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最終更新日:2024/10/7

遺産分割とは?その方法や必要な準備・連絡が取れない人への対応を解説

川﨑 公司 (弁護士)
この記事の執筆者弁護士 川﨑公司

弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所(https://sozoku-lawyer.com/office/)所属弁護士。新潟県出身。

相続問題は複雑なケースが多く、状況を慎重にお聞きし、相続人様のご要望の実現、相続人様に合ったよりよい解決法をアドバイスさせていただくようにしています。

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円滑な遺産分割を行うには、相続人全員が納得する形に分配する必要があります。

遺産分割にあたって必要な書類があったり、万が一話し合いが決裂した場合にはどうしたらいいか不安な人もいるでしょう。

被相続人への貢献度や思い入れも相続に左右するだけに、慎重な対応が求められるのです。

本記事では遺産分割の概要と分割方法、手順や遺産分割で行う必要がある遺産分割協議などについて詳しく解説します。

被相続人の死後に相続で困らないよう、覚えておくことがたくさんあります。

ひとつずつ理解し、遺産分割でトラブルが起きないよう注意しましょう。

目次

遺産分割とは

まず、「遺産分割」とは何か?について確認してきましょう。

被相続人(亡くなった人)の遺言が無かった場合には、相続が発生すると、遺産は一旦相続人全員の共有財産となります。

ここから被相続人が残した遺産の分配について相続人の間(民法で定める法定相続人)で協議(遺産分割協議)を行い、相続人全員の同意で個々の遺産につき誰が何を取得していくかを確定させていきます。

この手続きを「遺産分割」といいます。

相続人には、民法で定められている法定相続分があります。しかし、相続人同士の合意があれば、必ずしも法定相続分通りに分ける必要はなく、自由に分割することが可能です。

また、相続財産に債務が多ければ、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に相続放棄をすることができます。

※民法では親族関係の近い順に相続分を多く定めており、子どもが複数いれば均等にという配分になっていますが、多くの家庭ではこの通りに相続することは適当とはいえません。よって、相続人ごとの被相続人への貢献度や、過去に被相続人から受けた援助などを考慮して足したり引いたりといった調整をしているのです。

 

