最終更新日:2022/11/24
資本準備金とは?資本金との違いや計上するメリット・注意点をわかりやすく解説
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 資本準備金とはなにかがわかる
- 資本金と資本準備金、資本剰余金の違いがわかる
- 資本金準備金のメリットや注意点がわかる
会社を設立するときは、登記のための費用以外に資本金が必要です。
出資を受けた額をすべて資本金にする必要はなく、そのうち半分は資本準備金としてプールすることができます。
資本準備金とは、株主に出資してもらった際に計上できる勘定科目で、将来の赤字の補填や多額の損失などに備えて準備しておくものです。
資本準備金をうまく使えば、税制上の優遇措置を受けられるなどのメリットがあります。
この記事では資本準備金とは何か、資本準備金と資本金との違い、資本準備金のメリットや注意点などをわかりやすく解説します。
目次
資本準備金とは
資本準備金とは、会社の設立時や株式の発行時に払込まれた資金額のなかで、資本金として計上しないお金を意味します。
これは会社法第445条2項で定められており、「資本金の2分の1を超えない金額について、資本金として計上しなくてもよい」となっています。
つまり資金が1,000万円ある場合、最大500万円を資本準備金として計上することができるという意味です。
資本準備金の目的は、万が一の赤字の補填に使ったり、節税のためにプールしたりすることで、多くの企業が資本準備金を用意しています。
会社法には、以下の通りの規定があります。
(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
4 剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。
5 合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。
引用元:電子政府の総合窓口 e-Gov
資本金とは
会社の資本金とは、出資者(株主)が会社に払ったお金のことをいいます。
設立時には株式数と資本金を決めて払い込みをし、会社を設立します。
資本金の増減は株主総会での決議が必要で、会社の規模を大きくしていくに従って増資するのが一般的です。
資本金についての詳しい内容は以下の記事をご覧ください。
資本剰余金とは
「資本剰余金」は、資本準備金とその他資本剰余金を足したもので、資本金や資本準備金とは別の概念です。
その他資本剰余金は、自家株式を処分したときの差額や、資本準備金を取り崩した金額などが計上されます。
資本金でも資本準備金でもないお金で、株主資本が増えたり減ったりする(資本取引)ことで生じる項目であり、普段の事業活動(損益取引)では生じない項目です。
資本剰余金は、配当の原資として認められています。
資本準備金と資本金の違い
資本準備金と資本金の目的や取り崩す時の手続きには、以下のような違いがあります。
資本金 | 資本準備金 | |
---|---|---|
目的 | 会社財産や経営の指標 | 万が一のための備え |
取り崩す時 | 株主総会の特別決議が必要 登記簿に履歴が残る | 株主総会の普通決議が必要 登記簿に履歴は残らない |
資本金も資本準備金も、ともに貸借対照表の「純資産の部」に計上される金額です。
そのため、この両者に大きな違いはないようにも思われます。
実際、資本金も資本準備金も、株主から払い込みを受けた金額であり、その表示方法が違うだけということはできます。
ただ、資本金の額は会社の登記簿謄本に記載される登記事項であり、損金額を変更した際には登記の内容も変更する必要があります。
一方、資本準備金に計上できる金額は、実際に払い込みを行った金額の1/2を超えない金額とされています。
例えば、1,000万円の払い込みを行った場合、500万円まで資本準備金の額とすることができます。
この場合、残りの500万円は資本金の額となるのです。
資本準備金を計上するメリット
資本準備金を計上するメリットを3つ紹介します。
税制上の優遇措置
資本金の金額によって、税制上の優遇措置があります。
資本金の額が1,000万円以上である法人の場合、その法人を設立した初年度から消費税の納税義務が生じます。
これに対して、資本金の額が1,000万円未満である場合、設立初年度及び設立2年度の消費税の納税義務は免除されます。
設立初年度や設立2年度でも、課税売上高や給与等の支払い額によっては消費税の納税が発生する場合はあります。
ただ、資本金の額が1,000万円以上の場合は、どれだけ課税売上高などが少なくても消費税が発生してしまうため、資本金の額を少なくする方が有利です。
資本金の金額が1億円以下の場合は中小企業税制が適用されるため、年800万円以下の所得について法人税率が23.2%から15%に軽減されます。
中小企業税制には、以下のようにあります。
法人税の税率は原則として23.2%です。
ただし、中小法人は、平成24年4月1日から令和3年3月までに開始する各事業年度分の年800万円以下の所得金額の部分については、税率が15%に軽減されています(本則:19%)。
(中略)
中小法人(注)
