この記事でわかること
- 相続税を延納するために必要となる要件を知ることができる
- 相続税を延納する手続きの流れや必要となる書類がわかる
- 土地に抵当権がついている場合に延納する際のポイントがわかる
亡くなった人の財産を相続して相続税を支払う時には、どのように納税資金を確保するかが大きな課題となります。
特に相続財産に土地が含まれていると、税額が大きい一方で十分な現金がない場合もあり、納税に苦労するのです。
この場合に、相続税の延納制度を利用して税額を分割納付することができるようになっています。
ただ、無条件でどのような場合でも利用できるというわけではありません。
延納することで不動産に抵当権が設定されるなど、いくつかの注意点があるので、確認していきましょう。
目次
抵当権とは
抵当権とは、金融機関から借入をする際に、その金融機関が不動産に対して設定する権利のことです。
借入をした人がその返済に行き詰まった場合、抵当権者である金融機関はその不動産を差し押さえます。
その後、金融機関はその不動産を競売にかけてお金に換え、債権金額の回収を図るのです。
抵当権が設定されると、その不動産を勝手に売却することはできなくなるため、不動産の所有者にとっては非常に大きな意味を持ちます。
また抵当権を設定する際には、法務局で登記を行う必要があります。
なお、相続税の延納制度を利用する際にも、抵当権を設定しなければなりません。
返済が滞ってしまった場合など、いざという時に備えて債権者である国が担保をとる必要があるのです。
相続税の延納をする要件
相続税の延納をする場合、税務署に担保となる財産を提供しなければなりません。
この時、担保財産は以下の要件を満たしていることが必要です。
- ①担保として提供できる種類の財産である
- ②担保として不適格であると認められない
- ③必要額を満たすものである
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①担保として提供できる種類の財産である
どのような種類の財産でも担保として認められるわけではなく、担保とすることができる財産の種類は限定されています。
担保となる財産の種類として、まずは不動産があります。
土地や建物などの財産を担保として提供することが認められます。
また、国債や地方債、社債といった債券や有価証券も担保とすることが認められます。
この他、立木、船舶、鉄道財団・工事財団、保証人の保証なども、担保とすることが認められます。
②担保として不適格であると認められない
担保とすることが不適格な財産でないかを確認しなければなりません。
違法建築の建物や違法利用の土地は、そのまま利用することができないため、担保とすることは認められません。
また、相続人同士で所有権に争いがある財産なども最終的に誰に帰属するかわからないため、担保には不適格です。
さらに、第三者の同意が必要な財産の場合、その同意が得られないために抵当権が設定できないこともあります。
現実的に抵当権を設定する登記ができなければ、担保とすることは認められないのです。
なお、すでに同じものが金融機関において抵当権が設定されている場合、二番以下の抵当となるため、実質的に金銭の回収ができません。
そのため、相続税の延納のための抵当権としては不適格となります。
③必要額を満たすものである
担保とするものが必要な額を満たすものでなければなりません。
延納する税額より担保となる財産の価値が低ければ、仮に売却しても十分な税額を回収することができなくなります。
そのため、財産の担保価値を計算して、その金額が必要な金額を満たすことが必須条件となります。
土地や建物のような不動産の場合、時価で評価をするわけではありません。
土地については時価の8割以内とされます。
また、建物については時価の7割以内とされ、担保提供期間中の減耗を考慮した金額とされます。
相続税の延納を申請する流れ
相続税の延納制度を利用しようと思っても、すぐに利用できるわけではありません。
そもそも延納が認められない場合もあるなど、その手続きは厳格に定められているのです。
ここでは、延納制度を利用するために必要な申請手続きの流れを確認していきます。
①担保とする財産を選定する
被相続人が亡くなると、その翌日から10か月以内に相続税の申告・納付をしなければなりません。
それまでの間に相続税の税額を計算し、納付方法を選択することとなります。
ここで、相続税を一度に納付することができない場合にはまず延納を検討することとなります。
延納することを選択した場合、必要となるのが担保となる財産です。
担保は、必ずしも相続財産から選ばなければならないわけではありません。
自身で保有している財産から担保に提供することもできますし、第三者が提供することも認められます。
②延納申請書等の必要書類を税務署に提出する
担保財産を選定したら、延納申請書や担保提供関係書類などの必要書類を作成し、税務署に提出しなければなりません。
必要書類は国税庁のホームページからダウンロードすることができますが、記載方法は決して簡単ではありません。
税理士などの専門家に依頼して作成することも考えておく必要があります。
なお、これらの書類は相続税の申告期限までに提出しなければなりません。
