相続人の存否が不明の場合には、相続財産を管理する人がいない状態になってしまいます。
また、相続人がいることはいるものの、その相続人の全員が相続を放棄した場合なども、実質的に相続財産を管理する人がいなくなります。
しかし、このような場合でも、相続財産の放置はできません。
そこで国はこのような場合に、本当に相続人がいないかの調査をしながら、同時に相続財産を管理して債権者などへの弁済を行い、特別受益者などのように権利を有する人に財産を帰属させる方法として、「相続財産法人」という仕組みを作りました。
相続財産管理人を選任することで、相続財産の管理・清算を行う制度です。
そこで、本稿では、そのような相続人がいない場合の手続の流れを確認するとともに、その代表者として実際の手続を行う相続財産管理人の業務について、確認していきます。
目次
相続財産管理人とは
人が亡くなったとき、相続人がその財産を管理して引き継いでいく場合がほとんどです。
しかし、中には身寄りがなかったり相続放棄されたりして、財産を管理する相続人がいないケースも存在します。
その際に家庭裁判所の審判により選任されるのが、相続財産管理人です。
相続財産管理人とは、被相続人の遺産を管理する役割を持つ人のことを指します。
相続人がいない場合に遺産を適切に管理し、借金がある場合にはその清算を行い、財産を国庫に帰属させるなどの役割を担っています。
相続財産管理人が必要になるケースとは
相続財産管理人は、具体的にどのようなケースで必要となるのでしょうか。
ここから詳しく紹介していきます。
ケース1:相続人がいない
亡くなった人に相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任しなければなりません。
被相続人の中には、妻子がなく、親や兄弟などの相続人が全く存在しないケースもあります。
その際には、相続する財産があったとしても、相続人がいないために、財産の管理ができません。
また、被相続人に債務があると、債権者はいつまでも債権の回収ができなくなります。
これらの場合には、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立をする必要があります。
ケース2:相続人が相続を放棄した
亡くなった人に元々相続人がいた場合にも、相続財産管理人の選任が必要となるケースがあります。
相続人が全員相続放棄をした場合には、財産を管理する人がいなくなるため、相続財産管理人の選任が必要です。
ただし、この場合には相続財産管理人が選任されるまでの期間は、相続人が財産の管理を行わなければなりません。
相続財産管理人が選任される要件とは
相続財産管理人の選任の申立がなされた場合、必ず相続財産管理人は選任されるのでしょうか。
相続財産管理人の選任は、相続財産の管理者がいないことによって、債権者への弁済がなされなかったり、受遺者への財産の移転がなされなかったり、といった形で法律関係が宙に浮いたまま放置されることによる不利益を解消する為の制度です。
そうだとすると、そのような問題が少ない場合については、相続財産管理人選任の申立があった場合であっても、その選任を行わない場合もあり得るのです。
相続財産管理人の選任を行う必要があるか否かは、相続財産の内容、債権者・受遺者の有無、その他の諸般の事情を考慮して、申立を受けた家庭裁判所が判断します。
したがって、相続財産管理人の選任申立がなされた場合でも、家庭裁判所がその選任の必要がないと判断した場合には、相続財産管理人の選任を行わずに申立を却下する場合もあります。
相続財産管理人が選任されるのは、次の要件が備わった場合です。
相続手続を行う必要があること
被相続人に対して債権を有している債権者がいる場合や、遺言による遺贈がなされていて受遺者に対して履行をする必要がある場合など、具体的に相続手続を行う必要がある場合です。
一方で、被相続人が相続財産の全部を包括遺贈していて、包括受遺者がいる場合には、たとえ相続人がいない場合であっても、その包括受遺者が相続財産を管理することになるため、相続財産管理人を選任する必要はありません。
したがって、この場合には相続財産管理人の選任は行われません(最高裁判決平成9年9月12日民集51-8-3887)。
相続財産があること
相続財産がほとんどなく、債権者への支払いも、受遺者への弁済もできないような資産状態の場合には、その清算等の手続を行っても実際上、無意味といわざるを得ません。
そのような場合には、わざわざ費用をかけて相続財産管理人の選任を行わない場合があります。
相続人の有無が不明であること
相続人がいることがわかった場合には相続財産管理人を選任する必要はないため、相続財産管理人は選任されません。
民法第956条は、相続財産管理人の権限は、相続人が相続の承認をしたときに消滅するとしていますが、これはこのことを指しています。
実際、戸籍謄本などを見慣れていない方の場合、戸籍謄本を見ただけでは相続人の有無を正確に判断できない場合があります。
例えば、「相続人はいないと思って相続財産管理人の選任申立をしたが、裁判所でその戸籍謄本を精査した結果、相続人がいることが判明した場合」などには、相続財産管理人は選任されず、申立は却下されることになります。
相続財産管理人による手続きの大まかな流れ
まず通常の場合の相続手続の流れについて確認しておきましょう。
