この記事でわかること
- 不動産投資を行う人にとって、資産管理会社の設立がどのくらいメリットがあるのか理解できる
- 不動産投資を行う人が資産管理会社を設立した方が良いケースを知ることができる
- 資産管理会社を設立する際の手続きの流れについて理解できる
近年は、サラリーマンでも投資目的で不動産事業を営むケースが増えてきています。
そこで今回は、不動産投資をしている人、あるいはしようとしている人に向けて、資産管理会社の設立がどのような意味を果たすのかについて、メリット・デメリットなどを中心に解説します。
資産管理会社とは
資産管理会社とは、個人的な資産の管理を目的とした会社を意味し、プライベートカンパニーと呼ばれることもあります。
資産管理会社は、一般的な株式会社と同じように、表面上は通常の会社と同じです。
しかし通常の会社と違うのは、サービスや商品を販売して収益を上げることを目的とせず、節税や相続税対策など、あくまでも会社オーナー個人の資産管理を目的として設立される点です。
かつては一部の富裕層のみ関心を示すのが資産管理会社でした。
しかし、近年はサラリーマンでも、本業のかたわら投資目的で不動産賃貸業を営む人が増えてきており、それに伴って資産管理会社を利用した節税対策が注目を浴びています。
不動産投資で資産管理会社を設立するメリット・デメリット
不動産投資をするにあたって、資産管理会社の設立にはどのようなメリット・デメリットがあるのかについて解説します。
資産管理会社を設立するメリット
資産管理会社の設立は、不動産投資をしている人にとって、以下のメリットがあります。
資産管理会社を設立するメリット
- 節税効果がある
- 所得を分散できる
- 経費で落とせる範囲が広がる
- 相続税対策ができる
- 相続争いを防げる
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
節税効果がある
不動産投資で収益を得ている人は、資産管理会社の設立によって節税できる可能性があります。
たとえば法人を設立せずに個人で家賃収入を得る場合、その収入は法人ではなく、個人に課される所得税として計算されます。
個人に課される税率は(所得税と住民税を合算すると)最大で55%です。
つまり不動産投資が順調に成果を見せ、収入が上がっていけば、最終的には収入の半分が税金として手元に残らない結果になります。
しかし、ここでもし個人ではなく法人として家賃収入を得ていれば、個人ではなく法人に課される所得税として計算されます。
個人に課される税金の最大値が55%であったのに対して、法人に課される税率は35%なので、支払う税金の額に最大で20%の差が生まれます。
個人で不動産収入を受け取るか、法人で不動産収入を受け取るか、この違いで支払う税金を20%もカットできる余地があるのですから、資産管理会社を設立した方が効果的だと感じますよね。
しかしながら事業を営んでいる全員が資産管理会社を設立した方がいいかといえば、それも違います。
資産管理会社の設立にもデメリットがありますので、税理士と相談し、メリットとデメリットを比較考慮した上で、資産管理会社の設立を検討しましょう。
デメリットについては、次の章でご説明します。
所得を分散できる
資産管理会社を設立すると所得の分散が可能になり、結果として節税につながります。
所得の分散とは、事業で得た利益を一か所に集中させるのではなく、利益の行き先を複数に分散させることで、トータルで支払う税金を少なくする節税テクニックです。
所得の分散の典型的な例は、給与の支払いでしょう。
たとえば不動産投資で年間1000万円の収益を得たとして、事業者一人で1000万円を受け取ると、1000万円に対して課税がされます。
しかし事業者が従業員である妻に500万円の給与を支払うと、本人が得た収益は1000万円から500万円に減り、結果として課される税率も軽くなります。
これが所得の分散効果です。
しかし、支払う給与には妥当性が求められます。
500万円を給与として妻に支払うのであれば、その妻が500万円の給与をもらうに値する能力があるのか、それに見合う仕事をしたのか、これらを証明できることが必要です。
会社経営業務にほぼ関与せず、加えて不動産管理の経験がほとんどないのにもかかわらず500万円の給与を支払う場合、同一世帯とみなされ経費として認められる可能性は低いと考えられます。
この判断は難しいので、所得の分散を狙って資産管理会社を設立する場合は、専門家である税理士への相談が必須です。
経費で落とせる範囲が広がる
資産管理会社の設立によって、経費で落とせる支出の範囲が広がります。
サラリーマンの方でも生命保険控除の適用を受けた経験のある人は多いでしょうが、資産管理会社として法人を設立すると、受けられる控除の枠が広がります。
