最終更新日:2024/8/5
株式会社の問題点とは?個人事業主と比較したメリットやデメリットまとめ
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 株式会社設立のメリットがわかる
- 株式会社設立のデメリットがわかる
- 個人事業主と株式会社設立の比較ができる
事業を行う際に、個人事業主として行うのか、株式会社を設立した方がよいのか迷うことがあります。
どちらにも長所や短所があり、一概に決めることが難しく感じられます。
そこで、株式会社設立について、個人事業主と比較したメリットとデメリットについて簡単に解説します。
目次
株式会社を設立するメリット
株式会社を設立するメリットは多く、次のものがあります。
- ・支払う税金が安くなる
- ・報酬は経費になる
- ・給与所得控除が使える
- ・社会的な信用が増す
- ・有限責任になる
- ・赤字の繰越期間が延びる
- ・決算期が自由に決められる
- ・事業承継ができる
- ・出資を受けることができる
- ・経費の範囲が広がる
それでは、一つずつ見ていきましょう。
支払う税金が安くなる
売上から経費を除いた利益を所得といいますが、個人事業主の場合、この所得に対して所得税がかかります。
所得税は下記のように計算されます。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,950,000円以下 | 5% | 0円 |
1,950,000円超 3,300,000円以下 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円超 6,950,000円以下 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円超 9,000,000円以下 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円超 18,000,000円以下 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円超 40,000,000円以下 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円超 | 45% | 4,796,000円 |
計算方法は、課税される所得金額×税率-控除額となりますので、例えば、10,000,000円の所得があった場合、所得税は、10,000,000円×33%-1,536,000円=1,764,000円となります。
一方、会社を設立した場合は、法人の所得に対して法人税がかかります。
資本金1億円以下の法人(中小法人)に対する法人税は下記のように計算されます。
中小法人の法人税率
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
8,000,000円以下の部分 | 15% |
8,000,000円 超の部分 | 23.2% |
同様に、10,000,000円の所得があった場合、法人税は8,000,000円以下とそれを超える部分に分かれて計算し、8,000,000円×15%+(10,000,000円-8,000,000円)×23.2%=1,664,000円となります。
個人の所得税は、課税所得が大きくなれば税率もどんどん上がる累進課税となっていますが、法人税は800万円の部分で分かれているだけです。
そのため、課税所得が大きくなればなるほど、会社を設立すると支払う税金が安くなるということです。
しかし、この例では報酬のことを考慮していません。
実際は報酬を受け取るので違う結果になります。
報酬は経費になる
個人事業主はその所得に報酬分が含まれているので所得税がかかっているのですが、会社を設立すると、社長の給料としての役員報酬は経費になるため、その分所得が低くなります。
上記の例を用いて、会社を設立した場合の報酬を600万円とすると、会社の所得は400万円となり、その分の法人税と、報酬として受け取った600万円の所得税がかかります。
上記の表で計算をすると、
- 法人税 4,000,000円×15%=600,000円
- 所得税 6,000,000円×20%-427,500円=772,500円
となります。
これを以下の表にまとめました。
内容 | 個人事業主 | 会社設立 |
---|---|---|
課税所得 | 10,000,000円 | 4,000,000円 |
報酬 | (所得に含まれる) | 6,000,000円 |
所得税 | 1,764,000円 | 772,500円 |
法人税 | ― | 600,000円 |
税金の金額 | 1,764,000円 | 1,372,500円 |
同じ所得の額でも、会社を設立した方が支払う税金が少なくなりますが、これだけではありません。
給与所得控除が使える
会社を設立した場合の報酬は、給与所得となりますから、その金額全てに税金がかかるのではなく、一定の額を控除した後の金額に課税することになります。
給与所得控除の額は以下の通りです。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円以下 | 550,000円 |
