記事の要約
- アパートの相続税評価額は、現金よりも大幅に低くなるため節税効果が高い
- 目先の節税だけで判断せず、空室リスクや修繕費などの「収益性」確認が必須
- 赤字が続く場合は、無理に相続せず「売却」や「資産の組み換え」も検討すべき
親御さんが大切に経営してきたアパート。いざ自分が相続する立場になると、「相続税はいくらかかるの?」「手続きは何から始めればいい?」「兄弟とどう分ければいい?」など、次から次へと疑問や不安が湧いてくるのではないでしょうか。
特に、アパートのような収益不動産の相続は、現金や預貯金の相続とは異なり、専門的な知識が必要です。手続きを間違えたり、将来の見通しを誤ったりすると、思わぬ損をしてしまう可能性も少なくありません。
この記事では、アパート相続を控えている、あるいはすでに相続が発生した方に向けて、相続専門の税理士が以下の点をわかりやすく解説します。
- アパート相続の節税効果の仕組み
- 相続税評価額の具体的な計算方法
- 相続発生から完了までの手続きとスケジュール
- 相続後に失敗しないための判断基準と注意点
- 相続トラブルを避けるための生前対策
この記事を最後まで読めば、アパート相続の全体像を理解し、あなたが今何をすべきかが明確になります。安心して手続きを進め、後悔のない選択をするための一助となれば幸いです。
なお、VSG相続税理士法人では、アパートの相続に関する初回相談を無料で承っています。相続のお困りごとや不安がある場合、ぜひお気軽にお問い合わせください。
目次
なぜアパートは相続税対策になるのか?【節税の仕組み】
「アパート経営は相続税対策になる」とよく言われますが、なぜなのでしょうか。
その理由は、アパートが持つ「財産評価額を圧縮する効果」にあります。現金で相続する場合と比較しながら、3つのポイントでその仕組みを解説します。
現金で相続するより相続財産(評価額)を圧縮できる
相続税を計算する際、現金や預貯金は額面の100%がそのまま相続財産として評価されます。例えば、現金1億円を相続すれば、評価額は1億円です。
一方、不動産は時価(実際に売買される価格)ではなく、国が定めた基準で計算する「相続税評価額」で評価されます。この相続税評価額は、一般的に時価の7〜8割程度になることが多く、この時点でまず財産評価額を圧縮できます。
つまり、同じ1億円の価値を持つ財産でも、現金で持つより不動産で持つ方が、相続税の課税対象となる金額を低く抑えられるのです。
アパート等の賃貸物件は自用地(更地)よりさらに評価額が下がる
不動産の中でも、アパートのように第三者に貸し出している物件は、自分で自由に利用できる更地や自宅と比べて、さらに評価額が下がります。
これは、土地や建物を利用する権利が、所有者だけでなく入居者にもあると考えられるためです。他人に貸していることによる利用の制約が、財産の評価額を引き下げる要因となります。
- 土地(貸家建付地): 自分で使う場合(自用地)に比べて、評価額が約15~21%下がります。
- 建物(貸家): 自分で使う場合(自用家屋)に比べて、評価額が全国一律で30%下がります。
このように、アパートは「不動産であること」と「賃貸物件であること」の二重の効果で、相続税評価額を大きく圧縮できるのです。
借入金(ローン)をマイナスできる「債務控除」の効果
アパートを建てる際に利用したローンの残債は、相続時に「債務控除」として相続財産全体から差し引くことができます。
例えば、相続財産が1億円あっても、アパートローンが3,000万円残っていれば、課税対象となる財産は7,000万円に減ります。
この債務控除の効果と、前述の財産評価額の圧縮効果を組み合わせることで、相続税を大幅に軽減できる可能性があるのです。これが、アパート経営が相続税対策として有効とされる最大の理由です。
アパートの相続税評価額の計算方法
それでは、具体的にアパートの相続税評価額はどのように計算するのでしょうか。ここでは「土地」と「建物」に分けて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
土地の評価方法(貸家建付地の計算式)
アパートが建っている土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」といい、以下の計算式で評価額を算出します。
貸家建付地の評価額
少し複雑に見えますが、各項目を分解して見ていきましょう。
- 自用地評価額:第三者に貸しておらず、所有者が自由に使える土地として評価した場合の価額です。評価方法には路線価方式と倍率方式の2つがあります。
- 借地権割合:土地の権利のうち、借主の権利が占める割合のことで、地域ごとに30~90%の範囲で定められています。借地権割合は、国税庁のHP「財産評価基準書」の路線価図から確認できます。
- 借家権割合:建物の権利のうち、借主の権利が占める割合のこと。全国一律で30%と定められています。