(注)中小法人とは普通法人のうち、各事業年度終了時において、資本金又は出資金の額が1億円以下の法人又は資本若しくは出資を有しない法人のことをいいます。
引用元:中小企業税制(令和元年度版)
同じく、資本金の額が1億円以下の場合は外形標準課税の対象外となり、企業の規模に応じた課税がされません。
資本準備金を計上することで資本金を少なくすることができますので、上記の優遇措置も受けやすくなります。
赤字の補填ができる
会社の経営状況を表すものが、決算書です。
決算書を構成するのは貸借対照表と損益計算書ですが、このうち貸借対照表には「純資産の部」と呼ばれる記載事項があります。
純資産の部には「繰越利益剰余金」として、過去からの繰越利益が計上されていますが、この表示がマイナスになってしまう場合があります。
この時資本準備金が計上されていると、その資本準備金から繰越利益剰余金に振り替えることができます。
そのため、繰越利益剰余金をマイナスにならないようにすることができるのです。
資本金の増資
資本金の額は、会社設立当初は少額に抑えている場合がありますが、事業の拡大にあわせてその額を増やしたいと考えることがあります。
資本金の額を増やすことを「増資」といい、その手続きが会社法に定められています。
会社法によれば、増資を行うには資本の払い込みを受ける、あるいは資本準備金を資本金に振り替える必要があります。
このうち、資本の払い込みを受ける方法は、新たな出資者や出資金額を募る必要があるため、思い通りにいかないこともあります。
一方、資本準備金から資本金への振り替えは、株主総会での普通決議があればいいため、簡単で確実に増資を行うことができます。
資本準備金を計上するときの注意点
資本準備金を計上するときの注意点について見ていきます。
事業の種類によって許認可が必要
会社が行う事業の中には、国や都道府県などの監督官庁の許認可を必要とするものがあります。
その許認可を取得する際に、最低資本金の定めがある場合は、注意しなければなりません。
例えば労働者派遣業の許認可を取得する際には、資本金の額が要件に定められています。
そのため、払い込みの金額は要件を満たしているのに、資本準備金の額を大きくしすぎたために資本金の額が少なくなり、要件を満たさなくなってしまう可能性があります。
許認可を得るために最低限必要な資本金の額の定めがある場合は、その額を事前に把握しておき、資本準備金の額を大きくしすぎないようにしましょう。
事業規模が小さいと判断されやすい
株主により払い込まれた金額のうち一部を資本金とし、残りを資本準備金とする場合、実際に外部から払い込まれた金額は「資本金+資本準備金」です。
しかし、第三者が決算書に表示される金額を見る時に、会社に払い込まれた金額として認識されるのは、資本金の額だけとなることがほとんどです。
そのため、資本準備金として計上された金額があると、その分会社の規模が小さいものと判断されることが多くなります。
会社の登記簿謄本の記載事項には、資本金はありますが、資本準備金はありません。
登記簿謄本から会社の財務状況を判断しようとする場合、資本準備金については全く考慮されないこととなり、会社の事業規模を実力より小さく見られ、会社にとっては不利になることがあるのです。
資本準備金を増減するときの手続き
資本準備金は、所定の手続きを行えばその額を増減させることができます。
まず、資本準備金を増加させる時ですが、資本準備金を増加させるための選択肢は次の2つです。
- ①資本金を減らす
- ②その他資本剰余金を減らす
このうち①資本金を減らす場合は、株主総会の特別決議が必要です。
特別決議とは、議決権1/2を有する株主が株主総会に出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成を得ることをいいます。
普通決議に比べると、より厳格にその要件が定められています。
また、②その他資本剰余金を減らす場合は、株主総会の普通決議が必要です。
普通決議には、議決権の1/2を保有する株主が株主総会に出席し、出席した株主の議決権の1/2を超える賛成が求められ、資本金を減らす場合に比べると、要件は緩くなっています。
これは、資本金を取り崩すのは株主にとって大きな不利益となるため、簡単にできないようになっているからです。
一方、資本準備金を減少させる場合は、株主総会の普通決議が必要となり、資本準備金を減少する際は、官報での公告を行う必要があるほか、債権者に対して個別に通告する必要もあります。
なお、会社の定める定款の内容によっては、個別通告ではなく日刊新聞紙上での広告や電子公告を利用することも可能です。
また、資本準備金を減少させて資本金を増やす場合は、株主にとって不利益になることはないため、債権者保護手続きは必要ありません。
まとめ
今回は、資本準備金と資本金との違いや、資本準備金のメリット・注意点などをご紹介しました。
資本準備金は万が一のために備えておくお金で、税制上の優遇措置を受けられるメリットがあります。
ただし、資本準備金を計上するときは、事業の種類によって許認可が必要であることや、事業規模が小さいと判断されやすいなどの注意点があります。
資本準備金のメリットを上手に利用しながら、会社の経営に活かしていきましょう。