最終更新日:2021/11/19
意外と知らない「業務委託契約」について完全解説
会社が社外に業務を依頼する際には、契約書を作成して委託者と受託者の権利や義務を定めます。
場合によって、受託者にペナルティや損害賠償に発展する危険も秘めるこの契約について、きちんと理解した上で締結し、受注することが重要です。
作成方法も含め、詳しく紹介します。
会社の業務を外部委託する契約
外部委託は、社内では処理しきれない業務や、委託することによって効率化や専門化などが期待できる業務を、社外に任せる方法です。
社外へ業務を任せる際には、労働力やサービスなど業務の資源を確保する方法の違いによって、図で示すように、労働者を派遣する契約か、業務を外注する契約のどちらかが使われることが一般的です。
労働者を外部から派遣してもらう
会社が社員を雇用する際に結ぶ「雇用契約」では、雇用された人が労働を提供し、会社が労働に対する報酬を与えることを約束します。
雇用された労働者には、会社からの指揮命令権が発生します。
ただし、労働者は成果物の完成について責任を負わされません。
これに対して、会社が労働力を外部から調達する「派遣契約」があります。
派遣は、派遣会社と労働者が雇用契約を結び、派遣先の会社とは派遣会社が契約を交わします。
労働者は、派遣先の会社で労働を提供し、派遣期間中は派遣先会社からの指揮命令権が発生します。
ただし、雇用の場合と同様、労働者は成果物について完成の責任は負いません。
業務を社外に外注する
労働を確保する雇用や派遣とは異なり、会社の業務そのものを外注する方法があります。
この際は、請負契約や委任契約、または準委任契約によって契約を結びます。
この「業務委託」という名称は、法律に基づくものではなく、社外へ業務を外注する「請負」や「委任」などの総称として使われています。
このような外注の契約を結ぶ場合、雇用や派遣とは異なり、委託する会社の指揮命令系統には属しません。
一方、成果物の完成に関する責任については、請負と準委任を含めた委任とで異なります。
詳しくはのちほど紹介します。
業務を外注する契約は3種類
社外に業務を外注する際には、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」のうち、いずれかの形態が採られることが一般的です。
業務を受託した会社や個人は、依頼者の指揮命令系統には属さず、自主的に対等な立場で業務を遂行します。
委任契約
法律的行為としての事務を委任する契約が、「委任契約」です。
受任者は、自分の持つ知識や経験などを活かして、業務を自主的に遂行する必要があります。
弁護士など士業への依頼や、不動産業者への土地売却依頼などが該当します。
また、受任者は、業務を遂行する際に、善良な管理者としての注意を払う義務を負います。
言い換えると、受任した人の職業や社会的地位などから見て、客観的に要求される程度の注意を払わなければなりません。
このように、委任は、善良な管理者として自主的に業務を遂行する義務を負いますが、成果物の欠陥やトラブルに対しては責任を負わないことが特徴です。
なお、委任は無償が原則であるため、受任者が報酬を請求するためには、契約書で報酬についての特約を記述しておく必要があります。
準委任契約
法律的行為を委託する委任に対して、法律的行為ではない業務を委託する「準委任契約」があります。
ソフトウェアの開発など、IT業務やコンサルティング業務の外注に採られる形態で、委任とほぼ同じです。
この形態では、委任と同様、契約において定める業務を処理することが求められますが、成果物の完成についての責任を負わされません。
仮に、想定どおりの成果物ではなかったとしても、適切に業務が処理されていれば報酬を請求することができます。
請負契約
委任や準委任に対して、請負という契約の形態があります。
この形態の契約では、業務によって得られる成果物に対し、報酬が支払われることになります。
注文住宅を建てる契約などが分かりやすい例です。
受任者には、成果物の引渡しと同時に報酬を請求する権利が発生します。
ただし、成果物に欠陥やトラブルがあった場合は、補修や損害賠償の義務などが発生します。
委任契約と請負契約の違い
両者の違いを整理しておきましょう。
委任や準委任は、業務を遂行することで報酬を受け、成果物の完成については責任を負いません。
これに対して、請負は、成果物を完成することで報酬を受けることになります。
これが大きな違いです。
業務委託契約の種類
