この記事でわかること
- 自筆証書遺言の訂正方法を誤ると無効になってしまうことがわかる
- 自筆証書遺言の正しい訂正方法や加筆方法が理解できる
- 遺言書の正しい訂正方法のサンプルで具体的なやり方がわかる
- 訂正印に利用する印は、署名に用いたものを使用することがわかる
自筆証書遺言でも一部にパソコンなどが利用できるなど、2020年7月からは民法改正により、利用しやすく改善されています。
しかしながら、遺言書本体については、自筆で書かなければいけないルールに変わりがないため、誤りや漏れのリスクは依然として残っています。
誤りや漏れがあっても正しく訂正すれば、法的な効果を持った遺言書として、相続時に自分の意思を遺族に伝えることができます。
ただし、訂正の方法については厳格なルールが定められているため、ルールに従っていない訂正は無効になってしまいます。
以下では、自筆証書遺言の正しい訂正の方法について、サンプルも使って詳しく紹介します。
目次
自筆証書遺言の訂正方法を誤ると無効になってしまう
書き上げた自筆証書遺言は、推敲して誤りや漏れがないについて、しっかりと確認しておくことが大切です。
誤りや漏れがあっても訂正すれば、有効な遺言となりますから、過度にミスを恐れる必要はありません。
ただし、訂正の方法を誤ると、相続時に無効になってしまう場合がありますから、ルールを把握した上で慎重に行うことが重要です。
訂正のルール
自筆証書遺言は全文や日付、氏名について、消えにくい筆記用具を使って自筆で書かなければならず、間違えても修正液など修正用文具が使えません。
念入りに転記用の原稿を作成したとしても、緊張感も加わって、書き損じや漏れが生じることは至極当然のことと言えるでしょう。
しかしながら、このようなミスが発生しても、訂正すれば自筆証書遺言としての法的な効果に変わりがありません。
ただし、訂正する際には、次のような厳格なルールが民法で定められていますから、しっかりと把握しておくことが大切です。
そのルールとは、
- ・「遺言者が」
- ・「その場所を指示」し
- ・「これを変更した旨を付記」して
- ・特にこれに「署名」し
- ・かつ、「その変更の場所に印」を押す
というものです。
訂正の方式に違背がある場合の遺言の効力
訂正がルールに従っていないときには、遺言はどうなるのでしょうか。
民法では、訂正のルールに続き、その方法に従っていなければ、「その効力を生じない」と規定されています。
つまり、訂正は無効となり、修正や加筆がなかったことになるため、「誤りや漏れがあるままの遺言」が、法的に有効になってしまいます。
また、誤っていた文字や数字を黒く塗りつぶして見えない状態にしてしまえば、訂正前の遺言さえ判読できなくなってしまいます。
こうなってしまえば、もはや、相続人に自分の意思を正確に伝えることは不可能とも思われる遺言書になってしまいます。
書き損じや漏れを訂正する方法について、正しく把握することの重要性が認識できたのではないでしょうか。
「明らかな誤記」は効力に影響がないとの判例も
一方、訂正方法がルールに従っていないときでも、「明らかな誤記」であれば遺言の効力に影響がないとの最高裁判例もあります。
明らかな誤記についての訂正方法を間違えて、訂正部分が無効になったとしても、元の遺言が見えれば判断材料になります。
そのためにも、黒く塗りつぶすような削除をすべきではないと言えるでしょう。
ただし、「明らかな誤記」かどうかについては、単純に判断することが困難ですから、やはり、正しい訂正方法を用いることが大切です。
正しい訂正・加筆の方法
せっかく慎重に、丁寧に書き綴り、自分の意思を確かめながら何度も読み直し、誤りや漏れを訂正して仕上げる自筆証書遺言です。
法的に有効なものとなるよう、正しい訂正や加筆の方法を確認していきましょう。
正しい訂正の方法
正しい訂正は、次の手順と訂正の「ポイント」に注意しながら行います。
- (1)【二重取り消し線】訂正箇所を、「元の文字が見える」ように「二重線」で取り消します。
この際、「黒く塗りつぶすような取り消し方法は避ける」とともに、修正液などの「修正用文具を使用しない」ことに注意します。 - (2)【正しい文字や数字の記入】横書きの場合は二重線の「上部」に、縦書きの場合は二重線の「右側」に、正しい文字や数字を記入します。
- (3)【訂正場所の指示と署名】訂正した行の「近くの余白」に、削除や加えた文字数を書き、署名します。
- (4)【訂正印】「二重線に重なるように」、訂正印を押します。
この際、「元の文字や数字が見えるように押す」ことに注意が必要です。
正しい加筆の方法
次は、正しく加筆を行う手順と「ポイント」を確認しましょう。
- (1)【挿入記号】文字や数字を加筆したい部分に、挿入記号を記入します。
- (2)【文字や数字の加筆】挿入記号を付けた加筆箇所に、加筆する文字や数字を記入します。
- (3)【加筆場所の指示と署名】加筆した行の「近くの余白」に、加えた文字数を書き、署名します。
- (4)【訂正印】加筆した「近くに」訂正印を押します。
正しい訂正と加筆の方法に共通する「付記」
訂正の場合も加筆の場合も共通に、横書きの遺言書では「最下部の余白」に、「付記」として訂正内容を書き、遺言者の氏名を署名します。
なお、縦書きの場合は、最終行より右の余白に付記や署名を記入します。
