最終更新日:2023/7/28
株式会社設立に必要な人数は決まっていない!【1人で会社設立するメリット・デメリットや注意点を解説】
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 株式会社の設立に必要な人数がわかる
- 1人でも設立可能な法人形態がわかる
- 株式会社を1人で設立するメリット・デメリットがわかる
- 1人で株式会社を設立する際の注意点がわかる
個人事業主として既に事業を始めている方、これから新しく事業を始めようとしている方で、会社設立を考えているという方も多いのではないでしょうか。
株式会社などの会社を設立する場合、個人事業として事業を行うよりも周囲からのイメージも向上しますし、取引先などからの信用度も上がります。
また、事業の収益が大きくなれば、税制面でも会社の方がメリットは大きくなります。
ですから、将来的に事業の拡大を行っていこうとする場合、個人事業主からの変更だけでなく、新しく事業を始める方でも、最初から会社を設立するというのも選択肢の1つです。
そして、株式会社は発起人1人でも設立することができますので、経営者1人だけで設立・運営することが可能です。
本記事では、1人で株式会社を設立するメリット・デメリット、設立時の注意点などについて解説していきます。
目次
株式会社は設立に必要な人数が決められていない
株式会社は、たった1人でも設立可能です。
かつては、株式会社には取締役会の設置が義務付けられ、取締役会を設置するには3名以上の取締役が必要でした。
しかし、平成18年5月の会社法施行により、従前の法規制が大幅に緩和され、取締役会の設置は任意となりましたので、取締役の人数は最低1名でOKになりました。
ですから、株式会社の設立は発起人1人で行うことができますので、必要な人数は決められていないということになります。
ただし、取締役会を設置する場合は、最低3名以上の取締役が必要となりますので、ご注意ください。
会社法施行前は、株式会社を設立するには3名上の役員が必要で、資本金も最低1,000万円以上必要でしたが、今では1人で最低資本金の規制もありません。
このため、簡単に株式会社をつくれるようになりました。
株式会社以外で1人で設立可能な法人形態
会社法施行前は有限会社の設立も可能でしたが、現在、会社法で設立が認められている法人形態は、「株式会社」「合同会社(LCC)」「合名会社」「合資会社」の4種類です。
これらの法人形態のうち、発起人1人で設立できるのは、「株式会社」「合同会社(LCC)」「合名会社」の3種類です。
順に、これらの法人形態の概要を説明していきましょう。
株式会社とは
株式会社は、もっとも一般的な法人形態です。
株式を発行して資金調達を行い、その資金を使って事業活動を行います。
株式会社の設立時には、最低1人取締役を設置すればよく、取締役会の設置は任意となります。
ですから、取締役になる人が1人で発起人として株式会社を設立することが可能です。
合同会社(LCC)とは
平成18年の会社法施行によって、有限会社を新たに設立することはできなくなり、代わりに実質的に有限会社の受け皿となる法人形態として合同会社(LCC)が新設されました。
合同会社は、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルに導入されました。
株式会社と比較して、設立や運営コストが低く、意思決定のスピードも速いことから、外資系企業や小規模企業などで採用されている法人形態です。
合同会社を設立するには最低1人の出資社員がいればよく、1人で設立可能な法人形態です。
合名会社とは
会社の債務に対して、連帯責任を負う「無限責任社員」だけで構成される法人形態が、合名会社です。
会社法施行前は、2名以上の「無限責任社員」が必要でしたが、現在は1人で設立可能です。
株式会社を1人で設立するメリット
株式会社を1人で設立する場合、他に取締役や発起人がおらず、事業を行う従業員のみ雇用することもありますが、ここでは従業員の雇用もなく、完全に1人でスタートした場合のメリット、デメリットについて説明していきます。
まずは、どのようなメリットがあるのか解説していきます。
意思決定スピードが速い
1人で会社設立した場合、自分だけで色々な経営判断を下すことになりますので、プレッシャーを感じることも多いでしょう。