- 賃貸割合:アパートの全床面積のうち、実際に賃貸されている部分の面積の割合です。満室であれば100%となります。
これらの要素を掛け合わせることで、土地の評価額がどれだけ減額されるかが決まります。
建物の評価方法(貸家の計算式)
アパートの建物部分は「貸家(かしや)」といい、以下の計算式で評価額を算出します。
貸家の評価額
各項目は以下の通りです。
- 固定資産税評価額:市町村が決定する建物の評価額です。毎年送られてくる「固定資産税納税通知書」に記載されている「価格」または「評価額」の欄で確認できます。
- 借家権割合:土地と同様、全国一律で30%です。
- 賃貸割合:土地と同様、実際に賃貸されている部分の面積の割合です。
建物の評価額は、満室であれば固定資産税評価額から一律で30%減額される、と覚えておくと良いでしょう。
【要注意】相続時に空室が多いと評価額が高くなる理由
上記の計算式を見て気づいた方もいるかもしれませんが、「賃貸割合」は評価額を左右する非常に重要な要素です。
例えば、全10部屋のうち2部屋が空室の場合、賃貸割合は80%になります※。すると、土地・建物ともに評価額の減額効果が小さくなり、結果として相続税が高くなってしまいます。
相続税対策としてアパートを建てたのに、空室が多いせいで思ったような節税効果が得られないケースは少なくありません。安定した賃貸経営がいかに重要かがわかります。
- ※
- 厳密には「専有部分の床面積」で計算するため、部屋ごとに床面積が異なる場合は単純な室数割合では算出できません
評価額を50%減額できる小規模宅地等の特例の適用要件を確認
さらに、一定の要件を満たすことで、アパートの敷地の評価額を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。
この特例を適用できれば、土地の評価額を最大200㎡まで50%減額できます。ただし、適用には以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 相続開始前から被相続人がアパート経営(不動産貸付業)を行っていた土地であること
- その土地を相続した親族が、相続税の申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぐこと
- 相続税の申告期限まで、その土地を保有し、貸付事業を継続していること
この特例は非常に節税効果が高いですが、要件が複雑です。自宅の土地と併用する場合など、判断が難しいケースも多いため、必ず税理士に相談しましょう。
アパート相続に必要な手続きとスケジュール
アパートの相続は、通常の相続に加えて賃貸経営の引き継ぎが伴うため、手続きが複雑になります。相続発生後の流れを時系列で確認し、やるべきことを整理しましょう。特に期限が定められている手続きには注意が必要です。
遺言書の有無とローンの契約内容(団信など)を確認する
相続が開始したら、まず最初に「遺言書」の有無を確認します。遺言書があれば、原則としてその内容に従って遺産分割を進めます。
同時に、アパートローンの契約内容も必ず確認してください。特に重要なのが「団体信用生命保険(団信)」への加入状況です。
もし被相続人が団信に加入していれば、死亡時に保険金でローンが完済されます。ローンがなくなることは、相続人にとって非常に大きなメリットです。
家賃の振込先口座の変更と通知
被相続人が亡くなると、その方の銀行口座は凍結され、入出金ができなくなります。家賃収入が滞らないよう、速やかに相続人代表者の口座などに振込先を変更し、入居者や管理会社へ通知する必要があります。
遺産分割協議が終わるまでは、その家賃は相続人全員の共有財産として管理するのが一般的です。
遺産分割協議で取得者を確定する(誰が引き継ぐか)
遺言書がない場合、相続人全員で話し合い、誰がアパートを相続するのかを決めます。これを「遺産分割協議」といいます。
アパートは現金のように簡単に分割できないため、誰か一人が代表して相続するのか、売却して現金で分けるのかなど、慎重な話し合いが必要です。合意した内容は「遺産分割協議書」として書面に残し、相続人全員が署名・捺印します。この書類は、後の名義変更手続きで必要になります。
準確定申告を行う(被相続人の所得申告:4カ月以内)
被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得(家賃収入など)について、相続人が代わりに所得税の申告と納税を行う手続きです。これを「準確定申告」といい、期限は相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内と定められています。
相続税申告を行う(10カ月以内)
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告と納税が必要です。
期限は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内です。アパートの評価額計算は複雑なため、早めに税理士に相談し、準備を進めることを強くおすすめします。
