この記事でわかること
- 相続放棄の手続きの流れがわかる
- 相続放棄の手続きをするときの注意点がわかる
- 相続放棄を検討すべきケースがわかる
たとえ親からの相続でも、「実は多額の借金があった」というケースは少なくありません。
親にも歩んできた人生があり、子どもたちも伺い知れない意外な一面を抱えていたりもするのです。
ましてや、叔父・叔母や疎遠な兄弟からの相続ならなおさらです。
思わぬ遺産が転がり込むと喜んでいたのに、反対に借金を背負いこまされたら泣くに泣けません。
その際の法的な対抗手段は、相続の放棄です。
相続放棄の手続きは、期限が決められているうえに実に煩雑です。
ただし、事前に手順をきちんと理解をしておくことで、スムーズに進めることもできます。
この記事では、相続放棄の手続きの流れ・注意すべきポイントについて、わかりやすく解説します。
相続放棄の流れ
基本的な相続放棄の手続きの流れは次の通りです。
- 1.相続放棄すべきかの検討をする
- 2.申述先の管轄家庭裁判所を確認する
- 3.相続放棄に必要な書類・費用を用意する
- 4.家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
- 5.相続放棄申立後に照会書が届く
- 6.相続放棄申述受理通知書が届く
1つずつ見ていきましょう。
相続放棄すべきかの検討をする
相続放棄の手続きをすべきケースは次の通りです。
- 被相続人に多額の借金がある、または借金の連帯保証人になっている
- 他の相続人と関わり合いになりたくない
- 他の相続人に家業を継がせたい、同居していた他の相続人に持ち家を相続させたい
問題なのは、借金や連帯保証の存否が把握できていないケースです。
相続放棄の手続きをするかしないかの判断に迷ったら、以下の記事が参考になりますのでご覧ください。
申述先の管轄家庭裁判所を確認する
相続放棄を申述する管轄裁判所は、被相続人の死亡時の住所を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所は名古屋・青森・静岡といった各県に置かれた本庁の他に、多数の支部・出張所を擁しています(例えば東京家裁なら八丈島・大島出張所、立川支部)。
被相続人の住所がどの本庁・支部・出張所で管轄されているかは、裁判所のホームページで確認できます。
相続放棄に必要な書類・費用を用意する
相続放棄申述書に所定の事項を記載の上、被相続人の住民票又は戸籍謄本、放棄を申請する相続人の戸籍謄本、800円分の収入印紙、返信用郵便切手を提出します。
また、放棄を申述する相続人と被相続人の親族関係によって、以下の戸籍謄本が必要になります。
申述人 | 必要な戸籍謄本 |
---|---|
被相続人の配偶者 | ・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 |
被相続人の子又は孫・ひ孫などの代襲相続人(相続第1順位) | ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 ・被相続人の子(またはその代襲相続人)が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本 ・申述人より下の代の直系尊属が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本 第1順位の申述人が提出した戸籍謄本は省略できます。 |
被相続人の兄弟姉妹及び その代襲相続者のおい・めい(相続第3順位) |
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 ・被相続人の子(またはその代襲相続人)が死亡している場合にはその死亡が記載された戸籍謄本 ・被相続人直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本 ・代襲相続人が申請者の場合は本来の相続人の死亡が記載された戸籍謄本 第1・第2順位の申述人が提出した戸籍謄本は省略できます。 |
その他、相続放棄の手続きには、収入印紙代や切手代、戸籍謄本の手数料などが必要になりますので用意しておきましょう。
自分で相続放棄の手続きを行う場合に必要な費用
- 収入印紙:800円
- 郵便切手代:裁判所によって金額が異なる
- 戸籍謄本:1通450円
- 除籍謄本・改製原戸籍謄本:1通750円
- 住民票:1通300円
- 交通費・郵送費:2,000~3,000円
家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
必要書類と費用が準備できたら、原則相続人本人が被相続人の死亡時の住所の管轄家庭裁判所に相続放棄を申し立てます。
相続放棄申立後に照会書が届く
相続放棄申述書を提出すると、1週間前後で裁判所から質問(照会書)が送られてきます。
