この記事でわかること
- 遺産分割協議書の作成意義
- 遺産分割協議書が必要なケース・不要なケース
- 遺産分割協議書の作成手順と必要書類
- 遺産分割協議書についての疑問の解消
相続開始とともに様々な手続きが発生し、すべて完了するまでには相当な日数もかかります。
相続手続きのなかでも特に時間と手間のかかる最大のハードルとも言えるのが、相続人全員で話し合った内容を遺産分割協議書という書面に落とし込む手続きです。全員の署名と実印を揃えなければなりません。
この際、「相続人が1人だけの場合は遺産分割協議書が必要なのか?」「どのような相続財産であっても遺産分割協議書を作成しなければならないのか?」などの疑問が浮かぶ人もいるのではないでしょうか。
この記事では、遺産分割協議書が必要なケース、不要なケースについてわかりやすく解説するため、相続の基礎知識として参考にしてください。
目次
遺産分割協議書とは
相続人全員で遺産の分け方を話し合い、決定内容を記載した書類が遺産分割協議書です。
遺産分割協議書には以下の目的があるため、誰が何を相続するのか、相続人同士はもちろん第三者にもわかるように作成します。
- 第三者に提出(提示)して遺産の所有権を変更してもらう
- 遺産分割内容を書面化することで、相続争いを防止する
遺産分割協議書があれば、正当な遺産承継者であり、他の相続人の同意を得ていることも証明できます。
つまり、遺産分割協議書がなければ相続財産は取得できないため、なるべく早めに協議を開始してミスがないよう遺産分割協議書を作成しなければなりません。
協議開始前に相続人や相続財産を確定しておくため、戸籍収集や財産調査などの事前準備も必要です。
遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書は預金解約や相続税申告、相続登記などに使いますが、必ず作成するというものではありません。
財産の内容や相続状況によっては不要ですが、まずはどのようなケースで遺産分割協議書が必要になるか、具体例を紹介します。
遺言書がなく法定相続分どおりに分割しない場合
民法では「法定相続分」を定めています。
法定相続割合ともいわれますが、被相続人との関係に応じて以下のように異なります。
- 配偶者と子ども:配偶者1/2、子ども1/2
- 配偶者と被相続人の父母:配偶者2/3、父母1/3
- 配偶者と被相続人の兄弟姉妹:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
遺言書が残されていてその内容どおりに分割する場合や法定相続分どおりに分割する場合、遺産分割協議書の作成は必須ではありません。しかし、遺言書がなく、かつ法定相続分とは違う割合で相続するときは、遺産分割協議書が必要です。
名義変更が必要な財産がある場合
被相続人名義のままでは自由に使えない財産もあるため、各機関に遺産分割協議書を提出して、相続人名義に変更します。
具体的には以下のような例が挙げられます。
- 不動産
- 有価証券
- 自動車や船舶
不動産については、法定相続分どおりに分割しない場合に遺産分割協議書が必要です。
自動車の場合、相続人全員が指定用紙に署名捺印するだけで名義変更できるケースもあります。
なお、軽自動車の名義変更であれば遺産分割協議書は不要です。
複数の預貯金口座を解約する場合
預貯金口座についても、金融機関指定の用紙に相続人全員が署名捺印することで、遺産分割協議書の作成が不要になるケースもあります。
ただし、取引銀行が多い場合は、解約の度に相続人全員の署名捺印が必要になるため、遺産分割協議書を作成しておいた方が効率的です。
相続税申告が必要な場合
相続財産が基礎控除(3,000万円+(600万円×法定相続人の数))を上回ると、相続税申告が必要になります。
相続税申告をする際、基本的には遺産分割協議書が必要となります。とくに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合は、必ず遺産分割協議書を作成しなければなりません。
相続争いを防止したい場合
遺産分割協議書を必要としない遺産だけであっても、後日のトラブルを避けるために作成することをおすすめします。
遺産分割協議書を作成しなかったために、遺産分割の解釈の違いからトラブルの火種となってしまうかもしれません。
遺産分割協議書を作成する際、財産は詳細まで記入し、署名捺印まで整えておきましょう。
遺産分割協議書が不要なケース
遺言書が残されていた場合や、相続人が1人の場合、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
具体的に、遺産分割協議書が不要になるケースについて知っておきましょう。
相続人が1人だけの場合
相続放棄した人がいた場合や相続人がもともと1人のみの場合など、相続人が1人だけであれば遺産分割協議書の作成は不要です。相続欠格や廃除によって相続権をはく奪された人がいたために相続人が1人になるケースもあるでしょう。
