この記事でわかること
- 当事者間で贈与の意思表示や合意がなかったとしても、贈与とみなされる場合がある
- みなし贈与に気づかず、贈与税の申告を怠ってしまう可能性がある
- 贈与税の非課税制度の活用などの対策がある
親族間などで「お金の援助」や「相場より安い金額での不動産の売買」を行った場合、「みなし贈与」として税務署から指摘されてしまうかもしれません。
当事者間で贈与したつもりはなかったとしても、「贈与である」と指摘を受けた場合、思わぬところで贈与税の申告義務が発生する可能性があるのです。
この記事では、個人間のやり取りを中心に、「どのような行為がみなし贈与に該当するのか」「みなし贈与を回避する対策」などを具体的に解説します。
みなし贈与とは
当事者同士に「贈与する」という意思がなくても、「実質的に贈与を受けたと同様の経済的利益があった」と見なされ、贈与税の課税対象となる場合があります。
このうち、個人から個人への無償もしくは著しく低い金額での贈与(譲渡)は「みなし贈与」、個人から法人への無償もしくは著しく低い金額での贈与(譲渡)は「みなし譲渡」とされます。
| 項目 | 通常の贈与 | みなし贈与 | みなし譲渡 |
|---|---|---|---|
| 成立要件 | 双方の意思の合意が必要(契約) | 贈与の意思は不要 | 譲渡価格が時価の1/2未満の場合に適用 |
| 課税される者 | 財産を受け取った個人(受贈者) | 経済的利益を受けた個人(受贈者) | 財産を売却した個人(譲渡者) |
| 主なケース | 現金や不動産の無償譲渡 | 低額譲渡、債務免除、保険金受取 | 個人から法人への低額譲渡 |
日常の中で何気なく行われる財産のやり取りが、「みなし贈与」に該当するケースは少なくありません。
贈与という認識がないまま申告漏れを起こしやすく、後日、税務署の調査によって追徴課税を課されるリスクがあるため、注意が必要です。
「通常の贈与」との違い
通常、「贈与」とは、財産をあげる人(贈与者)と、それを受け取る人(受贈者)が、お互いの意思表示のもと合意し、契約を成立させることを指します。
一方、みなし贈与は、このような双方の意思表示や合意がなかったとしても、「実質的に贈与と同様の経済的な利益が生じた」と判断される場合、相続税法にもとづいて贈与税が課税されることがあるのです。
【参考】「みなし譲渡」との違い
個人間で著しく低い価額での財産の譲渡があった場合、買い手側に対し、時価と売買価格の差額から「みなし贈与」として贈与税が課税されます。
一方、個人から法人へ無償もしくは著しく低い金額で財産の譲渡があった場合、売り手側に対して「みなし譲渡」として所得税が課税されます 。
みなし譲渡は、個人から法人へ譲渡価格が適正時価の2分の1未満の場合で適用され、実際の売買価格に関わらず「時価で売却したもの」と見なされて売り手側に所得税がかかります(このほかにみなし譲渡となるのは限定承認の場合があります)。
また、買い手である法人側も、時価と購入価格の差額について受贈益として法人税が課税されます。
相続財産を限定承認で相続した際も「みなし譲渡」となる場合がある
相続人が限定承認で被相続人の遺産を相続した場合、所得税法では「被相続人から相続人へ、相続開始時の時価で財産が譲渡された」ものとみなされます。
仮に被相続人が土地や株式などの財産を保有しており、財産の価値が取得時よりも相続発生時の時価で値上がりしていた場合、その値上がり益(含み益)は譲渡所得税の課税対象となるのです。
そのため、このような財産を限定承認で相続した場合、相続人は準確定申告を「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内」に行う必要があります。
みなし贈与になり得る個人間のやりとり5選
私たちの身近なやり取りの中に、「みなし贈与」と判断される可能性のあるケースが潜んでいます。
特に親族間では、贈与のつもりがなくても「実質的に経済的な利益の移転」と見なされ、課税対象となる場合があるため注意が必要です。
- ケース①:不動産などを「著しく低い価額」で譲り受けた
- ケース②:借金を免除してもらったり、肩代わりしてもらったりした
- ケース③:自身が保険料を負担していない生命保険金を受け取った
- ケース④:建物のリフォーム費用を他人に負担してもらった
- ケース⑤:無利子や返済の定めがない形でお金の貸し借りをした
ここからは、そのような「みなし贈与」になり得る個人間のやりとりを、それぞれ解説していきます。
ケース①:不動産などを「著しく低い価額」で譲り受けた
不動産や株式などの財産を「時価よりも著しく低い価格」で他者から譲渡された場合(低額譲渡)、その取引はみなし贈与とされる可能性があります。
この場合、財産の時価と実際に支払った対価との差額分について、「財産を譲り受けた人が贈与を受けた」と見なされ、贈与税の課税対象となるのです。
たとえば、時価7,500万円の不動産を実勢価格よりも大きく低い4,000万円で長男に売却した場合、差額の3,500万円が父から長男への贈与とみなされます。
「著しく低い価額」の目安は?