しかし、自分以外に役員として取締役がいた場合や、取締役会を設置した場合、重要事項を決定する際に、足並みが揃わず、時間がかかってしまうことがあります。
また、取締役には役員報酬も必要となりますから、モチベーション維持のためにも、それなりの金額を用意しなければなりません。
ですから、株式会社の設立時、まだ規模が小さい場合は特に、1人で設立した方が意思決定スピードも早く、スムーズに事業を進めることができるということが最大のメリットではないでしょうか。
共同で会社を設立する場合、役員が自分以外に複数名いることで、相談相手ができて多くの知恵が出てくるということもあるかもしれませんが、自分1人で設立した方が、自分の力を十分に発揮できるという人もいるでしょう。
固定費を低く抑えられる
自分以外に従業員を雇用した場合、この従業員には毎月給与を支払う必要がありますから、これは固定費になります。
会社を設立して間もない頃は、売上が安定せず、赤字になるケースも多いです。
どんなに売上が低迷しても、従業員の給与を支払わないわけにはいきませんから、利益が出しづらくなります。
ですから、会社設立時は特に、従業員の雇用を抑え、固定費を低減しておくことが重要です。
固定費が低く抑えられていれば、事業拡大に経費を回すこともできます。
その点、1人で株式会社設立している場合、従業員の給与を背負わなくてよいので、全体の固定費を抑えることができます。
採用コストがかからない
会社設立時、または設立して間もない頃は、従業員を採用するのに苦労します。
会社の信用度もまだ低いため、求人サイトや転職サイトでの募集に頼ることになり、時間と費用がかかります。
また、良い人材を採用できればよいですが、採用に失敗した場合や採用した人材が定着せず、すぐに辞めてしまうような場合は、さらに余分な手間と費用が必要になります。
1人で株式会社を設立して事業を始めるのは大変ですが、従業員維持コスト、採用コストといった費用がかからず、1人で会社の基盤固めができるというのは、メリットといえるでしょう。
従業員の人数は会社利益に比例しない
会社の売上高が多い会社は、従業員の人数が多いということはよくありますが、従業員の人数が多ければ売上高や利益が上がるというわけではありません。
たとえば、従業員が10人いて月間売上300万円だとしても、売上原価や販売管理費、従業員の給与もありますから、利益は残りません。
ですが、経営者1人で月間売上100万円の場合、従業員の給与は必要ありませんから、黒字になりやすいでしょう。
また、固定費の所でも説明したように、一旦雇用した従業員の給与は固定費となり、簡単に減らすことができません。
1人設立の場合は、このような心配は不要となりますので、メリットといえるでしょう。
株式会社を1人で設立するデメリット
続いて、株式会社を1人で設立することのデメリットについて説明していきましょう。
信用度が低い
個人事業主よりも、株式会社の方が社会的信用度は高くなります。
そして、同じ株式会社という形態の中でも、1人設立の会社よりも、従業員が50人いる会社の方が信用度は高くなるでしょう。
実際の取引に際して、従業員の数が影響する案件であるかは別として、取引先から見れば、1人設立の会社よりも従業員が50人いる会社の方が、規模が大きく信用できる会社ということになりやすいです。
そういった意味で、1人で会社設立することは、社会的信用度が低くなるというデメリットがあるといえます。
売上や利益の規模が小さくなる
1人だけで売上や利益の規模を大きくしていくには、限界もあります。
事業内容にもよりますが、1人で行える業務には時間的にも限界がありますから、一定の規模までは拡大できたとしても、それ以上の売上や利益を得ようと思ったら、人数が必要になります。
たとえば、個人事業主として月100万円の利益を出している人同士、3人で株式会社を設立したとしましょう。
それぞれの事業を継続させることができた場合、合わせて月300万円の利益を出せる会社が誕生しますが、株式会社設立による信用度アップが加わり、さらに利益を出せる可能性が広がります。
また、規模が大きくなることによる利益を得ることもできます。
株式会社の1人設立は、コストを削減して利益を残すには適していますが、売上高や利益額を拡大していくにはデメリットとなるでしょう。
文字通りワンマン経営になってしまう
株式会社を1人で設立して経営する場合、しっかりした事業方針、事業計画があり、順調に事業活動ができている時は問題ありません。