1,625,000円超1,800,000円以下 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,000円超3,600,000円以下 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,000円超6,600,000円以下 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,000円超8,500,000円以下 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,000円超 | 1,950,000円(上限) |
上記の例で、会社を設立した場合に受け取った報酬600万円の給与所得控除額は、
6,000,000円×20%+440,000円=1,640,000円
となるので、給与所得控除後の給与の金額は、
6,000,000円-1,640,000円=4,360,000円となり、
この金額に所得税がかかります。
したがって、実際の所得税は、
4,360,000円×20%-427,500円=444,500円となります。
これにより、先程の表は訂正されて、最終的に下記の通りになります。
個人事業主と会社設立の場合の税金の違い
※所得10,000,000円、報酬6,000,000円とした場合
内容 | 個人事業主 | 会社設立 |
---|---|---|
課税所得 | 10,000,000円 | 4,000,000円 |
報酬 | (所得に含まれる) | 6,000,000円 |
所得税 | 1,764,000円 | 444,500円 |
法人税 | ― | 600,000円 |
税金の金額 | 1,764,000円 | 1,044,500円 |
ご覧の通り、同じ所得でも会社を設立した場合は、70万円以上も支払う税金が少なくなります。
尚、会社設立の場合、法人住民税や法人事業税、地方法人特別税などは個人事業より高めなので、実際はもう少し差が縮まりますが、それでも会社設立の場合の方が支払う税金は少なくなります。
社会的な信用が増す
税金については、表に出る部分ではないので目立つことはありませんが、会社を設立する大きなメリットとして、社会的な信用が増すことが挙げられます。
個人事業主の場合は、「代表」や「オーナー」といった特に決まった名称はありませんが、会社を設立すると、「代表取締役」となり、一般的には「社長」と呼ばれるようになります。
営業や仕入れだけでなく、あらゆる取引が法人契約となりますので、締結も容易になります。
融資などを受ける際にも有利になりますし、事業計画を立てる際に信ぴょう性や信頼感が増してきます。
有限責任になる
個人事業主の場合、取引上の債務については、無限の責任を負わなければなりませんが、株式会社を設立する場合は、出資した金額(資本金)以上の責任を負う必要はありません。
つまり、事業が上手くいかず継続が困難になった場合、会社の債務について、出資した金額(資本金)以上の負担を求められることがなくなります。
ただし、融資の際に社長個人も会社の連帯保証を求められることがあり、その場合は、会社としては有限責任でも、連帯保証をした個人の部分では無限責任となりますので、注意が必要です。
赤字の繰越期間が延びる
個人事業主は青色申告の場合、3年間赤字の繰越期間がありますが、会社を設立した場合、この期間が10年に延びます。
つまり、ある事業年度に赤字となってしまった場合、翌年度以降の10年間にわたって、その赤字分を所得から差し引くことができ、その分、法人税の支払額を少なくすることができます。
例えば、前年度に200万円の赤字があり、当年度の所得金額が450万円だった場合、その事業年度の所得金額は250万円収める法人税額も減少します。
こうして、10年間にわたって赤字を繰り越せるのも会社設立のメリットです。
決算期が自由に決められる
個人業の事業年度は1月1日から12月31日までと決まっており、変更することはできません。
そして、その税務申告である確定申告の時期も原則、2月16日から3月15日の1か月間と決まっています。
一方、会社を設立すると決算期は自由に決めることができます。
毎年、繁忙期と閑散期がはっきりしている事業を行っている場合、繁忙期の始まりを期初にすることで、その事業年度の全体の収益を予測しやすくなり、役員報酬が決めやすくなります。
(期初から3か月以内)、閑散期に期末を迎えることで、余裕を持って決算対策がやりやすくなるなどのメリットがあります。
尚、会社の決算期は変更も自由にできるため、当初決めた決算期が事業の実情に合わなくなった場合などは、変更をできるメリットがあります。
事業承継ができる
個人事業主の場合、亡くなったり廃業したりするときは、事業をそのまま承継することはできません。
個人と事業が一体化しているからです。
一方、株式会社の場合は、所有と経営が分離しており、また、取締役も役割でしかないので、きちんと手続きを行なえば、誰が行っても問題ありません。
そのため、事業を譲渡したり、承継したりすることが自由にできるので、固定資産や従業員も含めて経営の持続性を保つことができます。
出資を受けることができる
株式会社は所有と経営が分離しているため、所有者(出資者)と経営者は同一人物である必要はなく、所有するのは会社などの団体でも構いません。
経営環境が厳しいときに、融資ではなく出資を受けて資金調達をすることもでき、大手企業の傘下で安定した経営を行うこともできます。
経費の範囲が広がる
会社を設立することで、役員報酬以外にも、個人事業主には認められていない経費が認められるようになります。
個人事業主の場合、出張手当や住居費用などは経費として認められていませんが、株式会社を設立した場合、その全てまたは一部を経費として計上できます。