照会書の質問事項は、一般的に次の内容が書かれています。
- 相続の開始があったことを知った日
- 相続申立ては自分で行ったか
- 相続放棄の理由(以上は申述書の再確認)
- 相続放棄は自分の意思か
- 被相続人の財産を処分していないか
- 相続放棄の意思に変わりはないか
回答書が同封されていますので、申述書と矛盾しないよう記入して返送します。
相続放棄申述受理通知書が届く
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
相続放棄手続きは以上です。
ただし債権者によっては、「相続放棄申述受理証明書」を求めてくるケースもあります。
証明書の交付申請書は、通知書に同封されています。
手数料は150円です。
ちなみに通知書は、相続関係確認のために第三者も交付申請できます。
ただしこの場合は、事件番号・受理日・申述人の記載が必要で、利害関係を証明する書面も提出しなければなりません。
事件番号などが不明の場合は、相続放棄の申述の有無を照会します。
相続放棄の手続きで注意すべきポイント
ここからは相続放棄を検討している人が、注意すべきポイントを紹介します。
相続放棄の手続きの期限は3ヶ月以内
相続放棄では、手続きの期限が「相続開始を知った日から3ヶ月以内」と決められています。
期限内に手続きが終わらないと、相続放棄自体ができなくなる可能性もあるので、注意しましょう。
3ヶ月以内の手続き完了が難しい場合は、期間延長の申請がおすすめです。
期間延長の申請は、相続を知った日から3ヶ月以内に手続きを完了させなければいけません。
必要書類を準備して、家庭裁判所で手続きを完了すれば、相続放棄の手続き期間を延長できます。
延長できる日数については、家庭裁判所の判断で決まります。
相続放棄は期限内の手続きが必要になるので、遅れそうな場合は早めに手続きをしておきましょう。
相続放棄の手続きをしたら相続順位が変わる
相続人が子供たち(相続第1順位)である場合、相続人が相続放棄しても代襲相続は生じません。
今度は相続権が第2順位(直系尊属)に移ります。
直系尊属全員がすでに死亡しているまたは相続放棄した場合には、今度は第3順位(兄弟とその代襲相続者)に移転します。
つまり相続放棄は直接の相続人だけではなく、第3順位まで全員が手続きしなければなりません。
ですから自分たちが相続放棄をしたら、第3順位の親族にまで連絡しなければならないのです。
しかし、親族の中には相続放棄をしても連絡をくれない人もいるかもしれません。
不安な場合は、家庭裁判所に照会申請書を提出して、相続放棄申述の有無を確認します。
相続放棄の事実がある場合は、事件番号・受理日・申述人を、事実がない場合はその旨の証明書を発行してくれます。
なお申請書には、相続人目録・被相続人の戸籍謄本と住民票(本籍地記載)・申請人の戸籍謄本と住民票(本籍地記載)・相続関係説明図を添付します。
被相続人の財産を処分してはいけない
被相続人の預金を引き出して葬儀費用・墓地や墓石の購入費用に充てた、返済期日が来た被相続人の借金を弁済した、といったケースは別として、一般的に被相続人の財産を相続した場合は「法定単純承認」といって自動的に相続されたとみなされ、相続放棄申述は受理されません。
その他、被相続人の財産を隠匿した場合も同様です。
たとえこれらの事実を隠して、家庭裁判所に相続放棄が受理されたとしても、債権者の訴えで無効とされる可能性があります。
生前贈与を受けていても相続放棄できる?
原則として、生前贈与を受けていても相続放棄の申述は受理されます。
相続放棄申述の審理において、生前贈与の有無が問題となることもありません。
ただし、生前贈与を受ける時点で贈与者(被相続人)に多額の債務があることを知っていた場合には、贈与行為自体が詐欺行為とみなされる可能性があります。
例えば、被相続人から不動産の生前贈与を受けていた場合には、債権者からの訴えにより贈与行為の取り消しが認められれば、所有権移転登記を抹消しなければいけません。
ただしこのケースでも相続放棄自体が無効とされるわけでなく、生前贈与財産は失うこととなりますが、それ以上に被相続人債務の弁済を求められることはありません。
相続放棄しても生命保険金や遺族年金は受け取れる
生命保険金や退職金(受給権が支給する会社の規程に定められていて相続順位に左右されないもの)などは、相続人の固有財産であり、放棄しなければいけない相続財産に該当しません。
被相続人の死亡に伴い受給権が発生する遺族年金も、相続人固有の財産です。
相続開始前に相続放棄手続きはできない
相続放棄の手続きは、相続開始を知った日から3ヶ月以内に行わなければなりません。
ただし、被相続人が亡くなってから、3ヶ月以内に相続放棄するかどうかを判断し、家庭裁判所で所定の手続きを行うのは、非常に大変なことです。