また、推定相続人がすでに死亡していても、その人に子どもがいれば代襲相続が発生し、親の相続権は子どもに引き継がれます。
代襲相続人が複数いれば遺産分割協議が必要になり、財産内容や分割方法によっては遺産分割協議書も必要です。
なお、相続放棄した人には代襲相続が発生しません。
遺言書に従って遺産分割する場合
遺言書どおりに遺産を分割する場合、遺産分割協議書の作成は不要です。
ただし、遺言書の中でも自宅に保管されていた自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要であり、検認済証がなければ相続手続きに使えないことは覚えておきましょう。
なお、遺言書の保管制度を利用し、法務局で保管されていた自筆証書遺言であれば、家庭裁判所の検認は不要なうえに遺産分割協議書も不要となります。
法定相続分どおりに遺産分割する場合
法定相続分にそのまま従う場合も、遺産分割協議書の作成は不要です。
ただし、不動産の共有はトラブルが起きやすいため注意が必要です。
不動産が共有状態になると、すべての契約行為に共有者全員の同意が必要になるため、思いどおりの活用や処分ができなくなります。
世代交代とともに共有者も増えることから、最終的には活用も処分も大変困難な状態になるでしょう。
また、単独で相続登記した場合、手続きした人にしか権利証(登記識別情報通知)が発行されないため、トラブルの火種になる可能性もあります。
相続財産が現金や預貯金だけの場合
現金のみを相続する際は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。
預金口座の場合も、金融機関指定の用紙に相続人全員が署名捺印するだけで解約手続きが完了するケースがあります。
通話料無料の相続専用ダイヤルを設けている金融機関も多いため、遺産分割協議書が必要かどうか、事前に確認するとよいでしょう。
遺産分割協議書の作成に必要な書類と作成の流れ
遺産分割協議書の作成に法律的な期限はありません。
しかし、遺産分割協議書をもとにして進める相続手続きの多くは期限があるため、早めに遺産分割協議書を作成できるよう、次の要領で準備していきましょう。
1 遺言書の有無を確認
遺産分割協議書の作成が必要かどうか判断するため、まずは遺言書を探してください。
被相続人の自宅にあるとは限らないため、弁護士や司法書士、銀行(貸金庫)、法務局や公証役場にも問い合わせてみましょう。
2 相続人の確定
想定外の相続人がいる可能性もあるため、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取り寄せ、誰が相続人なのか確定させてください。
3 相続財産の調査
相続人に知らされていない財産は意外に多いため、財産調査も入念に行うことが大切です。
土地の権利証や預金口座、有価証券の他、借金の有無も確認するため郵便物も調べておきましょう。
4 遺産分割協議
遺産の全容や相続人がわかれば、相続人全員で遺産分割協議を行います。
全員参加が難しい場合は、手紙や電話、メールなどを使って協議を進めていきましょう。
5 遺産分割協議書の作成
話し合いが決着したら、最後は遺産分割協議書を作成します。
相続人の人数分を作成できれば理想的ですが、難しい場合は原本を一通作成し、他の相続人には写しを渡しておきましょう。
遺産分割協議書の作成要領は別の記事で解説しているため、詳しくは下記の記事をご覧ください。
遺産分割協議書についてよくある疑問
「遺産分割協議書は手書きで作成しないといけない?」「遺産分割協議書を作成しなかったら罰則はある?」など、遺産分割協議書に関する疑問が生じた人もいるのではないでしょうか。
遺産分割協議書に関するよくある疑問と回答をまとめましたので、遺産分割協議書を作成する際の参考にしてください。
遺産分割協議書を作成しなかったらペナルティはある?
法律上の作成義務はないため、罰金・罰則などのペナルティはありません。
遺産分割協議書は手書きで作成する?
手書き、パソコン作成どちらでも構いません。
ただし署名だけは自筆になり、押印には実印を使用します。
財産目録も作成しないといけない?
財産目録(財産リスト)の作成義務はありませんが、遺産の全容や相続税額を把握しやすいため、作成した方がよいでしょう。
作成が難しい場合は弁護士や税理士などの専門家にも依頼できます。
遺産分割協議書は公正証書にするべき?
公正証書にしなくても構いません。
ただし、相続人同士が揉めている場合は、証明力や執行力を担保した方がよいため、公正証書にしておくことをおすすめします。
公証役場には元裁判官や検察官など法律の専門家がいるため、法的効力のある公正証書を作成してもらえます。
なお、公正証書にする場合は5,000円~4万3,000円程度の費用がかかります。
遺産分割協議書の作成後に新たな財産を発見したら?
