最終更新日:2026/6/23
取締役の義務とは?会社法上の責任をわかりやすく解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
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- 取締役の義務
- 取締役の責任
- 取締役の責任が問われた事例
株式会社の取締役は、株主から委任されて会社の経営判断を行います。そして取締役には会社法に基づいた一定の義務が課されています。
なかでも「善管注意義務」や「忠実義務」は、取締役にとって非常に重要な義務です。これらの義務に違反した取締役は、会社や株主、第三者に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。
この記事では、会社法で定められた取締役の義務や責任、そして実際に取締役の責任が問われた事件についても解説します。これから取締役に就任する人や会社経営を行う人にとって押さえておきたい基本知識をまとめました。


目次
取締役とは
取締役という言葉をよく耳にしますが、取締役とはどのような立場なのでしょうか。取締役は会社法上の義務や、会社経営の責任を負う立場です。
取締役とは何か
取締役は、会社の経営判断を行います。取締役は従業員ではなく、株主から委任されて会社の経営判断を任されているという立場です。
取締役や代表取締役は会社法でその責任や義務が規定されています。
単に「会社の偉い人」というだけではなく、法律で定められた義務と責任を負っているのです。
取締役の役割
取締役の役割は、会社の経営判断です。会社の舵取りをして会社が利益を出せるよう尽力する役割になります。
取締役の職務はあくまで経営判断であり、従業員のように就業規則の中で働いているわけではありません。
株主との関係
取締役と株主は別のものです。
株主は会社の所有者にあたります。一方、取締役は株主から会社の経営判断を委任されている人のことです。
もちろん、取締役や代表取締役が自社の株式を保有しているというケースもありますが、取締役と株主は別の立場として区別する必要があります。
代表取締役との違い
代表取締役と取締役の違いは、代表権の有無です。代表取締役には代表権がありますが、取締役には代表権がありません。
代表取締役は取締役の中から選定されます。
会社法上の取締役の義務とは
会社法上の取締役の義務としては、善管注意義務、忠実義務、報告義務、競業避止義務があげられます。
善管注意義務
善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」のことです。
会社法では、取締役の責任は民法上の委任契約に準じるとされているため、取締役は民法で定められた善良な管理者としての注意義務を負っています。
つまり、取締役は注意を怠らずに「善良な管理者」として職務を遂行することが求められるわけです。
善管注意義務は、法律上の義務です。取締役が善管注意義務を怠った場合は、賠償責任を負う可能性もあります。
参考:会社法 第三百三十条|e-Gov 法令検索
参考:民法 第十節 委任|e-Gov 法令検索
忠実義務
忠実義務とは「会社のために誠実に職務を遂行しなければならない」というものです。
忠実義務に関しては、会社法で「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」と規定されています。
たとえば、忠実義務を負っている取締役が、自分の利益を優先させる契約をしたり、会社の情報や資産を業務以外の目的で利用したりすると、忠実義務に違反する可能性があります。
報告義務
報告義務とは、株式会社に著しい損害を及ぼす恐れのある事実を発見したときは株主に報告しなければならないというものです。
この義務は会社経営の透明性を確保するために不可欠なものです。報告を怠った場合、他の取締役が正確な判断を行えず、会社に損害が生じる可能性があります。
競業避止義務
競業避止とは、会社の利益を害する行為を禁止することです。たとえば、取締役が独立して自分で会社を作る場合や同業他社にヘッドハンティングされた場合などに、この競業避止義務が問題となります。
以下のような行為は、競業避止義務違反となる可能性があるため、事前に株主総会や取締役会の承認が必要です。
- 会社と同種の事業を自己または第三者の名義で行うこと(競業行為)
- 会社の事業機会を自己または第三者のために利用すること
- 会社と取引を行うこと(自己取引)
利益相反について
取締役が会社との間で利害が対立するような取引を行うと「利益相反」に該当する可能性があります。
たとえば、取締役が自己所有のビルを会社に高額で賃貸した場合、会社にとっては不利な取引となります。
取締役は、自身の利益と会社の利益が衝突するような場面では、会社の利益も考慮した選択をしなければなりません。