訂正内容は、訂正の場合は「〇行目〇字削除〇字加入」、加入の場合は「〇行目〇字加入」のように、訂正した内容すべてを列挙します。
自書によらない財産目録の中の記載の訂正方法
自筆証書遺言は2020年7月から、パソコンなどで作成した財産目録や、不動産登記簿や通帳コピーなど既存の資料を利用できるようになりました。
パソコンや代筆で作成した財産目録にも、遺言書本文同様、訂正が必要な場合が考えられますが、その場合も、本文の訂正と同じ方法で行わなければなりません。
訂正方法がルールに従っていなければ、遺言書本文と同様、財産目録の訂正が無効になってしまうため、注意が必要です。
遺言書の正しい訂正方法のサンプル例
ここまで正しい訂正方法について、訂正と加筆について文章で紹介しましたが、民法の規定と同様、文字だけでは実感が沸きにくいものです。
以下では、横書きスタイルのサンプルを使って、訂正と加筆の具体例を確認していきましょう。
先に文章で紹介した訂正方法の手順やポイントも、合わせて確認すると、より理解が深まります。
遺言書サンプルの内容
このサンプルは、「自筆の遺言本文」と、「自筆によらない方法で作成した財産目録」から構成される遺言書をイメージしています。
財産についての細かな記載は目録に記載するため、遺言書の本文では「別紙目録第〇」など、簡潔な表現を用いることができます。
この方法による遺言書は、本文を短くシンプルにできるため、記入間違いや漏れなどのミスを防ぐために効果があります。
遺言者は毛利大介氏で、遺言によって、妻と長男の二人に財産を相続させたいと考えています。
「相続させる」高額な財産は、妻に「財産目録第1」に記載した自宅マンション、長男に「財産目録第2」に記載した預貯金です。
一方、この2種類の財産以外にも、車や生活用の預金などがあるのですが、残りは全て妻に相続させることを考えています。
なお、このサンプルは訂正方法の紹介を目的としていますから、財産目録についてのサンプルは省略しています。
訂正の内容と方法
パソコンで作成した転記用の原稿を見ながら、慎重に書き進めたのですが、妻に与える財産を「不動産」と書くべきところ「預貯金」と書き間違えました。
また、相続人をより厳密に特定するために、氏名の後に生年月日を記載したのですが、妻の生年月日に元号「昭和」が漏れてしまいました。
書き間違えた「預貯金」は正しい「訂正」方法、書き漏れ「昭和」は正しい「加筆」方法についてのサンプルです。
なお、訂正によって書き加えた文字は、わかりやすいように「青字」で示していますが、実際は、訂正部分も元の文と同一色に統一します。
「預貯金」を「不動産」に訂正
妻に相続させる財産は、預貯金ではなく不動産と記載すべきなので、「預貯金」を二重線で取り消し、その上に「不動産」と記入し、訂正印を押しました。
このとき、訂正印で取り消した文字や加筆した文字が隠れないように、注意しましょう。
訂正箇所を示すために、行の左側の余白に、この訂正内容を「この行3字削除3字加入」と記し、その直後に署名します。
最後に、遺言書の文末の余白に、「付記」として、再度訂正内容を「この遺言書二行目、3字削除3加入。」と記載し、直後に署名しておきます。
なお、「二行目」は、タイトル「遺言書」の次の行から数えた行数になっています。
「昭和」を加筆
妻の生年月日に「昭和」の元号を書き漏らしてしまったので、これを加筆する方法を確認しましょう。
生年月日の前に挿入するため、挿入記号を手書きした上で、「昭和」を加筆し、その近くに訂正印を押します。
このとき、訂正印で文字が隠れないように注意します。
次に、行の左側余白に、加筆個所を示すために、「この行2字加入」と記し、直後に署名を行います。
最後に、遺言書の文末余白に記した付記に、訂正内容を「この遺言書六行目、2字加入。」と記載し、直後に署名を行います。
訂正印には署名に用いたものを使用する
本文の末尾には、遺言書の署名用として、遺言者の署名と押印が必須条件ですが、訂正に使用する印も同じ印鑑を使用します。
末尾で署名用に使用する印は、実印でなければならないという規定はありませんが、改ざんや偽造などを防ぐ意味で、実印を使うことをおすすめします。
仮に遺言書の有効性が疑われた場合、実印を使用していれば、印影を対照する方法で有効性を証明できるため、紛争抑止につながります。
まとめ
自筆証書遺言の書き間違いや漏れは、無いに越したことはありませんが、わざわざ好んでミスをする方はいません。
特に、財産を特定する場合に、不動産なら地番や地目、地積などの細かい事項の転記違いや漏れが発生しやすくなります。
このようなミスを減らすためには、転記用の原稿を準備する方法や、財産目録を作成して、自筆で書くべき本文をシンプルにする方法があります。
自筆証書遺言は、本文の記述同様、訂正もかなり神経を使う作業になるとともに、2か所訂正するだけでも訂正部分が多く、目立ちます。
訂正方法を誤れば、訂正内容が無効なままの遺言書が有効になってしまい、何のために遺言書を作成したのかわからない事態も生じ得ます。
訂正が必要なミスが発生してしまったときは、練習と考え、後悔しないように、できるだけ新たに書き直すことをおすすめします。
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