記事の要約
- 山林相続では90日以内の届出と3年以内の相続登記が必須
- 山地の評価区分で相続税額が大きく変わるため早期確認が重要
- 相続した山林は保有・売却・放棄・管理委託などの方針決定を早めに行うことが肝心
親から田舎の山林を相続することになったものの、
「何から手をつければいいのか分からない…」
「山林の相続って、税金はどれくらい?管理はどうすればいい?」
突然の山林相続に、このような戸惑いや不安を抱えていませんか。
これまでほとんど関わりのなかった「山」という財産を前に、
それが資産として活かせるのか、それとも管理コストだけがかかる負動産になってしまうのか。 一人で判断するのは簡単ではありません。
でも、ご安心ください!山林の相続は「なんとなく」決めてしまうと危険ですが、正しい知識と手順に沿って進めれば、決して怖いものではありません。
この記事では、山林相続に詳しい税理士が、あなたが今抱えている疑問や不安を解消するために、次の内容をわかりやすく解説します。
- 相続したら真っ先にやるべきこと(市町村への届出、相続登記など)
- 山林相続のメリットと、特に注意すべきデメリット・リスク
- 山林の相続税・固定資産税がどれくらいかかるのか
- 相続手続きの具体的な流れと、押さえておきたい必要書類
- 相続した山林を活用する方法と、売却・相続放棄・国庫帰属などで手放す方法
この記事を最後まで読めば、山林相続の全体像が整理され、「自分は引き継ぐべきか、手放すべきか」「今なにを優先して動くべきか」が具体的に見えてきます。まずは落ち着いて、一つずつ確認していきましょう。
なお、VSG相続税理士法人では、山林の相続や評価、相続税申告に関するご相談を無料で承っています。
ベンチャーサポートグループには司法書士や行政書士も在籍しておりますので、「相続登記や市町村への届出が不安」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。
目次
山林を相続したら最初にすべきこと
山林の相続が発生すると、心の整理がつかないうちにも、法律で定められた手続きがすぐに始まります。
特に近年の法改正により、以前のように「しばらく放置しておく」という対応はできなくなりました。山林は他の不動産と異なり、境界線が不明確なケースや、所有者が不明なケースが多い特性を持つ財産です。そのため初動が遅れると、後々の手続きが複雑化し、大きな不利益につながる恐れがあります。
まずは、相続発生日から期限が定められている必須手続きを確実に押さえましょう。
まず確認すべき「相続登記の義務化」と「市町村への90日以内の届出」
山林を相続したら、最優先で対応すべき手続きは次の2つです。
いずれも期限と罰則が明確に定められている法定手続きであり、放置は厳禁です。
- 相続登記(名義変更)は、義務化により3年以内の申請
- 2024年4月1日から、相続登記は義務化されました。相続によって不動産(山林を含む)を取得したことを知った日から3年以内に、法務局で名義変更の登記申請を行う必要があります。期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があります。
- 市町村へ「森林の土地の所有者届出書」を90日以内に提出
- 山林を相続した場合、森林法に基づく「森林の土地の所有者届出制度」により、所有者となった日から90日以内に、その山林がある市町村へ届出を行う義務があります。届出をしない、または虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。
どちらも法律で定められた義務であり、期限も明確な手続きです。山林の相続が発生したら、まずこの2つをスケジュールに組み込み、確実に対応することが重要です。
放置するとどうなる?過料・管理責任・所有者不明リスク
「手続きが面倒だから」「価値のない山だから」と放置してしまうと、山林特有の深刻なリスクが発生します。相続登記などの手続きは、時間が経つほど問題が複雑化し、解決に必要な労力や費用も増えていきます。
過料のリスク
相続登記や市町村への所有者届出は、いずれも法律で義務付けられている手続きです。
- 相続登記の申請を正当な理由なく怠った場合:10万円以下の過料
- 森林の所有者届出を怠った場合、または虚偽の届出をした場合:10万円以下の過料
「手続きを知らなかった」「忙しくて対応できなかった」といった理由では、免責されない点に注意が必要です。