取締役の義務違反の具体例
取締役の義務違反と言われても、抽象的でわかりにくいかもしれません。ここでは、取締役の義務違反の典型例を3つ紹介します。
利益相反取引の例
利益相反取引とは、取締役個人の利益と会社の利益が対立している取引をいいます。
たとえば、取締役が自分や家族の所有する不動産を会社に売却する場合や、取締役の親族が経営する会社と自社が取引をする場合などがこれに該当する可能性があります。取締役が自分に有利な条件を設定して、会社に不利益が生じる恐れがあるからです。
ありがちなのが、相場より高い価格で会社に不動産を買わせたり、親族の会社に業務を発注したりするケースです。
競業取引の例
競業取引とは、取締役が会社と競合する事業を行うことをいいます。
たとえば、取締役が個人的に新会社を設立し、今の会社で販売しているものと同じような商品を販売する場合などです。
このような行為をすると、本来は会社が受ける利益を、取締役が奪うことになります。
特に会社の顧客情報や営業ノウハウを使って同種の事業を始めるケースでは、会社に与える不利益がより大きくなるため要注意です。
違法配当
違法配当とは、会社法で定めた分配可能額を超えて、株主に剰余金を配当することです。このような配当を行うと、会社の資金繰りが悪化し、債権者や取引先に不利益が生じる恐れがあります。
たとえば、決算書の内容を十分に確認しないまま配当を決めた結果、配当可能な利益が不足していたというケースです。経営状態が悪化しているにもかかわらず株主の意向を優先してしまうと、こういった問題が生じ得ます。
違法配当がなされた場合、配当を決定した取締役は責任を問われる可能性があります。特に、財務状況を適切に確認せずに配当を決めた場合は、善管注意義務違反も問題になりやすいです。会社の資本を守る観点からも、配当の可否は慎重に判断しなければなりません。
取締役が義務に違反した場合の責任
取締役が義務に違反する行為をしたら、どのような形で責任を負うのでしょうか。ここでは、取締役が義務違反をした場合の責任について解説します。
会社への損害賠償責任
取締役が不適切な経営判断によって善管注意義務や競業避止義務に違反した場合、会社に与えた損害を賠償する責任が発生します。
たとえば、取締役が会社の承認なく同業種の事業を始めた場合や、会社に自分の財産を高額で売却した場合などです。
また、明らかに不適切な意思決定をしたり、情報収集をせずに経営判断をしたりして損害が生じた場合にも、法的責任が発生することがあります。
ただし、単に経営判断をミスしただけで法的責任が追及されるわけではありません。判断の基準やプロセスが正当であれば賠償責任は生じません。
第三者への責任
取締役の義務違反(意図的だったり、うっかりでは済まされない不注意によるもの)で第三者に損害が発生した場合は、賠償責任を負うことになります。
たとえば、会社の決算情報を偽って提供して投資家や銀行を誤認させた場合や、取引先への確認を怠った結果、損害を与えた場合などがこれに該当します。
実際にあった取締役の責任問題の事例
取締役が責任を追及された事例はいくつもあります。ここでは実際にあった事件を簡単に紹介します。
東芝不正会計事件
東芝不正会計事件は、2008年度から2014年度までの長期にわたり、工事進行基準案件における工事原価総額の過少見積りなど、不適切な会計処理が行われていたとされた事件です。
第三者委員会は、税引前損益の要修正額が累計でマイナス1,518億円に上ると指摘しました。
この事件では、経営陣の善管注意義務や内部統制の機能不全も問題となりました。
参考:経営方針・事業説明会:第三者委員会の調査報告に関する当社の対応について|財務情報|東芝
オリンパス粉飾決算事件
オリンパス粉飾決算事件は、過去の損失を簿外処理するなどして、有価証券報告書等に虚偽記載が行われたとされた事件です。
証券取引等監視委員会は、法人および関係者を金融商品取引法違反の嫌疑で東京地方検察庁に告発しました。
「飛ばし」という手法で長年にわたって損失隠しが行われたこの事件は、旧経営陣の善管注意義務・忠実義務や刑事責任が問題となった代表的な事例です。
参考:オリンパス株式会社に係る虚偽有価証券報告書提出事件の告発について|証券取引等監視委員会
日産自動車事件
日産自動車事件では、元会長の役員報酬について、有価証券報告書に実際より少ない金額が記載された虚偽記載が問題となりました。
証券取引等監視委員会は、日産自動車および関係者を金融商品取引法違反の嫌疑で告発し、日産自動車は後に課徴金納付命令を受けました。
参考:日産自動車株式会社に係る虚偽有価証券報告書提出事件の告発について|証券取引等監視委員会
参考:日産自動車(株)に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の決定について|金融庁
