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被相続人が亡くなってその遺産の相続が開始した場合、遺産を相続する相続人が複数人いるケースでは、相続のための手続きが煩雑になりがちです。
多くの場合は相続人全員の合意が必要になり、まとめ役が必要となるからです。
この点、相続人の中から代表相続人を選んでおくと、代表者に手続きを任せることができて便利です。
そこで今回は、代表相続人の役割や選び方などを解説していきます。
代表相続人とは
代表相続人とは、複数の相続人がいる場合にそれらの相続人を代表して、相続に関するさまざまな手続きを行う人のことです。
相続代表者と呼ばれることもあります。
代表相続人は各相続人の代表となって、税務署での相続税の支払いや、金融機関での遺産の口座の解約などの手続きを行います。
一方、代表相続人に関して規定する法律は特になく、相続人が複数いる場合でも必ずしも代表相続人を選ばなければならない法的な義務もないため、代表相続人を選ばないという選択肢もあります。
もっとも、相続人が複数いる場合に代表相続人を決めておくと、相続の手続きをスムーズに進めやすくなります。
代表相続人の選び方
代表相続人になるために必要な資格は特になく、相続人の間でも代表相続人として優先して選ばれる順番などはありません。
相続人であれば誰でも代表相続人になることができます。
代表相続人の選び方について特に決まりごとはありませんが、相続人同士の話し合いで代表相続人を選ぶのが一般的です。
兄弟姉妹のうち長男を選ぶ、平日にも時間を割きやすい方が相続人になるなど、いろいろな選び方が可能です。
また、代表相続人の仕事は税務署での申告や金融機関での手続きなど、いくつかに分かれていますが、その全てを同じ代表相続人が実施する必要はなく、それぞれの手続きを別々の代表相続人が行うことも可能です。
代表相続人を選ぶポイント
代表相続人の特徴として、選任されても特にメリットはない点が挙げられます。
代表相続人に選ばれたからといって、その相続人が受け取る遺産が自動的に増えるわけではありません(相続人同士で話し合うなどして、代表相続人に報酬等を支払うことは可能です)。
代表相続人を選ぶポイントとしては、信頼できる人物を選任することです。
具体的には、責任感が強く、物事に対して真面目に取り組むことができ、かつ細かく管理できる人物が適しています。
例えば、税務署から納税の通知書や連絡がきた場合に代表相続人がそれを放置してしまっていては、他の相続人にも影響が出ます。
あるいは、相続の対象となる財産から金銭を得た後に、代表相続人が自分の財産と混同してしまうと大きな問題になります。
代表相続人を選ぶ他のポイントとしては、時間に融通がきく人物を選ぶことです。
平日に税務署や金融機関に赴いて手続きをすることも多いので、代表相続人が忙しすぎると手続きがなかなか進まないおそれがあるからです。
代表相続人の役割
代表相続人が担うことになる主な役割について、それぞれ解説していきます。
固定資産税の手続きにおける代表相続人
相続の対象となる財産の中に不動産がある場合、その不動産について一般に固定資産税の課税対象になります。
固定資産税とは、土地や建物などの固定資産をその年の1月1日に所有している者に対して課される税目です。
固定資産税を納付する場合、不動産の所有者に対して送られてくる固定資産税の納税通知書を用いて納付するのが一般的です。
資産税の納税通知書は、その年の1月1日の時点で、納税の対象となる不動産を所有している登記名義人宛に送付されます。
この点、その年度の途中に被相続人(遺産を残して亡くなった方)が亡くなった場合でも、納税通知書は被相続人宛にその住所地に送付されてきます。
既に亡くなっている被相続人に納税通知書が送られてきた場合、それを受け取る人物がいなければ、家が不在ということで固定資産税が納付されないまま長期間が経過してしまうおそれがあります。
そのような弊害を防止するために、相続人の中から納税通知書を受け取る者として代表相続人を選任し、通知書を受け取らせることができます。
また、固定資産税の対象となる不動産の所有者が亡くなって相続が開始した場合、遺産分割が終了して誰がその不動産を相続するかが決まるまでは、当該不動産は法定相続人が共有することになります。
固定資産税を取り立てる市区町村としては、不動産を共有している相続人全員に通知書を送付するのは手間がかかるため、代表相続人を指定してもらうことで手続きが簡便になるというメリットがあります。
固定資産税の代表相続人を決める方法
固定資産税の納税通知書を受け取る代表相続人を決めるための方法は、固定資産税の納付先である市区町村に対して相続人代表者指定届という書類を提出することです。