人が亡くなった場合、亡くなった方(被相続人)の財産(相続財産)は、被相続人が亡くなった時(=相続開始の時)から相続人が承継することになります(民法第896条)。
相続人が複数いる場合には、相続財産は各相続人の共有となります(民法第898条)。
その結果、これらの相続人が相続財産を管理して、被相続人が負担していた債務の弁済を行い、遺産分割協議を行うなどして、相続財産の最終的な帰属を決定することになります。
ステップ1:相続財産法人の組成・相続財産管理人の選任
そこで、民法第951条は、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」と定め、相続人の存否がわからない場合について、とりあえず、相続財産自体を法人(相続財産法人)として管理することにしました。
そして、その相続財産法人の代表者として、相続財産管理人を選任することにしたのです(民法第952条)。
ステップ2:相続人の捜索と債権調査、債権者への弁済
相続財産管理人は、相続財産法人の代表者として、相続人の有無を調査するとともに、債権者に対して債権の届け出をするよう公告して、債権者を確定します。
また、相続財産を換価する必要がある場合には、相続財産を換価して、債権者への支払原資を作ります。
その上で、相続財産の中から債権者への弁済が行われる仕組みです。
債権者への弁済を行った後に残余がある場合には、受遺者への支払いを行います。
ステップ3:特別縁故者への分与
債権者・受遺者への支払いが完了してもなお、残余財産がある場合には、特別縁故者からの申出によって、残余財産の全部または一部を特別縁故者に与えることがあります。
ステップ4:共有者への帰属
相続財産の中に、他者と共有する物がある場合、被相続人に相続人がなく、また、特別縁故者にも分与されない場合には、被相続人が有していた共有持分は、他の共有者に帰属することになります(民法第255条、最高裁判決平成1年11月24日民集43-10-1220)。
ステップ5:国庫への帰属
以下のような場合は、財産を国庫に帰属します。
- ・特別縁故者からの申出等がない場合
- ・特別縁故者への分与等を行っても、なお、残余財産がある場合
- ・共有者への持分移転等を行っても、なお残余がある場合
(民法第959条)
相続財産管理人の選任
大まかな流れを見たところで、具体的な手続について見ていきます。
相続財産管理人は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所によって選任されます。
相続財産管理人の選任申立ができる「申立権者」とは
相続財産管理人の選任は裁判所が勝手に行うのではなく、「利害関係人又は検察官の請求」があって初めて家庭裁判所によって選任がなされます。
利害関係人
ここでいう利害関係人とは、被相続人に対して法律上の利害関係を有する者をいいます。
単に、友人といっただけではここにいう利害関係人には当たりません。
具体的には被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者、親族などをいうとされています。
利害関係人による申立がなされる場合としては、以下のようなシチュエーションが考えられます。
・債権者からの申立
債権者は、相続財産から債権の回収を行えます。
しかし、相続財産を管理する人がいない場合、実際上、債権回収を行えないため、相続財産管理人を選任してもらったうえで、その弁済をしてもらう必要があります。
・特定遺贈を受けた者からの申立
特定遺贈を受けた者は、法律上は相続開始と同時に目的物に関する権利を取得するとされています(大審院判決大正5年11月8日民録22-2078)。
しかし、実際に債権者への弁済等がなされた後でなければ弁済を受けられないため(民法第957条、931条)、相続財産管理人に清算手続を行ってもらう必要があります。
・特別縁故者からの申立
特別縁故者として自らの権利を主張して、具体的な財産を取得するには、相続手続によって債権等の清算が完了した上で残余財産があることが条件となります。
従って、特別縁故者としては、迅速に相続財産管理人を選任してもらい、清算手続を行ってもらうことについて利害関係を有します。
・その他の親族等
例えば、相続を放棄した者は、相続を放棄した後であっても、新たに相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまでは、相続財産を自己の財産における場合と同一の注意をもって管理を継続する必要があります(民法第940条第1項)。
したがって、かかる親族も、相続財産管理人を選任してもらい、相続財産を引き渡すことによって初めてその管理義務から解放されることになるため、相続財産管理人の選任について利害関係を有することになります。
検察官
民法は、利害関係人のほかに検察官にも申立権を認めています。
検察官が申立権者に含まれているのは、相続財産がそのまま放置されたのでは法律関係が宙に浮いてしまい、社会経済上問題があるため、利害関係人からの申立がない場合に、検察官が公的な立場から申立をできるようにする必要があるのです。
相続財産管理人になれる人とは
相続財産管理人の選任の申立があった場合には、家庭裁判所は相続財産管理人を選任する必要があるか否かを判断し、選任の必要があると判断したときは、被相続人との関係、利害関係等を考慮し、家庭裁判所が最適と判断する者を相続財産管理人として選任することになります。
