最終更新日:2021/11/19
【オープンイノベーション促進税制】どのくらい控除される?スタートアップ企業にもたらす経済的な狙いとは?
この記事でわかること
- オープンイノベーション促進税制の概要について理解できる
- オープンイノベーション促進税制の適用要件が理解できる
- オープンイノベーション促進税制が適用された場合のメリットがわかる
令和2年度税制改正大綱において、オープンイノベーション促進税制の導入が閣議決定されました。
オープンイノベーション促進税制は、余剰資金を有する企業からスタートアップ企業への投資を促すことによって、新規の起業を促進することを目的としたものです。
この税制改正大綱が国会を通過して確定した場合、2020年4月から適用されることになります。
そこで、オープンイノベーション促進税制の適用要件などについて詳しく解説します。
オープンイノベーション促進税制とは?
オープンイノベーション促進税制は、アベノミクスにより増加した企業の現預金等を活用してスタートアップ企業への投資を促すための税制です。
スタートアップ企業への資金供給が増加することによって、新しい技術革新による日本経済の発展が見込まれます。
具体的には、日本国内の事業会社やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が創業10年未満かつ未上場のベンチャー企業に1億円以上の出資をする場合に、出資した企業に出資額の25%の所得控除という特典が付与されます。
なお、出資した企業が受けることのできる出資1件あたりの控除額の上限は25億円、年間では上限125億円とされています。
出資をした企業は経済産業省に対して、1年間に行われた出資が、出資をした企業と出資を受けたスタートアップ企業の双方にとって事業革新に有効であり、オープンイノベーション促進税制の制度を濫用するものでないことを、決算期ごとにまとめて報告する必要があります。
この報告を受けて初めて、オープンイノベーション促進税制の適用対象となるかを事後的に判断する仕組みとなっています。
少し難しい?オープンイノベーション促進税制の適用条件
オープンイノベーション促進税制の適用を受けるためには、いくつかの要件を満たさなければなりません。
税制改正大綱にある適用要件は複雑に見えますが、大きく分けると、出資する企業側の要件、出資の内容に関する要件、出資を受ける企業側の要件の3つに分けられます。
それぞれについて、以下で説明します。
出資する企業側の要件
出資する側の企業は、国内事業会社または国内事業会社によるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であることが前提となります。
投資法人などによる出資は適用対象外です。
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とは、事業会社またはその子会社が運営し、かつ持分の過半数を保有するファンドのことをいいます。
出資の内容に関する要件
出資の内容に関する要件は、以下のとおりです。
対象期間
2020年4月1日から2022年3月31日までに行われた出資が対象となります。
出資額
スタートアップ企業に対する出資は、1件あたり1億以上であることが必要です。
ただし、中小企業が出資する場合は1,000万円以上、外国法人へ出資する場合は5億円以上の出資が必要とされています。
株主間売買による出資は対象外
本制度の目的はスタートアップ企業に新たに資金供給を行うことです。
このため、スタートアップ企業がすでに発行して他社が保有している株式を譲り受けるという株主間売買による出資は対象となりません。
株主間の株式売買が行われても、それによって出資先のスタートアップ企業に資金が供給されるわけではないためです。
このため、スタートアップ企業の資本金の増加に伴う払込みによって株式が交付される場合に限定されます。
出資を受ける企業側の要件
出資を受ける側のスタートアップ企業の要件としては、創業10年未満の未上場の企業であり、出資をする企業または他の企業のグループに属さないことです。
他の企業から持分20%以上の出資をすでに受けている場合には、その企業のグループに属しているとの扱いになりオープンイノベーション税制の適用対象外となる点に注意が必要です。
また、新設企業も対象外とされています。
なお、そもそもスタートアップ企業とは何かということも問題となります。
この点について、税制改正大綱では「新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動を行うことにより、新たな事業の開拓を図る事業者」がスタートアップ企業に該当すると定めています。
したがって、出資を受ける側の事業が既存の事業の域を超えず新規性や成長性がない場合には、オープンイノベーション促進税制の対象外となる可能性があるため注意が必要です。
オープンイノベーション促進税制のメリット
ここからは、オープンイノベーション促進税制のメリットについて紹介します。
自社の技術革新・研究開発ができる
オープンイノベーション促進税制では、将来有望なスタートアップ企業に投資します。