災害・近隣トラブルで「管理責任」を問われるリスク
相続した時点で、相続人はその山林に対する管理責任を負います。名義変更をしていない場合でも、「相続により所有権を取得した」以上、責任を免れることはできません。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
- 大雨などで土砂崩れが発生し、隣地に被害を与えた
- 枯れ木や倒木が道路・隣地に倒れ、第三者に損害を与えた
- 放置により竹林が繁茂し、隣地に侵入して法的トラブルになった
これらの場合、状況によっては損害賠償を請求される可能性があります。山林の管理は日常的に目が届きにくく、「気付かないうちに被害が発生していた」という例も少なくありません。
売却・活用ができなくなるリスク(所有者不明土地化)
山林は、手放す・売却する・相続土地国庫帰属制度を利用するなど、どの方向へ進めるにしても、登記上の名義が確定していることが大前提になります。
しかし、登記上の所有者が亡くなった親のまま長期間放置されていると、次のような問題が生じます。
- 売却・貸付・管理委託などの契約手続きが一切できない
- 相続土地国庫帰属制度(国に引き取ってもらう制度)の申請ができない
- 年月が経つほど相続人の数が増え、遺産分割や登記手続きが極めて困難になる
この状態が長く続くと、いわゆる「所有者不明土地」となり、解決には司法書士や弁護士へ依頼するなど、大きな手間と費用がかかるケースもあります。
3年以内にやるべき相続登記の手順と相続人申告登記
相続登記は、遺産分割協議がまとまらないなど、すぐに手続きが進められないケースも少なくありません。しかし、相続登記の申請義務「3年」という期限は待ってくれません。期限までに何らかの対応をしておかないと、過料のリスクが生じてしまいます。
まずは、相続登記の基本的な流れを整理しておきましょう。
- 1. 戸籍謄本など必要書類の収集
- 被相続人(亡くなった人)の出生〜死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、新たな所有者の住民票などをそろえます。
- 2. 遺産分割協議書の作成
- 遺言書がある場合は、その内容に従って遺産分割を行います。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合い、財産の分け方を決めます。合意した内容は「遺産分割協議書」としてまとめ、相続人全員の署名・実印の押印が必要になります。 - 3. 法務局へ登記申請書を提出
- 必要書類を添付し、山林の所在を管轄する法務局に相続登記を申請します。
対応が間に合わないときは「相続人申告登記」で義務を履行できる
3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」という簡易的な手続きを行うことで、相続登記義務を果たしたものとみなされます。
相続人申告登記とは、特定の相続人が単独で申出できる制度であり、申出人が他の相続人分も含めて代理して申出ることも可能です。申出の際は、申出人が相続人であることが分かる戸除籍謄本等を法務局に提出することで手続きを行います。
過料リスクを回避しつつ、遺産分割のための時間を確保できる点が大きなメリットです。
山林は「誰が引き継ぐか」「どう管理するか」の判断が難しく、相続人の間で結論が出るまで時間を要するケースが少なくありません。そのような場合には、相続人申告登記で期限を守り、落ち着いて遺産分割を進め、その後に正式な相続登記を行うという流れが、現実的で安全です。
山林相続のデメリットとメリット
山林を相続するべきかどうか判断するには、メリットとデメリットを客観的に比較することが欠かせません。特に、山林がしばしば「負の遺産(負動産)」と呼ばれるのは、都会の不動産とは異なる維持・管理・市場性の難しさが背景にあります。
まずは、山林特有のデメリットから整理していきましょう。
管理コストや税金などのデメリット
山林相続で、多くの方が不安に感じるデメリットには、次のようなものがあります。
継続的な税負担
山林を所有している限り、毎年固定資産税が発生します。資産価値が低い場合でも、課税対象である以上、納税義務は必ず発生します。収益が生まれない山林であっても「持っているだけでお金がかかる」点は大きな負担になりやすい部分です。
管理の手間と費用
山林の維持管理には、次のような継続的な作業が必要です。
- 境界線の確認
- 不法投棄の監視