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相続財産の管理方法

相続人が複数おり共同相続した場合、遺産分割されるまでは、すべての遺産は相続人で共有していることになります。

相続人のそれぞれの所有権は、相続分に従って持分として各相続人に帰属するのです。

遺産分割までの相続財産の管理には、次の方法があります。

  • 共同で管理する方法
  • 相続人間の合意の上、相続人の1人を管理者とする方法
  • 家庭裁判所により相続人以外の第三者を選任し管理する方法

仮に相続人の1人が他の相続人の合意なく不動産を処分してしまった場合には、他の相続人の持分は保護され、第三者が移転登記をしたとしても、抹消登記が出来ます。

また、金融資産のような分割が可能な遺産でも相続人全員の同意がない限り、自分の持分の請求をすることは出来ません。

遺産分割の方法

遺産に現金などが豊富にある場合は、比較的スムーズに分けることが出来るでしょう。

しかし、遺産分割協議において、すべてがスムーズに片付くケースばかりではありません。

遺産分割では、いかに公平に遺産を分割出来るかが重要になります。

遺産分割の方法として、次の3つの方法があります。

現物分割

土地建物は妻に、現預金は息子にというように、現物のまま分割する方法です。

わかりやすい方法ですが、必ずしも公平になるとは限らないため、争いになる可能性があります。

また、現物分割の一種として、共有分割もあります。

分割が難しい場合などに、複数の相続人が遺産を共有する方法です。

ただし、将来的に権利関係が複雑になる可能性があるため、あまりお勧めは出来ません。

換価分割

遺産の一部または全部を売却し、お金に換えて分割する方法です。

公平な分割が可能ですが、お金に換えるために時間や費用がかかります。

代償分割

不動産や事業用資産などを、特定の相続人が相続分を超えて取得する代わりに、超過した分をお金で他の相続人に支払う方法です。

現物資産を残すことができますが、超過分を取得する相続人に支払能力があることが前提となります。

以上のように、遺産分割では現物分割が原則です。

しかし、相続人の意向や、相続財産によっては換価分割や代償分割を活用して、公平な遺産分割を考えていきましょう。

遺産分割をしないままにするリスク

「いつまでたっても話し合いに応じない相続人がいる」などの理由から、遺産分割を確定できないとどうなるのでしょうか。

発生するリスクは以下のとおりです。

名義変更ができない

遺産分割にかかわる、あらゆるものの名義変更ができなくなってしまいます。

不動産の名義変更はもちろん、銀行預金の名義変更できません。

遺産分割がまとまらないままでは口座凍結のままとなってしまい、預金引き出しができなくなるのです。

そのほか株式や債券といった金融商品も同様です。ちなみに10年経つと、債権は消滅してしまいます。

不動産を売却しようとしても売却が難しくなる、権利関係が複雑になる

不動産については名義の書き換えに期限はありませんし、消滅もありません。

しかし、いざ不動産を売却しようとすると相続人全員の共有財産となっているため、相続人全員の合意が必要になってきます。

これが次の相続、また次の相続ともなれば権利関係が複雑化し、トラブルの種となってしまうのです。

被相続人が残してくれた遺産を分割せず放置してしまうと、手続きができなくなったり、将来トラブルを引き起こす原因にもなったりします。

将来の相続や余計なトラブルの引き金にならないためにも、遺産分割はしなければならないでしょう。

遺産分割が必要ないケース

相続が発生すれば遺産分割が必ず必要というわけではなく、遺産分割を必要としない場合もあります。

そのケースを見ていきましょう。

遺言書がある場合

遺言書があれば、遺言書に記載通りの分割が行われるため、相続時に遺産分割協議をする必要がありません。

遺産分割協議がまとまらず「相続が争続に発展する」といったトラブルを未然に回避することができます。

ただし、相続発生後に遺言書に記載の無い遺産が見つかれば、その遺産については遺産分割協議を行っていく必要があります。

被相続人の遺産が、遺言書通りなのかを確認する必要があるでしょう。

相続人が一人の場合

遺相続人が一人の場合にも遺産分割は不要です。

そもそも遺産分割をする対象者がいないため、全ての遺産についてその相続人が相続していきます。

相続人が誰もいない場合

誰も相続人が居ない場合にも遺産分割は不要です。

この場合の相続財産は「相続財産法人」と呼ばれる財産の集合体にされた上で管理処分され、債権者や受遺者に対して弁済等を行い、最終的な残財産については国庫に帰属することになります。

遺産分割の目安となる「法定相続分」とは

遺産分割は相続人の間での話し合いで決めていくことになりますが、法定相続人が相続する目安として「法定相続分」という割合を定めています。

例えば相続人が配偶者だけならば、すべての遺産を相続します。

もし子どもがいる場合は、配偶者と子どもで2分の1ずつ分ける遺産分割の割合のことです。

子どもが複数いる場合は、2分の1を子どもたちの数で均等に割ります。

その他の主な法定割合は下図をご参照ください。

 

ケース1ケース2

※ケース1ケース2

 

ケース3ケース4

※ケース3ケース4

 

ケース5

※ケース5

ケース1ケース2

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ケース3ケース4

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ケース5

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ケース5のように、第一順位の子どもが亡くなっている場合は、相続権が被相続人から見て孫に移ります。

これを「代襲相続」といいます。

また、被相続人が特定の相続人に虐待を受けたなどで、遺産を相続させたくないという場合、相続権をはく奪する「廃除」を行うことができます。

上記のように、法定相続分は相続人の順位や組み合わせによって割合が変わります。

法定相続分は遺産分割の目安であって、法定相続分で分割を求められるものではありません。

あくまでも遺産分割をスムーズに進めるためのもので、民法で定めた遺産分割の目安となる割合になります。

相続の際には法定相続分を確認し、目安として活用していきましょう。

 