新たに遺産分割協議を行う、または遺産分割協議のやり直しになります。
このようなケースにも対応できるよう、最初に作成する遺産分割協議書には、「後日判明した財産は相続人○○が相続する」などの一文を添えておくとよいでしょう。
遺産分割協議書を自作するときの注意点
ここからは遺産分割協議書を自作するときの注意点について紹介します。
遺産分割協議書に記載に不備があるとトラブルの原因となるため、ぜひ取り上げる内容を参考にしてください。
相続財産の把握漏れ
遺産分割協議書を作成するときには、財産目録を記入します。
財産目録とは、相続財産を網羅したリストで、プラスの財産だけではなく、借金といったマイナスの財産も記入しなければいけません。
財産目録を作成するときに注意したいことは、相続財産の把握漏れです。
亡くなった被相続人以外は知らなかったような財産があったり、全然使っていない銀行口座に預金が眠っていたりする場合もあります。
遺産分割協議書を作成したあとに新しい財産が見つかったら、遺産分割協議をやり直すことになるため注意しましょう。
遺産分割協議書を作成するときには、「他に相続財産はないか?」を細かくチェックしておくのが大切です。
記述ミス
遺産分割協議書に記述ミスがあると、手続きの中断や作り直しとなってしまいます。
特に不動産・有価証券などの財産がある場合は、表記を間違えないように注意しましょう。
不動産の場合は、地番・家屋番号など細かく情報を記載しなければいけません。
「自分の作成した遺産分割協議書に不備はないか?」を確認しましょう。
ひな形では対応できないケース
遺産分割協議書を作成するときには、ひな形・サンプルをもとに情報を記入して作成する人もいることでしょう。
相続は相続人の状況・どんな相続財産があるかによって大きく異なるため、手本として使ったサンプルが、自身の相続に対応しているとは限りません。
そのため例えばサンプルとして使った遺産分割協議書が古いものであれば、最新の法令に対応してないかもしれません。
ひな形・サンプルを使って遺産分割協議書を作成するときには、自身の相続ケースに対応しているのか確認しましょう。
困ったら専門家に相談する
遺産分割協議書を自作すると、わからないこと・困ったことが生じるかもしれません。
自身で判断が難しくわからないことがあれば、専門家への相談がおすすめです。
遺産分割協議書の作成経験がある専門家に相談すれば、適切なアドバイスをくれます。
事前にチェックしてもらうことで、不備・ミスを修正でき、スムーズな作成ができます。
遺産分割協議が未完了でも相続税の申告は必要
遺産分割協議が完了していない場合でも、相続税は申告期限内に行わなければならないため、注意が必要です。
遺産分割協議が済んでから相続税申告をすることが通常の流れですから、その逆となるこのケースを「未分割申告」と呼びます。
未分割申告の場合、相続税の減額効果のある一部の特例が受けれないことがあります。また、後日遺産分割が確定した場合には、その内容で再度正式に申告し直す必要があるため、とても手間がかかる非常手段と考えておいてください。
未分割申告は法定相続分で相続したと仮定して行う
未分割申告を行う場合、各相続人が法定相続分で相続したと仮定して相続税を計算し、相続税の申告書を提出します。
申告書の提出時には申告書に加えて、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しましょう。
分割確定後の手続きには更正の請求と修正申告の2種類がある
未分割申告を行ったあと遺産分割が完了した際には、更正の請求か修正申告のいずれかを行います。
申告済みの税額より実際に行われた財産分割に基づいた税額が多い場合は修正申告をします。
申告済みの税額より実際に行われた財産分割に基づいた税額が少ない場合には更正の請求をします。
納税者にとって特に大事なのは、余分に払いすぎた相続税を還付してもらう更正の請求ですが、この更正の請求は「分割が行われた日の翌日から4カ月以内」と期限が短いためとくに注意が必要です。
相続税の特例が適用できないなど注意点もある
未分割申告を行った場合、「小規模宅地等の特例」や「相続税の配偶者控除」といった特例の適用ができません。
そのため、仮に相続財産が各特例の適用要件を満たしていても、相続税を減額できずに一旦、高い相続税を納付することになります。
未分割申告したうえで特例の適用を行う場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出、申告期限から3年以内の遺産分割協議の完了、修正申告または更正の請求をそれぞれ行いましょう。
遺産分割協議書が必要な場合に備えた準備が大切
遺産分割協議書のひな形や作成要項はネットで紹介されていることが多いとはいえ、遺産分割は相続人それぞれのケースごとに異なります。
記事内で紹介した内容を参考に、前もって親が保有する財産を確認するなど、準備を進めましょう。
また、相続は携わる機会が多く訪れるわけではないため、いざ相続が発生したときに迷ってしまう人もいるのではないでしょうか。
遺産分割協議書をはじめとする相続に関する事柄で疑問が出たときは、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
専門家によるバックアップのもと安心して相続手続きを進めることができるため、ぜひご検討ください。
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