申立に際して候補者を挙げられますが、必ずしも、その者が相続財産管理人に選任されるわけではありません。
裁判所においてあらかじめ保有している弁護士、司法書士などのリストから選任される場合もあります。
申立方法
相続財産管理人の選任を申し立てるには、所定の申立書に、申立人の氏名・住所、被申立人の氏名・住所など、および、申立の趣旨、申立の理由、その他の必要事項を記載して、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立書を提出して、申立てを行うことになります。
申立書の書式、記載例は裁判所のサイトに掲載されていますので、参考にしてください。
参考:家事審判申立書 / 記入例(相続財産管理人選任)
申立書には800円の収入印紙を貼付します。
また、連絡費用(これは各裁判所によって異なりますので、直接裁判所に確認する必要があります。本書執筆時点では東京家庭裁判所の場合は82円切手9枚、10円切手8枚の合計818円分とされています。)および官報公告費用(4,153円)を納付する必要があります。
申立に必要な書類一覧
申立書には以下の必要書類を添付する必要があります。
- ①被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本…被相続人に配偶者、子供がいないことの確認
- ②被相続人の父母の出生時から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本…被相続人の父母、兄弟姉妹害ないことの確認
- ③被相続人の子で死亡している方がいる場合には、その子の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本…被相続人に子供その他の直系卑属がいないことの確認
- ④被相続人直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本…被相続人の直系尊属がいないことの確認
- ⑤被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合には、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本…被相続人の兄弟姉妹に代襲相続者がいないことの確認
- ⑥代襲者としての甥・姪が死亡しているときは、その甥・姪に死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- ⑦被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- ⑧被相続人の財産を賞する資料(不動産登記事項証明書、預金の残高等がわかる書類等)
- ⑨利害関係を証明する資料…戸籍謄本、金銭消費貸借契約書その他の系悪関係を示す書類
- ⑩財産管理人の候補者がある場合は、その者の住民票または戸籍附票
これらの資料は個人が取り寄せるのは非常に手間がかかります。
特に、被相続人の親族等以外の者が被相続人耶蘇の親族の戸籍(除斥、改製原戸籍)謄本を請求する際には、利害関係の証明が必要であったりと、非常な困難を伴います。
そのような場合には、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に依頼して取り寄せてもらうことが合理的といえるでしょう。
申立にかかる費用とは
相続財産管理人選任の申立を行うには、一定の費用が必要です。
ここで、その費用の内訳を紹介していきます。
官報公告費用
官報とは、政府の刊行誌のことです。
相続財産管理人が選任された際には、官報にその旨を掲載する必要があります。
官報に掲載されることを官報公告といい、その際にかかる費用を官報公告費用といいます。
官報公告費用として必要な金額は、3,775円です。
相続財産管理人の選任を行うとき、裁判所で渡される納入用紙を利用して支払いを行います。
申立費用(収入印紙)
相続財産管理人の選任申立を行う際に、裁判所に支払う手数料のことを申立費用といいます。
申立費用は現金や銀行振込などではなく、収入印紙で支払わなくてはなりません。
収入印紙は郵便局などで販売しています。
申立書を提出するとき、収入印紙を貼って支払いを行いましょう。
相続財産管理人の選任申立費用は800円です。
予納郵便切手
相続財産管理人の選任申立にあたって、裁判所から郵送される書類の送料として、予納郵便切手を申立書に同封する必要があります。
予納郵便切手は予納郵券とも呼ばれるもので、金額や切手の枚数・内訳などは、それぞれの裁判所によって異なります。
提出する裁判所のホームページで確認できなければ、電話などで問い合わせをしてみましょう。
相続財産管理人の選任には予納金が必要
相続財産管理人の報酬は、本来は、相続財産から支払われることになります。
ところが、相続財産が少なくて、相続財産から相続財産管理人の報酬を支払えないと思われる場合には、家庭裁判所は申立人に対して予納金の納付を求めることがあります。
この場合には、この予納金から相続財産管理人の報酬が支払われることになります。
なお、申立人において予納金の支払いが困難な場合については、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助を受けられる場合もあるため、一度相談してみてください。
