この記事でわかること
- 遺産分割で取り分ゼロとなった人は相続放棄した人とは異なる
- 取り分がない相続人がいる場合の遺産分割協議書の記載方法がわかる
- 遺産分割の結果取り分ゼロとなった人がいる場合の注意点がわかる
亡くなった人が保有していた遺産は、相続人が相続することとなります。
ただ、すべての相続人が均等に相続するわけではなく、多額の遺産を相続する人がいる一方で、取り分がゼロとなる相続人もいます。
遺産分割の結果取り分がゼロになった人と、相続放棄して取り分がない人とでは、違いがあるのでしょうか。
また、取り分ゼロの相続人がいる場合、遺産分割協議書にはどのように記載することとなるのでしょうか。
目次
相続放棄と遺産分割協議で取り分ゼロになったときの違い
相続が発生した時に、相続発生を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立を行うことができます。
相続放棄が認められれば、被相続人が残した一切の遺産を引き継ぐことはできなくなります。
そのため、被相続人の残した借金などの債務が沢山ある場合には、相続放棄が有効となります。
一方、遺産分割協議により、何の遺産も相続しないこととなった相続人がいる場合があります。
何の遺産もいらないという場合や、すでに生前贈与で財産を受け取っている場合など、その理由は様々です。
この場合も、相続発生後に何も引き継がないこととなるので、一見すると相続放棄した場合と同じように思われます。
しかし、この両者には、はっきりとした違いがあるため、注意が必要です。
相続放棄した人は相続人でなくなる
相続放棄した人は、はじめから相続人でなかったものとされ、相続が発生した時点ではいなかったのと同じ扱いとなります。
そのため、以下のようなことが起こります。
①法定相続分や遺留分の計算から除かれる
はじめからいなかったものとして扱われるため、法定相続分や遺留分の計算も、いなかったものとして行われます。
その結果、相続放棄していない人の法定相続分や遺留分が増加することとなります。
②次順位の相続人に相続権が移る
たとえば第一順位の法定相続人である子どもが全員相続放棄すると、相続権は次順位の法定相続人である直系尊属に移ります。
直系尊属である被相続人の親がすでに亡くなっている場合には、さらに次順位の法定相続人である兄弟姉妹に相続権が移ります。
③相続登記に戸籍謄本が不要となる
相続登記を行う際には、相続した財産の有無に関係なく、相続人全員の戸籍謄本を提出しなければなりません。
ただ、相続放棄した相続人については、戸籍謄本は必要ありません。
その代わり、相続放棄申述受理証明書または相続放棄申述受理通知書が必要となります。
相続放棄すると債務を引き継ぐことがなくなる
前述したように、相続放棄すると、その人ははじめから存在しなかったかのように扱われます。
その結果、相続権がなくなるだけでなく、被相続人の債務も引き継ぐことがなくなります。
相続放棄することが多いのは、被相続人が多額の債務を有している場合ですが、その効果は単に相続する時だけではありません。
債務も相続人が引き継がなければならないため、遺産分割協議で誰が引き継ぐかを決めます。
遺産分割協議で債務を引き継ぐこととなった人は、相続後に債務の返済が始まります。
しかし、債務を引き継いだ人が、債務の返済に行き詰まることもあり得ます。
この場合、債権者である金融機関や貸金業者は、他の相続人に債務の返済を求めることができます。
しかし、相続放棄した人ははじめからいなかったのと同じであることから、債務の返済を求められることもありません。
一方、遺産分割協議で取り分ゼロだったとしても、後から債務の返済を求められる可能性はあります。
この点、相続放棄した場合とはまったく取り扱いが異なるため、注意が必要です。
取り分ゼロの相続人がいる遺産分割協議書の書き方・ひな形
遺産分割で取り分ゼロとなった人がいる場合、どのように遺産分割協議書を作成するのでしょうか。
取り分ゼロとなった人は、引き継いだ財産も債務もないことから、金融機関で手続きする必要はありません。
また、相続登記なども必要ありません。
そのため、遺産分割協議書には一切記載する必要がないように思われます。
ただ、取り分がゼロとなった人は、相続放棄したわけではありません。
遺産分割協議に参加して、自身の取り分がゼロとなったことに了承したと、遺産分割協議書に記載しなければなりません。
そこで、遺産分割協議書の末尾に、取り分ゼロとなった相続人も署名・押印しなければなりません。
相続放棄した人は、遺産分割協議に参加することなく、遺産分割協議書に署名することもありません。
取り分ゼロの人がいる遺産分割協議書のひな形をご紹介しますので、参考にしてください。
遺産分割協議書で取り分ゼロと決めるときの注意点
遺産分割の結果、取り分ゼロとなる相続人がいる場合、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。
「取り分ゼロ＝相続には無関係な人」ではないため、注意しましょう。
取り分ゼロとなった人が債務を返済するリスクがある
遺産分割により取り分がゼロとなった人も、その後に被相続人が保有していた債務の返済義務が生じる可能性があります。
遺産分割の段階で取り分ゼロとしていても、相続後に債務を引き継いだ人がその債務を滞りなく返済できるとは限らないためです。
もし債務を引き継いだ人が返済できなくなると、他の相続人が返済するよう、金融機関などの債権者から請求されることとなります。
被相続人が多額の債務を有していた場合、遺産分割協議で取り分ゼロとするだけでは、債務のリスクを避けることはできません。
債務を引き継ぎたくないからという理由で取り分ゼロとするのであれば、相続放棄を検討すべきです。
相続放棄との違いを理解しておく
遺産分割協議の計算、取り分ゼロとなるのと、相続放棄をするのとでは大きく異なります。
その違いは、取り分ゼロあるいは相続放棄した本人だけでなく、他の相続人に及ぶ可能性が十分にあります。
取り分ゼロとした場合、他の相続人の法定相続分や遺留分の計算には影響がありません。
そのため、他の相続人の取り分の計算は原則的な割合のままであることを、考慮しておく必要があります。
一方、相続放棄した人がいると、その人は最初からいないものとして法定相続分や遺留分の計算を行うこととなります。
また相続放棄の結果、法定相続人が次順位の相続人に移るケースも考えられます。
まったく予想外の形で法定相続人となる人が現れる可能性もあるため、親族間で連絡を密にしておくことが求められます。
取り分ゼロとなった場合も遺産分割協議に参加する
取り分ゼロとなった人も、法定相続人であることに代わりはありません。
取り分がゼロになったのは遺産分割協議の結果であり、その結果を誰にもわかるように記載したのが遺産分割協議書です。
遺産分割協議はすべての相続人が参加し、話し合いによって遺産を引き継ぐ人を決定するものです。
遺産分割を受け、財産を引き継ぐつもりがないからといって、遺産分割協議に参加しないことは認められません。
また、遺産分割協議に参加し、結果に納得していることを明らかにするため、遺産分割協議書に署名・押印しなければなりません。
もし遺産分割協議書に署名がないとしたら、一部の相続人により遺産分割協議書が作成されたものとみなされます。
その結果、金融機関や法務局での手続きができない可能性もあるので注意しましょう。
まとめ
被相続人が多額の債務を抱えていた場合、遺産を何も相続しない代わりに債務も引き継がないこととしたいケースもあります。
このとき、遺産分割協議書に署名だけをしておけば、それで相続放棄したのと同じことだと考えてしまう場合があります。
しかし、取り分ゼロと相続放棄とはまったく異なるものであることに注意しなければなりません。
また、遺産分割協議書に署名しなければ遺産分割が有効に成立しないため、取り分ゼロの場合でも必ず遺産分割協議書に署名するようにしましょう。
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