最終更新日:2021/12/16
起業より買収(中小企業)を考える際のM&Aの利点と注意点まとめ
経営戦略の1つとして有名なM&Aですが、最近はリスクの少ない起業の手段としても注目されています。
すでにある中小企業をM&Aで買収して起業するのです。
しかし、M&Aでの起業にも、まったくデメリットがないわけではありません。
M&Aとはなにか、そしてM&Aの利点と注意点を詳しくご紹介します。
M&Aとは
M&A とはⅯerger and Acquisitionの略で、Ⅿergerは合併、Acquisitionは買収を意味します。
狭義では「会社や事業の経営権を移転させること」を指し、広義では「経営権は移転しないが協力関係を構築する」という意味で使われることもあります。
M&Aを仕掛ける会社を「買い手」、M&Aの対象になる会社を「売り手」と呼ぶことが多いです。
M&Aは合併・株式譲渡・事業譲渡・資本業務提携などいくつかの方法で行われます。
- ・合併すでにある会社同士を1つの法人に統合する手法のこと。どちらかを吸収する「吸収合併」と新しい別の法人を作る「新設合併」の2種類があります。
- ・株式譲渡会社が保有する売り手会社の株式を買い手に譲渡することにより、売り手会社の経営権や実権を買い手に承継させる手法のこと。会社そのものがM&Aの対象となり、基本的には従業員との雇用契約も会社が持つ権利義務として引き継がれます。
- ・事業譲渡売り手の特定の事業を買い手に承継する手法のこと。事業がM&Aの対象となり、雇用契約などの権利義務自体は当然には引き継がれません。
売り手会社の従業員を引き継ぐには、雇用契約の変更が必要です。
- ・資本業務提携業務提携によって買い手から売り手に資金などを提供し、経営権などは売り手が持ちつづける手法のこと。強固な関係性が構築され、広い意味でのM&Aとされます。
どの方法であっても、M&Aの買い手はすでにある売り手企業の経営権や実権などを握ることになります。
売り手からみたM&Aのメリット
ここからは売り手側から見たM&Aのメリットについて紹介します。
- ・自分が立ち上げた事業を潰さなくてすむ
- ・会社の経営が安定する
- ・まとまった利益を獲得できる
- ・経営者の個人保証が解除される
自分が立ち上げた事業を潰さなくてすむ
後継者のいない中小企業だと、事業が黒字であったとしても「廃業」という選択肢を取るしかなくなります。
自分がゼロから立ち上げた会社で、事業が軌道に乗っているのに、後継者問題で廃業するのは嫌だと思います。
そこでM&Aとして会社を売り出すことで、後継者問題を解決できます。
経営権を第三者に譲渡することで、事業を継続できて、廃業しなくてもよくなります。
会社の事業だけでなく、ビジネスのノウハウ・販売ルート・顧客・従業員の雇用といったすべての問題を解決できます。
「後継者がいなくて会社を廃業するしかない・・・」と思っている人は、M&Aがおすすめです。
会社の経営が安定する
M&Aで資金力・知名度のある会社の傘下に入れば、会社の経営が安定するというメリットがあります。
自分の会社だけで経営するよりも、資金面・知名度・販売ルートなど強力なバックアップを受けながら、会社の経営ができます。
資金繰りに困ることも少なるため、会社の事業・継続に専念できます。
まとまった利益を獲得できる
M&Aは会社・事業の売却によって、まとまった利益を確保できます。
買取金額は、売り手・買い手の合意によって決まりますが、将来性の高い会社・事業であれば金額は高くなります。
買い手が納得すれば相場よりも高い金額で売却できるため、キャッシュが欲しい人にとってM&Aは有効な手段でしょう。
まとまった利益を確保すれば、別の事業を始めたり、売却後のビジネス・人生設計において有効活用できる資金にもなります。
自社事業を手放すのは苦しいかもしれませんが、売却できるうちに手放して、その資金で次のステップに進めるという選択肢が増えます。
経営者の個人保証が解除される
中小企業の経営者であれば、自社の保証人になっているケースが多いです。
保証人になっていれば、会社の借金が返済できないときに、個人の資産で借金を返済しなければいけません。
「廃業をしたいけど、保証人の支払いがあるから躊躇している」という経営者もいるでしょう。
そこでM&Aによって会社・事業の売却をすれば、個人保証の設定を解除できます。
会社・事業を売却するときには、設定されている個人保証の解除を同時に行うことが一般的です。
売却の条件に「個人保証を買い手が引き継ぐ」という項目があれば、売り手は自分の個人保証を解除できます。