名義変更手続き(相続登記)を行う
遺産分割協議でアパートの取得者が決まったら、法務局で不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する「相続登記」を行います。
相続登記は、以前は任意でしたが、2024年4月1日から義務化されました。正当な理由なく怠ると過料が科される可能性があるため、必ず手続きを行いましょう。
【判断基準】アパート相続の失敗事例と注意点
「節税になるから」という理由だけで安易にアパートを相続すると、後で大きな問題を抱えることがあります。ここでは、アパート相続でよくある失敗事例と、後悔しないための判断基準を解説します。
節税になっても「収支」が赤字なら本末転倒(キャッシュフローの重要性)
最も重要な注意点は、相続税の節税効果と、アパート経営の収益性は全く別の問題だということです。
たとえ相続税が安くなっても、家賃収入から経費(管理費、修繕費、固定資産税など)やローン返済を差し引いた手残り、つまり「キャッシュフロー」がマイナスであれば、相続人は自分の貯金から赤字を補填し続けることになります。
相続する前に、必ず過去の収支状況を確認し、将来にわたって安定したキャッシュフローが見込めるかを冷静に判断しましょう。
大規模修繕など、想像以上に維持費がかかる
アパート経営には、日常的な経費のほかに、10~15年に一度、数百万円単位の費用がかかる「大規模修繕」が不可欠です。
- 外壁塗装
- 屋根の防水工事
- 給排水管の更新
特に築年数が古いアパートを相続する場合、近いうちに大規模修繕が必要になる可能性があります。修繕履歴や今後の修繕計画を確認し、必要な資金を準備できるかを検討しておく必要があります。
共有名義にしてしまうと売却も建て替えもできなくなる
兄弟などで公平に分けるためにアパートを「共有名義」で相続するのは、将来のトラブルの元になるため、極力避けるべきです。
共有名義の不動産は、売却や大規模なリフォーム、建て替えなどを行う際に、共有者全員の同意が必要になります。一人でも反対すれば、何もできなくなってしまうのです。
「兄は売りたいが、弟は経営を続けたい」といった意見の対立が起これば、不動産は塩漬け状態になりかねません。できる限り、代表者一人が単独で相続する方法(代償分割など)を検討しましょう。
納税資金の確保が難しい(換金性の低さ)
アパートは相続税評価額を圧縮できますが、納税は現金で行わなければなりません。相続税の納税期限は10カ月と短く、その間にアパートを売却して納税資金を作ろうとしても、買い手が見つからず間に合わない可能性があります。
不動産は現金と比べて換金性が低いというデメリットを理解し、相続税がいくらかかるかを事前にシミュレーションし、納税資金をどう確保するかを計画しておくことが重要です。
アパート相続で揉めないための事前対策(生前対策)
アパート相続に関する問題の多くは、親が元気なうちに「生前対策」を行うことで防ぐことができます。ここでは、相続を受ける側の視点から、親に提案したい有効な対策を3つ紹介します。
生命保険を活用する(納税資金・代償分割資金の確保)
被相続人(親)を契約者・被保険者、相続人(子)を保険金受取人とする生命保険に加入しておくことは、非常に有効な対策です。
- 納税資金の確保:死亡保険金は、銀行口座が凍結されていても請求から数日で現金を受け取れるため、期限のある相続税の支払いにスムーズに充てられます。
- 非課税枠の活用:死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があり、相続税の負担を軽減できます。
- 代償分割の資金:アパートを相続する長男が、他の兄弟に渡す「代償金」として活用できます。これにより、不公平感をなくし、円満な遺産分割を助けます。
遺言書を作成する(争族回避)
「誰にアパートを継がせるか」という親の意思を、法的に有効な「遺言書」で明確にしておくことが、相続トラブル(争族)を避ける最も確実な方法です。
遺言書があれば、相続人はその内容に従うのが原則となり、無用な話し合いや対立を避けられます。特に、アパートのように分割しにくい財産がある場合は、遺言書の重要性が一層高まります。
アパートの収益性を再確認し、売却も検討する
もし、経営しているアパートの収益性が低い、空室が目立つ、築年数が古く将来性が不安といった場合は、相続する前に売却して現金化することも有力な選択肢です。
売却して得た現金をもとに、生命保険に加入したり、生前贈与するなど、相続の計画を見直すことで、結果として家族全員の満足に繋がるケースも少なくありません。相続は「節税」だけでなく「資産の最適化」という視点で考えることが大切です。
アパート相続に関するよくある質問
最後に、アパート相続に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q.相続放棄はできる?