相続人代表者指定届とは、資産税の対象となる不動産の所有者が亡くなった場合に、代わって納税通知書を受け取る者を法定相続人の中から指定するための届出です。
相続人代表者指定届に記載する事項としては、代表者の住所氏名、被相続人の住所氏名や亡くなった年月日、各相続人の住所氏名や相続分などがあります。
代表者を指定しなかった場合でも法的なペナルティは特にありませんが、納税通知書の送付などに時間がかかって手続きが遅延する可能性があります。
なお、相続人代表者指定届によって代表相続人を選ぶことは、あくまでその代表者が納税通知書を受け取るべき立場になるだけです。
代表者になった者が不動産を相続するわけではなく、代表者が固定資産税の全額を支払わなければならないわけでもありません。
仮に、固定資産税の対象となった財産を相続する相続人が決まらないうちに、代表者となった者が納付を肩代わりした場合、最終的に財産を相続した相続人に対して肩代わりした費用を請求することができます。
相続税の申告手続きにおける代表相続人
相続人の中から代表相続人を選ぶことは、相続税の申告手続きでも必要になる場合があります。
相続税とは、亡くなった被相続人から各相続人が取得した相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合に課税対象になる税金です。
相続した財産について、各相続人のうち誰が何を相続するかを決める手続きを遺産分割協議といいますが、遺産分割協議には期限がないため、そのままでは相続財産がなかなか分割されない可能性があります。
一方、相続税については被相続人が亡くなってから10ヵ月以内が申告期限になるため、相続税の申告期限が近づくことで遺産分割協議が進行する要因になる場合が少なくありません。
複数の相続人がいる場合、相続税の申告期限までに遺産分割協議を完了して、相続人全員の連名で相続税の申告書を提出するのが一般的です。
相続税申告書は1枚だけではなく、多くの書類を記載したり、添付書類を集めたりする必要があります。
相続税の納税猶予等の特例の適用を希望する場合は、さらに多くの書類を作成する必要があります。
相続税申告書は相続人だけで作成することも制度上は可能ですが、専門的な知識が必要になる場面が多く、素人では作成することが難しくなっています。
そのため、相続税申告書は専門家の税理士に作成を依頼することが多いです。
税理士に相続税申告の手続きを依頼する場合、税理士との連絡や必要な資料等の収集を担当する者として、代表相続人を決めておくと手続きがスムーズに進みやすくなります。
金融機関での手続きにおける代表相続人
相続人が相続した財産の中に、預貯金や有価証券をはじめとする金融資産が含まれている場合、遺産分割協議が完了するまでは相続人全員の共有になるため、相続人全員が金融機関に赴いて払い戻しや名義変更などの手続きをするのが原則になります。
一方、相続全員で共同して金融機関で手続きを行うとすると非常に煩雑になる上に、相続全員の時間が合わない場合もあります。
そこで、金融機関での相続に関する手続きをより簡便に行うために、代表相続人を選任して手続きを任せる方法があります。
また、金融機関にとっても代表者がいれば手続きをスムーズに進めることができるので、金融機関の側から代表者の選任を打診される場合もあります。
代表相続人が選ばれた場合、その代表者が単独で金融機関に出向いて、相続財産である預貯金の払い戻しや口座の名義変更などの手続きを行うことができます。
他の相続人は時間を割いて金融機関に行く必要がなくなるので、金融機関での手続きを手早く済ませることができます。
他の相続人は、代表相続人に印鑑登録証明書や委任状などの必要書類を渡します。
なお、代表相続人はあくまで相続人全員の代表者として手続きを行うだけです。
相続財産である預貯金を取得する権限や、口座の新しい名義人になる権利を取得するわけではありません。
おわりに
被相続人の財産を相続した相続人が複数いる場合、税の申告や金融機関での手続きは基本的に相続人が全員で行う必要があります。
一方、相続人が全員で集まって手続きする機会を確保するのは簡単ではありません。
相続人の中からその代表となる代表相続人を選んでおけば、固定資産税の納付、相続税の申告を税理士に依頼する場合の窓口、金融機関での預貯金等の手続きなどをスムーズに行えるようになります。
複数の相続人で相続する可能性が高い場合は、代表相続人の選任を検討しておくのがおすすめです。
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