個人であれば所得控除の対象になる生命保険料には上限がありますが、法人の場合は、例外を除いて生命保険の支払額がすべて所得控除の対象になります。
生命保険の他にも、住居の賃料や日当など、必要経費として計上して所得から控除できる範囲が広がるのが資産管理会社設立のメリットです。
相続税対策ができる
資産管理会社の設立は、相続税対策にもなります。
相続税対策の基本は、被相続人が生きている間に、財産をできるだけ相続人に移しておくことです。
相続時に多額の相続税が発生し、被相続人が亡くなった後で相続人が相続税を払えなくなる可能性があるからです。
相続税を払えず、住み続けるはずだった自宅を手放さざるを得なくなった例もありますが、そういった事態は、あらかじめ相続人に財産を移していなかったのが主な原因です。
とはいえ、生前贈与は税率が高いという難点もあります。
この点、法人を設立した上で給与という形で相続人に財産を渡していくと、税率の高い贈与税の支払いを避け、より低い税率で財産を相続人へと移せます。
また給与の形をとった相続人への財産の移転は、相続税対策のみならず、事業の収益で支払うことになる法人税も軽くできます。
前述の通り、所得の分散の効果を得られるからです。
このように資産管理会社の設立は、所得税の軽減のみならず、相続税対策にもなるというメリットがあります。
相続争いを防げる
資産管理会社を設立しておくと、不動産の所有者が亡くなった後の、相続人間の争いを防げる確率が高くなります。
相続争いの多くは、被相続人が不動産の他に目立った財産を所有してないケースで起こりますす。
不動産は性質上、売却して現金化しない限り、公平に分配するのが難しい財産だからです。
相続人間で共有する手もありますが、共有にしてしまうと後で売却する際に手間がかかります。
しかし資産管理会社を設立し、法人に不動産を所有させておくと、株式の分配という形で、不動産を売却せずに公平に遺産の分割ができます。
資産管理会社を設立することで、たとえ相続財産が不動産しかないとしても、財産の分配がスムーズにいき、相続人争いのリスクが低くなります。
資産管理会社を設立するデメリット
資産管理会社の設立にもデメリットがあります。
デメリットの主な内容は以下です。
資産管理会社を設立するデメリット
- 初期投資がかかる
- 維持費がかかる
- 法人住民税がかかる
資産管理会社の設立により、主に税金面においてメリットを得られるのは既に述べた通りですが、半面、資産管理会社によって新たに生まれるコストも存在します。
株式会社なのか合同会社なのかといった、設立する会社の形態にもよりますが、会社の設立には15~30万円ほどの初期投資が必要です。
設立後においても、複雑な税務申告や役員変更登記など、法人化せずに不動産事業を営んでいればかからなかった手間や維持費も発生します。
また住民税は個人のみならず法人にも課税されるため、仮に不動産事業が赤字だとしても、毎年、最低でも7万円の住民税を支払わないといけません。
資産管理会社を設立するのがおすすめのケース
以下のケースに当てはまる人は、資産管理会社設立の検討をおすすめします。
資産管理会社を設立するのがおすすめのケース
- 年収が800~900万円以上の人
- 複数の事業を営んでいる
- 資産が多く、多額の相続税がかかりそう
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
年収が800~900万円以上の人
一般的に、個人の収入が800~900万円を超えてくると、資産管理会社の設立を視野に入れた方がいいと言われます。
課税所得が800~900万円を超えると、個人にかかる税率よりも、法人にかかる税率の方が割安になってくるからです。
しかし不動産投資などの不動産事業を営んでいる場合は、年収が800~900万円に達する以前の早い段階で資産管理会社の設立を検討した方がいいとも言われています。
個人から法人に不動産を移転させるには登記の名義変更が必要になりますが、名義変更には登録免許税が発生します。
特に都心部の不動産を移転する場合は、登録免許税が高額になる可能性が高いです。
この点、不動産を購入する段階で、あらかじめ資産管理会社を設立し法人の所有にしてしまえば、移転のコストはかかりません。
また銀行から融資を受けて不動産を購入した場合、購入後に不動産の名義を変更するにはその銀行の承諾を得る必要がありますが、必ずしも銀行が承諾してくれるとは限りません。
しかし、あらかじめ不動産を法人の名義にしておけば、そもそも移転させる必要がないため、銀行の承諾は問題になりません。
したがって不動産事業を営んでいる人は、通常よりも早いタイミングで資産管理会社の設立を検討することをおすすめします。
複数の事業を営んでいる
複数にわたり事業を営んでいる人は、資産管理会社の設立がおすすめです。
広い範囲で損益通算が可能になるからです。