はい、できます。
ただし、相続放棄をすると、アパートだけでなく預貯金などのプラスの財産も、ローンなどのマイナスの財産も、すべての財産を相続する権利を失います。アパートだけを放棄して、現金だけ相続するといったことはできません。
なお、相続放棄をするには相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。
Q.遺産分割が決まるまでの間の家賃は誰のもの?
法定相続分に応じて、相続人全員で分け合います。
法律上(判例では)、遺産分割協議が完了するまでの間に発生した家賃収入は、遺産そのものではなく、各相続人が法定相続分に応じて取得する権利があるとされています。
しかし、実務上は相続人の代表者が一旦すべて預かり、遺産分割協議が成立した後に、アパートを取得した相続人が全額受け取る、あるいは協議内容に応じて精算することが一般的です。
Q.敷金は相続税の計算に含まれる?
はい。「債務控除(マイナスの財産)」として計算に含まれます。
入居者から預かっている敷金は、将来退去する際に返さなければならないお金(借金)です。そのため、相続財産の総額から、預かっている敷金を差し引くことができます。
これを忘れると、本来払わなくていい税金を払うことになりますので、賃貸借契約書や管理会社の明細を必ず確認してください。
Q.小規模宅地等の特例は自宅と併用して適用できる?
はい、併用できますが、適用できる面積に上限があります。
例えば、被相続人の自宅(特定居住用宅地等)とアパート(貸付事業用宅地等)を両方相続する場合、それぞれに特例を適用できます。ただし、適用できる面積には複雑な調整計算が必要です。
この計算は専門知識が必須となるため、必ず税理士に相談して、最も有利な適用方法を検討してもらいましょう。
Q.賃料収入を利用して相続税の延納はできますか?
はい、条件を満たせば可能です。
現金での一括納付が難しい場合、国に認められた「延納(えんのう)」という制度を利用して、分割払いにすることができます。延納を利用するためには下記の要件をすべて満たしている必要があります。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること※
- 延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、「延納申請書」に「担保提供関係書類」を添付して税務署長に提出すること
- ※
- 担保不要となる条件もあり
ただし、延納には「利子税(利息)」がかかります。場合によっては金融機関で納税資金を借りた方が金利が低いケースもあるため、どちらが得か税理士と相談しながら利用を検討することをおすすめします。
まとめ:アパート相続は「税金」と「事業性」の両面から判断を
今回は、アパート相続に関する評価額の計算方法から、手続き、注意点までを網羅的に解説しました。
最後に、最も重要なポイントをまとめます。
- アパート相続は「評価額の圧縮」と「債務控除」により高い節税効果が期待できる。
- 評価額は「土地(貸家建付地)」と「建物(貸家)」に分けて計算し、空室が多いと節税効果が薄れる。
- 相続手続きは期限があるものが多く、特に相続税申告(10カ月以内)は早めの準備が必要。
- 節税効果だけでなく、アパート経営の「収益性(キャッシュフロー)」がプラスになるかが最も重要。
- 共有名義は将来のトラブルの元。納税資金の確保も課題となる。
アパートの相続は、単なる財産の引き継ぎではなく、「賃貸事業」というビジネスを引き継ぐことを意味します。税金面でのメリットだけに目を奪われず、その事業が将来にわたって成り立つのかという「事業性」の視点を持ち、冷静に判断することが何よりも大切です。
手続きは複雑で、判断に迷う場面も多いでしょう。少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まず、相続に強い税理士や司法書士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。専門家の力を借りることで、スムーズな手続きと後悔のない選択が実現できるはずです。