みなし贈与における「著しく低い価額」について、個人法人間におけるみなし譲渡のように法律で「いくら以下」という明確な基準が定められているわけではありません。
ただし、個人間の土地取引の場合は、過去の判例を参考に「時価の80%未満の価格」が実務上の目安とされています。
ケース②:借金を免除してもらったり、肩代わりしてもらったりした
親族などから借金を代わりに返済してもらったり(債務の肩代わり)、借りていた借金の返済を免除してもらったり(債務免除)した場合、「その金額分の経済的な利益を受けた」と見なされ、みなし贈与の対象となります。
たとえば、親が子の奨学金の残金500万円を肩代わりして支払った場合、その支払額相当が、親から子への贈与と見なされます 。
ただし、借金をした本人が資力を失って返済が著しく困難な状況にあり、「扶養義務者がやむを得ず代わりに返済した」ような場合には、例外的に贈与税の対象とはなりません。
ケース③:自身が保険料を負担していない生命保険金を受け取った
自身が保険料を負担していない生命保険金を受け取った場合、その保険金は「みなし贈与」として贈与税の対象となることがあります。
これは、保険料を負担した人から、保険金を受け取った人へ財産の贈与があったと見なされるためです。
保険金受取がみなし贈与となる代表的なケースとして、以下の2つが挙げられます。
- 保険料負担者と被保険者が同じで、満期保険金を別の受取人が受け取った場合
- 保険料負担者・被保険者が「父」、満期保険金受取人が「子」である契約で、子が満期保険金を受け取ったとします。その場合、子が受け取った保険金は、保険料を負担した父から子への贈与と見なされます。
- 「保険料負担者・被保険者・受取人」が異なる死亡保険金を受け取った場合
- 保険料負担者が「父」、被保険者が「母」、受取人が「子」である契約で、母が亡くなって保険事故が発生したとします。その場合に子が受け取った死亡保険金は、保険料を負担した父から子への贈与と見なされます。
なお、保険料負担者と被保険者が同一で、その人が亡くなったことで保険事故が発生し、受取人が死亡保険金を受け取った場合は、「みなし相続財産」として相続税の対象となります。

ケース④:建物のリフォーム費用を他人に負担してもらった
「子が費用を負担して親名義の実家をリフォーム」したケースなどの場合も「みなし贈与」に該当する可能性があります。
建物を耐震補強した箇所など、リフォーム等で建物に付け加えられた場所の所有権は、民法上、元の建物の所有者のものとなります。
そのため、リフォームによって建物の価値が増加すると、「費用を負担した人から建物の所有者へ、価値の増加分にあたる経済的利益の贈与があった」と見なされ、建物の所有者に贈与税が課税されるのです。
たとえば、子が300万円を負担して、父親名義の実家をバリアフリーにリフォームしたとします。
その場合、子から父親へ300万円の贈与があったと見なされ、父親に贈与税が課税される可能性があります。
ケース⑤:無利子や返済の定めがない形でお金の貸し借りをした
親子間などでの金銭の賃借が行われた場合、「借り手側の返済能力に見合った現実的な借入金であることに加え、賃借の事実や返済実績を客観的に証明できる証拠がある」など、真に金銭の賃借と認められるものであれば、借入金に贈与税が課されることはありません。
No.4420 親から金銭を借りた場合
親と子、祖父母と孫など特殊の関係がある人相互間における金銭の貸借は、その貸借が、借入金の返済能力や返済状況などからみて真に金銭の貸借であると認められる場合には、借入金そのものは贈与にはなりません。
引用元 国税庁
ただし、以下の2つのケースでは贈与税が課される可能性があるため、注意が必要です。
- 1. 利子相当額が「みなし贈与」とされるケース