相続財産管理人の地位・権限
相続財産管理人の地位
民法第951条は、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」としています。
そして相続財産管理人は、この相続財産法人の代表者が相続財産管理人ということになります。
相続財産管理人の権限
相続財産管理人の権限については、民法の不在者に関する財産管理人についての規定(民法第27条乃至第29条)が準用されます(民法第953条)。
具体的には相続財産管理人は以下の権限を有することになります。
- ・保存行為
- ・財産である物・権利の性質を変えない範囲内での利用・改良行為
これ以外の行為をする場合には、裁判所の許可を受けた上で行うことになります。
具体的には、債務の弁済等のために、相続財産を売却等する場合には、家庭裁判所の許可を得て行う必要があります。
相続財産管理人の業務
相続財産管理人は、「相続人の捜索」と、「相続財産の管理」を行います。
具体的に相続財産管理人が行う業務、手続の流れについて、時系列に従って見てみましょう。
相続人捜索と相続財産の保存
①相続財産管理人の選任公告
家庭裁判所は相続財産管理人を選任したときは、その選任を公告して、その旨を公表します(民法第952条第2項)。
これによって、被相続人の相続財産が相続財産法人となったこと、そして、相続人を探していることを公表して、2ヶ月間、相続人の出現を待つことになります(民法第957条第1項)。
②相続財産の管理・保存
この公告から2ヶ月の間、相続財産管理人は相続財産について財産目録を作成するなど、相続財産の管理およびその後の清算等を行う為に必要な管理行為・準備等を行うことになります。
相続人の捜索の継続、および、清算の開始
①債権申出の公告
上記の(1)①の公告後2ヶ月の間に相続人が現れない場合、管理人は具体的な相続財産の清算に向けた手続に着手することになります。
具体的には、相続債権者、受遺者に対して、期間を定めて、請求の申出をするように公告を行います(民法第957条第1項)。
この申出期間は2ヶ月以上としなければなりません。
この公告には、この期間内に債権の申出がなされない場合には、相続債権者・受遺者は清算から除外されることになるということを明記して行います(民法第957条第2項、927条第2項)。
②同時にこの公告は、再度、相続人に対して名乗り出ることを求めるものでもあります。
③相続財産の換価
この間、相続財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、相続財産を売却して弁済等の資金を作るとともに、相続財産の充実を図ります。
その売却方法は、原則として競売の方法によります(民法第957条第2項、932条)
④債権者等への弁済
公告で債権申出期間と定めた期間の経過後に、管理人は、申出があった相続債権者、受遺者、および、申出の有無にかかわらず相続財産管理人が認識している相続債権者、受遺者に対して弁済を行うことになります(民法第957条第2項、民法第929条~935条)。
まずは、債権者に対して弁済を行います。
この際、相続財産がすべての債権額を超える場合には、その全額を弁済することになります。
しかし、相続財産の額が、すべての債権額に満たない場合には、債権者平等の原則に従って、相続財産をその債権額に応じて按分して弁済することになります(民法第957条第2項、第929条)。
⑤受遺者への弁済
債権者に対する弁済が完了して、残余がある場合には、次いで、受遺者に対して弁済を行います(民法第957条第2項、第931条)。
⑥届け出しない債権者の取り扱い
公告に対して債権届け出をしなかった債権者については、上記の届け出債権者等に対する弁済、受遺者に対する弁済がなされた後、なお、残余財産がある場合に限って弁済を受けることができます(民法第957条第2項、第935条)。
最後の相続人捜索(民法第958条)
①最後の公告
上記(2)①の公告後においても、依然として相続人の有無が不明のときは、家庭裁判所は、相続財産管理人または検察官の請求によって、最後にもう一度、相続人があるならば申し出る旨を公告します。
この公告における申出期間は6ヶ月間以上としなければなりません。
②相続人としての権利の失効
この期間内に申出がなければ、相続人の権利は消滅することになります(民法第958条の2)。
特別縁故者の権利行使
民法第958条による最後の相続人捜索公告後においても、相続人が現れず、相続人の権利が失効した場合、なお、相続財産が残っている場合には、特別縁故者の申出を受けることになります。
特別縁故者とは
特別縁故者とは、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に務めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」をいいます。
民法第958条の3は、相続人の権利が失効した場合において、なお、被相続人の財産胃残余がある場合には、これらの特別縁故者からの申出によって、清算後に残存する相続財産の全部または一部を、特別縁故者に与えることができるとしています。
特別縁故者制度の趣旨
特別縁故者という制度は当初はありませんでしたが、昭和37年の民法改正によって設けられた制度です。