準委任や請負タイプで業務を任せる際の契約書は、報酬の支払い方法や時期によって、「毎月定額タイプ」「成果報酬タイプ」「単発業務タイプ」に分かれます。
毎月定額型
毎月一定の報酬を支払うことを定めるタイプです。
清掃や保守、コンサルティングなどの業務に多く使われています。
このタイプは、依頼する会社にとって、受託者のサービスや仕事の質とは無関係に、一定額の報酬を毎月支払わなければならない点が、契約上の問題点として指摘されています。
成果報酬型
業務の成果に応じ、報酬が変動するタイプの契約です。
営業代行や店舗運営などの業務に使われます。
受注の獲得数や運営利益に応じ、報酬額が変動します。
このタイプは、依頼する会社にとって、受注や利益の拡大を期待することができる反面、無理な営業活動や成績の水増しなどの不正が行われやすい点が、契約上の問題点として指摘されています。
単発業務型
原則として、1回限りの業務を委託する場合の契約です。
建設の設計管理や研修、デザイン、ソフトウェア開発などの業務の委託に使われます。
このタイプは、報酬額が変動せず、短期間での単発業務となるため、受注者に業務の質を向上させるモチベーションを与えにくい点が、依頼する会社にとっての契約上の問題点として指摘されています。
業務委託との違いを知っておきたい働き方
ここからは、業務委託と混同してしまう働き方について紹介します。
- ・契約社員
- ・派遣社員
- ・フリーランス
- ・アルバイト/パート
くわしく見ていきましょう。
契約社員
契約社員は、企業が期限を決めて雇用する働き方です。
雇用に期限のない働き方を「正社員」と呼び、期限のある雇用を「契約社員」と呼びます。
メリットは会社の手厚い補償を受けられることでしょう。
ただし業務委託のように、自由な裁量を持てないケースもあります。
契約社員は会社に雇用されている状態になりますが、業務委託の場合はあくまで契約を結んでいるだけです。
雇用の関係にあるかどうかが、契約社員と業務委託の違いになります。
契約社員の場合は、会社が社会保険に加入してくれたり、保険料を負担してくれたりします。
業務委託の場合は、雇用保険・労災保険には加入できません。
派遣社員
派遣社員とは、派遣契約を結んで、派遣先で働く形式になります。
派遣社員は、派遣元の会社に雇用されている状態です。
派遣先の会社とは雇用関係がなく、指揮命令といって「仕事に関わる指示を聞きます」という内容の契約を結んでいます。
派遣社員は、就労規則・労働基準法・社会保険などが適用されます。
しかし業務委託の場合は、就労規則・労働基準法・社会保険は適用されません。
フリーランス
フリーランスと業務委託契約も混同しがちですが、フリーランスとは個人事業主を意味します。
個人事業主とは、会社に雇用されずに、個人で開業して仕事をしている状態です。
フリーランスとは個人として開業しているかどうかで、業務委託契約とは会社との契約になります。
ややこしいですがフリーランスでも、業務委託契約を結んで仕事している人はいます。
フリーランスのメリットは、完全に自分の裁量で仕事ができることでしょう。
仕事内容・働く時間・場所などを自由に選択できます。
ただし健康保険・年金はすべて自己負担になり、雇用保険にも加入できません。
仕事がなくなったとしても、正社員・契約社員・派遣社員のように失業保険はもらえないです。
メリットも大きいですが、デメリットもその分大きな働き方になります。
アルバイト・パート
アルバイト・パートは一般的な呼び方で、専門的には「短時間労働者」といいます。
契約社員のように会社と雇用関係を結び、仕事をします。
ただし業務時間が短かったり、給料は時給制になっていたりすることが多いです。
業務委託との違いは、会社との雇用関係があるかどうかです。
外注業務を受けるメリット・デメリット
業務を社外に依頼する際の、会社から見た契約の問題点については触れましたが、個人事業主やフリーランスが受託する場合にも、メリットやデメリットがあります。
メリット
まず、専門性や知識、スキルなど自分の能力を活かせることが最大のメリットです。
自分の得意な分野で努力した成果は、そのまま報酬として反映されやすく、やりがいや達成感につながることが期待できます。
実力と努力があれば信用力も高まり、安定した収入の確保につながります。
また、通勤や転勤、勤務時間で制約を受けることが少なく、働き方の自由度が高いこともメリットです。
受任した業務を適切に遂行すれば、家事や育児をこなしながらの在宅勤務など、業務の場所や時間を自分の裁量で決めることができます。
さらに、職場の人間関係に縛られることがないため、人間関係が原因のストレスが少ないこともメリットです。