- 害虫駆除
- 下草刈り・枝打ち・間伐
- 林道の整備
これらの作業は専門性が必要なことも多く、個人では対応が難しい場合があります。森林組合や専門業者へ委託すれば、その分の管理費用が継続的に発生します。
災害リスクと賠償責任
山林は、台風・豪雨・地震など自然災害の影響を受けやすい財産です。
- 土砂崩れが発生し、隣地に被害を与える
- 倒木が道路・隣家に倒れ、第三者に損害を与える
- 竹林が繁茂して隣地に越境し、トラブルになる
こうした事態が起きた場合、所有者としての管理責任を問われ、損害賠償請求につながる可能性があります。山林は日常的に見回りが難しいため、気付かぬうちに事故につながる点が大きなリスクです。
売却の難しさ
山林は宅地のように需要が高くないため、市場価値の評価が難しく、買い手も限られます。次のような条件の山林は、特に売却が困難です。
- アクセスが悪い
- 面積が中途半端
- 境界が不明確
- 活用方法が限定される
そのため、「値段がつかない」「むしろ処分費用がかかる」といったケースも多く、これが山林が「負動産化」しやすい最大の要因となっています。
なぜ「負動産」と呼ばれるのか
ここまで挙げたデメリットからも分かるように、山林は収益を生みにくい一方で、税金や管理費といったコストだけが継続的に発生するケースが少なくありません。
さらに、「活用方法が限られる」「売却が難しく買い手がつかない」「相続土地国庫帰属制度などの選択肢も要件が厳しい」といった特性から、手放したくても簡単には手放せない状況に陥りやすいのが山林の現実です。その結果、「収益を生む資産」ではなく「負担だけがのしかかる不動産」という意味で、山林はしばしば 「負動産(ふどうさん)」と呼ばれることがあります。
こうした現実を踏まえると、山林の相続では、引き継ぐかどうかの判断を早期に行うことが何より重要だと言えます。
活用によるメリットの可能性と収益事例
一方で、すべての山林が「負動産」になるわけではありません。立地・地形・アクセス・周辺環境といった条件によっては、思いがけない価値を発揮するケースもあります。
ここでは、山林が資産として活かせる可能性と、代表的な活用事例を紹介します。
資産としての価値
木材価格の上昇、周辺の開発計画、インフラ整備などにより、将来的に資産価値が高まる可能性があります。特に、「道路に面している」「市街地に近い」「平坦地が多く、利用しやすい地形」といった山林は評価されやすい傾向にあります。
将来の資産性を見極めるためには、固定資産税評価だけでなく、自治体の開発計画や周辺の市場ニーズを調べておくことが重要です。
補助金や税制優遇
林業や森林整備を行う場合、国や自治体から「森林整備の補助金」「間伐材搬出などの補助金」「山林所得に関する税制優遇」「相続時の特例(特定計画山林の特例、山林納税猶予制度)」などを受けられます。
多様な活用方法と収益事例
- キャンプ場・グランピング施設
- アウトドア需要の高まりを背景に、個人向けの小規模キャンプサイトとして貸し出し、区画貸しで継続的な収入を得る例も増えています。アクセスの良い山林では特に人気が高い傾向があります。
- 太陽光発電
- 日当たりの良い斜面を活用し、ソーラーパネルを設置して売電収入を得る方法です。山林は広さを確保しやすく、条件が合えば安定した収益源になります。
- 林業経営(スギやヒノキなど)
- 木材販売により中長期的な収益を得られる活用方法です。森林組合に相談すれば、伐採・植林・間伐などの専門的なサポートを受けることができます。
- 資材置き場として貸し出す
- 建設業者や土木事業者向けに、資材置き場や車両置き場として貸し出すケースもあります。平坦地がある山林は、安定した月額賃料が期待できます。
「山林には価値がない」と安易に決めつけるのではなく、その山林が持つポテンシャルを一度は客観的に評価してみることが大切です。
山林の相続税評価額と計算方法
「山林を相続したら、相続税はいくらかかるの?」これは山林相続に関するご相談の中でも、最も多い質問のひとつです。
山林の相続税評価は、宅地や建物とは異なる独自のルールで決まりますが、基本的な仕組みを理解しておけば、おおよその概算を出せるようになります。
その出発点となるのが、「自分の山林がどの種類に当たるのか」を見極めることです。
評価区分の基礎:「純山林/中間山林/市街地山林」
山林は、その立地・利用可能性・宅地化の影響度によって、次の3つに区分されます。
この区分が、相続税評価額を大きく左右する重要なポイントになります。