遺産分割協議の前に必要な準備

遺産分割協議は一般的には被相続人の遺言書がなく、かつ相続人が自分たちで自由に遺産の分け方を決めたい場合に行うものです。

遺産分割協議を成立させるためには、法定相続人全員がその内容に合意する必要があります。

可能であればすべての相続財産につき一度に済ませた方がよいでしょう。

遺産分割協議は法定相続人全員が参加をして話し合いをしなければならないためです。

また、相続対象となる遺産の数によっては整理する時間も必要になるでしょう。

協議を始める前にはそれなりの準備が必要になります。

(1)遺言書の確認

相続では、亡くなった方が遺言書を残している場合にはその内容が法律に優先することになります。

つまり、遺言書がある場合は、遺産分割協議は基本的に必要ないということです。

相続に関するルールは民法という法律で決まっていますが、法律の内容はあくまでも「遺言書がない場合に適用されるもの」という扱いになっています。

相続の対象になるものがすべて遺言書に記載されているとは限らないため、遺産分割協議を行う前には遺言書の内容の確認から行わなくてはなりません。

遺言書が後から見つかったらやり直しになることも

もし遺産分割協議がまとまった後に「実は遺言書が残されていた…」ということになると、せっかく行った遺産分割がやり直しということになってしまいます。

一方で、公正証書遺言や秘密証書遺言は公証役場のデータベースに登録されています。

家族や相続人が問い合わせをすることによって、遺言書の有無を確認することができます。

遺言書が残っているかどうかがわからない場合は、まず家中をくまなく探し、それでも見つからなければ公証役場に問い合わせましょう。

(2)法定相続人の確定

遺言書の有無を確認したら、法定相続人の確定をしていきます。

「相続人は3人しかいない」などと思い込んでいても、たまに自分たち兄弟の知らない異母、異父兄弟などが出てくることもあります。

中には結婚前の子どもや前妻との子どもの存在を隠している親もおり、「まさか父に自分たち以外の子どもがいるなんて思わなかった」と驚くことも珍しくありません。

これらの事態を未然に防ぐためには、戸籍を集め、法定相続人を確認することが必要不可欠です。

相続手続き全般において、戸籍によって法定相続人をもれなく確認するという作業は欠かせないものであり、全部の手続きに先だって行うべきものです。

具体的にどのように集めるのかというと、以下の手順で取得していきます。

  1. 被相続人の最後の戸籍謄本(死亡の事実とその年月日が記載されているもの)を本籍地の市区町村役場で取得する
  2. 上記を起点にして、被相続人の出生に向かって遡って戸籍を取得する

必要な戸籍は「出生から死亡までのすべての戸籍」です。

この時、「現在のものを取ったら生年月日も死亡日も書かれているから、これですべて足りる」と思い込んでしまう人もいます。

しかし、戸籍を遡るということは、被相続人の戸籍の変遷をすべて追いかけて出生までたどり着くことを指します。

役所による戸籍の改製(電子化や法律改正などを原因として作り直されること)、結婚、転籍、養子縁組などさまざまな要素で移動しているものをすべて集めなければなりません。

つまり、被相続人が死亡した時点の戸籍だけでは情報が不十分ということになるのです。

目安として、80代くらいで亡くなった人であれば平均で5~6種類程度は出てくることが普通です。

上記の手順で取得した戸籍を確認し、法定相続人全員の確定を行いましょう。

 

(3)相続財産の調査と財産目録の作成

法定相続人全員が確定したら次に(もしくは戸籍収集と同時並行で)行わなければならないのが相続財産の調査と財産目録の作成です。

遺産分割協議の後でまた被相続人名義の財産が出てきた場合は再度遺産分割協議をしなければならなくなります。

最初の段階でなるべく漏れなく被相続人の財産を探し出しておかなければ、2度・3度と遺産分割協議と財産目録を作り直さければならなくなるのです。

財産目録


財産目録

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専門家からのアドバイス

田中 千尋

司法書士:田中 千尋

財産目録の漏れには要注意

最終的に遺産分割を確定させるためには、この財産目録にすべての遺産が漏れなく記載され、各相続財産の評価額もきちんと確定しておく必要があります。万が一、財産目録に記載している財産に漏れがあり、評価金額も途中で変更になってしまうと、決まるはずの遺産分割協議も決まりませんし、相続財の申告後に漏れが発生すると、追加納税のほか、延滞税というペナルティも発生してしまうので注意が必要です。漏れがちな項目としては、家庭用財産、車、ゴルフ会員権等、未収となっている給与・地代・家賃・公租公課、被相続人のお金を原資とした子や孫の預貯金通帳、その他還付金等(高額療養費、介護保険、後期高齢者など)、海外財産などがあります

 