そこで、相続開始前、つまり自身が相続人になると想定される人が亡くなる前に、家庭裁判所で相続放棄できればと考えるかもしれません。
しかし実際には、相続放棄の手続きを相続開始前に行うことはできません。
それは、亡くなるまでどの人が相続人になり、それぞれの法定相続分がどれだけになるかが分からないためです。
相続放棄は、必ず相続が発生した後でなければできないため、注意しましょう。
相続放棄手続きをしたら代襲相続が発生しない
相続放棄した相続人がいる場合、本来の相続人に代わってその相続人の子供が相続権を引き継ぐことはできません。
それは、相続放棄した相続人は初めから相続権を有していなかったものとされるためです。
これに似た状態として考えられるのが、法定相続人が先に亡くなっている場合です。
法定相続人が亡くなった場合も、相続放棄のように本来の法定相続人が相続できません。
ただ、亡くなった法定相続人がいる場合は、その相続権は消滅するわけではなく、代わりに相続する人がいればその人に相続権が移ります。
このことを代襲相続といいます。
例えば、被相続人の子供が先に亡くなっていた場合、その子供の子供(被相続人の孫)がいれば、その孫に相続権が発生します。
この場合、孫が複数人いれば、相続権をそれぞれ均等に分割し、代襲相続することとなります。
ただし、相続放棄をした場合は代襲相続が発生しないため、間違えないようにしましょう。
相続人全員が相続放棄しても財産の管理は放棄できない
相続放棄すると、その相続人は相続権がなくなり、財産について一切の権利・義務がなくなります。
相続放棄した相続人と相続放棄していない相続人がいる場合、すべての財産は相続放棄していない相続人だけで相続することとなります。
また、相続放棄していない人が、相続発生後にすべての財産を管理していかなければなりません。
ところが、仮にすべての相続人が相続放棄をした場合は、誰も財産を管理する人がいなくなってしまうように思えます。
しかし、すべての相続人が相続放棄した場合でも、財産の管理義務はなくなりません。
そのため、自身の財産を管理するのと同程度の管理を行う必要があります。
相続放棄の手続きは自分でもできる
「費用を抑えたいから、自分で相続手続きをしたい」という人もいるでしょう。
弁護士・司法書士に依頼すれば3〜5万円程度の費用がかかりますが、自分で手続きすれば費用を3,000〜5,000円程度に抑えられます。
実際に自分で相続手続きを進めることは可能ですが、それなりのリスクもあります。
相続放棄の手続きを自分で行う方法やリスクについては、次の記事をご覧ください。
相続放棄の手続きを専門家に依頼するメリット
ここからは、相続放棄の手続きを専門家に依頼するメリットを紹介します。
期限内の手続きができる
相続放棄に慣れている専門家に依頼すれば、安全に相続放棄できます。
相続放棄には期限があり、期限を過ぎてしまうと、通常の相続になります。
「期限内に手続きが終わるのか?」は重要なポイントであり、専門家であれば間違いなく期限内の手続きが可能です。
自力で相続放棄の手続きを進めて失敗する可能性があるなら、最初から専門家に任せた方がいいでしょう。
適切な相続方法を選択できる
相続には相続放棄だけでなく、一部の財産を相続する「限定承認」という方法もあります。
その他にも相続税を抑えるような仕組みがあったり、かなり複雑になっています。
また相続財産・相続人の数によって適切な相続方法は異なり、専門的な知識が必要になります。
専門家に依頼すれば、相続財産・相続人の状況を見ながら、適切な相続方法を選択してくれます。
「借金があるから相続放棄するしかない」と思っていた相続でも、実はプラスの財産を引き継ぐような相続ができるかもしれません。
「相続で損をしたくない」という人は、専門家への相談がおすすめです。
まとめ
今回は、相続放棄の手続きの流れや注意点について解説してきました。
相続放棄を考えている場合は、まず相続放棄すべきかどうかを検討しましょう。
相続放棄をすることに決めたら、相続放棄に必要な書類・費用を用意し、家庭裁判所に相続放棄を申し立てます。
相続放棄申述書を提出すると裁判所から照会書送られてくるので、回答を記入して返送しましょう。
家庭裁判所が相続放棄の申述を受理すると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきて、相続放棄の手続きは完了となります。
相続放棄の手続きで特に注意しておきたいのは、相続放棄の手続きの期限は「相続開始を知った日から3ヶ月以内」という点です。
期限内に手続きが終わらないと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
期限内に手続きが難しい場合は、期間延長の申請をしておくのがおすすめです。
また、相続放棄の前に被相続人の財産を処分してしまうと、自動的に相続されたとみなされて相続放棄申述が受理されないため、気をつけておきましょう。