- 純山林(じゅんさんりん)
- 市街地から遠く、宅地として利用することが現実的でない山奥の森林です。
道路やインフラから離れており、木材生産や水源涵養など、山林本来の機能が中心となるエリアです。 - 中間山林(ちゅうかんさんりん)
- 市街地近郊に位置し、農地や宅地が混在しているエリアの森林です。
将来的に宅地化の影響を受ける可能性があるため、純山林よりも評価額が高くなる傾向があります。 - 市街地山林(しがいちさんりん)
- 市街化区域内またはその周辺に位置し、将来的に宅地として利用される可能性が高い森林です。
宅地需要や開発計画の影響を受けやすく、3区分の中で最も評価額が高くなる区分です。
相続する山林がどの区分に該当するかは、国税庁のウェブサイト「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」の該当地域にある「評価倍率表」で確認できます。
評価倍率表では、山林の区分が次のように略記されています。
- 純山林:「純」
- 中間山林:「中」
- 市街地山林:「比準」または「市比準」
これらの表示を確認することで、「どの計算方式になるのか」「評価額がどれくらいになりそうか」を見通せるようになります。
相続税評価額の基本「倍率方式」
純山林と中間山林の評価で用いられるのが「倍率方式」です。
山林の評価方法の中では最も一般的で、計算手順も比較的シンプルです。
計算式
固定資産税評価額は、毎年届く「固定資産税の納税通知書」で確認できます。
倍率は、国税庁のウェブサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、該当地域の評価倍率表から確認できます。
倍率方式は、土地そのものの市場価値ではなく、固定資産税評価を基準に国税庁が設定した倍率で補正する方式です。
そのため、宅地に比べると計算が分かりやすく、評価額も安定しやすい特徴があります。
市街地山林の「宅地比準方式」と造成費控除
市街地山林に該当する場合は、倍率方式ではなく、「宅地比準方式」を用いて評価します。これは、「この山林が宅地だったら、どれくらいの価値になるか」を基準に算定する方法です。
計算式
ここでいう造成費とは、宅地として利用するために必要な「整地」「伐採」「伐根(根の除去)」「地盤改良」「切土・盛土」「道路接続の整備」などにかかる費用を指します。
市街地山林は宅地需要の影響を受けるため、評価額が高くなりがちです。しかし、宅地にするための工事費に相当する造成費を控除できる点が重要な特徴で、過大評価を防ぐ役割があります。
宅地比準方式は、市街地山林の評価額を適正に算定するために欠かせない方法であり、算定には周辺の路線価や造成費の見積もりが必要となるため、山林評価に慣れた相続専門の税理士に相談しながら進めると安心です。
専門家による鑑定評価が必要なケース(開発予定地・境界未確定地)
次のような特殊なケースでは、倍率方式や宅地比準方式といった一般的な評価方法では、実態に即した評価額を算定できない場合があります。
その場合は、不動産鑑定士による専門的な鑑定評価が必要になります。
- 非常に広大な山林で、利用形態がさまざまに想定される場合
- レジャー施設・宅地分譲・商業施設など、大規模開発の予定地となっている山林
- 境界が未確定で、地積(面積)が正確に把握できない山林
鑑定評価には費用がかかりますが、実態に沿った適正な評価額を算出することで、結果的に相続税を抑えられるケースも少なくありません。また、売却や活用を検討している場合には、資産価値の把握に役立つこともあります。
相続税の計算シミュレーションと基礎控除の確認
山林単体で相続税がかかるわけではなく、預貯金や他の不動産など、すべての遺産の合計額から基礎控除を引いた金額に対して相続税が課税されます。
相続税の基礎控除額
たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の合計3人なら、基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円」です。遺産の総額がこの金額以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。
価値の低い山林を相続しただけでは、相続税が発生しないケースがほとんどです。まずは遺産総額と基礎控除額を確認することが重要です。
山林の固定資産税はいくらかかる?