経費の範囲が広がることで、節税と収入増が同時にできることになります。
株式会社を設立するデメリット
一方、株式会社を設立するには、次のデメリットも存在します。
- ・設立に費用がかかる
- ・赤字でも税金がかかる
- ・会計帳簿等の備え付けが必要になる
- ・社会保険の加入義務がある
- ・登記に気をつける必要がある
- ・交際費に限度がある
設立に費用がかかる
個人事業主の場合は、設立や維持に特段の費用はかかりませんが、会社の設立や維持には費用がかかります。
登記の登録免許税と合わせて、設立でおよそ20万円はかかりますし、定款の作成や認証を依頼すればさらに費用がかかります。
また、新たに名刺や印鑑、封筒などを用意する費用もかかってきます。
赤字でも税金がかかる
株式会社の場合、赤字の決算であれば法人税・地方法人税・法人事業税・地方法人特別税はかかりませんが、法人住民税はかかります。
赤字の場合でも、均等割のみで、年7万円は必ず支払う必要があります。
会計帳簿等の備え付けが必要になる
株式会社を設立すると、会社法により、会計帳簿や計算書類の作成と10年間の保存が義務付けられています。
会計帳簿は、計算書類やその他付属明細書の作成の基礎となる帳簿のことで、仕訳帳、総勘定元帳と各種の補助簿(現金出納帳、手形小切手元帳等)となります。
また、計算書類は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表のことで、基本的に「決算報告書」として一つに綴られています。
これらの書類の作成や記帳は、会計知識が必要で手間や時間もかかりますから、決算処理や税務申告と併せて税理士に依頼することが多く、ここでも費用が発生します。
社会保険の加入義務がある
株式会社を設立する場合、社会保険の加入が義務付けられます。
個人事業主なら、国民健康保険と国民年金に加入していますが、株式会社を設立すると、健康保険(協会けんぽか組合管掌健康保険)と厚生年金に加入することになります。
健康保険はそれほど大きく変わらないのですが、厚生年金は国民年金に上乗せ(二階建てとも呼ばれます)して加入するため、その保険料も多くなります。
また、本人負担分と同額の保険料を会社が支払う必要があります。
法定福利費として経費に計上できるのですが、設立当初の売上が低い段階でも出費がかさむのは、デメリットであると言えます。
登記に気をつける必要がある
会社設立時に登記した、社名・住所・事業の目的・役員の氏名等、記載されている項目に変更があった場合は、変更の登記が必ず必要となり、登録免許税がかかります。
また、役員には任期があり、最大で10年となっていますから、少なくとも10年毎に重任登記だけは行う必要があり、これを怠るとみなし解散として、登記が抹消されてしまいます。
交際費に限度がある
個人事業主には無限に認められている交際費が、中小企業では、年間800万円までの上限が設定されています。
と言っても、1人当たり5千円以下の飲食代は会議費として処理するため、年間800万円を超える交際費を使うというのは現実的ではありませんので、それほど大きなデメリットではないでしょう。
株式会社を設立すべきかの基準
これまで、個人事業主の場合と会社を設立する場合のメリットとデメリットについて解説してきましたが、どちらがよいのかという点について、次のポイントについて検討してみてはいかがでしょうか。
- ・想定できる売上規模はどの程度か
- ・組織の運営をきちんと行いたいか
- ・事業の規模を拡大していきたいか
想定できる売上規模はどの程度か
事業を運営していくうえで、今後の売上予想とそのためにかかる費用とを想定して、少なくとも3年から5年分程度の事業所得を考えます。
その上で、メリットの最初に解説した表を使って、個人事業主の場合と会社設立の場合とで、支払う税金がどの程度なのか、シミュレーションを行います。
その結果、税金が少なくなる方を選択すべきであると考えられます(あまり差がない場合は保留する)。
組織の運営をきちんと行いたいか
次に、自分1人や家族との間でのんびり経営したいか、事務所をきちんと構えて従業員も雇用し、企業経営をしたいのか、どちらを選択するのかを考えます。
これは、価値観や年齢・性別・地域・業種など、さまざまな要因がありますから、どちらがよいというものではありません。
家族経営といっても、10人以上で経営し、億単位の年商を得ている個人事業主もいますし、将来的に大きな会社を経営したいと希望しても、最初は1人で会社を設立している経営者も大勢います。
あくまでも、どちらを望むのか、という視点で考える必要があります。
事業の規模を拡大していきたいか
将来的に事業の規模を拡大していきたい場合、少人数ではなかなか達成が難しいと言えます。
事業資金もより必要になりますし、日々の売上も必要です。
そのため、融資を申し込んだり、出資を受けたりする場合は、会社の設立が必要になります。
一方、拡大よりも安定した持続的な小規模経営を望む場合は、個人事業主で十分であると言えます。
これも、上記同様、さまざまな要因によって変化しますので、どちらがよいのか一概には言えず、あくまでもどちらを望むのか、ということになります。
まとめ
ここまで、株式会社設立について、個人事業主と比較したメリットとデメリットなどについて解説してきました。
事業にかかる税金のことについては、詳しく書かれているものが少ないため、是非参考にしていたければ幸いです。
事業を運営する上で、個人事業主がよいのかと株式会社を設立するのがよいのか、この機会に真剣に検討してみてはいかがでしょうか。