事業Aが黒字で事業Bが赤字である場合、黒字である事業Aの所得と赤字である事業Bの所得を合算して所得を算出できる可能性がありますが、このことを損益通算と言います。
損益通算により黒字部分が圧縮される結果、支払う税金は安くなりますので、なるべく損益通算を適用したいと考えるのが通常です。
この点、法人の場合は個人事業の場合に比較して損益通算を適用できる範囲が広くなりますので、事業を複数営んでいる人は、資産管理会社を設立することで、損益通算による節税効果が得られやすくなるのです。
例えば、株の取引で損失を出した場合、資産管理会社を設立していれば不動産事業の所得から株による損失部分を控除できますが、個人事業のままだと控除の対象外です。
資産が多く相続税がかかりそう
保有資産が多く、不動産の所有者本人が亡くなった後、多額の相続税が発生することが見込まれるケースでは、資産管理会社の設立がおすすめです。
前述したように、法人の設立が相続税対策になりますし、相続人間での争いを防ぐ手段にもなり得るからです。
資産管理会社を設立する流れ・必要書類
資産管理会社を設立するまでの流れと、必要書類について解説します。
- ①設立の必要性を検討する
- ②会社の概要を決める
- ③法人用の実印を作る
- ④定款を作成し、認証を得る
- ⑤資本金を払い込む
- ⑥登記申請書を作成し法務局へ提出する
- ⑦税金関係の書類を税務署へ提出する
①設立の必要性を検討する
資産管理会社にはメリットのみならず、デメリットもあるのは既に述べた通りです。
それゆえデメリットの方が大きくならないために、そもそも資産管理会社を作った方がいいのか否かの判断が事前に必要になります。
この判断は一般の人には難しいので、できるだけ税理士に相談しましょう。
②会社の概要を決める
資産管理会社を設立することにしたのであれば、最初に会社の概要を決めます。
会社の概要には、以下の情報が含まれるのが一般的です。
- 会社名
- 会社の所在地
- 資本金の額
- 会計年度
- 事業目的
- 出資者(株主)
③法人用の実印を作る
個人の印鑑とは別に、法人用の印鑑を作る必要があります。
法人用の印鑑は、代表者印、社印、銀行印の3種類に分けて用意するのが一般的です。
④定款を作成し、認証を得る
定款は、会社のルールブックのようなものです。
ひな形はインターネットでもダウンロードして自分で作成できますが、きちんとしたものを作りたいのであれば、司法書士などの専門家に依頼しましょう。
定款は作成して終わりではなく、公証役場に提出して認証を得るのが原則です。
⑤資本金を払い込む
定款の認証が終わったタイミングで、ご自身で定めた資本金を銀行口座に払い込みます。
⑥登記申請書を作成し法務局へ提出する
登記申請書を作成し、法務局に提出します。
会社の形態にもよりますが、登記をするための一般的な必要書類は以下の通りです。
なお定款の作成を司法書士に依頼した場合は、そのまま司法書士が登記申請書類も作成し、法務局へ提出してくれます。
必要な書類
- 登記申請書
- 定款
- 登録免許税分の収入印紙
- 発起人(出資者)の同意書
- 発起人の印鑑登録証明書
- 会社役員(代表取締役や監査役等)の承諾書
- 資本金の払い込み証明書(通帳のコピー)
- 印鑑届書
⑦税金関係の書類を税務署へ提出する
会社の設立が完了したら、青色申告の承認申請書など、税金に関する書類を税務署へ提出します。
資産管理会社の設立や維持にかかる費用
資産管理会社を設立すると、会社の立ち上げ費用、維持費、資産移転コストなど、法人化しなければ発生しなかったはずの費用が発生します。
詳しい内容についてお伝えしていきます。
会社立ち上げの際にかかる費用
資産管理会社を設立する際に必要な初期投資は下記の通りで、会社の形態にもよりますが、15~30万円ほどかかります。
会社立ち上げの際にかかる費用
- 定款の認証手数料
- 定款の謄本手数料
- 定款に貼付する収入印紙代金
- 登記申請で国に支払う登録免許税
- 司法書士など専門家へ支払う報酬
会社の維持費用
資産管理会社の運営を維持するためにかかる主な費用は以下の項目です。
会社の維持費用
- 法人に対して毎年課税せる住民税
- 役員変更登記費用
- 税務の相談等で発生する税理士への報酬
資産移転コスト
法人からオーナー個人へと法人の資産を移す場合、その都度課税されます。
資産管理会社の設立後は、オーナー個人と会社は別人の扱いになるからです。
まとめ
この記事では、資産管理会社の設立が不動産投資を営む際に、どのように機能するか解説しました。
本文で解説した通り、資産管理会社を上手に活用すると、節税や相続対策にもなりますので、不動産投資を行う人であれば、一度は検討してみる価値があるのではないでしょうか。
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