個人保証が精神的な負担になっている経営者は、M&Aを検討するのもいいでしょう。
買い手からみたM&Aの利点
買い手からみると、中小企業のM&Aによる起業にはメリットがあります。
すでにある会社からスタートできる
通常の起業はゼロからのスタートです。
店舗から従業員にいたるまで、すべてを最初から自分の手で手配しなくてはいけません。
しかし、M&Aで起業した場合、会社はすでに出来上がっています。
設立手続きもいらないし、設立にともなう費用もかかりません。
必要な設備も整った状態からスタートすることができます。
M&Aによる起業では、すでにある会社を利用できるため、より早く経営を軌道にのせることができるのです。
経験のある人材を確保できる
M&Aでは売り手側の従業員も引き継ぐことができます。
求人や面接をしなくても、最初から経験のある従業員がいてくれるというわけです。
特に経験が必要な技術職などではなかなかいい人材を確保できない場合があり、これは大きな利点です。
ノウハウや仕入れルートを利用できる
売り手会社には、これまで確立してきたノウハウや仕入れルートがあります。
これまでの人脈もあります。
M&Aによる起業では最初からこれらを利用することができ、早期の経営安定が見込めます。
許認可を引き継ぐことができる
M&Aを行うと、売り手会社が有していた許認可を引き継ぐことができる場合があります。
官公庁による許認可が必要と法律に定められている業種では、許認可は営業を行うために不可欠なものです。
しかし許認可の新規取得には時間も費用もかかりますし、場合によっては許可が下りない可能性もあります。
許認可には法律が定める要件があり、違反すると行政処分や刑事罰のおそれがあります。
M&Aを行う際には、許認可の引き継ぎの可否や要件を担当官公庁に事前に確認しておきましょう。
買い手からみたM&Aの注意点
M&Aによる起業にはデメリットもあり、注意が必要です。
赤字からのスタートになる場合も多い
実際のところ、M&Aの売り手となる中小会社の業績はたいてい悪化しています。
慢性的な赤字が続いているケースもあり、マイナスからのスタートとなる場合も多いのが実情です。
すでにある設備などの経営資材を活かしながら、黒字経営にしていかなくはいけません。
買い手の経営手腕が問われます。
従業員が離職する場合も
M&Aでは売り手側の従業員も引き継ぐことができるとお話ししましたが、実は確実に引き継げるわけではありません。
M&Aによって雇用契約がどのように扱われるかは、M&Aの方法や内容によって異なります。
しかし、どのような方法と契約であっても、買い手会社で仕事を続けるかどうかは基本的に従業員の自由意思です。
特に人間関係が密な中小企業では、経営者が辞めれば自分も辞めるという従業員も珍しくありません。
期待したほどの従業員数や経験値が確保できないおそれもあると覚悟しておきましょう。
反感をかう場合もある
M&Aにはどうしても「お金で会社を買った」というイメージがあるため、快く感じない人もいます。
取引先や顧客が離れていく場合や、同業者などから疎外される場合もあります。
意外な債務のおそれ
M&Aをする場合、通常は十分に売り手会社の調査を行います。
しかし、調査不足や見逃しなどで、M&Aの後に負債が発覚する場合があります。
売り手からみたM&Aの利点
M&Aをされる側である売り手会社には、なんとなくかわいそうなイメージがあります。
しかし実際は売り手にもメリットがあり、望んでM&Aを受ける場合も多いです。
後継者問題を解決
経営を引き継ぐ人がいないという後継者問題を抱える中小企業が増えています。
従業員のことを考えると、そう簡単に廃業もできません。
M&Aを受けることで後継者を得て、従業員の雇用先を確保することができます。
廃業コストと負債を削減
廃業にもコストがかかりますが、M&Aを受ければ、売り手の経営者はこのコストを支払わなくてすみます。
M&Aの対価で、負債を軽減できる可能性もあります。
経営の立て直し
M&Aで不採算部門の事業を譲渡すると、売り手会社の経営の立て直しを図ることができます。
まとめ
中小企業のM&Aによる起業はすでにある会社を利用できるため、通常の起業とくらべてリスクが低いといわれています。
すでに確立されたノウハウや経験のある従業員も引き継ぐことができ、より早期の安定経営が期待できます。
しかし、赤字からのスタートになる場合や隠れた負債が発覚するリスクなどデメリットもあり、注意が必要です。