それまでは、相続人がいない場合には相続財産はすべて国庫に帰属するとされていました。
その結果、内縁の妻や、事実上の養子などのように、法律上は相続人ではないが、実体的には被相続人と深い縁故があった人であっても、被相続人の財産を承継できませんでした。
そこで、昭和37年の改正によって、これらの場合に、単純に国庫に帰属させるよりも、被相続人と深い縁故にあった人に承継させることが妥当な場合もあるとして、特別縁故者の制度が設けられたのです。
特別縁故者の権利
特別縁故者については、はじめから特別縁故者としての「権利」を有する訳ではありません。
判例は、特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、裁判所の審判によって形成される権利に過ぎない、としました(最高裁判決平成6年10月13日判時1558-27)。
つまり、被相続人と特別な縁故を有する者として財産の分与を受ける権利というのは、家庭裁判所の審判によって付与されるものであり、被相続人と特別な関係を有していたとしても当然に認められる権利ではないのです。
特別縁故者の範囲
民法第958条の3は、特別縁故者として
- ①被相続人と生計を同じくしていた者
- ②被相続人の療養看護に務めた者
- ③その他被相続人と特別の縁故があった者
を特別縁故者としていますが、①②は例示であり、それに限られるものではないとされています。
最終的に特別縁故者として認められるか否かは、裁判所の判断によることとなりますが、その判断の際には、具体的に列挙されている生計を同一にしていたこと、療養看護に努めたこと、といった事情が考慮されると考えられています。
判例でも、
「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、民法第958条の3が例示する生計を同じくしていた者、療養看護に務めた者に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者をいう(大阪高裁決定昭和46年5月18日家裁月報24-5-47)
としています。
特別縁故者として認められた事例
- ・30年以上生活を共にした内縁の妻
- ・30年以上苦楽をともにした事実上の養子
- ・戸籍上は叔母であるが、20年以上同居し、家事一切の世話や田畑の工作をして生計の一端を担い、被相続人と親子同然の協力・療養看護に努めていた事実上の養親
- ・50年以上にわたって被相続人の相談相手・助言者として被相続人の孤独を慰め、経済面でも貢献した教え子
- ・高齢の父を抱え困窮していた被相続人を雇い入れ、家屋まで提供するとともに、経済的援助を行った経営者
等の事例があります。
有料で介護に当たった看護師や家政婦について特別縁故者と認めた事例もあります。
また、法人を特別縁故者と認めた事例もあります。
共有者
民法第255条は、被相続人「共有者の一人が、…死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」と定めます。
この規定と特別縁故者に関する民法第958条の3の規定のいずれが優先適用されるかについて争いがありますが、現在では判例は、特別縁故者に関する民法第958条の3が優先して適用され、特別縁故者への分与がなされた後更に共有持分が残っている時に、民法第255条が適用されるとしています(最高裁判決平成1年12月24日民集43-10-1220)。
国庫への帰属
以上の手続でもなお、被相続人の相続財産に残余がある場合、その財産は国庫に帰属するとされています(民法第959条)。
なお、民法第959条は、「前条(民法第958条の3)により処分されなかった相続財産は」と規定していますが、上述の通り、特別縁故者への分与がなされた後で、共有持分の共有者への帰属を定める民法第255条が適用されます。
正確には、その共有持分の共有者への帰属後も残存財産が洗う場合について適用されることになります。
国庫へ帰属する場合の相続財産管理人の業務
相続財産を国庫に帰属させる場合、相続財産管理人は相続財産の管理の計算を行った上で、これを国に報告します。
そして、その相続財産は、相続財産管理人が国庫に引き継いだときに国庫に帰属することになります。
ただし、相続財産管理人は、その後も、すべての財産の引き継ぎが完了するまでは業務を継続し、すべての引き継ぎが完了したときに相続財産法人は消滅し、それに伴って相続財産管理人の権限も終了することになります(最高裁判滅昭和50年10月24日民集29-9-1483)。
まとめ
以上、被相続人について相続人の有無が不明な場合の取り扱い、及び、その手続の中で相続財産管理人がどの様に選任され、どの様な役割を果たすのかについて見てきました。
相続人の有無が不明の場合、非常に煩雑かつ慎重な手続が必要です。
実際そのためには相応の費用もかかります。
したがって、もし、「既に自分には相続人となるべき人がいない」と考えられる場合は、きちんと遺言等ですべての財産の処分を定た方が安心です。
また、遺言執行者を指定する等して、相続財産管理人の選任といった手続を経なくても相続財産がきちんと処理されるように準備しておくことをおすすめします。
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