相続税は相続したときに発生する税金ですが、固定資産税は山林を所有している限り、毎年かかり続けるコストです。山林を引き継ぐかどうか判断するうえで、年間の維持費として把握しておくことが重要です。
固定資産税評価額の決まり方
固定資産税の基準となる「固定資産税評価額」は、各市町村が独自に決定します。評価額は土地の現況や利用状況などを基に3年に一度見直される仕組みです。
評価額は、毎年4〜6月頃に市町村から届く「固定資産税納税通知書」に記載されている「価格」または「評価額」といった欄で確認できます。
純山林や中間山林は、市街地にある宅地と比べて評価額が低いケースが多いものの、所有している限り課税対象になる点は同じです。
固定資産税の計算式と税率
固定資産税の計算式はとてもシンプルです。
固定資産税額
課税標準額は、原則として固定資産税評価額と同じですが、特例などが適用されると低くなる場合があります。税率は市町村によって異なる場合がありますが、多くの市町村では標準税率の1.4%を採用しています。
たとえば、課税標準額が100万円の山林であれば、「100万円 × 1.4% = 年間14,000円」が固定資産税としてかかります。
固定資産税が非課税になる条件
実は、山林には固定資産税がかからないケースがあります。
- 課税標準額が30万円未満の場合(免税点)
- 同一市町村内で所有する土地の課税標準額の合計が30万円未満であれば、固定資産税は課税されません。地方の山林は評価額が低いケースが多く、この免税点に該当して固定資産税がかからないという事例は珍しくありません。
- 保安林に指定されている場合
- 土砂災害の防止、水源涵養、環境保全などの目的で指定される「保安林」は、固定資産税が非課税となります。
「山林を相続したら税金が大変そう…」というイメージを持つ方は多いですが、実際にはこのように固定資産税がかからないケースも多いことを知っておくと安心です。
山林の相続手続きと名義変更の流れ
山林の相続で必要となる手続きは、主に次の3つのステップに分かれます。
なかには期限が定められている手続きもあるため、全体の流れを事前に把握しておくことが重要です。
ステップ1:相続登記(名義変更)の申請
山林相続で最も重要であり、法律で義務化された手続きが相続登記(名義変更)です。
- 期限:相続によって山林を取得したことを知った日から3年以内
- 手続き先:山林の所在地を管轄する法務局
- 主な必要書類:
- 登記申請書
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 被相続人の住民票の除票
- 被相続人の出生から死亡までの連続するすべての戸籍謄本
- 法定相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書
- 山林の新たな所有者となる相続人の住民票
- 遺産分割協議書または遺言書
- 固定資産評価証明書または固定資産税課税明細書 など
- 費用:登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と、司法書士に依頼する場合は別途費用が必要
相続登記は、書類収集が複雑で専門知識も必要となるため、司法書士に依頼するのが一般的です。
ステップ2:市町村への届け出
相続登記とは別に、市町村への届出(森林の土地の所有者届出)も法律で義務付けられています。
- 期限:森林の所有者となった日から90日以内
- 手続き先:山林が所在する市町村役場の林務担当課(森林担当部署)
- 主な必要書類:
- 森林の土地の所有者届出書
- その森林の土地の位置を示す図面
- その森林の土地の登記事項証明書など、相続により所有権を取得したことが分かる書類の写し
この届出は、行政が森林の所有状況を把握し、森林管理・災害防止・保有林指定の検討など、適切な森林整備を進めるために重要な役割を果たしています。
ステップ3:森林組合への報告
これは法律上の義務ではありませんが、山林を適切に管理・活用していくためには、森林組合への報告が非常に重要なステップとなります。
- 手続き先:山林が所在する地域を管轄する森林組合
- メリット:森林組合に相談し、必要に応じて組合員になることで、山林管理の委託、林業経営に関する専門的なアドバイス、山林活用の相談などの支援を受けることができます。
森林組合は地域の森林事情に精通しており、「相続した山林をどう扱うべきか分からない」という場合には、最初に相談する相手として非常に頼りになります。
相続した山林の対処法を比較
山林を相続した後の選択肢は一つではありません。
ご自身の状況や山林の価値、維持コストなどを踏まえ、最適な方法を選ぶことが大切です。
売却して現金化する
山林相続後の一般的な選択肢が、売却して現金化する方法です。
管理の負担や固定資産税といった維持コストから解放され、まとまった資金に変えられるため、メリットは大きいといえます。
ただし前述のとおり、山林は宅地と違い、買い手が限られ、市場価値も分かりにくい難易度の高い不動産です。