- 契約の実態が貸借と認められる場合でも、無利子であったり、利率が著しく低かったりすると、「本来支払われるべき利子との差額分が経済的利益である」として「みなし贈与」の対象となる可能性があります。
- 2. 借入金そのものが「贈与」とされるケース
- 「出世払い」や「ある時払いの催促なし」といった返済の約束が曖昧な場合や、返済能力を大幅に超える高額な貸し借りは、そもそも「貸し借り」ではなく「当初から贈与であった」と判断される可能性があります。
みなし贈与による贈与税の申告漏れが発覚した場合のリスク
みなし贈与は、当事者間に贈与の認識がないことが多いため、贈与税の申告漏れにつながる可能性があります。
毎年1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額が、基礎控除額である「110万円」を超えたとき、その超過分に対して贈与税がかかります。
みなし贈与によって受けたとされる経済的な利益も、この合計額に含めて計算する必要があり、合計額が110万円を超える場合は、期限内に贈与税の申告と納付をしなければなりません。
もし税務調査などで贈与税の申告漏れを指摘された場合、本来納めるべきだった贈与税額に加え、ペナルティとして加算税や延滞税などの追徴課税が課せられ、当初の想定よりも税負担が大幅に重くなる可能性があります。
みなし贈与を回避するための対策
過去の個人間のやり取りが「みなし贈与」に該当していた場合、前述のような贈与税負担に繋がりかねません。
ここからは、「みなし贈与」を回避するための対策を、「親族間の金銭賃借の場合の対策」「贈与税の非課税制度の利用」の2つを中心に解説いたします。
中でも、贈与税の非課税制度は、適用要件に該当すれば贈与税負担の軽減にも繋がるため、ぜひ参考になさってください。
親族間の金銭貸借の場合は「借用書」等の書類と「返済実績」をセットで残す
親族間で高額な金銭の貸し借りを行う場合、税務署から贈与とみなされないように、「贈与ではなく、返済を前提とした貸し借りである」ことを客観的に証明することが重要です。
- 借用書や金銭消費貸借契約書を作成する
- 返済の実績と能力を確保する
なお、法的な義務ではありませんが、借入金額に対する利息を設けることで、「贈与ではなく、真に金銭の貸し借りである」と判断されやすくなります。
利息を設定する場合は、利息制限法の上限金利(借入金額に応じて変動)を超えないよう注意が必要です。
借用書や金銭消費貸借契約書を作成する
親族間のやり取りでも、口頭での約束や覚え書きではなく、貸付金額や利息、返済期間、返済方法などの条件を明記した「借用書」や「金銭消費貸借契約書」を作成しましょう。
金銭消費貸借契約書とは
貸し手と借り手の双方が署名捺印し、お互いが保管する契約書です。法的効力が借用書よりも強いことから、より明確な証拠となります。
「借用書」や「金銭消費貸借契約書」には、貸付日や返済期日を明確に記載し、返済方法なども具体的に定めます。
なお、借入金額が1万円以上の場合、その金額に応じて収入印紙を書類に貼付し、消印を押す必要があります。
返済の実績と能力を確保する
契約書を作成するだけでなく、実際に返済している事実と、返済できる能力があることを示すことも重要です。
まず、借主の収入状況を考慮し、無理なく返済できる現実的な返済計画(返済期間、月々の返済額)を立てます。
そして、借主はその計画通りに返済を行うのはもちろんのこと、返済の証拠が客観的に残るよう、手渡しではなく銀行振込で返済することが極めて重要です。
贈与税の非課税制度を活用する
親から子へ渡す生活費や教育費のうち、「扶養義務の範囲内で通常必要と認められるもの」は、そもそも贈与税の課税対象とはなりません。
ただし、非課税となるのは「必要な都度、直接その支払いに充てられる」ものに限られます。
