからないことがありましたら、専門家にお気軽にご相談ください。
成年後見制度のデメリットを解消!成年後見よりも新しく、有利な解決法があります。
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