期限に間に合わない場合には「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出し、その期限を延長することができます。
③延納の審査と許可・却下の通知
担保提供関係書類が提出されると、その書類をもとに延納を認めるかどうかの審査が行われます。
この審査は原則として3か月以内に行われ、3か月以内に税務署から通知を受けることとなります。
延納が許可された場合、相続税延納許可通知書が送付されてきます。
この通知書に許可された税額やその期間が記載されているため、よく確認しておきましょう。
延納が却下された場合、延納申請却下通知書が送付されてきます。
却下されると、ただちに相続税を納付しなければなりません。
延滞税が加算されることとなるため、急いで相続税を納付する準備を行うようにしましょう。
相続税の延納に必要な書類
相続税の延納手続きを行う際に、税務署に提出しなければならない書類には、以下のようなものがあります。
①相続税延納申請書
納付すべき相続税額のうち、延納する税額を記載して申請します。
また、相続財産に占める不動産の割合や、分納する税額の計算明細などの項目を記載する書類です。
②延納申請書別紙
担保に提供する財産の種類ごとに別紙が定められています。
その担保の内容、延納する税額と担保とする財産の金額を記載します。
③金銭納付を困難とする理由書
金銭納付が困難な理由を記載する書類です。
相続した現預金や相続人が保有していた現預金、そして生活費などの金額を記載します。
④不動産等の財産の明細書
不動産の種類やその価額などを記載します。
⑤担保提供関係書類
財産の存在やその金額などを証明するための書類です。
土地や建物を担保とする場合は、その登記事項証明書が必要となります。
国債や地方債、社債や有価証券、保証人の種類ごとにそれぞれ必要な書類が定められています。
相続税延納で土地に抵当権がつくときのポイント
これまでお伝えしてきたように、相続税を延納する際には、担保を提供しなければなりません。
そして多くの場合、土地を担保とすることになります。
土地を担保とし、抵当権の登記を行う場合、どのようなポイントをおさえておくといいのでしょうか。
完済すれば抵当権を抹消できる
担保の提供は、あくまでも未納となっている税額が回収できなくなることを防ぐものです。
そのため、すべての税額を納付し終えれば担保の提供は終了し、抵当権を抹消登記することができます。
金融機関が設定した抵当権については、債務者が自身で抵当権抹消の手続きを行う必要があります。
しかし、延納の場合は税務署が抵当権抹消の手続きを行ってくれます。
延納期間の途中で土地を売却することもできる
抵当権が付された土地については、そのまま売却することはできません。
そのため、延納期間中にその土地を売却することはできないと考えられます。
ただ、場合によってはどうしても土地を売却したいということが起こることもあります。
その時は、担保として他の財産を提供すれば当初担保としていた土地を売却することができます。
また、担保としていた土地の売却代金を延納していた税額の返済にあてることもできます。
この場合は、売却により発生した所得税や住民税をあらかじめ考慮しておく必要があるので、注意が必要です。
担保とした財産を変更することができる
担保とした土地を、他の財産に差し替えることができます。
また、複数の土地を担保としていた場合には、未納税額の返済が進んでくるとそれだけの担保が必要なくなることもあります。
このような場合は、担保とした土地の一部についてその抵当権を解除することができます。
【補足】抵当権のついている土地を相続する場合の注意点
最後に、抵当権がついた土地を相続した場合の注意点を簡単にまとめておきます。
基本的に抵当権がついていてもその土地自体の価値には影響がないと考えられていることをよく理解しておきましょう。
相続税評価額には影響ない
金融機関が抵当権を設定した土地であっても、その評価額には影響はありません。
路線価方式・倍率方式のいずれであっても、抵当権がついているために評価額が減額されるということはないのです。
負債の返済義務者は明確にしておく
抵当権がついた土地を相続するということは、金融機関などに対して借金があるまま亡くなったということになります。
被相続人が残した債務は、原則として相続人全員が支払わなければなりません。
誰がどの財産を相続したということと、債務をどれだけ負担するかということは直接関係ないのです。
もし財産を多く相続した人が債務の負担をするのであれば、事前に金融機関と協議をしておく必要があります。
債務を返済すると約束した人が返済できなくなったとき、他の相続人に債務の請求が及ぶこととなります。
まとめ
相続税を延納するためには、担保財産を税務署に提供しなければなりません。
どのような財産でも担保となるわけではなく、またその担保としての評価額は時価より低くなります。
そのため、延納して分割納付しようとしても、誰でも利用できるわけではないことに注意が必要です。
相続税が発生して一度に納税することが難しい場合には、金融機関からの借入や物納など、あらゆる可能性を検討しましょう。
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