また、日産自動車は元会長に対し、会社資金・会社資産の私的流用や善管注意義務違反などを理由に損害賠償請求訴訟を提起しました。
参考:東証届出 2019年度|投資家の皆さまへ|日産自動車企業情報サイト
広告の使用許可が問題になった事件
日本たばこ産業株式会社の販売促進用小冊子の制作に関連し、制作会社が写真家から小冊子への利用許諾を得た写真を、許諾範囲を超えて自社Webページに掲載し続けた事例があります。
裁判所は、会社による著作権侵害を認めるとともに、代表取締役についても、写真の利用許諾の有無を確認しなかった点に重大な過失があるとして、会社法429条に基づく第三者への責任を認めました。
2025年の知財高裁判決でも、一審の414万円の認容判断が維持されています。
参考:東京地判令和5年5月18日令和3(ワ)20472(全文PDF)|裁判所
参考:知財高判令和7年5月14日令和5(ネ)10067(全文PDF)|裁判所
株主代表訴訟
株主代表訴訟とは、取締役等が会社に損害を与えた場合に、株主が会社に対して責任追及の訴えを提起するよう請求し、会社が一定期間内に提訴しない場合などに、株主が会社のために取締役等へ損害賠償を求める制度です。
実際にあった株主代表訴訟について解説します。
東電株主代表訴訟
東京電力福島第一原発事故をめぐる株主代表訴訟では、株主が旧経営陣に対して約23兆4,000億円の賠償を求めました。
一審の東京地裁は、津波対策をめぐる取締役らの責任を認め、元経営陣4人に13兆3,210億円の賠償を命じました。
一方、2025年6月の東京高裁判決は一審判決を取り消し、元経営陣の責任を否定しました。なお、2026年5月7日現在、最高裁での審理を求める活動が続いており、最高裁の最終判断はまだ下されていません。
参考:東京地判令和4年7月13日平成24(ワ)6274(全文PDF)|裁判所
参考:東京高判令和7年6月6日令和4(ネ)4601(全文PDF)|裁判所
蛇の目ミシン工業事件
蛇の目ミシン工業事件は、投資家集団(仕手筋)による株主としての地位を濫用した不当要求に対し、取締役らが法令に従った適切な対応を取らず、会社に巨額の損害を生じさせたとして、忠実義務・善管注意義務違反が問題となった事件です。
最高裁は、取締役らの過失を否定できないとして事件を差し戻しました。その後、差戻控訴審で元役員らに約583億円の賠償が命じられ、2008年に確定したとされています。
参考:最判平成18年4月10日平成15(受)1154|裁判所
参考:ジャノメ100年史 分割版 年表(PDF)|Company Story|株式会社ジャノメ 創業100周年記念サイト
取締役が責任問題を回避するためのポイント
取締役は、判断や対応を誤ると損害賠償責任を問われる可能性があるため、慎重な判断や行動が必要です。ここでは、取締役が責任問題を回避するために重要なポイントを解説します。
経営判断の原則
取締役の責任を考えるうえで重要なのが、経営判断の原則です。これは、取締役が経営判断を行う際に、必要な情報を集めて合理的な検討・判断をしていれば、善管注意義務違反には問われないというものです。
会社経営には常にリスクが伴います。結果だけを見て取締役の責任を追及するのは合理的ではありません。
そのため、重要な判断を行う際に、資料の収集、専門家への相談、議事録の作成などを行い、判断の過程を明確に残しておくことが大切です。
取締役会の適切な運営
取締役会の適切な運営も、取締役が責任追及を回避するために重要です。取締役会は、会社の重要事項を決定するとともに、取締役の職務執行を監督する機関でもあります。
たとえば、不正会計や利益相反取引のような問題では、取締役会でどのような議論が行われたかが重視されます。
そのため、必要な資料を事前にそろえたうえで、取締役会で各取締役が内容を十分に検討して経営判断を行うことが重要です。
内部統制の整備
取締役が責任追及を回避するには、内部統制を適切に整備することも欠かせません。会社が法令違反や不正を防ぎ、適正に業務を行うためのしくみを自ら作るということです。
特に会社の規模が大きくなると、取締役がすべてを直接把握することは難しくなります。だからこそ、組織として問題を未然に防ぎ、発見し、是正できる体制を整えておく必要があります。
取締役の義務についてのよくある質問
取締役は法律上の義務を負っている
取締役は、会社の経営を担う重要な立場であり、会社法で定められた責任を負っています。取締役の義務は、善管注意義務、忠実義務、競業避止義務、利益相反取引に関する規制など多岐にわたります。
取締役がこれらの義務に違反すると、会社に対する損害賠償責任だけでなく、第三者に対する責任が問題になることもあります。
取締役として重要なのは、日頃から会社を適切に運営し、内部統制を整備し、判断過程を明確に残しておくことです。これから取締役になる人は、こういった取締役の立場と義務について理解しておきましょう。