遺産分割協議の実施

遺産の内容が確認でき、相続人となる人が確定したら、遺産分割協議を行います。

被相続人が遺言書を残していない場合や、遺産分割を相続人で決定したい場合に実施する話し合いのことです。

遺産分割協議は、法定相続人全員が参加しなければなりません。

たとえ1人でも認知症で意思表示ができなかったり、行方不明になっていたりする人がいればその時点で成立しないことになっています。

万が一、このケースに該当する場合は、成年後見人や不在者財産管理人など、代理人を立てる手続きが法律上準備されています。

ただし、遺産分割協議では必ずしも全員が顔を合わせて協議を行わなくてはならないというわけではありません。

分割案を郵送等のやりとりで書面によって意思表示をしてもらう方法でも、遺産分割協議は成立します。

また、オンライン通話サービスなどを駆使しての協議も可能。

要するに、法定相続人全員の合意が得られればどのような形でも問題はありません。

遺産分割協議では、互いの譲歩や自重がとても重要になります。

相続財産をめぐっては被相続人の生前は仲の良かった親族同士で骨肉の争いに発展する…というようなケースも決して珍しいことではありません。

「親族同士では感情のもつれがあってどうしても協議が先に進まない…」などの場合には、弁護士に入ってもらうことも検討してみると良いでしょう。

相続人の一部と連絡がとれない場合の対処法

遺産分割協議書には必ず相続人全員の署名捺印が必要になります。

相続人の中に連絡が取れない人がいる場合には、署名捺印ができないため遺産分割が成立せず、問題となります。

相続人の一部と連絡がとれない場合には、以下の対処を行いましょう。

  • まずは本人への連絡を試みる
  • 家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらう
  • 家庭裁判所に失踪宣告を出してもらう

法定相続人の資格がある人を無視して遺産分割はできません。

まずは、対象となっている人物に連絡を取ってみましょう。

親族や家族のなかには、該当の人物と連絡を取ることができる人がいるかもしれません。

遺産分割協議の前に必ず確認をしてください。

そのうえで不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうようにしましょう。

不在者財産管理人とは、対象者本人が行方不明になって7年未満の場合に立てることができる財産管理を行う人間のことです。

家庭裁判所によって利害関係のない第三者が選任されます。

なお、不在者財産管理人に対して「権限外行為の許可」を家庭裁判所に申請しなければなりません。

もし行方不明の相続人が7年以上生死不明の場合は、失踪宣告(普通失踪)を出してもらうことができます。

自然災害などに起因する生死不明の場合は、「特別失踪」として行方不明から1年以上経過していれば申請可能です。

失踪宣告を出すことによって法定相続人から除外されます。

ただし、失踪宣告を出した人物の法定相続人がいる場合は、対象者が遺産分割協議に参加することができるため注意が必要です。

これを代襲相続といいます。

行方不明の法定相続人がいる場合は、その法定相続人の有無まで確認しなければなりません。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書とは、遺産分割協議で合意した内容をまとめる書類のことです。

遺産分割協議では被相続人の遺産を法定相続人の話し合いによって配分する必要があります。

話し合いがまとまったのち、誰が何をどの程度相続することになったのかを書面に残さなければなりません。

その書類が遺産分割協議書です。

なお、遺産分割協議書作成後に、単独で書面を変更することはできません。

新たに遺産が出てきた場合など、記載内容に変更が生じる場合は改めて遺産分割協議を行う必要があります。

記載する内容

遺産分割協議書には、必須とされる記載項目があります。

自分で作成するしないにかかわらず、以下の内容が記載されていなければなりません。

また、相続する遺産の種類によって必要事項も異なります。

【必ず記載するもの】

  • 被相続人の氏名、死亡日、最後の本籍
  • 被相続人が死亡したので相続が発生し、法定相続人全員で話し合った旨
  • 財産の内容と相続する人の氏名、続柄
  • 協議の成立した日付
  • 各相続人が署名と実印での押印

【土地・建物を相続する場合】

  • 所在
  • 地番・家屋番号
  • 地目・種類
  • 地積・床面積
  • 構造(建物の場合のみ)

