血縁関係は、つながりが深ければ深いほど結束も強くなりますが、一旦こじれ始めるとその対立はより激しくかつ陰湿さを帯びてしまいます。
遺産分割を巡る親族間の争い(争族)はその典型で、家裁に持ち込まれる「財産の分割に関する」調停申し立ては、寄与分や持ち分に関する案件を含めて2万件近くに達します。
さらにそのうちの7割以上が遺産総額5000万円以下・3割が1000万円以下であり、決して「財産が少ないから揉めない」訳ではないのです。
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遺言も万全ではない
最近は就活ならぬ「終活」として、人生の最期を迎える前に身辺をきれいにしておこう、との考え方が浸透しつつあります。
その1つとして「転ばぬ先の杖として元気なうちに遺言を作成する」ケースも増えており、ちなみに公正証書遺言の作成件数は年間10.5万件、10年前の1.5倍です。家庭裁判所に持ち込まれる自筆遺言証書の検認申立ても年間2万件近くに達します。
公正証書遺言作成の料金は、(財産額によって変わり)財産1億円の場合で20万円近くかかりますが、それでも遺言を残しておこうとするのです。
ただし、そんな遺言も万全ではありません。後々事情が変わってくるケースが少なくないのです。
例えば、奥さんに先立たれるケースです。遺言は、夫が先に亡くなることを前提に作成されることが少なくないのです。(昔より年齢差は小さくなっているものの)一般的に結婚時は男性の方が年上で、平均寿命は女性の方が長いので、夫に先立たれるケースが圧倒的に思えますが、実際はそれほどでもありません。
75歳以上の場合、夫に先立たれた妻は36万人、対して妻に先立たれた夫は10万人もいます。新しい奥さんができた、というケースも少なくありません。ちなみに60歳以上の再婚(夫)は、年間1000件以上です。
その他、財産を譲るとしていた相手とそりが合わなくなった、事業の不振などで財産自体が大きく目減りしてしまったなど、抱える事情は様々です。
遺言の取り消し方法(全部取り消し)
遺言書の取り消しには、推定相続人など利害関係者の同意は一切必要なく、遺言作成者の判断で実行できます。
かつ、いつでも何回でも可能です。
全部を取り消すだけではなく、部分的な修正も可能です。
では、どうすれば遺言を取り消せるのでしょうか。
まずオールリセットする場合を解説します。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言の原本を破棄または償却すれば、遺言を全部取り消したことになります。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合は原本が公証人役場に保管されているため、遺言作成者が持っている謄本等を廃棄しても遺言を取り消したことにはなりません。
もう一度公証人役場に出向き、新しい日付の遺言書を作成すれば、以前に作った遺言書は取り消されます。
新しい遺言書の文面には「これまでに作成した遺言書は全部取り消す」といった文言を記載します。
手間とお金は最初に公正証書遺言を作った時と同じで、証人も必要ですし手数料も10万円単位でかかります(ただし遺言書作成は公証人がすべて対応してくれます)。
戸籍謄本や印鑑証明書といった書類も準備しなければなりません。
遺言の取り消し方法(一部取り消し)
1か所・2か所の部分的な修正の場合は、修正部分に二重線を引き捺印、上に修正分を朱書きします。修正箇所が多い場合は「○年×月△日の遺言書の第2項部分を以下通り書き直す」といった内容の補足文書を作成します。
ちなみに一部修正の場合でも、公正証書遺言の場合は同じだけの料金がかかります。
死後の遺言取り消しについて
「遺言の取り消しは遺言作成者の生前だけ」、一般的には正しい解釈ですが、亡くなってしまった後でも申立てにより遺言を取り消せるケースもあります。
遺言が脅迫・詐欺により作成されたことが明らかな場合には、相続人は遺言の無効を家裁に申し立てることができます。ただし公正証書遺言の場合は、遺言の無効を立証するのは事実上不可能です。
遺言作成者が認知症などにより判断能力を失っていたり寝たきりだったりする場合にも、遺言書の無効を申立てできます。
悪意による遺言の取り消しを未然に防止する
兄弟に等しく財産を譲りたい、そんな思いで遺言を作成したのに、後々取り消されてしまう。
こんな事例も、最近では起こっています。たとえば病弱になってくると、世話してくれる親族には心理的に逆らえません。
そこを逆手にとって、遺言の取り消しを強いるケースが散見されます。
こうした事態を事前に防止するためには、遺言を作成するだけでは不十分なのです。例えば、財産を譲る人と「家族信託契約」を取り交わしておけば、遺言の取り消しによっても契約の効力は失いません。
同時に身の回りの世話に関しての窓口を法的に定める「任意後見契約」を結んでおけば、第三者がしゃしゃり出てこられなくなります。
不測の事態に備える
自筆にせよ公正証書遺言にせよ、遺言の取り消しは面倒でお金もかかります。最初から不測の事態を遺言書に反映させておけば、遺言書の取り消しを避けることが可能です。
例えば「妻〇〇が死亡した場合には…」「現在独り身の私が再婚した場合には…」「三男Aが同居するようになった場合には」といった文言を記載しておけば、事情が変わってきた場合にも遺言を取り消さずに済みます。
「人生には3つの坂がある、上り坂・下り坂・そしてまさかだ」後任の安倍首相が突然辞任したのを受けて、小泉元首相はうめきました。
「祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり」平家物語ではありませんが、無常は世の倣いです。明日何が起こるかは誰にもわからず、昨日までぴんぴんしていた人が突然倒れるなんて話も珍しくありません。だからこそ健康なうちに遺言を作成する、せっかく作るなら後々書き直さなくて済むように工夫する手立てが大切なのです。
それに「まさか」は突然に起きるように見えますが、前兆を見せている場合が多いのです。「本当に長女に財産を譲っていいのか」「長男に家業を継がせて本当に大丈夫か」、そうしたことは普段の言動を観察していれば見極めもつきます。
熟慮に熟慮を重ねて遺言書を作る、それが遺言を取り消さずにすむ最善の途なのかもしれません。
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