対人関係は、会社組織に属している限り、トラブルや悩みなどが常に内在して、ストレスの大きな原因になっています。
デメリット
業務の場所や時間、タイムスケジュールなどを個人の裁量で決めることができるメリットがある一方、組織ではないことによるデメリットも併せ持っています。
最大のデメリットは、収入が不安定なことです。
会社に雇用されていれば、毎月の給料やボーナスなど安定した収入がありますが、外注業務を受ける場合は、自分自身で仕事を確保しなければいけません。
確保した仕事も、きちんと成果を出さなければ収入につながりません。
体調が悪い場合にも、収入の最低保証はありません。
また、会社との雇用関係がないため、労働者の権利を保障する労働基準法の適用外となるデメリットがあります。
社会保険などは適用されず、契約が打ち切られた場合や業務中にけがをした場合などでも、失業保険や労災保険の対象とはなりません。
さらに、会社に属していれば、経理や庶務担当などが行う事務処理も、自分自身で行う必要があります。
年末調整や社会保険料、年金の手続きや納付などは、すべて自分で行う必要があります。
契約はメリットとデメリットを理解した上で
請負にしても準委託にしても、受託者は、依頼する会社との指揮命令系統には属しません。
自分の専門性や知識、スキルなどを活かし、自由度の高い働き方を選択することができます。
しかしながら、安定的な収入源が確保できないデメリットがあります。
また、雇用関係が無いため労働基準法の適用外となり、社会保険など公的な恩恵を受けにくい立場になります。
メリットとデメリットの両方を念頭に置き、トラブルにならないためにも内容をしっかりと確認し、自分自身が一方的に不利にならないような契約を結ぶことが大切です。
契約書の作成方法
基本的に、トラブル回避のためには、まず委託者と受託者の認識を統一しておくことが重要です。
会社からの業務委託を受ける際には、互いの権利と義務を明確にするため、必ず業務の内容に応じた契約書を作成します。
契約書は、のちのちトラブルの原因にならないように、ポイントを押さえて作成することが重要です。
以下では、様々な業務の受託に共通する事項について、ポイントを紹介します。
準委任か請負か
契約書には、契約書の名称を記載します。
しかしながら、準委任か請負かは契約内容で区別されます。
請負の場合は、成果物の納品までは報酬請求権は発生しません。
また、業務を請け負った人は、成果物の完成について「瑕疵担保責任」を負います。
瑕疵担保責任は、成果物に欠陥やトラブルがあった場合に負う責任を指します。
成果物が契約通りに完成しなかった場合は、補修や損害賠償などの責任を負うこととなります。
一方、準委託の場合は、業務を遂行した場合に報酬を請求する権利が発生します。
ただし、請け負うものとして当然の客観的な「善良な管理者の注意義務」があることは、先に説明したとおりです。
業務の内容や遂行方法
業務の内容や工程、期間は、具体的に明記します。
契約書に文字で盛り込むことが難しい場合は、補足資料を添付します。
また、業務を遂行する場合の手順や規則などについても、必要に応じて記載します。
受託者が引き受けた業務やその一部を、第三者へ再委託することの可否や、著作権の侵害など、業務の遂行について禁止すべき事項に関する記載を行うこともあります。
業務で知り得た会社や業務などの企業秘密については、秘密保持に関する規定を定めます。
なお、秘密保持に関する規定を詳細に定めるために、契約書とは別に、秘密保持契約書を作成する例も増えています。
報酬
合計金額と内訳、支払の時期と方法を記載します。
曖昧な結果にならないよう、報酬の計算方法を細かく決めておくことが大切です。
成果物の帰属
業務の成果物について、のちに所有権や、著作権などの知的財産権でトラブルにならないよう、引渡しの時期や帰属する成果物の範囲について記載します。
損害賠償
どちらかに契約違反があった場合の約束を記載します。
請負で成果物が完成しなかった場合には、損害賠償請求が発生します。
まとめ
会社の業務は、従来から雇用した社員に任せて遂行することが基本となってきました。
しかしながら、その一方で、経営の効率化や専門化、軽量化などのために業務の外部委託も進められています。
インターネットの普及に伴い、外部委託は、他の会社組織に対してだけではなく、個人事業主やフリーランスにも広がり、広範な業務に及ぶようになっています。
契約書の作成方法を知って、自分自身がトラブルに巻き込まれないよう注意したいものです。