しかし、事業に行き詰まってしまった場合や新しく投資を行う場合など、誰かに相談したくなったとしても、会社の内部事情を理解しているのは自分1人ですから、自分で考え、判断するしかありません。
このような場合、他に取締役や信頼できる社員がいれば、相談したり、新しいアイデアのヒントをもらったりできます。
行き詰まった時は、1人で状況を変えていくことは非常に難しいものです。
ですから、事業の相談相手がいないということが、1人設立のデメリットといえます。
株式会社を設立するときに決めておきたいこと
株式会社を1人で設立した場合、社内には相談相手がいませんから、すべての意思決定を自分自身で行わなければなりません。
個人事業主の場合と違って、株式会社には義務もありますから、自分1人のことだからと考えていると、法律違反になったり、大事なことを見落としたりする危険性があります。
ここでは、株式会社を1人で設立するときに、決めておくべきこと、注意すべきことについて説明します。
自分の給料をいくらにするか
株式会社の場合、1人だけで設立した会社であっても、役員報酬を支払わなければなりません。
役員報酬とは、取締役などの役員への給料です。
株式会社を1人で設立した場合、役員は自分一人ですが、毎月自分への役員報酬が発生します。
役員報酬は、毎月定額で支払う場合、経費として計上できます。
つまり、経費にするためには、1年間は毎月定額で固定しなければなりません。
役員報酬の金額には、決まりはありませんので、自由に設定することができます。
ですが、役員報酬は自分の給料ですから、金額が多ければ自分自身の所得税や住民税が高くなります。
逆に、金額が少なければ、会社に利益が残ることになり、法人税が高くなります。
ですから、会社の利益と自身の所得額とのバランスも見ながら、自分の給料を決める必要があります。
一般的には、月額百数十万円までは自分の給料にしたほうが節税になるといわれていますが、会社の事業以外に不動産所得や副収入などがある場合は、事情が変わってきますので、ご注意ください。
経費の勘定科目に注意
経費の勘定科目の中で福利厚生費は、従業員の福利厚生を目的として使用されるものです。
具体的には、法定福利厚生である社会保険の会社負担分、住宅手当、食事代の補助、社員旅行や社内行事にかかる費用などです。
ですから、1人設立で従業員のいない株式会社の場合、福利厚生費としては認められない経費もあります。
ただし、取引先に関して出費した食事代を交際費で、また出張した際の費用を旅費交通費として計上することができますので、税務調査を受けた際に指摘を受けないよう、適切な勘定科目で処理しましょう。
ちなみに、1人設立の株式会社であっても、法定福利厚生の社会保険の会社負担分は経費として計上できます。
社会保険への加入
たとえ1人設立の場合でも株式会社であれば、健康保険法第3条及び厚生年金保険法第9条により、社会保険への加入が義務付けられています。
加入する社会保険は、「健康保険」と「厚生年金保険」です。
株式会社設立前に、個人事業主として国民年金、国民健康保険に加入していたとしても、そのままでいることはできず、「健康保険」と「厚生年金保険」に加入しなければなりません。
株式会社の代表であっても、会社から報酬として給料を受けている場合は、被保険者(適用事業所に使用される者)となるからです。
また、「健康保険は保険証が必要だから加入するが、年金は当てにならないから加入したくない」と思っても、どちらにも加入義務がありますので、片方だけ加入するということはできません。
ただし例外として、社長の役員報酬がない場合または役員報酬があっても社会保険料を下回るほど低い場合は、国民年金、国民健康保険に加入することになります。
まとめ
株式会社を設立するために必要な人数が決められているということはなく、1人だけでも設立することができます。
株式会社を1人で設立する場合、固定費や経費を低く抑え、1人で意思決定するため、スピードのある経営ができるといったメリットがある反面、相談相手がおらず、自分自身の強い意志が必要になるというデメリットもあります。
そして株式会社において、役員報酬(自分への給料)を経費とするためには、1年間の報酬月額を固定しなければなりません。
役員報酬については、自分自身の所得税と会社の法人税のバランスを考えて決定しましょう。
また、1人で設立した場合でも、社長自身の社会保険の加入義務が生じますので、ご注意ください。