そのため、成功のカギは次の点にあります。
- 山林の売買を専門に扱う不動産会社へ相談すること
- 地域の山林市況に詳しく、林業関係者や企業とのネットワークを持っている業者を選ぶこと
- 境界確定・測量・地形調査などを適切に行い、買い手の不安を解消すること
専門業者に依頼することで、一般的な不動産会社よりも高値で売却できたり、スムーズに取引が進む可能性が高まります。
相続放棄で、将来の管理負担を避ける
相続する山林が明らかに価値を生まず、管理コストやリスクだけが大きいと判断される場合、相続放棄は将来的な管理負担を避けられる有力な選択肢となります。
相続放棄にはいくつかの重要なルールがあります。
- 期限:相続開始を知ってから3カ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の申述を行う必要があります。
- 対象財産の範囲:山林だけを単独で放棄することはできません。相続放棄をすると、預貯金や自宅などのプラスの財産も含め、すべての相続財産を放棄することになります。
- 他の相続人への影響:自分が放棄すると、他の相続人に権利が移るため、思わぬトラブルを避けるためにも、放棄したことを他の相続人に伝えておくとよいでしょう。
- 相続放棄後も、最低限の管理義務が残る:相続放棄が受理されるまでの間や、放棄後に他の相続人が不在・不明の場合などには、放棄した財産が荒廃しないように最低限の管理義務(民法第940条)が残ります。
相続放棄は「山林だけを切り離す方法」ではないため、総合的な判断が不可欠です。
国や自治体、法人への寄付
「売却もできない」「相続放棄もできない(他の財産があるため)」という場合に検討されるのが寄付です。
しかし、現実には次の理由から国や自治体が山林の寄付を受け入れるケースは極めて稀です。
- 管理コスト(下草刈り・間伐・危険木の処理など)が行政の負担になる
- 公的利用価値が明確でないと受け入れられない
- 保安林や公共事業予定地など、「特別な利用価値がある土地」でなければ断られる
そのため、「寄付できる可能性はあるが、実現性はかなり低い」というのが実務上の結論です。寄付を検討する場合は、自治体の森林担当部署、地方森林管理署、森林組合などに早めに相談すると、現実的な可否が把握しやすくなります。
相続土地国庫帰属制度の活用
相続土地国庫帰属制度は、2023年4月から始まった新しい制度で、相続などによって取得した不要な土地を一定の条件のもとで国に引き取ってもらうことができます。
ただし、利用には非常に厳しい要件があり、山林はとくにハードルが高いとされています。
相続土地国庫帰属制度を利用するには、次の要件を満たす必要があります。
- 建物や担保権、使用収益権がない、更地であること
- 境界について争いがないこと
- 土壌汚染や埋設物(廃棄物・産廃等)がないこと
- 他人の利用が予定されていないこと など
相続土地国庫帰属制度について、詳しくは下記の関連記事をご参照ください。
森林組合への管理委託
相続した山林を手放さずに所有し続けることを選んだ場合、管理の手間を大幅に軽減する方法として森林組合に管理を委託するという選択肢があります。
森林組合は、所有者に代わって次のような業務を担ってくれます。
- 間伐・下草刈り・枝打ちなどの森林整備
- 境界の見回り・不法投棄のチェック
- 山林の状態に応じた管理計画の作成
- 森林整備補助金などの公的制度の活用相談
- 伐採・売却を検討する際の専門的アドバイス など
山林の管理は、個人で行うには専門知識・体力・時間が必要で、放置すると災害リスクや近隣トラブルにつながることがあります。「自分で管理するのは難しい」「どう手をつけてよいか分からない」という場合は、まず森林組合に相談するのが現実的で安全な第一歩です。
税金を軽減できる特例・猶予制度
山林の相続では、林業を営んでいる場合や、森林経営計画に沿って管理を行っている場合など、一定の条件を満たすことで、相続税の負担を大きく軽減できる制度があります。該当すればメリットは非常に大きいため、条件に当てはまりそうな方は一度整理しておきましょう。
特定計画山林の特例とは
特定計画山林の特例とは、森林所有者や森林の経営の委託を受けた者が作成した「森林経営計画」に基づき、適切に整備・管理されている山林(特定計画山林)を相続した場合に利用できる相続税の特例です。
この特例が適用できると、相続税の課税価格から、その山林の評価額の5%を控除することができます。
- 特定森林経営計画対象山林として、相続開始前に市町村長等の認定を受けていること
- 計画に基づいた適切な整備・管理が継続されていること
- 森林法施行規則や市町村森林整備計画など、公的な計画内容と整合していること など
比較的適用しやすい特例であり、対象となる計画山林を所有している場合は必ず確認する価値があります。
山林納税猶予の仕組み
後継者が林業経営を引き継ぐ場合に利用できるのが、「山林納税猶予制度」(相続税の納税猶予)です。