【預貯金を相続する場合】

  • 銀行名
  • 支店名
  • 口座の種類(普通、当座など)
  • 口座番号

財産の特定方法ですが、なるべく疑義が生じないように明確に記載しなければなりません。

土地・建物の場合は登記簿を、預貯金の場合は預金通帳を確認しながら正確に記載しましょう。

その他の財産に関しても、公的な書類を参考に分割する割合も含めて記載するようにしてください。

どの財産かはっきりわからないような書き方をしてしまうと、相続手続の関係先から作り直しを要求されるおそれもあります。

いったん作成したものをしっかりチェックしてから署名と押印に移りましょう。

なお、遺産分割協議書には法定相続人全員の実印での押印と印鑑証明が必要となります。

遺産分割協議書サンプル


遺産分割協議書サンプル

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※遺産分割協議書サンプル

必要になる場合

遺産分割協議書は必ずしも必要なものではありません。

しかし、以下に該当する遺産分割方法を実施する場合は、遺産分割協議書が必要になります。

基本的に法定相続人が2人以上いる場合は遺産分割協議書を作成する必要があると覚えておいていいでしょう。

  • 不動産の相続登記などで名義変更する遺産がある
  • 相続税の申告・更生請求・還付の手続きをする
  • 銀行預貯金の引き出し・払い戻しをする
  • 法定相続分とは異なる割合で相続する

不動産の相続登記などで名義変更する遺産がある

相続登記かかわる不動産は、相続後に名義変更が必要になります。

相続登記を行うために必要です。

現在は不動産の相続登記は任意とされていますが、2023年以降は相続登記が義務化されます。

登記期限も相続から3年以内となるため、遺産分割協議書で相続人を明確にしなければなりません。

名義変更では、自動車も同様です。

自動車は所定の用紙があることもあるため、その場合は遺産分割協議書への記載は必要ありません。

ほかにも名義変更が必要になるものがあると、遺産分割協議書に詳細を記載していないことでトラブルに発展する可能性もあります。

必ず確認をしておきましょう。

相続税の申告・更生請求・還付の手続きをする

相続税の申告や更生請求・還付を受ける場合にも遺産分割協議書が必要です。

相続内容によっては絶対に必要になるわけではありませんが、配偶者の税額軽減や小規模宅地といった特例を適用する場合に必要になります。

また、確定申告後の更生請求や還付手続きでも遺産分割協議書が必要になるケースがあります。

提出を求められるため、遺産分割の割合が決まった時点で作成しておきましょう。

銀行預貯金の引き出し・払い戻しをする

被相続人名義の銀行預貯金を引き出したり払い戻ししたりする際にも遺産分割協議書が必要です。

対象の預貯金が1ヶ所しかない場合は、遺産分割協議書への記載が必要ない場合もあります。

被相続人が複数の銀行で預貯金を持っている場合は、申請が手間になります。

遺産分割協議書を作成しておけば、それを提示するだけで預貯金の引き出しや払い戻しが可能になります。

法定相続分と異なる割合で相続する

法定相続分とは異なる割合で遺産を相続する場合、遺産分割協議書を作成しなければなりません。

例えば被相続人の配偶者と子ども2人の計3名で相続する場合、法定相続では配偶者が1/2、子どもが1/4をそれぞれ相続します。

しかし、仮に配偶者と子どもがそれぞれ1/3ずつ相続することを希望する場合は、遺産分割協議書にその旨を記載しなければなりません。

不要な場合

遺産分割協議書が不要な場合もあります。

以下の条件に該当する場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

  • 相続人が一人のみである
  • 遺産が現金・預金のみである
  • 遺言書のとおりに分割する
  • 法定相続分のとおりに分割する

相続人が一人のみである

被相続人の法定相続人が一人の場合、遺産分割協議書は作成する必要がありません。

そもそも遺産分割協議書は、複数人で遺産を相続する割合を明記したものです。

従って、一人しか相続人がいない場合は分割する必要がなく、それに伴って遺産分割協議書が不要となるのです。

遺産が現金・預金のみである

遺産が現金のみの場合や預金のみの場合も遺産分割協議書は不要とされています。

自宅で保管されていた現金を分割する場合は、名義変更を伴わないため記載の必要がありません。

預金の場合も金融機関が指定する書式に相続人全員の署名・押印があれば引き出すことができます。

ただし、金融機関の数が多い場合は遺産分割協議書を作成しておいた方がいいでしょう。

金融機関での手続きの負担を減らすことができます。

遺言書のとおりに分割する

遺産分割協議は、遺言書にない遺産の配分を決める場合に行います。

もし被相続人が過不足なく遺言書に遺産の配分を記入しており、法定相続人が遺言書の指示に従う場合は遺産分割協議を作る必要はありません。

ただし、遺言書のうち自宅で保管されていた自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認手続きを受けたものしか効力を持たないとされています。