自社の事業に関連性の高い企業を選ぶと、スタートアップ企業のノウハウを取り入れられます。
そのため自社の技術を革新したり、研究開発ができたりと、投資以外のメリットもあります。
オープンイノベーション促進税制を使って投資をすることで、自社の事業を大きく伸ばすきっかけをもらえるかもしれません。
「自社の事業になにか変化をつけたい」と考えている人は、オープンイノベーション促進税制の利用がおすすめでしょう。
余剰資金を節税しながら投資できる
企業によっては、多くの内部留保を抱えているケースもあります。
特に積極的な投資をしない体質であれば、内部留保を持て余しているかもしれません。
そこでオープンイノベーション促進税制を利用することで、投資のハードルが低くなります。
オープンイノベーション促進税制は投資した金額に対して、控除が利用できます。
普通に投資するよりも、オープンイノベーション促進税制を利用した投資した方が、節税ができてお得になります。
投資に積極的な会社であったとしても、オープンイノベーション促進税制を使えば投資しやすくなるでしょう。
中小企業なら1,000万円から出資可能
オープンイノベーション促進税制には、出資側の条件があります。
大企業の場合は、1億円以上の出資が必要です。
ただし中小企業の場合は、1,000万円以上出資すれば、オープンイノベーション促進税制が適用されます。
大企業に比べて、10分の1の出身金額でオープンイノベーション促進税制が適用されるのは、中小企業にとって大きなメリットでしょう。
どのくらい控除になる?事例で説明
オープンイノベーション促進税制では、出資した企業は出資額の25%の所得控除を受けられます。
これが実際にどのくらいのインパクトがあるか試算してみます。
例えば、出資する側の企業として、所得額15億円、資本金2億円のA社を想定します。
資本金1億円を超える企業の場合、2020年2月時点で法人税率は23.4%です。
したがって、A社がオープンイノベーション促進税制を利用しない場合の法人税は3億5,100万円(15億円×23.4%)となります。
これに対し、A社がオープンイノベーション促進税制を利用して2億円をスタートアップ企業に出資したとします。
この場合、出資額2億円の25%である5,000万円が所得から控除されます。
したがって、A社の課税所得は14億5,000万円となるので、オープンイノベーション促進税制を利用した場合の法人税は3億3,930万円(14億5,000万円×23.4%)となります。
したがって、A社が2億円の出資をした場合、法人税について1,170万円の節税効果があります。
オープンイノベーション促進税制の利用手順
オープンイノベーション促進税制を利用するには、下記の手順が必要になります。
- ・経済産業省への相談(任意)
- ・スタートアップ企業への出資
- ・経済産業大臣への証明書交付申請
- ・経済産業大臣による証明書の交付
- ・税務申告
オープンイノベーション促進税制では、事前申請が必要ありません。
スタートアップ企業に出資をしたあとでも、経済産業省へ申請して条件を満たせば、オープンイノベーション促進税制を利用できます。
ただ事前に経済産業省へ相談もできるため、不安な人は事前相談がおすすめです。
またオープンイノベーション促進税制を利用した場合は、スタートアップ企業の株を5年以上保有しなければいけません。
5年未満で株を売却すると、控除された金額が無効になるので注意しましょう。
税制がスタートアップ企業にもたらす経済的な狙いとは?
欧米では、Google社に代表されるようにスタートアップ段階から短期間で世界的な影響力を持つまでに急成長した企業がいくつも誕生しています。
このような新規性や革新性をもつスタートアップ企業の成功が欧米の経済成長をけん引しているといえます。
これに対し、日本では欧米に比べてスタートアップが育ちにくいとされており、この結果として日本経済は欧米など他の先進国から大きく遅れをとっている実情があります。
日本でスタートアップが育ちにくい原因の一つに、新しい企業が多額の資金調達をすることが難しいということも挙げられます。
したがって、オープンイノベーション促進税制によって余剰資金を持つ企業からスタートアップ企業に対する資金供給が活発化することにより、日本経済の発展につなげることが狙いとされています。
また、既存企業によるスタートアップ企業への出資を通じて技術や人材の相互交流も期待されます。
スタートアップ企業にとっては相互交流によって既存企業の組織運営や管理体制を学ぶことができます。
一方で既存企業にとっても、新しい価値観や技術を取り入れることによって組織の硬直化や停滞を防止し更なる成長を促す契機となるでしょう。
まとめ
スタートアップ企業が成長するためには技術開発などへの投資が不可欠ですが、これまで創業から年数の経っていない企業が1億円を超える資金調達を行うことは簡単なことではありませんでした。
オープンイノベーション促進税制の導入により、既存企業が税制上のメリットからスタートアップへの投資を加速させることが期待されます。
スタートアップ企業にとっては資金調達のチャンスが到来したともいえますので、オープンイノベーション税制の対象となる事業を展開するスタートアップ企業としては積極的に活用するとよいでしょう。