常識的な範疇を超えた額の資金援助を受けた場合や、贈与された金額を必要になったタイミングで使い切れなかった場合、贈与税の課税対象となるため注意が必要です。
また、「結婚・子育て資金」や「住宅購入用の資金」など特定の目的のためにまとまった資金を贈与する場合は、以下のような贈与の特例を利用することを検討するとよいでしょう。
- 住宅取得等資金贈与の特例
- 結婚・子育て資金の一括贈与の特例
- 教育資金一括贈与の特例
住宅取得等資金贈与の特例
父母や祖父母などの直系尊属から、自身の住まいの新築、取得または増改築などを目的とした資金贈与を受けた場合、「住宅取得等資金の贈与の特例」を利用できる場合があります。
受贈者と対象となる住宅が一定の要件を満たす場合、省エネ等住宅であれば1,000万円まで、それ以外の一般住宅であれば500万円まで、贈与税が非課税となります。
ただし、この特例の適用期限は令和8年(2026年)12月31日まで(予定)となっているため、ご注意ください。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
令和9年(2027年)3月31日までに行われる贈与を対象に、18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚や子育てに使うための資金を一括で贈与する場合に適用できる特例です。
この特例を適用した場合、受贈者一人につき最大1,000万円まで(結婚関係費用は300万円まで)贈与税が非課税となります。
ただし、この特例の適用を受けるには、まず金融機関で専用の「結婚・子育て資金口座」を開設し、その金融期間を通じて「結婚・子育て資金非課税申告書」を税務署へ提出する必要があります。
贈与された資金はこの専用口座で管理され、非課税の適用を受けるには、「口座から引き出したお金を実際に結婚や子育ての目的で使った」と証明しなければなりません。
そのため、支出した際の領収書などを金融機関に提出する必要があります。
なお、この特例を利用できるのは、贈与を受ける人(受贈者)の前年の合計所得金額が1,000万円以下である場合に限られますので、ご注意ください。
教育資金一括贈与の特例
令和8年(2026年)3月31日までの間に、父母や祖父母(直系尊属)から30歳未満の子や孫へ、教育に使うための資金を一括で贈与する場合、受贈者の前年における合計所得金額が1,000万円以下であれば、「教育資金の一括贈与の特例」を適用できます。
この特例を適用した場合、一定の要件を満たした教育関連の支出であれば、受贈者一人につき最大1,500万円まで、贈与税が非課税となります。
この特例を利用するには、まず金融機関で専用の「教育資金口座」を開設し、その金融機関を通じて「教育資金非課税申告書」を税務署へ提出する必要があります。
贈与された資金はこの専用口座で管理され、口座からお金を引き出す際には、実際に教育資金として支払ったことを証明するため、領収書などを金融機関に提出しなければなりません。
みなし贈与に関する不安がある場合は専門家へ相談を
この記事で取り上げたように、「贈与のつもりがない」家族間の取引であっても、実質的な経済的利益が発生していれば「みなし贈与」として贈与税の課税対象となる場合があります。
みなし贈与は当事者間で「贈与である」という認識が薄いケースが少なくなく、贈与税の申告・納付義務が発生しているにもかかわらず、申告・納付を怠ってしまう可能性も考えられます。
「自分たちのこの取引は大丈夫だろうか?」など、みなし贈与に関する疑問が生じた場合は、相続専門の税理士へのご相談がおすすめです。
我々VSG相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて、平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。