法務局に預けられていたものは検認手続きが必要ありませんが、自宅保管されていた自筆証書遺言は、法律上効力を持った遺言書であるかどうかの確認が必要になります。

法定相続分のとおりに分割する

不動産を法定相続分で相続する場合も、遺産分割協議書は必要ありません。

相続登記は、相続人の代表者1名が行えば完了します。

しかし、法定相続の配分に従うことでトラブルに発展することもあります。

相続登記の際に発行される権利証は、手続きをした人物にしか発行されないためです。

勝手に売却されたり、所有権をめぐってトラブルに発展したりするケースも存在しています。

不動産を複数人で共有する場合は、遺産分割協議書を作成しておいたほうがいいかもしれません。

作成時のポイント

産分割協議書作成にあたって、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 遺言書がないとき、または一部の財産しか記載されていない場合に作成する
  • 書式は特に決まっていない。手書きでもパソコンでもOK
  • 被相続人の名前、相続日(死亡日)、協議した相続人を明記相続財産について具体的に記載する
  • 代償金が発生していた場合は、支払期限を明確に
  • 相続人の名前・住所・実印が必要
  • 相続人の人数分作成し、各自が保管する

遺産分割協議書は、明確に誰が何をどの程度相続するかをこと細かに記したほうが良いでしょう。

のちのトラブルや将来の相続を複雑化させないためにも、上記のポイントを意識して作成することをおすすめします。

自分で遺産分割協議書を作成することもできますが、自信がない場合は弁護士に依頼しましょう。

遺産分割協議書と知らずに署名させられるケースとは?

特定の相続人だけが有利となる内容が書かれている遺産分割協議書には、他の相続人が署名押印などしないと思われる方は多いと思います。

しかし、元々の親族間の信頼が関係し、「手続きを進めるために必要な書類」などと説明され、それが遺産分割協議書と認識しないまま署名、押印してしまうことは実際に多く見られるケースです。

いったん作成された遺産分割協議書の効力を後から争うのは、とても困難な場合がほとんどです。

遺産分割協議書の作成はもちろん、署名押印を求められた際にその内容が妥当かについても弁護士などの専門家に相談してみるのがよいでしょう。

申告期限までに遺産分割協議が間に合わないときの対応

申告期限までに遺産分割協議が間に合わないときは、未分割という形で申告します。

未分割で申告する場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの各種特例を適用せずに申告することとなります。

つまり、内容的には特例を適用できるはずなのに、未分割であることが原因で当初の申告で多めに税金を支払わなくてはいけないということが起こってしまうのです。

ただし、焦る必要はありません。

申告期限から3年以内に遺産分割協議を確定させて申告時に所定の書類を提出することで、改めて申告することではじめて特例が適用されます。

3年という期限内で申告をすれば、当初申告で納めすぎていた税金が戻ってきます。

遺産分割協議を焦る必要はないため、慎重に話し合いを進めましょう。

遺産分割で争点となるポイント

ここからは遺産分割で揉めやすいポイントを紹介しながら、遺産分割をスムーズに行う方法について解説していきます。

  • 被相続人からの生前贈与・援助に差がある
  • 同居家族・介護していた家族は尊重されるか
  • 遺言書はどんな内容でも絶対に従うべきか
  • 建物や土地はどうやって分割するか
関連動画