この制度では、林業経営相続人が納付すべき相続税のうち、「特例山林にかかる課税価格の80%に相当する税額」の納税が猶予されます。一定の条件を満たしながら適切に経営を継続した場合には、将来的に猶予税額が免除される可能性もあります。
- 森林経営計画の認定が必要
- 管理・伐採などの事業を、定められた基準に沿って継続する必要がある
- 猶予される相続税額および利子税額に見合う担保を提供する必要がある
- 経営を継続できなくなった場合には、猶予税額+利子税を納付する必要がある
林業を続ける意思がある場合には極めて大きなメリットがありますが、継続要件や手続きが細かく定められているため、利用を検討する際は、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
小規模宅地等の特例との併用可否
原則として、特定計画山林の特例と小規模宅地等の特例を併用することはできません。
ただし、適用を受ける小規模宅地等の特例について、限度面積に満たない場合は、その満たない面積に相当する部分を限度として、特定計画山林の特例の適用を受けることができます。
計算式(小規模宅地等の特例の適用を受ける面積)
計算式(相続税の納税猶予の適用を受ける面積)
計算式(特定計画山林の特例の適用を受けられる面積)
特例の併用については複雑なため、詳しくは相続税専門の税理士にご相談ください。
ケース別に見る山林相続の相談先
山林相続は、抱えている悩みや進めたい内容によって相談すべき専門家が異なるのが特徴です。
一人で対応しようとすると行き詰まりやすいため、状況に応じて適切な専門家に相談することが、最も早く正しい判断にたどりつく近道です。
税金の相談は税理士へ
「相続税がかかるのか知りたい」「節税できる方法はあるのか?」といった税金に関する悩みは、相続に強い税理士に相談しましょう。
山林の評価、特例の適用可否、相続税申告の要否など、専門的な観点から最適な申告方法を提案してくれます。
山林特有の評価方法(倍率方式・比準方式)や、特定計画山林の特例、納税猶予制度なども考慮した上で、「どの方法が最も有利か」を総合的に判断してもらえる点も大きなメリットです。
登記手続きの相談は司法書士へ
「相続登記を任せたい」「不動産を含む遺産分割協議書をどう作ればいいか分からない」といった登記や法的手続きに関する悩みは、司法書士が専門です。
相続登記は2024年から法律で義務化されており、期限(3年以内)を守らないと過料のリスクもあります。複雑な書類収集や必要書類の作成をスムーズに進めるためにも、早い段階で司法書士へ相談しておくことをおすすめします。
売却の相談は専門の不動産会社へ
「相続した山林を売りたい」「いくらで売れるのか査定してほしい」という場合は、山林の売買を専門に扱う不動産会社への相談が最適です。
山林の売却は、宅地の売却とは異なるノウハウが必要です。
- 地域の山林市場・相場の理解
- 林業関係者や企業とのネットワーク
- 山林特有の価値(立地・地形・材木の質など)の見極め
- 境界調査や測量の必要性の判断
こうしたポイントを把握している専門業者だからこそ、現実的で効果的な売却戦略を提案してくれます。「山林売却の実績があるか」を必ず確認してから依頼するようにしましょう。
管理・活用の相談は森林組合へ
「管理方法が分からない」「補助金を活用して林業を始めたい」「キャンプ場や資材置き場として活用できないか?」といった管理・活用に関する相談は、地域の森林組合が最も頼りになります。
山林のプロとして、様々な情報提供やサポートを行ってくれますので、まず森林組合に管理・活用について相談してみましょう。
まとめ|山林相続は「早めの判断と手続き」がカギ
今回は、山林を相続した際に必要となる手続き、税金の仕組み、活用方法まで、網羅的に解説しました。
最後に、特に重要なポイントを振り返ります。
- 相続登記は3年以内、市町村への届出は90日以内
- いずれも法定の義務であり、放置すると過料やトラブルにつながります。
- 山林の税金は「必ずかかる」わけではない
- 評価額や基礎控除、免税点により、相続税・固定資産税が発生しないケースも多くあります。まずは固定資産税の納税通知書や遺産総額を確認しましょう。
- 負動産に見える山林にも活用の可能性がある
- キャンプ場、太陽光発電、林業経営など、条件次第で価値を生むことがあります。
- 相続後の選択肢は複数ある
- 売却、相続放棄、相続土地国庫帰属制度、森林組合への管理委託など、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。
- 悩みごとに相談先が異なる
- 税金は税理士、登記は司法書士、売却は専門の不動産会社、管理や活用は森林組合といった専門家に相談することで最適な判断へ近づけます。
山林の相続は複雑ですが、期限のある手続きから順番に整理していけば、解決への道筋が見えてきます。
VSG相続税理士法人では、山林の評価や相続税申告に精通した税理士が初回無料相談を実施しております。「自分の山林の相続税評価を知りたい」「特例が使えるか判断してほしい」といったご相談も、お気軽にお問い合わせください。





