この記事でわかること
- 任意後見制度とはどのような制度なのかを知ることができる
- 任意後見制度を利用しようとする手続きの際にかかる費用がわかる
- 任意後見制度で後見人や任意後見監督人に対する報酬がわかる
判断能力の低下した人が法律行為を行うために、任意後見制度を利用するケースがあります。
後見人という名前は聞いたことがあっても、実際にどのような制度なのか知らない方が多いのではないでしょうか。
そこで、任意後見制度とはどのような制度なのかをご紹介します。
また、任意後見制度を利用するにあたって必要となる費用について、契約成立時と成立後に分けて解説します。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、判断能力が低下した成人を保護するための制度として定められている成年後見制度の種類の1つです。
任意後見制度の他、家庭裁判所の審判を経て後見人を選任する法定後見制度があります。
任意後見制度の特徴は、契約により後見人を定めること、契約により後見人が行う職務の内容が定められることがあげられます。
そのため、任意後見制度を利用するためには、判断能力が低下する前に後見人になる人と契約を締結する必要があります。
任意後見契約を締結しておき、その後に被後見人の判断能力が低下してきたら後見人が実際に職務を始める流れになっています。
また、契約で定める内容が本人と後見人にとって非常に大きな意味を持つため、慎重に契約する必要があります。
任意後見制度の【契約・申立時】にかかる費用
任意後見制度を利用するためには、任意後見契約を締結しなければなりません。
この任意後見契約は、誰が後見人になるのか、後見人が何をしなければならないのかを定めるものです。
一度任意後見契約が始まると、その契約は判断能力の低下した本人が亡くなるまで続くのが一般的です。
そのため、契約の際にはかなり慎重にその内容を決めなければなりません。
任意後見制度の契約時、あるいはその後に家庭裁判所での手続きを行う際にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
具体的な手続きをあげながら、その費用について確認していきます。
任意後見契約書の作成にかかる費用
前述したように、任意後見契約を締結する際には、その契約書の内容を慎重に決める必要があります。
また、契約の内容だけでなく、契約書の形式にも注意が必要です。
というのは、任意後見契約を締結する際には、公正証書による契約書を作成しなければならないからです。
公正証書による契約書は、公証役場に行き、公証人に作成してもらわなければなりません。
いくら法的に問題がない契約書であったとしても、公正証書になっていなければ任意後見契約としての効力はありません。
公証役場に行き、公証人に公正証書を作成してもらうためには、手数料が必要となります。
任意後見契約の公正証書を作成するための手数料は、1つの契約について11,000円となっています。
この他、登記嘱託手数料として1,400円、印紙代として2,600円、郵便切手代として600円程度の費用がかかります。
さらに原本超過枚数加算や正本謄本の作成手数料などの費用もかかりますが、こちらは1枚あたり250円と大きな負担にはなりません。
任意後見契約の契約書を公正証書で作成するには、トータル2万円程度の費用がかかることとなります。
なお、自分で公証役場に行くことができない方もいるかもしれません。
そのような方でも公正証書を作成できるよう、公証人が依頼者の求めに応じて出張することも可能です。
ただし、出張を依頼する際には、日当と旅費を負担しなければなりません。
日当は1日あたり2万円、4時間以内の場合は1万円とされています。
また、現地までの移動にかかった旅費は実費を負担しなければなりません。
任意後見契約の文面の作成を依頼する費用
任意後見契約の内容について、専門家である弁護士に作成および内容の確認を依頼すれば、その費用が発生します。
契約書の文面は、一度契約が成立すると後から変更することは簡単ではありません。
契約を後から変更しようとすれば、変更した内容に基づいてもう一度契約を結び直す必要があります。
そこで、後から問題が生じないよう、契約書自体を弁護士に作成してもらうことが有効となります。
次に、弁護士に依頼することの費用について見ていきましょう。
公証役場の手数料とは違い、その費用は定められておらず、各弁護士が自由に決めることができます。
そのため、どの弁護士に依頼するかにより、その費用が大きく変わることが予想されます。
5万円程度としている弁護士が多いものの、多少前後するケースがあります。
また、任意後見契約の内容や財産の状況、後見人との関係などによっては、その費用が高くなることもあるため、注意しましょう。
任意後見制度の【成立後】にかかる費用
任意後見契約が成立すると、その後、実際に任意後見制度を利用する際に発生する費用があります。
その費用の内容ごとに、どのような費用がどのくらい発生するのか解説していきます。
任意後見人に対する報酬
任意後見制度を利用すると、当事者として必ず登場するのが任意後見人です。
任意後見人は、任意後見契約により定められた人であり、家庭裁判所の審判により選任されるものではありません。
そのため多くの人が、同居する家族などのきわめて近い関係にある人を任意後見人にしています。
任意後見人に対する報酬についても、任意後見契約書の中で定めておきます。
家族が任意後見人になる場合、無報酬とすることも多いのですが、金額を決めて支払っても問題ありません。
この場合、金額の決定方法も任意となるため、報酬の金額をいくらにするかは自由に決定できます。
中には弁護士や司法書士などの専門家と、任意後見人として契約する場合もあります。
このような場合は、無報酬というわけにはいかないため、財産の金額に応じた報酬が発生します。
報酬の金額はその専門家が自由に決定できるため、財産の額がどれだけあると一律いくらの報酬という決め方はできません。
ただ、多くの事務所の平均的な報酬の金額はわかるため、参考にすることはできます。
これによれば、管理する財産の金額が1,000万円以下の場合は月額2万円、1,000万円超5,000万円以下の場合は3~4万円となります。
そのため、専門家を任意後見人とした方は、年額24~48万円程度の報酬を支払っていることとなります。
任意後見監督人に対する報酬
任意後見人に対する報酬は、家族などが後見人となれば無報酬とすることもできます。
しかし、任意後見監督人には必ず弁護士などの専門家が選任されるため、無報酬ということはありません。
任意後見監督に対する報酬額は、家庭裁判所が決定します。
ただ、報酬額を決定する際には目安の金額が公表されており、それに基づいて決定されます。
管理する財産の額が5,000万円以下である場合は、月額1~2万円程度となり、任意後見人の場合より少なくなります。
ただそれでも、1年間に12万円以上の費用が発生するため、決して少ない負担ではありません。
まとめ
高齢化社会がますます進行し、認知症などで判断能力が低下する人は数多くいます。
また、今後そのような人がさらに増えていく可能性もあります。
そこで、財産の管理や処分などを行うために、任意後見制度を利用することは非常に大きな意味を持つでしょう。
判断能力が低下する前に任意後見契約を締結しておけば、いざという時も安心です。
法定後見制度とは違い、判断能力が低下する前に契約を締結する必要があるため、間違えないように準備しておきましょう。