被相続人からの生前贈与・援助に差がある

被相続人から生前贈与や援助がある場合、原則生前に遺産を分割されていれば遺産分割協議の対象である「相続財産」にはなりません。

被相続人との契約に相当するため、一方的な放棄もできないようになっています。

ただし「特別受益」と呼ばれる特別な相続を得ている場合は、相続開始から10年の間に行われた特別受益持ち戻しの対象とすることができ、相続財産にすることができます。

相続開始から10年以上経過しているものについては、この対象とならないため注意が必要です。

生前贈与や援助については、主に兄弟関係でトラブルに発展しがちです。

兄弟で遺産相続のトラブルが起きないよう、事前に知識を付けておきましょう。

以下のリンクを参考に、どのようなトラブルがあるのか、またその対処法はどうなっているのかを確認しておくことをおすすめします。

同居家族・介護していた家族は尊重されるか

被相続人と同居していた家族や介護をしていた家族に、遺産分割でその分が考慮され多めに配分されるかといわれると必ずしもそうではありません。

同居や介護は「特別寄与」と呼ばれる行為にあたり、認められれば相続できる財産がプラスされます。

しかし、「特別寄与」であったかどうかを認めるのは、他の法定相続人です。

言い換えれば、他の法定相続人が「特別寄与」である同居や介護を認めなければ、相続において財産の取り分を多くすることそのものが考慮されないのです。

同居や介護の事実が明確で、他の法定相続人に認めてもらうには、被相続人に遺言書を残してもらいましょう。

遺言書に記載がない場合は家庭裁判所にて不服申し立てを行うこともできますが、過去の判例を見てもそれほど多額の配分がなされたわけではありません。

特に気を付けたいのが、長男家族が同居や介護を行っている場合の遺産分割です。

詳しくは、以下のリンクからどのようになっているかを確認してください。

遺言書はどんな内容でも絶対に従うべきか

一般的に「遺言書」というと、いかなる内容であっても従わなければならないと考えている人もいるでしょう。

しかし、遺言書のなかには効力を発揮しない、無効の遺言書も存在します。

例えば遺言書を作成した被相続人が15歳以上であっても、認知症などで法律上意思能力がないと判断される場合は、遺言書が無効になります。

また、遺言書が効力を発揮するには所定の要件があり、それらを満たしていないものも無効扱いです。

遺言書のルールは非常に細かく、法定相続人だけで有効か無効かを判断しにくいものもあります。

以下の記事で紹介している条件を確認できる範囲でしつつ、有効な遺言書なのかどうかを弁護士に判断してもらうといいでしょう。

建物や土地はどうやって分割するか

遺産分割において相続方法に悩むのが、建物や土地などの不動産関連です。

分割して共有することもできますが、売却や賃貸借する場合には共有者全員の同意が必要になるなど、管理の手間が発生します。

現物分割する場合でも、あまり土地が大きくない場合は、財産的価値が大幅に低下する可能性も考えられます。

代償分割や換価分割も可能ですが、この場合は結局不動産がいくらになるのかが争点になるでしょう。

結論としては不動産会社に買い取ってもらい、その金額を分割することになります。

明確な正解がないため、法定相続人同士の話し合いは必要不可欠です。

建物や土地の相続については、以下の2つの記事も参考にしてください。

揉めることが多い相続財産だけに、話し合えるのであれば被相続人の生前からどうするのかを相談しておくと良いでしょう。

相続でもめると遺産分割調停に発展

相続の話が法定相続人同士では決着を見ない場合、家庭裁判所に申し立てて遺産分割調停に発展します。

遺産分割調停とは、利害関係のない調停委員が法定相続人の間に入って話し合いを行い、遺産分割を取りまとめる方法です。

法定相続人全員が納得できる形の提案を行います。

感情的になってしまって遺産分割協議が進まない場合は、冷静な話し合いができるため非常に有効な方法です。

反面、時間も費用も掛かってしまううえ、自分の主張がすべてまかりとおるわけではありません。

万が一調停不成立となった場合が、自動的に遺産分割審判に移行。

法律に従った遺産分割が行われることとなります。

この時に必要となる審判書の作成も、調停委員が行ってくれます。

家庭裁判所

遺産分割の調停事件は増加している!

弁護士が関与した遺産分割調停事件の推移を見ていきましょう。

 

遺産分割調停事件の推移


遺産分割調停事件の推移

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遺産分割で揉めている調停事件は年々増え続けており、ここ4年間を見れば2千件ほども増えています。

このデータに反映されない(顕在化していない)遺産分割のトラブルについても同様に増えているであろうことが予測されます。

「普段から仲の良い親族同士だから、遺産分割協議もすぐに済むだろう」と考えていたら、想像以上にこじれてしまった…ということはよくあることです。

また、遺産分割トラブルが発生するのは遺産が少ないケースが8割となっています。

遺産分割の実態

 


遺産分割の実態

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なぜ遺産が少ないケースで遺産分割が揉めるのでしょうか?

一般の人が誤解しやすいのが「揉めるのはお金持ちだけではないか?」ということです。

お金持ちであれば誰かが自宅を相続しても、他の兄弟は代わりにその他の財産を相続すれば解決します。

つまり、お金持ちの遺産分割では、解決方法の選択肢が多いといえるのです。

しかし、そうでない普通の家庭の方が多数派であることは言うまでもないでしょう。

自宅不動産しか相続の対象になるものがなく、自宅を相続する者が他の兄弟に代償金を支払うことができないのであれば、自宅を売る以外に方法がなくなります。

いまどき「長男だから全部もらって当然だろう」という考え方は通用しません。

遺産分割は、ひと昔前のように単純に解決する問題ではなくなっているのです。

遺産分割調停・審判の流れ

遺産分割調停の流れは、以下の通りです。

(1)家庭裁判所に申し立て

家庭裁判所への申し立て


家庭裁判所への申し立て

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※家庭裁判所への申し立て

遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に申し立てを行います。

申し立てができる家庭裁判所には規定があり、申し立てに必要な費用と書類をそろえて該当の家庭裁判所へ提出します。

申し立てができる家庭裁判所は次のとおりです。

  • 相手方となる法定相続人のうち、1人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 当事者の合意で定まった家庭裁判所

(2)調停委員会の聞き取り

調停委員会の聞き取り


調停委員会の聞き取り

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※調停委員会の聞き取り

申立人による申し立てが受理されると調停期日が指定され、月に1回程度のスケジュールで調停委員による聞き取りが行われます。

聞き取りには相手方となる法定相続人もやってきますが、直接話すことはありません。

申立人と相手方は交互に聞き取りを行われ、最終的な調停案が作成されます。

(3)調停

調停


調停

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※調停

幾度かに渡る聞き取りの結果、調停委員から遺産の分割方法が提案されます。

この提案に申立人と相手方が納得をすれば調停は終了。

遺産分割協議書の作成に入ります。

しかし、もしどちらかが調停案に納得できない場合は不成立となり、法律に基づいて遺産分割が行われることになります。

最終決定が裁判官によって行われますが、この間にも遺産に関する協議は可能です。

もし審判を待つことなく話がまとまれば調停成立となります。

調停は長引くとデメリットもある

遺産分割協議がにっちもさっちもいかない…ヒートアップした議論を落ち着かせるためにも、専門機関による「調停・審判」はとても有効な手段です。

冷静に状況を判断してくれますし「専門家が出した提案なら」と、意地になっていた人も聞き入れやすくなります。

ただし、調停・審判にはいくつか覚悟しておかねばならないことがあります。

まず、調停期間中は遺産の使用が制限されるため、これらを使うことはできません。

また審議は短くても2~3カ月かかり、基本的に平日に行われます。

勤めている人はその都度休みを取らねばならず、度重なる審議に精神的な疲労も大きいでしょう。

長引けば相続税の申告期間である10カ月以内に終わらないこともあります。

調停を乗り切るために、弁護士などに依頼して代理人となってもらい、相続に関する調査や審議での主張方法の助言を受けるなどのサポートを得るのもよいでしょう。

専門家からのアドバイス

川﨑 公司

弁護士:川﨑 公司

調停は審判に入る前の準備期間

遺産分割協議は当事者だけでは感情的になりがち。こじれそうになったら、冷静な第三者である家庭裁判所に委ねてしまうほうがよい場合もありあます。そして調停を少しでも有利に進めるためにも、あらかじめ法律家に主張方法などを相談しておくのもよいでしょう。さて、通常遺産分割は協議、調停、審判と段階的な制度が存在しますが、最初から審判を申し立てることも制度上は可能です。ただ、実務では「調停で解決できればそのほうが望ましい」と考えられています。そのため、こじれた内容でいきなり裁判を申し立てたとしても、まずは、職権で調停に付されることになるのが通常です。

 

まとめ

遺産分割の大まかな流れと、遺産分割協議をスムーズに進めるために知っておくと役立つポイントについて解説させていただきました。

「普段から仲の良い親族同士だから、遺産分割協議もすぐに済むだろう」と考えていたら、想像以上にこじれてしまった…ということはよくあることです。

亡くなった人との感情的な関わりが強かった人ほど、遺産分割についてもこだわりを捨てるのが難しいものであることは理解しておきましょう。

親族同士だけではうまくいかなかった話し合いであっても、第三者である専門家に間に入ってもらうことでスムーズにまとまるという側面があります。

遺産分割でもめることが予想される場合には、弁護士や司法書士といった法律の専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。

専門家の事務所では初回の相談料は無料で受け付けてもらえることが多いですから、相続人の人数やおおまかな遺産の内容をまとめた上で相談してみると良いでしょう。

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